ぼくは、せいちゃんのまほうびん。
せいちゃんがようちえんにはいるとき、おとうさんがかってくれた、まほうびん。
ぼくたちは、いつもいっしょ。
なつやすみ。
ようちえんのせんせいやおともだちとはしばらくあえないけど、
おじいちゃんとおばあちゃんにあいにいったり、うみややまにあそびにいったりできる。
きょうは、おじいちゃんとおばあちゃんにあいにきたんだ!
「おじーちゃーん!!」
せいちゃんがおおきなこえでさけびながら、げんきよくはしってゆく。
おじいちゃんとおばあちゃんが、にこにこわらっておうちのまえにたっている。
ぼくは、せいちゃんがあんまりはしるので、
からだがあっちへいったりこっちへいったりして、めがまわってしまった。
「まぁまぁ、せいちゃん、いらっしゃい。」
「まっとったぞ!」
おじいちゃんとおばあちゃんはうれしくてしかたないみたい。
それは、せいちゃんもおとうさんもおかあさんもいっしょだ。
「くたびれたでしょう。さ、はやくあがって。」
おばあちゃんとせいちゃんがてをつないであるいていく。
これから1しゅうかん、おじいちゃんとおばあちゃんといっしょにいられるんだって。
「なつやすみ」っていうけど、ちっともおやすみじゃない。
だって、たいそうしたり、かわであそんだり、おかいものにいったり、むしとりにいったり、
やらなきゃいけないことがいっぱいある。
せいちゃんも、すこしだってじっとしていなかった。
あさはすごくはやくおきて、おじいちゃんといっしょいにたいそうして、
あさごはんをたべて、そとへとびだしていく。
おひるもいっぱいたべて、
おかあさんにうちわであおいでもらいながら、おひるね。
そしてまた、げんきいっぱいとびだしていく。
ぼくも、むぎちゃやジュースといっしょに、せいちゃんとあそんだ。
すっごくたのしくてたのしくてしかたなかったから、あっというまに1しゅうかんがすぎていった。
そして、おじいちゃんのいえですごすさいごのひ。
ゆうごはんをたべていると、おじいちゃんがいった。
「せいいち、きもだめししようか。」
「きもだめし???なにそれ???」
せいちゃんはふしぎそうなかおをしている。
「とうさん…もしかして。」
せいちゃんのおとうさんが、なにかおもいついたようなかおをした。
「なぁに?ねぇおとうさん、なんなの?」
せいちゃんがガタガタとつくえをゆさぶってとびはねる。
「あのな、おじいちゃんのいえのちかくにふるーいふるーい「はいおく」があるんだ。」
「はいおく?」
「そう。もうずっとまえにすんでいたひとがだーれもいなくなって、
ぼろぼろになったおうちのことだよ。」
おじいちゃんが、こえをひくーくしていう。
「そこに、おじいちゃんがあきびんをおいてくる。
せいいちは、そのあきびんのなかに、ビーだまをいれてくるんだ。やるか?」
よる。くらいみち。はいおく。
だーれもいない、おうちに、ひとりで。
せいちゃんは、わくわくしてるみたいだった。
「やる!おじいちゃん、ぼく、やる!」
ごはんをたべたあと、おじいちゃんとおとうさんがあきびんをもってでかけていった。
「せいちゃん、ほんとうにひとりでだいじょうぶ?」
おかあさんとおばあちゃんはしんぱいそうだったけど、せいちゃんはにこにこしてる。
「へいきだよ!ぼく、こわくないよ!」
おいじちゃんとおとうさんがかえってきて、にやっとわらった。
「よーし、じゃあいくぞ!」
「うん!はやくいこう!」
そとはすっかりくらくなっていて、むしのこえがする。
ぬる〜いかぜが、なんだかちょっときもちわるい。
「ほら、あそこだよ。」
せいちゃんとてをつないでいたおじいちゃんが、ゆびさしたのは、ぼろぼろのいえ。
くらくてよくわからないけど、やねにあながあいてるみたい。
「あのなかに、びんがおいてあるからな。このビーだまをいれておいで。」
そういっておじいちゃんは、おおきなビーだまをせいちゃんにわたした。
「ちゃんとおいてこられたら、アイスをかってやるぞ。」
おとうさんが、たのしそうにわらっている。
「じゃあ、いってきまーす!」
せいちゃんは、ちいさなあしで「はいおく」のなかにはいっていった。
まっくら。ぼろぼろ。あしもとはまっすぐじゃなくて、
せいちゃんはころばないように、きをつけてあるいていく。
かぜがふぅ〜っとはいってきて、せいちゃんはぶるぶるっとふるえた。
「どうしてこのおうち、だれもいなくなっちゃったのかな。」
ひとりだけのこえはなんだかいつもよりおおきくきこえる。
まどがななめになっている。
(せいちゃん、こわくないよ!がんばれ!)
ぼくはこころのなかでせいちゃんをおうえんした。
「あ、あれかな?」
まがったつくえのうえに、びんがおいてある。
「えいっ!」
せいちゃんはビーだまをびんのなかにいれると、
いそいでいりぐちにもどった。
すると。
「わぁっ!」
というこえがして、だれかがせいちゃんのまえにとびだしてきた。
「わぁー!」
せいちゃんはびっくりしてしゃがみこんでしまう。
(どうしよう…おばけがでたのかな?)
ぼくもどきどきした。
「あっはっは。さすがにおどろいたかー。」
とびだしてきたのはおとうさんだった。
「う…うわーん!おとうさんのばかー!」
せいちゃんはぐーってがまんしてたけど、
はながぴくぴくってして、まゆげがぎゅーってなって、
とうとうなきだしちゃった。
「ごめんごめん、わるかったよ。でも、ひとりでなかにはいって、もどってこられたな。」
せいちゃんはりょううでをふりまわしておとうさんをぼかぼかたたいている。
おとうさんは、ちょっとこまったかおでわらいながら、せいちゃんをだっこした。
「さ、かえろう。」
そういうと、おとうさんはかいちゅうでんとうをつけた。
ぴかっとあかりがついたそのとき…、
めのまえにのっぺらぼうがいた!
「ぎゃー!」
せいちゃんはかいじゅうみたいなこえでさけぶと、おとうさんにしがみついた!
「どうした!?」
おとうさんは、せいちゃんのこえにびっくりしてる。
「おばけっ!おばけがいるっ!」
せいちゃんはぶるぶるふるえながら、うでをぐいっとうしろにのばして、
のっぺらぼうをゆびさした。
おとうさんは、しばらくだまっていたけど、いきなりおおきなこえでわらいだした。
「あっはっは!せいいち、ちがうよ、おばけじゃないよ。」
おとうさんはわらいながら、のっぺらぼうのほうにあるいていく。
「おばけじゃない?」
なきべそをかいたせいちゃんがふりむくと、おじいちゃんがにこにこしている。
「おいおい、せいいち。のっぺらぼうじゃなくて、じいちゃんのハゲあたまだよ。」
おじいちゃんは、つるっとしたあたまをぺちん、とてでたたいた。
なーんだ。おばけじゃなかったんだ。
せいちゃんは、しばらくはなをひっくひっくさせていたけど、
おとうさんとおじいちゃんがにこにこしているので、
もうだいじょうぶっておもったみたい。
「さあ、かえろうか。すっかりおそくなってしまったな。」
せいちゃんは、いっぱいないたので、くたびれておおあくび。
「ねえ、おかあさんとおばあちゃんに、ないしょだよ。」
いっぱいいっぱいないちゃって、せいちゃんはちょっとはずかしいんだ。
「ん?ああ、なきべそかいたことか。よしよし、おとこ3にんのひみつだな。」
おとうさんと、おじいちゃんと、せいちゃん。
くちのまえにゆびをたてて、
「しーっ!」
だって。
おしまい