スライムの服
「何ですか、これ……。」
「スライムの服ですわ。」
さらりといわれてしまえばそこまでだった。
目の前でブロンドの美女が微笑んでいる。
白魚のような、という形容が相応しいほっそりとした手で撫でているのは、
動物でも子供でもなく、何とも奇妙な物体だ。
赤と緑の楕円形のものが2つ重なったそれには、親しみやすいが緊張感に欠ける顔が描かれている。
旅の途中、飽きる程お目にかかる顔だ。
「ロクサーヌさん……これ、どうやって着るの?」
「頭からかぶるのです。よろしければ、ご試着なさいますか?」
おずおずと尋ねるフリーラに、ロクサーヌは両手をあげるよう促した。
いわれるがままにバンザイの姿勢を取ったフリーラの視界が一瞬、暗くなる。
「……これでいいの?」
きょとんとした顔で天使は周囲を見回した。
「ぶっ!ふ、フリーラ、お前サイコー!」
「まああ!フリーラ、とってもカワイイですよっ!」
「……いい。」
純粋な賞賛とは言い難い色を含んだ仲間達の声と視線に、フリーラは情けない顔をした。
「みんな……本気で褒めてる……?」
しかし、こんな形をしていても(しているからこそ、かもしれないが)守備力はなかなかのもので。
むしろ、その辺の鎧なんか目じゃないくらいの強度は、強敵と出会うことが多くなってきた昨今、魅力的ではあった。
「うーん……どうしようかなぁ。とりあえず、脱いで考えっ……わあ!」
もこもことした動きで服を脱ごうとした少女は、バランスを崩して倒れてしまった。
咄嗟に手を出そうにも、慣れない構造のせいで腕がうまく動かせず、
フリーラは迫り来る床の衝撃を予想して、身体が強張るのを感じた。
ぼよん。
「……。」
間の抜けた音に相応しい、感動的な衝撃吸収率だった。
脚をじたばたさせてもがく仲間を見下ろし、戦士と僧侶は我慢しきれずに大笑いした。
「ぶははは!やばい、面白いこれ!買おうぜ、な、決まりっ!」
「そ、そうですね!絶対に役に立ちますね!ふふふっ。」
「もー!そんなに笑うなら、みんなも着てみてよー!」
顔を真っ赤にして叫ぶフリーラを、魔法使いが助け起こした。
「あ、ありがとうケイヴ。」
「ああ。」
紫色の目が、このおかしな装束を食い入るように見つめている。
「……フリーラ、その服、オレが着てもいいか。」
「え!?う、うん、いいけど。」
ぽこん、と何かを引っこ抜くような音を立てて服を脱がすと、魔法使いは珍しく嬉しそうにスライムの服を被った。
「……。」
「……。」
「……気に入った、みてーだな……。」
動きにくさなど微塵も感じさせず、くるくると回っている魔法使いを横目に、ザウロがぼそりと呟いた。
「お買い上げ、ありがとうございます♪とってもよくお似合いですわ!」
ロクサーヌの晴れやかな声が、昼下がりの宿のロビーに心地良く響いた。
了
最初に見た時の衝撃はすごかった…!
誰に着せても面白い。
どんなにシリアスなシーンでも面白い。
でも強いし、必要な装備なんですよね〜。
これを装備した辺りから、魔法使いケイヴはファッションセンスが独特、というか、
ファッションにはこだわりがない人、という設定が付きました。