その瞬間ぴたり!と風が止みました。
「あららららら」
「あれ〜」
「きゃ〜」
「うわ〜」
「ひえ〜」
「あちゃ〜」
なので皆、棒にだら〜っとぶら下がってしまいました。
「何だ?もういいのか、吹き流し?」
突風がきょとんとして吹き流しに尋ねます。
「う、うん。どうもありがとう。もういいの、もう十分だから」
吹き流しは冷や汗をかきながら、突風にお礼を言いました。
「そうか・・・じゃ、帰るか!そよ風!」
「うん、そうね。それじゃあまたね、吹き流し〜!」
恋人達は抱き合いながら遠ざかって行きます。吹き流しはそれを見送りながら、ほっと息をつきました。
「吹き流しさん、あれは一体どういうことです?」
お父さんが言いました。
「もしかして、アナタが何かしたの?」
お母さんは怒っているみたいです。
「あー怖かった」
「ホントだね」
お兄ちゃんとお姉ちゃんはやっと泣き止んだようです。
そして赤ちゃんは、はしゃぎすぎて疲れてしまったのか、ぐっすり眠っています。
「う、うん・・・実はね・・・」
吹き流しはこいのぼり達に全てを話しました。自分はいつも目立たなくて、それが寂しかったこと。
だからそよ風と突風にお願いして、皆と逆方向になびいてみたこと。
「でもあんなに大変なことになるなんて、思わなかった!!ごめんなさい、皆さん」
吹き流しは心の底から皆に謝りました。そしてもういじけたりしない、と心の中で誓いました。
(寂しいけど、それが吹き流しの役目だもの。こいのぼりさん達が楽しく空を泳ぐ為にも、
それを見た人達が笑顔になる為にも、私がきちんとお仕事しなくちゃいけないんだわ)
でも、やっぱり寂しい吹き流しです。
「そうだったのか・・・」
お父さんはしばらく考えこんで、ぱっと顔を輝かせました。
「そうだ!良い考えがある!」
びっくりしている皆に向かって、お父さんは言いました。
「並ぶ順番を変えればいいんだ!明日は吹き流しさんに、赤ちゃんの下に行ってもらおう。
なあに、そよ風さんに事情を話せば、上手く
私達を泳がせてくれるさ。赤ちゃんの下に行けば、きっと皆吹き流しさんに注目するよ」
素晴らしい考えです!皆大賛成しました。でも、吹き流しは?
「いいの?あんなに皆さんを困らせたのに・・・」
お母さんが優しい声で言いました。
「いいのよ。私達も、あなたが一生懸命私達の為に働いてくれていること、忘れてしまっていたんですもの」
「そうだよ!吹き流しさんも僕達と一緒だよ」
「そうよそうよ!」
お兄ちゃんとお姉ちゃんも言います。
「ありがとう、皆さん!本当に、ありがとう!」
これでもう、寂しくありません。吹き流しはすっかり元気になりました。
そして・・・。
「あれ?」「おや?」「はて・・・変わったこいのぼりだねぇ」
「おもしろーい!見てみて〜」「ホントだ〜」「何だあれ〜」
今日も吹き流しとこいのぼりは元気に空を泳いでいます。
ただし、吹き流しが1番下で、ね。