今日はバレンタイン・デー。

外国から持ち込まれた風習らしいんだけど、男の人と女の人が、

互いに好きな人に贈り物を贈ったりする日らしい。

僕が働いている『ホール・イン・ワン』の半マスター、ボギーさんに言わせると、

『LOVEの日』という事になるらしい。

そして今日、その『ホール・イン・ワン』で、ボギーさんが頭を抱えていた。

 

「バレンタイン・パーティのお誘いか・・・ありがたい申し出なんだがなぁ」

そう言ったのはボギーさん。

1枚の紙をひらひらさせながら、頭をかいている。

そう。事の起こりは、今ボギーさんが持っている、その紙だった。

それは3日程前、或る事件をきっかけに僕達の店のお得意様になってくれた、

リチャード・ドラコン子爵から届けられた手紙で、

子爵の別荘で催されると言うバレンタイン・デーを祝うパーティに、

この町の人々を招待してくれるという内容だった。

でも、それには条件があった。

「『必ずパートナーを伴って来ること』って言われても・・・

なぁ、ライゼ。お前は一緒に行ってくれそうな人、いるか?」

ボギーさんに話し掛けられて、僕も困ってしまった。

「うーん・・・いない、です。でも僕、どちらにせよパーティには行けないんですよ。

折角のお誘いなんですけれど、母さんが風邪を引いてしまって」

「そうかー」

僕の答えに、ボギーさんは深く溜め息を吐く。

「バーディ。お前は・・・」

と、ボギーさんが弟のバーディさんに話を振ろうとしたその時、

「おはようございます、皆さん!如何でしょうか、このタキシードは!」

と、もう1人の店員、ジムがやって来た。

 

「今日のパーティの為に、張り切って着替えてしまいました!」

そう言うジムはいつも通りのスゴイ笑顔を僕達に向ける。

「今日のパーティって、ジム!お前、相手はいるのか!?」

ボギーさんが心底驚いたと言うようにジムに問い掛けると、ジムは再び笑い直して言い切った。

「はい!私のお相手はキャディーさんです!」

そう言うジムの足元では、何時の間にか金色の美しい首輪の上に、

華やかなリボンまであしらったキャディーさんが控えている。

「そうか・・・お前にはキャディーさんがいたな・・・くそう」

この上なく満足そうな1人と1匹を眺めて、ボギーさんが悔しそうに言う。

「あの、ボギーさん、キャディーさんは犬ですけど、いいんでしょうか?」

一応僕が尋ねると、ボギーさんはあっさりと頷いた。

「ああ。手紙には『枕でも可』と書いてあるからな」

「そ、そうですか・・・」

流石は子爵。要するに、パートナーと名が付けば何でもいいんだ。

「ねぇ、バーディさんはどうなんですか?」

まだ悔しがっているボギーさんを気にしつつ、僕はさっきから1言も喋っていない

バーディさんを振り返った。

「え?あ、いや、僕は・・・」

何だか変な顔をしていたバーディさんが、慌てて首を振った。

どうしたんだろう。

もともとそんなに賑やかな人じゃないけれど、いつもならみんなの話の輪に加わっているのに。

「バーディさん、どうかしましたか?」

ジムも心配そうに彼を見ている。

「ん?何だ何だ?」

ジムに続いて、ボギーさんもこちらを振り向いた。

「な、な、何でもないよっ!」

そう言うとバーディさんは、店の奥へと走っていってしまった。

 

次へ


足跡の部屋へ戻る短編の部屋へ戻るMENUへ戻る