ココレの村は、とても小さな村。
村のだれもがお友達で、どの家も同じ形をしています。
だから、お昼ごはんの時間になって、まちがってだれかのおうちに入ってしまっても。
一緒にごはんを食べてしまいます。
そのぐらい、みんなが仲良しなのでした。
ココレの村の夏は、楽しいことだらけです。
特に、子供達はみんな、夏が大好き。
川遊びに花火、虫取り、スイカわり、きもだめし。
他の季節にはない、特別な遊びがいっぱいいっぱいあります。
その夏も、終わりに近いある日のこと・・・。
今日はみんなで川遊びです。
大人たちがバーベキューの準備をしている間、子供達は川でおおはしゃぎ!
「リトイマ!それっ!」
「あっ、つめたい!やったな、ミイナ〜!」
「マカオリも、それっ!」
「きゃー!ミイナちゃん、つめたいよ〜!」
みんな、頭から足の先までびしょぬれ!
子供達に負けずに、太陽も元気いっぱい輝いています。
「みんな〜!そろそろごはんにしますよ〜!」
きゃあきゃあさわぐ子供達に、リトイマのお母さんが声をかけました。
「は〜い!」
さあ、楽しいお昼ご飯の時間です。
「でも、もうちょっとしたら、川遊びできなくなっちゃうよね」
くしにさしたお肉にかじりつきながら、リトイマがためいきをつきました。
「そうよね。寒くなったら川に入れなくなっちゃうもん!」
ミイナはプチトマトとにらめっこしながら、いいました。
「花火もできなくなっちゃうよねぇ」
ミイナはラゴにピーマンをあげながら、ぽつりといいました。
「あーあ!ず〜っと、ず〜っと、夏だったらいいのにな!」
そう言ったのは、雑貨屋さんの息子の、ノリノでした。
ノリノは、体が大きくて、力持ちで、外で遊ぶのが大好きな子なのです。
「ず〜っと、夏だったら??」
みんなの目が、ノリノを見つめます。
「うん!そうしたら、ずっと川で遊べるし、虫取りもできるし、スイカも食べられるし・・・」
ノリノはまっくろに日焼けした顔で笑いました。
たしかに、ずっと夏なら、いつまでも楽しい遊びができます。
リトイマも、ミイナも、マカオリも(もちろんラゴも)、それはすごくいい考えだと思いました。
「そうだわ!みんなで、神様においのりしましょうよ!
ず〜っと、ず〜っと、夏のまんまにしてくださいって!」
ミイナがぱちんと手をならして言いました。
「うん、そうしよう!」
みんなもだいさんせいです。
『かみさま、ず〜っと、ず〜っと、夏のまんまにしてください!』
何やら真剣な顔をして手を組んでいる子供達を、何も知らない大人達がにこにこしながら
見守っていました。
ところが・・・。
子供達のお願いを聞いていたのは、神様ではなく、何と悪魔だったのです!
「いひヒ、こりゃあおもしろい話を聞いたゾ」
悪魔はにやりと笑うと、おばさんからもらった黒いカサを開いて、言いました。
「秋さン、秋さン、ちょいとお聞きヨ、ココレの村の子供達ハ、あんたに来てほしくないんだってサ」
秋さんは、びっくりして言いました。
「おいおい、悪魔さん!あんた、何てことを言うの。あたしが行かなけりゃ、焼きいもが食べられないよ」
悪魔は焼きいもが大好物だったので、ちょっと迷いました。
でも、子供達を困らせてやろうと思ったので、黒いカサをくるくる回しながら、言いました。
「でモ、夏さんにず〜っといてほしいと言ってるヨ」
かわいそうに、秋さんはしょんぼりして、おうちに帰ってしまいました。
さて、それからしばらくたったある日の事。
村の大人達は、みんなで首をかしげます。
「はて、今年はなかなか秋が来ないねぇ」
悪魔が秋さんにおかしな事を言ったせいで、秋さんが来てくれないのです。
子供達は、大人達の様子を見て、だんだん怖くなってきてしまいました。
「ねぇ、もしかして、秋が来ないのはぼくたちのせいかな?」
リトイマがミイナにたずねました。
「ええ?でも・・・」
ミイナはこまって、マカオリを見つめました。
「そんなこと言ったってぇ・・・」
マカオリは、ノリノを見ました。
「もしかして、おれが変なこと言ったからかな・・・?」
ノリノは顔をくしゃくしゃにして、今にも泣き出しそうです。
「ちがうよ!ノリノのせいじゃないよ!」
「そうよそうよ!みんなでお祈りしたんだもん!」
「だいじょうぶだって!元気出して、ノリノ!」
リトイマとミイナとマカオリが、あわててなぐさめます。
その時でした。
「うわはははハ!そうダ、秋が来ないのハ、お前達のせいだゾ」
悪魔がニタニタ笑いながら、みんなの前にあらわれたのです!
「お前達ガ、ず〜っと夏のまんまがいいって言ったかラ、このおれさまが秋のやつにそう言ってやったんダ!」
それを聞いて、子供達はびっくり!
「やっぱり、あたしたちがいけないの・・・?」
ミイナはぶるぶる震えだしてしまいました。
「そうだヨ、かわいいお嬢ちゃン」
悪魔はものすごく楽しそうです。
すると、マカオリの帽子にのっかっていたラゴが、ぴょんっと悪魔の顔に張り付きました。
「うわッ、何をすル!!」
悪魔はあわてて頭をぶんぶん振ります。
それでもラゴは、しっかりと張り付いたまま、みんなに向かって言いました。
「みんな!それなら秋さんにあやまればいいんだよ!
ごめんなさいって言って、きちんとお迎えすればいいんだよ!
悪魔の言う事なんか、聞いたらだめだ!!」
そしてラゴは、小さな口からぼわっと火を吐き出しました。
(忘れてしまいそうですが、ラゴはドラゴンの子供なんです)
「うわーッ!やめロ!やめロ!」
悪魔は悲鳴をあげて、ラゴをつまむと、ぽいっと放り投げました。
「ああっ!ラゴ!!」
マカオリが叫びます。
リトイマも、ミイナも、ノリノも、空に向かって叫びました。
『秋さん、ひどいこと言って、ごめんなさい!お願いだから、ココレの村に来てください!!』
すると、どうでしょう!
さああっと涼しい風が吹いて、秋さんが飛んできてくれたのです!
「ありがとう、子供達!仲直りしよう!あたしはもう、平気だよ!!」
そう言って、秋さんは悪魔をつまみ上げると、えーい!と遠くへ吹き飛ばしてしまいました。
「わあっ、やったぁ!」
気持ち良い秋風に吹かれて、子供達は大喜び!
ラゴも元気良く、マカオリの帽子の上に戻ってきました。
「ほんとうに、ほんとうに、ごめんなさい、秋さん!」
「ず〜っと夏のまんまがいい、なんて、わがまま言っちゃって」
「秋にも、楽しい遊び、いっぱいあるのにね」
「焼きいも、食べられるしな」
子供達の心からの言葉に、秋さんはだいかんげき!
「気にしないでいいんだよ。あたしも、すねたりして、ごめんよ」
これでもう、安心です。
ココレの村にも、秋がやって来てくれるのです。
「さあみんな、おうちへお帰り!」
秋さんの涼しい風に背中をおされて、子供達は仲良くおうちへ帰ってゆくのでした。
おしまい