小鳥の囀りが清々しい朝の訪れを告げてくれる。
それに続いてお寝坊さんの強い味方、目覚し時計が鳴り響く。
最近購入したこの時計は何と、人の声で起こしてくれるというスグレモノだ。
『はいっ、今日も張り切ってぇ、行きましょー!そりゃあああああ!』
賑やかな事この上ない。
俺は半眼で時計のスイッチを叩き、大欠伸をしながら身体を起こした。
いよいよ、今日は計画実行の日だ。
遂に、遂に、俺のデビューの日だ。
心地よい緊張感からか、心臓が脈打つ音がやけにはっきりと意識出来る。
俺は深く息を吸うと、クローゼットからバスの運転手の制服を取り出して、袖を通した。

悪の組織というものがある。
つまるところ悪い事をして人々を困らせ、
最終的には世界征服などという大それた目標を
掲げてみたりする、
ステキな集団だ。

俺は、その一員・・・になったばかりの、言わばルーキーだ。
今日が俺の初仕事。
そう、悪の組織に入ったならば、避けて通れぬバスジャック。
ただし、幼稚園の送迎バスでは無い。
幼稚園バスをジャックしたりなどしたら、子供が可哀想だからだ。
そこで俺は、観光バスジャックを提案した。
バスジャックと同時に、タダで温泉旅行まで楽しめる。
こんなに素晴らしい計画が、未だかつてあっただろうか?
いや、無い。断じて無い!!

俺は坂道を自転車で駆け下りながら、少々自分に酔っていた。

今日の客は平均年齢60歳以上。何処ぞの老人会の旅行だかなんだからしい。
にこやかに挨拶など交わしながら次々と乗車してくる客達を横目に、
運転手を装った俺(ちなみに、免許はちゃんと持っている)に、
バスガイドを装った先輩がそっと耳打ちしてきた。

「いい、新人くん?この計画が成功すれば
あたし達2人も出世街道まっしぐらよ!!組織での地位向上はもちろん、

ハワイ旅行にも行けちゃうんだから!」
それは初耳だった。
「わかってますよ、先輩。何としても、温泉旅行を成功させましょう!!」
1人運転席で興奮していると、最後の客達がバスに乗り込んだ。

(・・・今の2人連れ・・・学ランとセーラー服着てなかったか・・・?)

奇妙な2人連れをもっとよく見ようと後ろを振り返ったその時。
「え〜、それではぁ、皆様、出発でございまぁ〜す♪」
少々妙なトーンの先輩の挨拶で、陰謀渦巻く温泉旅行が始まった。

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