15(まな)


北島は二郎の唇を奪い、思うぞんぶん蹂躙する。そして、そのまま二郎の身体はシートへと押し倒された。さっき、常願寺からともされた小さな火のくすぶりが二郎のなかで再び燃え上がろうとする。

「あっ、おやっさん…だめだ…」

官能の波にさらわれそうになったその時、二郎の目が運転席のジョージの後姿をとらえた。ジョージの若い首筋がこわばってほのかに赤く染まっている。

「だめだ、おやっさん。」
二郎は、渾身の力で北島に抵抗をはじめた。

「だめですよ。おやっさん。」
シートから身を起こし、二郎は北島にそう告げる。
「ほら、ジョージが心配していますよ。」
「そんなこと…」
ジョージはこわばった声で二郎の言葉にそう返した。その声のこわばりに二郎はジョージの北島への思いの深さを感じていた。ジョージの前で北島に抱かれることはできない。

「悪いな、ジョージ。おやっさん、本当に悪ふざけが過ぎますよ。」
自分を取り戻した二郎は北島にそう告げていた。

「悪ふざけか、ま、そういうことにしておくか…それにしても二郎、お前大丈夫か?お前がしっかりしないと、サブも混乱するぞ。お前がサブを支えていかなくっちゃならねえんだ。わかってるのか。」
「サブ?おやっさん、サブに何かあったんですか?」
「さあな、ただ、さっき道でサブをひろったんだ。かなり具合が悪いようでな。家まで送っておいた。」
「具合が悪いって、サブが。一体、どうして…」
「まあ、常願寺がらみだろうな、ありゃあ。尋常な状態じゃなかった。」
「そうなんですよ、二郎さん。サブちゃん、かわいそうなくらいに真っ青で…」
ジョージが口をはさむ。

二郎の顔に怒りが浮かぶ。黙り込んだ二郎に北島が話しかけた。
「二郎、サブをせめるなよ。」
「わかっています。ただ…」

その後会話は続かないまま、車は店の前つけられた。
「じゃあな、二郎、あんまりがんばりすぎるなよ。いつでも力になるからな。」
「ありがとうございます。」
二郎はそう言うと、車を見送り店のなかへと入っていった。


16(もぐもぐ)


「サブ……」
襖を開けると、サブは布団に入って眠っていた。
その青褪めた横顔を見て、二郎は胸が締め付けられた。
(一郎兄さん……)


* * *

人の入ってきた気配に俺は目を覚ました。
ゆっくりと首をめぐらすと、叔父が苦しそうに顔を歪めて立っていた。
「叔父さん」
俺は、身体を起こした。
「どうしたんだい?そんな顔して」
叔父の様子が、酷く辛そうに見えたのだ。
「ばっ、馬鹿やろうっ」
叔父が怒鳴った。
「人の心配している場合かっ」
俺の肩をぐっと掴む。
「つっ……」
俺は、揺すられたショックで下肢から響く痛みに顔を顰めた。
はっとしたように、叔父は手を離した。俺の顔を覗き込むように見て、ぽつりと言った。
「サブ……お前、あいつに会いに行ったんだな」
叔父の言葉に、俺はかっと血が上った。
(なんで……?)
知られたくなかった―――常願寺にされたこと。
叔父にだけは、死んでも―――知られたくなかった。
「ち、ちがうっ、俺はっ」
とっさに、叔父を突き飛ばした。
布団をかぶって丸くなった。
叔父に見られたくなかった。常願寺にいいように蹂躙された汚い身体を。
「会ってないよ」
情けないが、俺はまるでガキのように布団の中で小さくうずくまった。
「何も、何も、なかった…….俺は……」
そう思いたかった。けれど―――――。
言いながら、また涙が出てくる。
なんで、俺はあいつに会いに行ったんだろう。
叔父と約束したのに!!
自分の馬鹿さ加減と、その結果がもたらした事実に、辛くて悲しくて情けなくて、俺は布団の中で泣いた。

どれくらい時間が経ったのか。
突然、身体に優しい重みが圧し掛かってきた。
「サブ」
叔父の声が、直ぐ近くで聴こえた。
俺は、身をこわばらせた。
叔父は布団の上から俺を包み込むように抱いて、俺の丸くなった背にそって、大きな手のひらをそっと滑らせる。
ゆっくりと何度も何度もさすられるうちに、なんだか気持ちが落ち着いてきて、身体の痛みも消えていく。
「おじ、さん……」
布団の中で小さく呟いたら、叔父はちゃんと聞き取ってくれたらしく、ポンポンと優しく背中を叩いて
「サブ、俺の話を……聞いてくれるか?」
そう言った。


17(れな)


昔から俺は、年の離れた美しい兄に憧れていた。
 兄は、俺にないものを何でも持っていた。その容姿も、見事な体躯も、明晰な頭脳も、北の漁場で嵐の中、一晩踏ん張る体力も――俺は兄の背中を憧れを胸にずっと追いかけ続けていた。兄の笑顔が眩しかった。胸がときめくというのはこういう感覚なのかとある日気づいて、それ以来まっすぐに兄の顔が見られなくなった。嫉妬、という感情を教えてくれたのも兄だった。兄と話す人間、兄の肩を抱く人間、兄が微笑みかける人間全てが妬ましかった。鬱々としている俺を兄は心配し、一緒に漁に連れて行ってくれるようになった。一本釣りを得意としていた兄は、いつも一人で漁場に出ていた。(何の一本釣りなんだ??)海の上では俺は兄と二人きりだった。
「海はあぶねえからな。気ぃ抜いてると波に浚われるぜ」
 舵を取りながらそう笑う兄の白い歯が眩しかった。大きな獲物がかかったとき、兄に後ろから抱きつくようにしてともに釣竿をひくのが俺の無類の悦びになった。毎度毎度、海に出るたびに嵐になればいいと思っていた。嵐になればその間、船は港には戻れず兄と二人きりの時間が過ごせる。荒れ狂う大海原に兄と二人、身体を寄せ会い過ごす一夜を思うだけで俺は酷く興奮した。恐怖からすがりつく俺を兄の逞しい腕が抱き締め、その胸に抱きしめてくれる――そんな夢を俺は何度も何度も見た。
 兄は俺の全てだった。兄のためなら何でもしたいと思った。皆に好かれている兄だったが、一人だけ兄が反目している男がいた。それが常願寺だった。

常願寺は地元の大地主の息子だった。兄とは小中と同じ学校に通っていたらしい。幼いころはそれなりに仲がよかったそうなのだが、俺がものごころついた頃には二人は「犬猿の仲」と言われるようになっていた。
 常願寺は何かというと兄にちょっかいをしかけてきた。兄はいかにも不快そうに眉を寄せ、常願寺を睨みつけていた。何故、温和な兄がここまで常願寺を嫌うのか――疑問に思うこともあったが、兄が嫌うものは俺も嫌いだった。常願寺は俺にもよく絡んできたが、俺はそれを兄同様無視することで通していた。

 俺は――子供だったのだ。少しも兄の秘めた思いに気づくことができなかったほどに、俺は子供だったのだ。

 あの日、授業の途中でどうにも頭が痛くなり、早退して家に帰ってきた俺が見たのは、全裸で抱き合う兄と常願寺の姿だった。
 俺ははじめ、二人が何をしているかがわからなかった。兄が苦しげに眉を寄せ、常願寺の身体の下でうめくような声をあげている。乱暴されている――?行為の意味もわからぬまま、兄を助けようと部屋に飛び込もうとした俺の耳に響いてきたのは――兄の嬌声だった。
「やめっ……あっ……いやっ……っ」
「どうして欲しいのかな」
 兄の身体に覆いかぶさるようにしながら、常願寺が囁いていた。
「…もっと…っ…あっ……っ」
「もっと?」
「奥までっ……っ……あぁっ」
 狂ったように髪を振り乱している兄は――美しかった。そう、この頃はまだ兄は髪を伸ばしていたのだ。汗の雫がその髪の先から飛び散り、きらきらと輝いていた。立ち込める濃厚な汗の匂いが、扉の隙間から覗いている俺のところまで届いて来るような気がした。
「……兄さん…」
 思わずそう呟いてしまった声に、兄はびくりと身体を震わせ――俺の姿をみとめると、その美しい瞳を驚愕に見開いたのだった。


18(まな)


「俺はな、サブ、兄さんが好きだったんだよ。」
叔父さんは、俺にそう言った。
「サブ、実の兄を好きだなんて俺のことを軽蔑するか?」
俺は黙って頭をふった。
軽蔑なんてできるわけない。俺自身、こんなに叔父のことを好きなのに…
それにしても、叔父さんは親父のことが好きだったのか…わかっていたような気もするその事実に俺は打ちのめされる。
「サブ、どうした?泣くなよ、」
そう言うと叔父の手がのびてきて、俺の頬の涙をぬぐってくれる。どうやら、俺自身気がつかないうちに泣いていたらしい。
「あれ、俺、どうしたのかな?」
「いろいろあったからな、びっくりしたんだろう。」
そう言うと、叔父はまた優しく俺の頭をなでてくれた。

俺が落ちつたと思ったのか、叔父が再び口を開く。
「俺と兄さんは年も離れていて、兄さんのほうはそんなこと気がついてもいなかっただろう。でも、俺は兄さんが好きでたまらなくて…」
「叔父さん…」
「だけどな、兄さんには好きなやつがいた。なんで、兄さんがあんなやつのことを好きなのか俺には理解できなかったが、でも、兄さんはあいつのことが好きだったんだ。」
俺は、叔父の言うあいつが常願寺のことだと、なぜだか直感的にわかってしまった。
「俺は、どうしていいのかわからなくて、いろいろと馬鹿なこともしちまった。全部空回りだったけどな。だけど、兄さんとあいつも長くはつづかなかったよ。兄さんは結婚して、お前が生まれて、いつのまにかあいつとの仲も終わっていた。」
(おいおい、サブが生まれてからも続いてたの?だって、年齢設定あわないんだもん。)

「俺はな、追ってはいけないものを追ってしまったんだ。だから、ずっとなんだか満たされないまま生きていたよ。だけどな、サブ、お前と一緒に暮らすようになってから、俺はなんだか生きていくことが楽しくなっちまった。お前の成長が俺の楽しみで、お前の笑顔がまぶしくてな…」
「それって、俺が親父に似ているから?」
俺は、一番気になっていることを自虐的に尋ねてみた。答えはわかっていたが、それでも尋ねずにはいられなかった。
「そうだな、お前は兄さんに似ているな。だけど、それだけじゃないぞ。サブはサブだろう。俺は、お前の兄さんに似ているところも似ていないところも大好きだぞ。だいたい、お前、性格はそう兄さんに似てないぞ。気が強いところだけだな、似ているのは…」
そう言うと、叔父さんはうれしそうに笑った。
俺もさっきまでのすさんだ気持ちがだんだんと癒されてくるのを感じていた。
「叔父さん、おれ…」
俺にもまた叔父さんに語らなければいけないことがあった。


19(もぐもぐ)



「叔父さん、俺……叔父さんが好きだ」
俺が思い切ってそう切り出すと、叔父はほんの少し目を見開いたが、直ぐに微笑んでくれた。
「俺も、サブが好きだよ」
「違う」
肉親という愛情で片付けられたくない。
「そういう、好きじゃなくて……俺は……」
そして、自分がもう叔父にそんなことを言える身体じゃないことを思い出して、唇を噛んだ。
「でも、もう、ダメだ。俺、叔父さんとの約束破っちまって……馬鹿だから……」
「サブ……?」
「ごめん、叔父さん」
俺が膝の上で拳をにぎって、うつむいていると、叔父がそっと腕を伸ばしてきた。
「サブ……」
俺の頬をその大きな手で包んで、そっと上げる。
「サブ、俺も、本当にお前が好きだよ。叔父としてじゃない。兄さんの代わりでもない」
「叔父、さ、ん?」
「お前が、好きで、好きで……でも、兄さんの愛した子だから……俺のようにはしたくなかった」
叔父の顔が、悲しげに歪む。
「兄さんはね。お前の母親と出合ってから変わった」
「…………」
「お前が生まれてから、兄さんは、ますます強く逞しくそして堂々とした男になったよ。男として家庭を守りたいと思ったんだろう。常願寺と別れたのも、その辺に理由があったんだろうな。それまで長かった髪も切って男らしくしちまった(パンチの理由)。もっとも常願寺の方は、ずっと兄さんに執着していて……それが、俺は……不快でね」
ふと、叔父が睫毛を伏せ、顔に影を落とす表情に
「叔父さんは……あいつと……」
思わず口にする。
叔父は顔を上げて薄く笑った。
「常願寺に聞いたんだな」
俺は、どう応えていいかわからず、それでもじっと叔父の顔を見た。
「そう……軽蔑するか?サブ。俺はあいつと……寝た。それも、何度もね」
(何度も?)
少なからずショックを受けて、俺は唇を震わせた。
「あいつが、お前たちの家庭を壊しそうで怖かった。兄さんが、男として父親としてがんばろうとしているのに……」
「叔父さん」
「だから、言いに行ったんだ。もう、兄さんに手を出さないでくれって。お前たち家族をそっとしてくれって、な」
「まさか、叔父さん……それで」
叔父は、切ない顔で笑った。
「あいつに初めて抱かれたのは、そのときだ」
そんな!
叔父が、そんな目に会ったのが、俺たちを―――守る為だったなんて――――
「そんな顔、するな、サブ」
「叔父さん……」
唇が震えた。
叔父は自嘲的に唇を歪めて言った。
「ほんとにそんな顔しないでくれ。俺はな、その後しばらくは、好きで抱かれていたんだよ」
「え?」
思わず声が出た。
「俺は、一度兄さんがあいつに抱かれていたところを見たことがあって……いや、わりぃな、お前に聞かせる話じゃなかった……ま、それで、俺は、常願寺に抱かれながら、自分を兄さんに重ねていたのさ。兄さんには決して届かない自分の想いを……あの日の兄さんのように抱かれることで……」
「叔父さん……」
「そして、俺の身体は……いつの間にかそういう身体になっちまった……あいつを愛しているわけじゃない。でも、あいつ無しじゃいられない身体に、ね」
「叔父さん」
もう俺は、馬鹿みたいに叔父を呼びつづけることしかできない。
「サブ……軽蔑するだろう?」
叔父の暗い瞳が自虐の色を宿している。
「お前を引き取ることにして、あいつとの関係もすっぱり切った。けどな……それでも、俺の身体は……」
唇を噛んだ叔父は、壮絶な色気があった。
「お前には……こんな風になって欲しくねえんだよ。まっとうに、お天道様の下を歩いて欲しいんだ。可愛いお嫁さんを貰って、そして、子供をたくさん作って……」
「叔父さんっ」
俺は、叔父の身体にむしゃぶりついていた。


20(れな)


「サブ…」
 叔父が困ったような声で俺の名を呼び、幼い子にでもするかのように俺の背をとんとんと叩いてくれる。
「軽蔑なんてしない!軽蔑なんてしないよう」
 いつの間にか俺はぼろぼろと涙を零していた(注:もぐもぐに媚びてます)。
「サブ……」
 叔父さんの声も震えている。泣いているのかもしれない、と思ったが、叔父さんの涙は見たくなかった。
 俺にとっての叔父さんは、逞しくて、力強くて、そして――
「俺は…やっぱり叔父さんが好きだよ」
 俺は泣きながら叔父の胸にすがりついた。
 叔父の話は俺にはショックが大きすぎた。でもだからといって、俺の叔父に対する想いが失せたわけではなかった。
「サブ…」
「まっとうな道なんていらない!叔父さんさえいればいい!叔父さんに抱いてもらえなくてもいい、俺は……俺は、やっぱり叔父さんが…っ」
「サブ…」
 叔父の力強い腕が、俺の背中を抱き締めた。
「……好きなんだ……」
 涙の中からそう呟いた俺の頬に、叔父の手がかかった。その手につられたように顔を上げた俺の目に飛び込んできたのは――叔父の笑顔だった。
「サブ…いや…」
 叔父は俺に近く顔を寄せ、はじめて俺の本当の名を呼んでくれた。


21(まな)


「龍太郎…」

俺は、叔父に抱きしめられ、そしてめったに呼ばれることのない本当の名前を呼ばれて何がなんだかわからなくなっていた。
「なんだか、本当の自分の名前なのに、違う人の名前みたいだ…」
照れて、そんな風に言ってみる。
「お前の名前はな、俺がつけたんだぞ。兄さんは素晴しい男だったが命名の才能だけはなくてな、はじめお前の名前は『海彦』だったんだぞ。海が好きだから海彦。義姉さんは義姉さんで『海太』の方がかわいいなんて言うし…俺が龍宮城から龍太郎はどうだ?って言ってやっと竜太郎にしてもらった。」
叔父は俺を抱きしめたまま、穏やかに笑いながらそう言った。
「親父のやつ、俺には自分が付けたなんて言いやがって、まったく大ぼら吹きだぜ。」
「はは、兄さんらしいな。」

俺はなんだか満たされた気持ちになっていた。そして、自分の最大の望みを口にしていた。

「叔父さん、俺を抱いてくれよ。俺、今日常願寺のやつにやられちまったけど、それでも俺が汚れてないって言ってくれるなら、叔父さん、俺を抱いて...」

「龍太郎….」
叔父の顔が苦悩にゆがむのがわかった。しかし、俺もこうなったら後にひけない。

「お願いだ。叔父さん…」

22(もぐもぐ)



「叔父さん……」
叔父の瞳が翳るのを見て、俺はさっきまでの思いを甦らせて、肩を落とした。
「やっぱり……ダメだよな。俺……もう……」
「龍太郎?」
「俺……汚い」
「馬鹿野郎」
叔父が俺の肩を強く抱きしめて、じっと見つめる。その真剣な目に、俺はわずかに怯んだ。
「お前が、汚いなら、俺はどうなるんだ」
「え?」
「あいつに抱かれつづけて..男の身体を忘れられなくて..愛も無いのに抱かれてくるような男だぞ」
「おじ……」
「綺麗だ、汚いっていうんなら、俺のほうがよっぽど、汚ねぇぜ」
「そんなことないっ」
俺は、強く叔父の背中を抱いた。
「叔父さんは、綺麗だ。誰より……男らしくて、強くて……綺麗だよ」
「龍太……」
「叔父さん」
知らず知らず誘うように唇を寄せると、叔父の肉厚な唇が俺のそれに重なった。
「ん……」
「堪えていたのに……お前のせいだ……もう、戻れんぞ」
唇を重ねたまま囁く叔父に、俺は背中の腕に力をこめることで応えた。

叔父の唇が、俺の身体の隅々に赤い痕を残していく。
夢にまで見た叔父の腕。その力強い腕が与えてくれる甘美な悦びに俺は震えた。
「あっ……叔父…さ、んっ……ンっ、はぁっ」
「龍太郎」
「あっ、やっ」
叔父の手が俺自身に伸ばされたとき、俺はわずかに身を捩ったが、けっして嫌だったのではない。耐えられないほどの甘い痺れがそうさせたのだ。叔父の手淫は巧みだった。
「あっ、もうっ…いっ…ああっ」
叔父の手で、一度イカされた。
朦朧とした頭に、叔父の囁きが聞こえる。
「気持ち良かったか?」
俺は、こっくりと頷く。
叔父は嬉しそうに俺に口付けて、舌を絡ませながら、また片方の手を下に伸ばして俺を扱いた。
若い俺のそれは、すぐに硬度を増していく。
「んっ……ふうっ」
「龍太郎……」
叔父の熱い吐息が耳朶をくすぐった。
「入れていいか?」
ああ、いよいよ?!
怖くないと言えば嘘になる。でも、叔父となら……。
俺は、身体を震わせて頷いた。
叔父は、男らしい顔で微笑むと身体を起こした。
そして―――
(ええぇぇぇ―――――――っ?!!!)
俺自身が叔父の中にズブズブと入っていくのを見て、俺ははっきり言って動揺した。
(俺が、入れて、いいの?)
俺の腰の上に跨った叔父は、ゆっくりと腰を落としていく。
男らしく端正な顔が切なそうに歪むのを見て、俺は思わずゾクリとした。
そのとたん俺の雄がビクッと跳ねて、
「うっ」
叔父は眉根を寄せた。
その顔が、むちゃくちゃセクシーで、俺はまた自分が大きくなるのを感じた。そしてそれを包む叔父の肉襞が押し返すように締め付ける。
「くっ……キツっ」
俺も、思わず声が出た。叔父の中は、熱くてきつくて、ドロドロにとけそうで……最高に気持ち良かった。
「あっ、だっ、だめだ」
ほんのちょっと叔父が動くだけで、また直ぐにイキそうになる。
「叔父さんっ」
俺が思わず叫ぶと、叔父は自分の雄に俺の手を導いて言った。
「一緒に……いこう……龍太郎」
「叔父、さ、ん……」


そして、俺たちは明け方近くまで愛し合い、結局ほんのちょっとウトウトしただけで、魚河岸に行くこととなった。
「なんなら、お前は寝てろよ」
叔父さんは疲れも見せずに爽やかな顔で笑う。俺は慌てて追いかけて、
「一緒に行くよ」
そう言ってから、俺は昨夜の叔父の言葉を思い出して赤くなった。
『一緒に……いこう……龍太郎』
それは、イクってことだったのかも知れないけれど、俺にはこれからもずっと一緒に行こうって意味に思えた。
これからも、ずっと、叔父さんと一緒に――――。ずっと一緒に歩いて行きたい。


それにしても、俺は結局叔父に抱かれたのだろうか?抱いたのだろうか??
まあいい。愛し合う者同士が身体を繋げることに上下は無いはずだ。(←今回のテーマ)
幸せな気持ちいっぱいで、魚河岸に行った俺たちを、思いもかけない事件が待っていた。

そう、このリレー小説のファイナルを飾るにふさわしい青天の霹靂……


23(れな)


 その日も魚河岸は大変な賑わいを見せていたが、せりが終わると三々五々と人が退け、いつの間にかあたりは無人になっていた。
「結構いいでものがあったね」
 そう叔父に笑いかけると、叔父も
「そうだな」と発泡スチロールの箱を振り返る。
「…さて。店をあける準備をするか」
 そう俺を見上げて笑った叔父の白い歯に、俺の下半身は不意に熱くなった。
「龍太郎?」
 どうしよう、と思った途端、頬に血が上るのが自分でもわかる。
「な、なんでもない」
「どうしたんだ?」
 何も気づかず叔父が俺の腕を掴んだとき、俺は思わず叔父をその場に押し倒してしまっていた。
「なっ??」
 慌てる叔父に圧し掛かり、その唇を唇で塞ぐ。叔父は最初こそ驚いたようだったが、すぐに眼だけで笑うと、俺が差し入れた舌を自らの舌で捉え積極的に吸い上げてきた。
「んっ…」
 さすが受け歴○年――ここで叔父の年のサバを読んでやる必要はないのだが、いつものクセでちょっと…(意味不明)決して読み返すのが面倒で年数がわからなかった、というまなのような理由ではない(笑))――巧みなキスに俺の雄は益々熱く、硬くなる。ジーンズがキツイな、と思っていると、叔父はすぐにそれと気づいて上に乗っている俺の黒いビニールの前掛けを持ち上げ、ジーンズのボタンに手をかけると手早くそれを外して一気に下着ごと引き下ろしてくれた。
「やっ…」
 叔父を押し倒しているのは俺なのに、俺の口からは何故か高い声が出る。
「可愛いな」
 唇を離して叔父がくすりとそう笑い、俺の腰を両腕で支えるようにして、俺の身体を起そうとした。
「やだ…っもっと…っ」
 だから押し倒しているのは俺なのだが、ついついそう叔父にすがり付こうとすると
「いいから」
 と叔父は自分も身体を起し、俺をその場に立たせた。
「なに…?」
 前掛けはしているけれど、後ろは剥き出しの下半身がやたらと恥ずかしい。が、その恥ずかしさが俺の雄を益々熱くしているのも事実だった。
「…後ろ向いて」
 叔父の囁くような声に、俺は言われたとおりに彼に背を向ける。
「綺麗だ…サブ…」(そうかなあ(笑)???)
 叔父がその場に膝をつき、俺の尻に唇を寄せてきた。
「やっ……」
 その生温かい感触に俺が抑えられずに声をあげたその瞬間――


「何をしてやがるんでいっ」


 物凄い怒声が俺たちの後ろで響き渡り、驚いて振り返った俺たちは、その場に怒りをあらわに立ち尽くす、魚河岸の常連の面々を見た。



 神聖な魚河岸で破廉恥な行為を行った、という理由で、俺も叔父も魚河岸に出入り禁止になってしまった。噂は業界(って言うのかなあ)を駆け回り、俺たちは魚屋連盟からも除名させられてしまい、店も閉めざるを得なくなってしまった。
「仕方がねえなあ」
 北島のおやっさんは、あきれたように俺たちを見て溜息をついたが、俺たちが生活に困るのを見るに見かねて、おやっさんの事務所の下っ端として雇いいれてくれることになった。
 おかげで今じゃ、俺も叔父も、すっかり髪型は――パンチだ。

習うよりなれろ、魚屋に戻りたいな、と思うことはあるが、愛に上下の別がないように、たとえどんな髪型だろうが、愛しあってる俺たちには髪形なんて関係なく(これもテーマ)、叔父と一緒なら、俺はどんな暮らしでも自分が世界一幸せだと言い切ることが出来る。

父ちゃん!これが俺が一本釣りで捕まえた、でっけぇ愛の鯨だぜっ!

終わり







《あとがき》 byもぐもぐ

二万回リレー。魚河岸サブ(笑)楽しんで頂けましたでしょうか?
私はとっても楽しかったよ。れなちゃん、まなちゃんありがとうv
そしてスクロール酔いしながら友情出演してくれたけいこ、ごめんね(汗)
この次は、一日一アップを守るよ。
さて、この話を楽しく読むための基礎知識として、以下の三点を押さえていただけるとありがたいです。>最後に言うな(笑)
一、 れなは、裸エプロンが好き
二、 もぐもぐは、パンチが嫌い
三、 まなは、エッチを書くのに恥じらいがある(?)

れなが、どんなにエッチの直前でまわしても、寸止めで終わらせましたね、まなちゃん。二回もやられるとさすがに……(笑)(北島、一度もいい思いができなかったぜ)
その分、なぜかもぐもぐがエロ担当になってしまっていた。
(本来、はじけるはずの私が、軌道修正係になるほど、みんな好き勝ってやってましたね?)
そして、このリレーの裏テーマは、パンチ攻防戦でしたが、最後に落ちの番が回ってきたれなの勝利でした。あーあ。
ほんとにパンチだけは許せなかったんだよねー。せっかく北島をパンチじゃなくしたのに……なんで……(笑)

三万回でも楽しくやりたいです。どうぞよろしくvv


<あとがき>byれな


1万回では「超高速」といわれたリレー(笑)
今回もハイパーぶりについてきて下さった皆様、どうも有難うございました。

はだかえぷろん…そう、この「愛の一本釣り」が生まれた背景には、ある日の「裸エプロン」談義があったのです。
あれはけーこの家でまったり飲んでいたとき、裸エプロン推奨派の私は、反対派のもぐもぐとけーこのつるし上げにあってました(笑)。
も「男のはだかえぷろんはいただけない」
け「そうそう、まだ前掛けならいいけど」
一同「……え?(汗)」

『前掛け』…で私たちが連想したのが魚河岸(笑)。あの黒いビニール?の前掛けに、黒長靴、ねじり鉢巻のにーちゃんの「さぶ」ちっくな世界でした(笑)。

ってことで?はじまったこのリレー、途中で「パンチ」にのっとられましたが(笑)、私たちが楽しんだ分、皆様にもお楽しみ頂けたら本当に嬉しいですv
3万回では1日1UPで(笑)頑張ろうねvv今度は奇跡しばりかな(笑)?



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