洋品店で働く従姉妹と話をしている。
「ウチの店では昔、従業員の中からキレイな女の子を選んで、
そのコの首を斬って、マネキンにしてたんですって。
人形の、正確な身体なんかじゃお客さんが服を着た時にシルエットやイメージが崩れるだけだから、
そうしたんですって。」
「首を斬り落としちまうんだったら、何でキレイな子じゃなきゃダメだったんだよ?」
「さあ?だから嘘なんでしょ。本当の話じゃないから、いい加減なのよ。」
従姉妹はそんなに背は高くないが、見目麗しい、といってもいい部類だと思う。
少なくとも、俺は結構好きだった。彼女の姿が。
「ねえ、アタシは選ばれたと思う?店のマネキンに。」
「選ばれたいのかよ?」
「そんな訳ないでしょ。もしもの話よ。」
来る筈のない「もしも」の話は楽しいらしい。
「お前じゃ選ばれねぇよ。」
「…失礼なヤツ!」
選ばれたら困るだろ。
「斬り落とした頭ってどうなったんだ?」
「ウチの店の上にある美容室に運ばれて、カットの練習に使われたんだって。」
そんな馬鹿な話があってたまるか。
「そろそろ行かないか。」
「あ、もうこんな時間。そうね。出ましょ。」
従姉妹と別れる。
後姿が綺麗な女性は素敵だと思う。
その後姿、大振りの髪飾りがチラチラと揺れる頭が無いことを想像してみた。
案外、嫌な気はしなかった。
その夜、くだらない夢を見た。
首の無い従姉妹が、流行りの服をとっかえひっかえ着替えている。
赤、白い肌、青、白い肌、黒、白い肌、緑、白い肌、
木綿、白い肌、毛糸、白い肌、
白い肌、
白い、
肌、
くるくると回転しながら得意になって着替えている(ように見える)従姉妹の側には小さなテーブルがある。
そこにはライトグリーンとショッキングピンクとフラッシュイエローの斑に髪を染めた従姉妹の頭が置いてある。
ハサミを手にした俺が近付く、
「お前には黒髪が似合うんだから、そんな狂ったような頭にするんじゃない。」
そういって斑の頭にハサミを入れる。
ライトグリーン、金属、ショッキングピンク、金属、フラッシュイエロー、金属、
従姉妹の頭が泣いている。
「泣くんじゃない、マネキン頭!」
怒鳴って目が覚めた。
朝1番に従姉妹に電話した。
「もしもし?」
「ああ…俺。生きてる?」
「この通り。どうかした?」
今、描きたい絵がある。
「あのさ、モデル、やって欲しいんだけど。久し振りに。」
「え?描いてくれるの?」
従姉妹の声が弾む。
「今日、来られるか?」
「うん、休みだから行ける。待ってて、お昼前には行くから!じゃあね!」
電話が切れる。
何も無い部屋に小さなテーブルを運びこんだ。
引き出しの中でカタカタと音がしたので開けてみたら、ハサミが入っていた。
手にとってじっと見つめる。
これでは、小さいかもしれない。
呼び鈴が鳴った。
従姉妹が来た。
「今…行くよ。」
ハサミを置いて、玄関へと足を向けた。
了