ココレの村は、とても小さな村。
村のだれもがお友達で、どの家も同じ形をしています。
だから、お昼ごはんの時間になって、まちがってだれかのおうちに入ってしまっても。
一緒にごはんを食べてしまいます。
そのぐらい、みんなが仲良しなのでした。
今日は、村のお祭りの日。
みんな楽しそうにおしゃべりをしながら、あっちこっちで働いています。
そんな中、おじいさんが大声で誰かを呼びながら、歩いてきました。
「マカオリ!マカオリ!マカオリはおらんか?」
青色のとんがり帽子と長いローブ、大きなワシ鼻。
たっぷりした白いおヒゲは、地面にくっついてしまいそうです。
この人は、魔法使いのパーモさん。
村の人達からは『パーモ先生』と呼ばれて慕われている、村1番の物知りです。
「おや、パーモ先生。マカオリは、またいなくなってしまったんですか?」
鍛冶屋のタッドさんが、トンカチの手を止めて、たずねました。
「ああ、まったく、手伝いもせんでどこにいってしまったのかのう。タッドさん、あんた、知らんかね」
パーモ先生はため息をついて、言います。
「さあてねえ。またどこかで、イタズラでもしてなけりゃいいが」
そんな風に言いながらも、タッドさんは楽しそうです。
さて、パーモ先生とタッドさんがそんな話をしていたころ。
噂のマカオリは、倉庫の中で、1冊の本とにらめっこをしていました。
「ええっと・・・あった!この魔法だわ!」
赤い小さなとんがり帽子に、おそろいのケープ。
そう、マカオリは、まるでイチゴのような格好をした魔法使いの女の子なんです。
「ねえねえ、マカオリ。今度は何をするつもりなの?」
夢中になって本を読んでいるマカオリの帽子の上から、水色のトカゲが声をかけました。
このトカゲの名前は、ラゴ。
本当は、トカゲじゃなくて、竜の子供だったりします。
(でも、村の人はみんな、めずらしいトカゲだと思っているのですが)
マカオリは目をキラリとさせて、言いました。
「ふふーん♪あのね、今日のお祭りのお菓子の中に、おっきいイチゴケーキがあるでしょ?
そのケーキのイチゴに『ニジ』の魔法をかけて、
『ニジイロイチゴのケーキ』にするの!」
ケーキの上で、まるでお星様のようにピカピカ光る、七色のイチゴ。
想像しただけで、マカオリはうっとりしてしまいました。
「すごいすごい!きっとみんなも大喜びだよ。お祭りが、もっと楽しくなるね!」
ラゴもぴょんぴょん飛び跳ねて、大喜びです。
「さあ、魔法の準備をしなくっちゃ!」
2人は元気よく倉庫を飛び出しました。
まずは、先生の部屋から、材料を借りなくてはいけません。
「えーっと、インコの羽でしょ、お水でしょ、手鏡でしょ、それから・・・」
「トランプ!」
「そうそう、それから杖も借りちゃおうっと!」
マカオリとラゴは、こっそりと倉庫へ戻ると、持ってきた材料を並べました。
「それで、どうするの?」
ラゴは、手鏡にうつる自分の顔をながめながら、たずねます。
「うんと、インコの羽をお水でぬらして手鏡の上にのせて、まわりにトランプを並べて・・・」
マカオリは、先生の杖をギュッと握って叫びました。
『レコヘキサ・ナハノジニ!』
すると、どうでしょう!手鏡の上のインコの羽が真っ白になったではありませんか!
「あれれ?マカオリ、インコの羽が真っ白になっちゃったよ?」
ラゴはびっくりして、ひっくりかえってしまいました。
「だーいじょーぶ!ほら、見て!」
マカオリはにっこりして、杖の頭をラゴに近づけました。
「あ!杖の先が虹色だぁ!」
ラゴは元気良く起き上がると、嬉しそうに言いました。
そうなのです。マカオリが握りしめている、先生の杖の先には、それはそれは美しい虹色の光が輝いていたのです。
「ね?うまくいったでしょう?」
ところが。
何だか様子がおかしいみたいです。
「ねぇ、マカオリ・・・?」
ラゴが、小さな目をめいっぱい開いて、言いました。
「なあに、ラゴ?」
マカオリは杖を床に置いたまま、後片付けに夢中になっています。
「虹色が、大きくなってきたよ!」
「ええ!?」
マカオリがあわてて杖を見たその時、
ビューン!と、それはそれはものすごい速さで、虹色の光が、倉庫の外へ飛び出してしまったのです!
「あ、あー!大変!」
2人は急いで倉庫を飛び出すと、虹色の光を追いかけました。
さて、飛び出した虹色の光で村は大騒ぎ。
初めに光を見つけた、お百姓のシモンさんは、シャツを虹色に、
教会のシスター・ジューンはエプロンを虹色に、
学者のマッケルさんはメガネを虹色に、
「こ、これは何だ!」
「お化けよ!お化けだわ!」
更には村長さんのお家の屋根が虹色に、
山積みジャガイモが虹色に、
並べられたワインも虹色に、
とにかく村中のものが虹色に、ピカピカ、ピカピカ光りだしたものですから。
「ぬぬっ、これは!」
パーモ先生は長いおひげをピカピカ光らせながら(恥ずかしくって、顔は真っ赤です)、
すぐに気付いて、言いました。
「さては、マカオリじゃな?」
そして先生は、しわしわの手をひらりと動かし、大きな声で叫びました。
『レムネ、ウモ、ヨジニ、ウトガリア!』
そのとたん、ぴたっ!と光がやみました。
村の人たちは、ああ良かった、と言いながら、皆でほっとしています。
「これ、マカオリ!!」
パーモ先生は、お家のかげに隠れて様子を見ていたマカオリをつかまえると、
こわーい顔で言いました。
「お前、またイタズラをしたな?」
マカオリもラゴもしょんぼりしています。
せっかく、お祭りをもっともっと楽しくしようとしたのに。
今日は、イタズラをしたかったわけではないのです。
「ちがうの!だって、だって、ケーキのイチゴが虹色になったらキレイだなって思って!」
「そうだよそうだよ!マカオリは、みんなを楽しませようとしたんだ!」
いっしょうけんめい言っていると、なみだが出てきました。
「ごめんなさ〜い!」
「うえーん!」
あらあら、マカオリもラゴも、泣き出してしまいました。
「そうだったのか・・・」
パーモ先生には分かりました。
(きっと、魔法の言葉を間違えたのじゃな)
「マカオリ。お前、『ニジ』の魔法を使おうとしたのじゃろう?」
マカオリは、泣きながらこっくりとうなづきました。
「なら、魔法の言葉をまちがえたのじゃな」
マカオリは、目をぱちくりさせました。
「え?だって、『レコヘキサ・ナハノジニ!』って・・・」
パーモ先生は大笑い!
そして、マカオリの頭をなでながら、やさしい声で言いました。
「『レコホキサ・ナハノジニ』じゃよ。そらっ!」
パーモ先生が正しい魔法を使うと、広場のテーブルの上にあった、大きなイチゴケーキに向かって、
先生の指先から、ビューン!と虹色の光が飛んでいきました。
すると、ケーキの上のたくさんのイチゴが、ピカピカ、ピカピカ、虹色に光りだしたのです!
(みなさんの知っている、クリスマスツリーのような感じでしょうか?)
「わあっ!すごーい!!」
「スゴーイ!!」
マカオリもラゴも大喜び。
なみだなんて、どこかにいってしまったようです。
「さあ、お祭りを始めよう!」
村の誰かが言うと、みんな楽しそうに笑いながら、広場へ歩き出しました。
「ねぇ、マカオリ!ぼくたちも早く行こうよ!」
ラゴが肩の上でぴょんぴょん跳ねています。
「うん!イチゴケーキ、食べに行こう!」
そう言うと、マカオリは、元気良く走り出しました。
よかったね、マカオリ!
おしまい