その日俺はいつものように家人が寝静まった後、きのこの家から這い出して、

颯爽と回し車を動かし始めた。

カラカラカラカラ・・・

回し車は小さな音を立てながら、俺の走る速度に合わせて回転する。

 

真夜中のエクササイズはまず、回し車だ。

これは昼間にやるものではない。

時々家人が俺の颯爽と走る姿を見たがって、昼間無理矢理回し車の上に乗せたりするが、

そんなのは完全無視だ。

俺の機嫌がよっぽど良ければ、軽快な走りを見せてやることもある。

その時の家人の一言と言えば、決まっている。

「かわいー(>w<)」

ふっ。当然だ。

 

俺はまた、食べ物にも気を使っている。

好きなものはキャベツ。そしてヒマワリの種。

あと、にんじんも好きだ。

そう、俺は基本的にベジタリアンなのだ。

だから俺の毛並みは最高に気持ち良い。

そんな俺を抱き上げた時の家人の一言と言えば、やはり決まっている。

「きもちー(>▽<)」

ふっ。これまた当然だ。

 

そしてそんな俺は、とても慎重な性格をしている。

だから、滅多に自分から家の外へ出ること無い。

重ねて断っておくが、俺は慎重なのだ。

しかし家人は、人の家の入口を勝手に開け、ハムスターの俺を

こともあろうに猫なで声で呼ぶ。

そんなやつらの言うことを聞く義理は無い。

そんな時の家人の一言も、やはり決まっている。

「プー太は弱虫だからねぇ。臆病なんだよね(−_−)」

違う。俺は臆病なのではなく、慎重なのだ。

ちなみに「プー太」というのが俺の名前だ。

この点に関しては、家人は俺のことを分かっていないと思う。

だがまぁ仕方が無い。俺はそんな事は気にしないから、別にいいのさ。

 

回し車を使ってのエクササイズを終えた俺は、軽やかに車を飛び降りた。

その時俺は、あることに気付いた。

(・・・入口が開いている・・・)

家人が閉め忘れたらしい。呑気なことだ。

俺はこれ幸いと、外に出た。

 

一応確認しておくが、俺はとても慎重な性格をしている。

だから滅多に自分から家の外に出たりはしない。

しかし今は真夜中で、家人は皆眠っている。

連中がいなければ、この家は俺の天下だ。

というわけで、俺は鍛えた脚で勢い良く駆け出した。

リビングを駆け抜け、家人の1人が眠る部屋に飛びこむ。

その枕元を走っていたその時!!

かちっ

(!?)

俺は硬直した。真っ暗だった部屋が突然真昼のような明るさになる。

そして俺の頭上には巨大な影が!!

「なーんだ、ねずみかと思ったら、プー太だったんだね〜」

眠そうな声で言いながら、寝ていた家人がむっくり起き上がり、部屋の隅で硬直している俺を、

ひょいと軽く摘み上げた。

(・・・)

「さー、おうち帰ろうね〜。お休み〜」

俺は家に連れ戻されてしまった。

・・・不覚。

 

その翌日。

朝のまどろみの中で、俺は家人達の話し声を聞いていた。

「・・・だからね、入口を閉め忘れてたみたいで、プー太が大脱走したの!

枕元でタタタターッて音がしたからねずみかと思って慌てて起きたら、

プー太が部屋の隅でこ〜んなちっちゃくなってて!」

「ふ〜ん。でも何事も無くて良かったねぇ」

・・・まあたまにはこんなこともある。

何度も言ったが俺はとても慎重な性格の持ち主故に、

とっさの時に慌てて大騒ぎするなどという見苦しいことはしないのだ。

しかし、それはともかく家人達に言っておきたいことがあった。

俺はねずみだ。

・・・ふっ。まぁ別にどうでもいいことなんだがな。


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