君の血を、好いと思う、この舌を、嫌悪すればいいのか。
宮殿の青い硝子に映る姿の本当の色を知りたくて。
行く手を阻む者達を蹴散らす刃のの煌きを、焼き尽くす炎の熱さを感じたくて。
見えない糸玉を投げる。
君に届けと。
手繰り寄せた先には何もない。
そこに君が絡み取られていればいいのに。
古びた贄の血に飽きて、気紛れに夜に飛び込む。
眠る娘、眠る子供、眠る父親、眠る領主。
眠りは死に似ている。
眠りに臨んで人は境を失う。
私はそれらを無差別に口にする。
ほんの僅かの差はあれど、どれもそんなに変わりはない。
そんな私の元へ君は来た。
私を焼き切る銀の剣を携えて。
私は君の血が欲しい。
剣を握り締めた手に、そこから伸びる腕に、華奢な肩に、すんなりとした首に。
涙を浮かべて私を睨む、黒い眼のはまった顔に満ちる血が。
かつて、まだ互いが互いの道を知らず、
甘く優しい時空に身を委ねていた頃、
君が欲しいといったことがあった。
君は少しだけ身を震わせ、それを承諾してくれた。
私は君を手に入れた。
でも今欲しいのは君の血。ただそれだけ。
銀の閃きは拙い。
うねる炎は弱い。
刃の軌跡は力なく、
散る涙が冷たい。
乱暴に手をはたく。
剣が鳴り響いて落ちる。
力がなさすぎる。
戦う気などない?
両腕で捕え、潰す程に抱き締め、喘ぐ唇を上向かせ。
口付けの振りをして首筋に歯を宛がう。
音もなく突き破られる薄い皮膚。
望みが叶えられたこと。
それはとても嬉しくて、この身を震わせる程に喜ばしいことだったけれど。
望みが変わってしまったこと。
それはとても悲しくて、この身を震わせる程に悲しいことだった。
何の言葉も話せない。
口内を満たす薄っぺらな液体のお陰で。そのせいで。
でも何の言葉も思いつかない。
何故、こんなことに。
全てを飲み下したらそう言おう。
事切れた器を抱いて、そう言おう。
何を呪えばいい?
その後に、そう言おう。
唇を乾かす血を唾液で湿らせてから。
そして宮殿の青い硝子に自らを映し出し、こう言うだろう。
君の血を、好いと思う、この舌を、嫌悪すればいいのか。
終