農夫ミラーズの朝は早い。
「今日はいい天気だなぁ。」
収穫祭を2週間後に控えたこの日、空は見たことがないくらい澄み渡っていた。
「カボチャの収穫も、はかどりそうだ。」
ミラーズはいつものように、畑への道をゆっくりゆっくり歩き出した。
ミラーズの畑でとれるカボチャは、隣の畑のより大きくて、向かいの畑より色が薄い。
どれもとてもツヤがあって、収穫祭の飾りにはなくてはならないものだった。
収穫祭の最中に開かれる品評会で優勝すれば、お城に献上することができるのだが、
ミラーズはまだ3位までしかなったことがなかった。
「今年こそは、優勝するぞ。」
太陽も、土も、水も、今年は今までで最高だった。
だから、きっと最高のカボチャができているはずだ。
「ミラーズ、ミラーズ、まっておくれよ!」
はりきるミラーズを、小さな声が呼び止める。
「ん、どうした。ジョリー・ブラウニー。」
振り向いて、足元を見つめるミラーズの視線の先には、
小さな小さな男が立っていた。
その小さな小さなジョリー・ブラウニーは、古い家に住まう精霊だった。
彼らが家主に姿を見せることは滅多にないが、
好奇心旺盛なジョリー・ブラウニーは、進んでミラーズに挨拶してきたのだ。
自分の家にブラウニーがいることを喜んだミラーズは、ジョリー・ブラウニーに友好的に接し、
その結果2人はいい同居人になった。
「今日はこの俺も畑へ連れて行っておくれよ!あんたに頼みたいことがあるんだ。」
いいながらジョリー・ブラウニーはミラーズの足を登り、腹を登り、帽子の上に座り込んだ。
「それはいいが、お前さんの仕事は家の中にあるんじゃないのか。」
ミラーズは歩きながらいった。
「今日は特別さ。家の仕事は女房と息子と娘がやっておいてくれるよ。」
ミラーズはまだ、ジョリー・ブラウニーの家族には会ったことがなかった。
太陽に温められた畑からは、土と緑の匂いがする。
「おーい!坊や、坊や、ランタン坊や!」
ジョリー・ブラウニーが大きな声(といっても、普通の人間の話し声より小さい)を出すと、
畑のまんなかから、何だかよくわからない声が聞こえた。
「おや、僕の畑に誰かいるのかな。」
ミラーズがゆっくりと畑の中を歩いていくと、声の主の姿が見えた。
「おお、ランタン坊や!大きくなったな!」
ジョリー・ブラウニーが帽子の上から降りてきて、声の主に駆け寄る。
それは、小さな小さなカボチャだった。
ただし、まだ収穫祭ではないというのに、顔がついたカボチャだった。
「ぶー!にゃー!」
カボチャの坊やはまだ本当に小さな赤ん坊らしく、何だか訳のわからないことをいっている。
ジョリー・ブラウニーは背伸びして(彼は生まれたてのカボチャよりずっと小さかったので)坊やを撫でてやると、
ミラーズにいった。
「ミラーズ。俺の友達。この子はハロウィンの国のカボチャなんだ。
去年、小悪魔がハロウィンの国から種を盗み出し、この畑に落としていったのさ。
この子の親や兄弟が、きっと心配している。
どうか、この子をハロウィンの国へ連れて行ってやってくれないか?」
「それはいいけど、ハロウィンの国へはどうやっていけばいいんだい。」
ミラーズはむにゃむにゃいっているカボチャの赤ん坊に微笑みかけ、
人間の子にするようにやさしく抱き上げてやりながら尋ねた。
「精霊の宝『暦の靴』を貸してやる。それを履いていけば、ハロウィンの国へ行けるよ。
あんたがいない間、畑は友達の精霊達に頼んでおく。
土はノームが、水はウンディーネが、風はシルフが、光はウィスプが、面倒をみてくれる。
もちろん、俺も手伝うよ。
だから、どうか頼まれてくれないか。」
ジョリー・ブラウニーは手を合わせた。
ミラーズは手の中の小さなカボチャを見つめ、友達に片目をつぶった。
「ああわかった。それじゃあ、早速いくとするか。」
かくして農夫ミラーズは、ハロウィンの国へ向かうことになった。
手の中に、小さなカボチャの赤ん坊を抱えて。
続く…かも?