ココレの村は、とても小さな村。
村のだれもがお友達で、どの家も同じ形をしています。
だから、お昼ごはんの時間になって、まちがってだれかのおうちに入ってしまっても。
一緒にごはんを食べてしまいます。
そのぐらい、みんなが仲良しなのでした。

「さて、マカオリ。今日は、本をたくさん読むぞ」
ぽかぽかとお日様があたたかい午後、
パーモ先生が、長いおひげをしごきながら、きむずかしげな顔で、言いました。
「えー!?こんなにいいお天気なのに、お家の中でお勉強ー?」
「そんなぁ。ぼく、お外に出たいよぉ」
マカオリとラゴは、2人そろってイヤな顔。
こんなに晴れた、青空のきれいな日に、おうちの中で本とにらめっこなんて、
ちっとも楽しくありません。
「まぁ、そう言うな。きっとすぐに夢中になるぞ」
そんな2人に、パーモ先生はにっこり笑いかけると、
杖をひとふりして、たくさんの本を取り出しました。

『フォロイの巨人退治』

『大きな赤かぶ』
『くらやみにブタの声』
『ぴええる、大海原を行く』
『花咲く都ウーレイ』




何だか変なタイトルの本から、ワクワクするようなものまで、本当にたくさんの本の山!
でも、どれも分厚くて、1冊読むだけでも大変そうです。
マカオリはちょっと泣きそうになりました。
「先生!私、1日でこんなにたくさん読めません!」
でも、パーモ先生は首をふりました。
「なぁーに、心配いらんよ。どれ、ためしに好きな本を開いてみなさい」
仕方なく、マカオリは、赤い表紙の本を開いてみました。

すると、どうでしょう!
あっと言う間に、パーモ先生のお部屋は消えてしまい、
マカオリとラゴの目の前には、真っ黒な口を開けるどうくつが現れました!
「あれ?どうしてどうして?」
びっくりして目をキョロキョロさせるマカオリの後ろから、
馬の足音が聞こえます。
「マカオリ、マカオリ!誰か来たよ!」
ラゴがぼうしをひっぱるので、マカオリがふりかえると、
そこには若い男の人が立っていました。

「こんにちは、かわいらしい魔法使いさん!」
明るい茶色の髪に、すずしげな目もと。
勇ましいよろいを着て、腰に剣を下げたその姿は、
まるで物語の中の騎士のようです。
「こ、こんにちは…」
マカオリがドキドキして何も言えないでいると、その人は優しく笑って言いました。
「私の名前はフォロイ。このどうくつに住む、巨人を退治しにきたのです」
どこかで聞いたことのある名前に、どこかで聞いたことのあるお話です。
「ねぇねぇ、マカオリ。フォロイって、たしか・・・」
ラゴが何かを言いかけて、マカオリははっとしました。
「そうだ!私が開いた本!」
そうです。マカオリが開いた本は『フォロイの巨人退治』でした。
「わかった!これが、先生の言っていたことなのね!」
マカオリはにっこりすると、フォロイに言いました。
「こんにちは、騎士様!私、マカオリって言います!」
「ぼくはラゴです!ドラゴンなんだよ!」
元気よくあいさつする2人に、騎士フォロイは真剣な顔で言いました。
「マカオリさんに、ラゴくん。さっきも言った通り、
ここには悪い巨人が住んでいるのです。
あぶないから、早くお家に帰った方がいいですよ」
マカオリは首をふりました。
だって、ここは物語の中。
マカオリのお家は、ここにはありません。
それに…?

「騎士様、わたし、先生に言いつかって、あなたをお助けするために、ここへ来たんです!」
マカオリは、すっかり物語のヒロインになりきっていました。
「ちょっと、マカオリ!そんなこと言っちゃって、大丈夫なの!?」
ラゴがあわてて言います。
「平気よ!だって、ここは本の世界なんだもん!
やろうと思えばできないことなんて、あるわけないじゃない!」
きっぱりと言って、ぱっちりとウィンクするマカオリに、
ラゴの顔が明るくなりました。
「そうだね!さすがはマカオリ!」
「でしょ〜!」
楽しそうな2人の様子に、フォロイも元気付けられたようです。
「そうですか。それはありがたい!では、いっしょに行きましょう!」

3人がうす暗いどうくつに入ると、
とおくの方からごーお!ごーお!という、すごいイビキが聞こえてきました。
「どうやら巨人は眠っているようですね」
フォロイがないしょ話のような声で言います。
「それじゃあ、今がチャンスね!騎士様、どうやってやっつけるんですか?」
マカオリがたずねると、フォロイが、
「マカオリさん、大きな音を出す魔法って、使えますか?」
と言うので、マカオリは困ってしまいました。
なぜなら、マカオリはまだ、道具を用意しないと、魔法が使えないのです。
ところが。
(…あれ?)
ふいっと、頭の中に、魔法の言葉が浮かんできました。
「はい!まかせてください!」
そう言うと、マカオリは右手を上げて大きな声でさけびました。
「トオ・ナキオオ・ナイラキ・ガタナア!!」

すると!
『ビシャーン★バシャーン★ズドーン★』
と、カミナリの音がどうくつの中にこだましたのです!
「きゃああ〜!」
「うわーん!カミナリきらいー!」
「す、すごい魔法ですね!」
マカオリもラゴもフォロイもびっくりです。
そして…
「うお〜ん!カミナリはいやじゃ〜!」
という大声と共に、どすんどすんと足音が聞こえて、
巨人が出てきました。
「出たな、巨人め!!」
フォロイが勇ましく剣をかまえます。
「ぬぬ〜?何だお前たちは〜!?」
ねぼけまなこの巨人は、何だかあんまり迫力がありません。
「我が名はフォロイ!お前を退治しにきた騎士だ!」
「私はマカオリ!魔法使いよ!」
「ぼくはラゴ!ドラゴンだぞ!」
それぞれが大きな声で名のりあげると、巨人は目をぱちぱちさせました。
「そうかそうか〜、俺はガーフ、巨人だ〜!」
巨人のガーフは、フォロイの話を聞いてなかったみたいです。
「ところでお前、剣なんてかまえて何をする気だ〜?」
やっぱり、わかっていません。
ラゴが言いました。
「ねぇねぇマカオリ、この巨人さん、本当に悪い人なのかな?」
マカオリも、そう思っていました。
「何だか、悪いこと、できなさそう…」
そこでマカオリは、フォロイに聞きました。
「騎士様、この人、何をやったんですか?」
するとフォロイは、まじめな顔で答えました。
「この巨人は、王様の別荘を食べてしまったんです」

「王様の、別荘を、食べた?」
マカオリはびっくりしました。
お家を食べてしまうって、どういう事なんでしょう。
「このどうくつの近くには、王様が50歳のお誕生日にお妃様から頂いた、
お菓子の家があったのです。
しかし1週間前、この巨人がそれを全部食べてしまったのですよ!」
フォロイの言葉に、巨人ガーフはぽん、と手を打って言いました。
「お〜、思い出したぞ〜!あれはうまかったなぁ〜」
その顔は、本当に幸せそうです。
それを見て、マカオリは思いました。
(きっと、この人、本当に悪い人じゃないんだ。
私だって、目の前にお菓子の家があったら、絶対食べちゃうもん!
全部は食べきれないと思うけど…)
そこでマカオリはフォロイに言いました。
「じゃあ、王様の別荘が元通りになれば、巨人さんを退治しなくてもいいんですか?」
「え?ええ、それは、まあ…」
マカオリの突然の言葉に、フォロイは不思議そうな顔をしています。
「じゃあ、私が別荘を元通りにしてあげます!」
そう言うと、マカオリはいっしょうけんめい考えました。
(お菓子の家を作る魔法は…)
またまた、ふいっと頭の中に言葉が浮かんできました。
「騎士様!私を、その別荘の場所まで連れて行ってください!
ガーフさん、あなたも来るの!」
そして、マカオリは元気よく外に出て行きました。

「ここです」
フォロイが連れてきてくれた場所は、花畑に囲まれたとてもすてきな所でした。
「マカオリ、お菓子の家、作れるの!?」
ラゴが、目をキラキラさせています。
「まっかせて!いくよー!」
マカオリは、大きく息を吸い込みました。
「エイノシカオ・イシイオ・テクマア・イコテデ!」

マカオリの呪文にのって、
まずは床に四角いビスケットがしきつめられ、
次に柱のチョコバーが立ち、

その柱にクッキーでできたハト時計がかかり、
ソファの形のシフォンケーキが2つ、
まん中にはチョコマーブルのパウンドケーキでできたテーブル、
壁はクリームたっぷりのショートケーキ、
1番高い窓には色とりどりのキャンディーでできたステンドグラスに、
さっくりしたパイの屋根がかぶさりました。
最後に玄関のランプ代わりの真っ赤なイチゴをくっつけて、おしまい!

「おお!これは!」
「すごーい!おいしそー!」
「おお〜!こりゃまたうまそうだ〜!」
騎士とドラゴンと巨人が、みんなそろって大喜びです。
「へっへーん!すごいでしょお〜!」
マカオリは得意げに胸をはります。
「いい?ガーフさん。このお家はね、あなたのじゃないの。
だから、勝手に食べたりしちゃ、だめなんだよ!」
おやおや、マカオリったら、まるでお母さんみたいです。
「そうか〜。そりゃ悪い事をしたな〜」
巨人のガーフはもうしわけなさそうに言いました。
「いえ、それがわかったなら良いでしょう!
マカオリさん、本当にありがとう!
あなたはすばらしい魔法使いだ!」
フォロイも嬉しそうです。
「やったね、マカオリ!」
ラゴがぼうしの上でぴょんぴょんはねています。
「うん!やったね!」
マカオリは、もう1度、にっこりと笑いました。

と、その時、目の前に山積みの本があらわれました。
「あ!」
気が付いたら、ここはパーモ先生のお家。
「どうじゃ?楽しかったかな?」
マカオリの横で、パーモ先生が言いました。
「もう、お話終わっちゃったんだ…」
マカオリもラゴも、ちょっと残念そう。
「ねえねえ先生、私、本の中では、お道具を使わなくても魔法が使えたの!」
「そうだよ!ぼくも見たもん!」
大騒ぎする2人の頭をやさしくなでて、パーモ先生は言いました。
「これからもいっしょうけんめい魔法の勉強をやれば、
本当に道具なしで魔法が使えるようになるぞ」
それを聞いたマカオリは大喜び!
「よーし!次は何の本にしようかなー?」
まだまだ、マカオリの冒険は続きそうです。

おしまい


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