農夫ミラーズは友達の頼みを聞いて、ハロウィンの国を目指す。
腕に、小さなカボチャを抱えて。
『暦の靴』を履いて1歩ふみ出すと、見たこともない分かれ道に着いた。
目の前には、立て札。
「なになに…「左:夏 右:秋」?これはどういうことだろう。」
「むにゃにゃ!」
腕の中の小さなカボチャ、ハロウィンの国の赤ん坊がむずむずいっている。
ミラーズは慣れた手つきでそれをあやしてやる。
「何だか、まるっきり人間の子みたいだなぁ。よしよし、ランタン坊や。」
「むー。ふみぃ。」
彼にこの子を託した友達がこの子をそう呼んでいたので、同じように呼んでやると、
ランタン坊やは大人しくなった。
ミラーズは込み上げた愛しさに、思わずにっこりと微笑む。
「やっぱり、子供っていうのは、何でも可愛いものだなぁ。」
すると、うしろから声が聞こえた。
「ほんとうかい。こどもはなんでもかわいいのかい。」
ミラーズが振り向くと、1つ目の巨人が立っていた。
「や、や、こんにちは。」
よく磨いた石のように光る大きな目を見上げて、ミラーズは挨拶した。
「おれもこどもだけど、あんた、おれをかわいいっておもうかい。」
巨人はしゃがみこんで、真正面からミラーズを見つめる。
確かに、小山のような身体に不似合いな、高い声をしている。
熊か何かの皮を腰に巻いているだけのところをみると、少年のようだ。
「おれのとうちゃんは、あんたみたいなやつをまっぷたつにちぎっちゃうんだぜ。
それで、ばりばりとあたまからたべるんだぜ。
かあちゃんは、あんたみたいなやつをいしのナイフでていねいにきって、
おれにくわせてくれるんだ!」
1つ目巨人の少年は、にこにこと幸せそうな顔でいう。
「な、こわいだろ。おれだって、あんたくらいならぽかんとかるくたたいただけで、
あんたのあたまはつぶれちゃうぜ。」
ミラーズはじいっと少年を見つめた。
「な、な、こわいっていえよ!こどもだって、こわいんだぞ!」
1つ目巨人の少年は立ち上がると、ミラーズを見下ろした。
「さあ、こわいっていえ!」
ミラーズはちょっと考えた。
怖いといった方がいいのか、いけないのか。
正直なところ、この少年はそんなに怖くない。
けれど、嘘は吐いてないだろう。
きっとこの子にぽかんとやられたら、自分の頭はトマトのように潰れてしまう。
「ええと。怖いけど、かわいいと思うよ。」
結局、思った通りにいってみた。
巨人の少年は、大きな目をくるくると動かしている。
「こわいのに、かわいいっておもうのか?なんだそれ?」
ミラーズも目をくるくるしながらいってみた。
「ええと。確かに君は力が強そうだから、頭をぽかんとやられたら困る。
それで、怖いなあ、と思ったんだけれど、
君が父さんや母さんの話をしてくれた時、とても嬉しそうだったから、
可愛いなあ、と思ったよ。」
少年は不思議そうな顔をしていたが、
「ふーん。こわいけどかわいいのか。ならいい。」
勝手に納得してしまった。
「おまえ、どこにいくんだ。」
「ハロウィンの国だよ。」
気付けば夕日が背中を温めている。
ミラーズは立て札を指差して、1つ目の少年に尋ねた。
「どっちに行けばいいのかな?」
「かいてあるじゃないか。ハロウィンのくには、あきのほうだよ。」
「ああ、そういうことか。君は怖いし、かわいいし、物知りなんだなぁ。」
ミラーズの一言に、少年は得意げに笑った。
「うわあ、おれってすごいな。とうちゃんとかあちゃんにおしえてあげなきゃ。」
大きな足で、一目散に駆けてゆく。
「やれやれ、ちょっとヒヤヒヤしたよ。けど、素直な子だったな。」
農夫ミラーズはふう、と一息ついて、右の道へとふみ出した。
またまた続く…かも。