覚醒の数時間前、

私はSとして最後の夢を見た。

 

24年の時を費やして創られた街は、

美醜も良し悪しも全て内包して、

今なお新しいものが生まれ続けている。

壊れたまま、放置されている所もあれば、修復されている所もある。

 

桜の花咲く朝、街の中央に位置する建物では、結婚式が執り行われていた。

大柄な花嫁の隣に、華奢な花婿が立っていた。

2人の周囲を花婿とよく似た男達が取り巻き、

2人を祝っていた。

花嫁が、自分よりも小さな花婿を強く強く抱き締めていた。

 

新緑の芽吹く昼、人々が忙しく街の中を歩き回り始めた。

掃除をする人。

花を植える人。

散歩をする人。

荷物を運ぶ人。

物を売る人。

誰しもが自分の仕事にのみ忠実に、忙しく働きまわっていた。

 

木々の葉が紅に染まる夕刻、黒い服の男が花壇を踏み荒らしていた。

一心不乱に花々を踏み荒らす彼を、警官が銃で撃ち殺した。

倒れた男を花壇の土が受け止めると同時に、

屈強な若者達が現れ、彼の身体を何処かへ運び去っていってしまった。

 

木枯らし吹き荒ぶ夜、私はもう1度街の中央へ、あの建物へと戻って来た。

今はもう、その建物の外に、誰もいない。

中から暖かそうな光が洩れている。

私は或る確信を持って中に入ると、寝台で眠る赤子を腕に抱いて、街を出た。

 

 


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