1人で逝くのは寂しいけれど、
愛しい人達に悲しい思いをさせたくなくて、
それでも自分を焼いてその骨を埋めてくれる人というのは必要だし、
誰にも知られずに死にたいと思いながら同じくらい誰かに泣いて欲しいとも思う。
人は最期までひとりじゃ生きられない。本当に。
―2つの葬列―
その日、いつもよりも早い時間に帰宅しようとしたら、
道の反対側を青い喪服の人々が列を成して歩いていた。
あの人達は、死者を見送るのが仕事なんだ。
お互いの顔も知らず、素性も知らず、もちろん名前だって知らない。
もちろん、自分が見送る死者のことも知らない。
いつ、どこで、どうやって死んだ誰なのか。
何も知らない。
だから、悲しい顔、泣き顔なんかではなくて、
何だかぼうっとしているだろう。
各々考えているんだ。
…生前はどんな人だったのか。
…何か遺して逝っただろうか。
…朝御飯を食べてくればよかった。
…うちの娘は学校で元気にやってるかしら。
…花が枯れてる。
…今日は肌寒いな。
時々、涙を流している人がいる。
死の気配に中てられて、涙を堪えきれない人が。
何が悲しいのかもわからずに。
思い出の無い場所。
足早にそこを過ぎると、今度は黒い葬列に出会った。
沈んだ顔。涙。
去り行く命が惜しまれている。
家族、友達、同僚。
「最期は穏やかだったそうですね。」
「せめてもの救いというべきでしょうか。」
「優しい人だった…まさかこんなに突然お別れしなければならないなんて。」
「できることがあったら、何でもいってください。」
「お礼を一言いいたいのです。」
「今までありがとう。どうぞ安らかに。」
思い出に浸かる場所。
青と黒、どちらに見送って欲しいか、考えてみたけれど、
それがとても無意味だってことに気付いてしまった。
葬式も、墓も、全ては生き残った人々のためのもので、
見送られる私は何がどうだって何もわかりはしないのだから。
了