錬金素材集め
「うわあ……!」
先頭に立って階段をフリーラが歓声を上げる。
目の前に、澄んだ水を湛えた人工の泉が広がっていた。
「これは素晴らしいですね!さすがはリッカさん、考えることが違います!」
「うん、素敵……。お客さんも喜んで水浴びしてるね。」
「そっかー。素っ裸じゃないから、男も女も一緒に入って良いんだな。」
「うまくできている……。」
皆が賞賛の言葉を口にする。
セントシュタインの宿の地下室。
営業を再開した当初は入ることができなかったこの場所は、
少し時間が経って戻ってきてみると、誰も予想しなかった姿に生まれ変わっていた。
「”天使の泉”を作ってみたの!」
人間の世界に降りてきたフリーラの初めての友達であり、
父親の夢を継いで宿の女主人となった少女リッカが、きらきらと目を輝かせていった。
「旅をしていると、ゆっくり水浴びできる場所や時間なんてなかなかないでしょ?
だからせめて、ウチに来てもらった時くらいはっ……て思ったんだけど、どうかな?」
嬉しそうに語る友人に、フリーラも微笑みを返した。
道は違えど、大事な友達が頑張っている。
そしてその頑張りは、確かに実を結んでいる。
それが、何より嬉しかった。
「ここにジンクスが生まれる理由、わかる気がします。」
僧衣の裾を結び、濡れないようにしながら、テティーアがぽつりと呟いた。
「こういう泉とか噴水って、不思議と何か放り込みたくなるよなー。さて、いいもんあるかな?」
じゃぼじゃぼと遠慮なく泉に入り込みながら、戦士ザウロは水面に顔を近づけた。
いつ、誰が言い出したのかはわからない。
しかし、泉に何かを投げ入れると、またこの宿に戻って来られるというジンクスが、
客の間に広まっているらしい、と聞いたのは、戻ってきた夜のことだった。
「おかしなものを置いていかれるワケじゃないからいいんだけどね、
わたしには何だかよくわからないものもあるから、時々様子を見ていってもらえないかな?」
困った、というよりは驚いたような様子のリッカの頼みを断る理由はなかった。
「お!これって……「まりょくの土」だぜ!ラッキー!」
「まあ、こっちには「ひかりの石」がありますよ。あら、あっちにも何か……。」
「「緑のコケ」……これは、自生したワケでは……ないな。」
裸足になってはしゃぐ仲間達に混ざり、フリーラも泉を覗き込む。
膝下くらいの深さの水は、キンと冷え切っているわけではなく、ぬるま湯くらいで気持ちがいい。
(宝探しみたいで、楽しいな。)
そんなことを思いながら透明なゆらめきの中にそうっと手を差し入れると、何かが指先に触れた。
「?」
白く、柔らかな羽根。
水の中にあった筈なのに、全く濡れていない。
「……!」
「ん……フリーラ?どうした?」
自分の手の中のものを見つめたまま、硬直してしまったフリーラに、魔術師ケイヴが声をかける。
返事がない。
どうしてこんなところにあるんだろう。
少し前まで、わたしはこれを持っていた。
少し前まで、わたしの周りに溢れていた。
「これ……「天使のはね」……。」
天使の少女は3人の仲間が心配そうに自分の側に近付いてくるのを感じた。
しかし、顔は上げられなかった。
みんなに、会いたい。
お師匠様に、会いたい。
「フリーラ。」
横からきゅうっと抱き締められて、今は旅芸人となった少女はその腕の主を見た。
「元気を出してください。わたし達が、ついてます!」
「テト。」
前から伸びてきた手に頭を撫でられて、上を見た。
「落ち込むなって!天使達には、絶対にまた会えるさ。」
「ザウロ。」
背後から、励ますように伸ばされた手が両肩を温めてくれる。
「その羽根はきっと、近くにお前の同胞がいるという証だ。だから、寂しいことはない。」
「ケイヴ。」
この中に、ウォルロ村の人は誰もいない。
このセントシュタインで出会うまで、この世界に存在していることすら、お互いに知らなかった。
けれど。
「……みんな、ありがとう。」
目を閉じて、それぞれの手の温もりに心を寄せる。
こんな風に、触れ合って。
こんな風に、言葉をかけて。
こんな風に、お互いを大事にすること。
それは、人間の仲間達が教えてくれたこと。
了
すれ違い通信、やりまくってます。
何だか久し振りに「仲間っていいな」みたいな話を書きました。
こういうベタなお話、大好きです。
どういう話であれ、主人公はみんなが大事でみんなに大事にされる人であって欲しい。