大陸の東に位置する田舎町、グラス。

俺達兄弟が、親父の葬式を終えてこの町に移り住んできたのが、今から1年前。

住み慣れた街を離れるのは、それなりに寂しくもあったが、

新しいスタートを切るには、新しい場所がいいだろう、というのが、2人で出した結論だった。

大して多くも無い荷物をまとめて、馬車に揺られて。

辿り着いたのが、この町。

弟と2人で話し合って決めたのは、この町で酒場を開こうって事。

俺は、街の食堂でコックをやっていた親父から、料理をみっちり仕込まれていたし。

弟は、昔から自分で店を持ちたいと言っていた。

どうせやるなら、この町で1番の店にしたい。

そう思って俺達は看板を出す事にした。

 

小さな町の大通りに面した場所に開いたその店の名前は『ホール・イン・ワン』と言う。

何故かと言えば、俺の名前がボギーで、弟の名前がバーディだからだ。

ちなみに、この町で最初に出会った野良犬には、キャディーという名前を付けて、

番犬になってもらう事にした。

幾らなんでも、パーは可哀想だからな。

 

あれから1年・・・。

グラスの町の人々は皆親切で、余所者の俺達ともすぐに馴染んでくれた。

この町にはこれまで酒場らしい酒場ってのが無かった、というのも良かったのかもしれない。

それでもここまで来るのにそれなりの苦労もあったし、

決していい暮らしをしている訳じゃ無いのかも知れないが、ようやく商売も軌道に乗ってきた。

そんな充実した毎日を送っているにも関わらず、弟のバーディは、この所溜息ばかり吐いている。

客と話している時は特に妙な素振りは見せないから良いものの、

閉店後も店のカウンターに腰掛けたまま、じっと悩んでいる事が多い。

一体どうしたと言うのだろうか。

あまりにも気になって俺まで溜息が移りそうだったので、思い切ってバーディに聞いてみる事にした。

 

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