1学期の終業式が終わった帰り道。
友人その1だった人から告白されたあたしは、とても驚いて。
でもその瞬間がとても幸せで、ああ、自分はこの人が好きだったんだ、って思ったので、
オーケイしました。
あたしは初めて『恋人』になりました。
そんなことがあってから半月。
8月の始めに、あたしの『彼』があたしの家に遊びに来たので、
1つ前のデートの時に約束していた場所へ、2人で行く事にしました。
途中、駅前の小さなコンビニエンス・ストアに立ち寄って、
1リットルのミネラルウォーターを、2人で買って。
あたし達は、あたしの家の屋根に昇りました。
がんがん、と暴力的に照りつけてくる太陽の真下。
「あっちー」
「あっちーねー」
あたし達はへらへら笑いながら、買ってきたミネラルウォーターを、トン、と2人の間に
置きました。
「でも夕方になったら涼しくなるよ」
「ん・・・分かった。その言葉を信じましょ」
彼はひゅう、と軽く口笛を吹いて、ミネラルウォーターのペットボトルに手を伸ばしました。
「それ、1口ずつ交代で飲むんだよ」
「分かってるって。まずは1口・・・」
ごくり、と美味しそうな音を立てる喉元に眼をやることなんて、じっと見つめるなんて、
今まで決してしなかったのに。
「何か、やらしいかも、あたし」
「え!?」
彼があまりに驚いたので、あたしの方が驚いちゃって。
「何でやらしいの?」
「別に・・・何でもないよ」
まさか男の子とこういう会話をする日がこようとは、自分でも信じられないのでした。
他愛も無い話で始まった2人の会話でしたが、
あたしが13口目のミネラルウォーターを口に運んだ時、突然彼が言ったのです。
「あのさ、聞きたかった事があるんだけど」
「何?」
「その・・・何で・・・好きだって言った時、即オッケーしてくれたの?」
「ええ?」
「いや、その、疑ってるとかそんなんじゃなくてさ。
ほんっと、ただ聞いてみたかっただけなんだけど」
「それは、好きだったからだよ?あたしの事好きだって言ってくれた時、
あたしも好きだーっ、て確信したから、かな?」
「ふーん・・・」
微妙な顔で彼が黙ってしまったので、あたしは1人で喋りつづけました。
「あのね、告白されるまでは自分でもよく分かんなかったんだ。
他の友達より好きかな?とは思ってたんだけど、でも確信は無かったんだ。
別に「彼の事考えると夜も眠れないの!」とかとは違うんだけどね、
考えたりもしたよ?あたしの事どう思ってるかなぁ、とか」
「ふぅん。それで?」
「うん・・・。どうせなら告白して欲しいなっ、て思ってた。
でも、自分が好きな人だったらさぁ、自分と恋人同士にならなくても、
別の形で幸せになるんだったら、そっちの方がいいなーって」
「そう・・・だったのか」
「うん」
それが素直な気持ちでした。
もしも、好きな人ができたら? →嬉しいです。
好きな人に、望む事は? →何時でも何処でも誰よりも何よりも幸せになって欲しいです。
「あたしの恋人になってくれる事が1番の幸せなら、凄く嬉しいなって思う。
天にも昇る気持ち、だよ、ホントに。
でも、もしそうじゃないのなら。
1番幸せになれる事をして欲しいと思うんだ。それがあたしにとっても1番いい」
誰かが凄く好きだ、と確信した瞬間というのは、世界一無欲な瞬間かもしれません。
でも同時に、世界一欲張りな瞬間だとも思うのです。
気が付くと、ミネラルウォーターは後1口分しか残っていませんでした。
そして、夕方になっていました。
「最後、どっちの分だっけ?」
自分の真っ正直な気持ちを口にしてしまって、何だか恥ずかしくなったあたしは、
誤魔化すように彼に尋ねました。
「お前にやる」
彼は彼で何事か考えている様子でそう言ったので、あたしは温い水を飲み干しました。
「・・・ぬるい・・・」
「そりゃそうだろ!」
当たり前の事が何故か笑いに繋がってしまうというのは、よくある事で。
彼は声を上げて笑いました。
「笑いすぎ〜」
でもあたしもスッキリして、笑いました。
「っはっはっは・・・はぁ。あのさ」
その時、一頻り笑った彼が、突然真顔になって、立ち上がりました。
「何?」
彼はあたしの眼を見て言いました。
「俺、今、自分、幸せ者だと思うよ」
次の瞬間あたしは、夕焼けが赤い色をしていて本当に良かった、と心から思ったのでした。
何故なら、多分あたしは、顔だけでなく首や肩まで真っ赤になってしまっていたでしょうから。
おしまい