「ね、ジャックってさ、私の格好のこと…何もいわないよね。」

ボリュームのある金髪とその上の黒い髪飾りを揺らしながら、セティアが唐突に言葉を発する。
「…?」
オレの名前、フレイドっていうんだけど、という訂正は、もうしないことにした。
そして、どうしてジャックなのかと聞いてみようと思ったけど、まだ聞いてない。
「だってさ、どこに行ってもまず絶対にこの服の話題になるのよ?
8割の人は「すごい格好」っていうけど、
褒められることも結構あるんだから!」
軽やかな足取りで僧侶は剣士の前に回りこみ、ほっそりした腰に両手を当てた。

「ね、何か、感想ってないの?」

セティアが通ると街の人はみんな振り向いて、彼女を見ていた。
洋服のことについて、話している人も確かにいた。
だけど、そんなの彼女は慣れっこだったみたいだったし、
自分が何かいう必要もないだろうと思っていたのだ。

「ちょっとぉ、聞いてるの、ジャック?」

フレイドは黙ったまま、視線を横にずらした。
何ていおうか、言葉を探してているのだけれど、セティアは待ってくれない。

「あのね、別に「変」とか「派手!」とか、そう思ったならその通りいっていいんだよ。
私、別に褒め言葉だけ聞きたい訳じゃないし。
個性的な格好って、わかってて着てるんだもの。
人それぞれ、センスってあるでしょ。それが合う人の方が、少ないんだから。」

よどみなく言葉を紡ぎ出しながら、膝頭まで落ちたソックスを直す。
太腿の真ん中くらいまである、そんなに長い靴下を、フレイドは生まれて初めて見た。

「…え、と、」
嘘っぽい咳払いをして、意味のない前置きをして、セティアを真正面から見つめる。
大きな黒い目。プラチナブロンドと対照的で、とても強い目だ。

「ん?何?」

その星のような眼差しを受け止め切れなくて、少年はもう1度目を逸らしたが、
心を込めてぽつんと呟いた。

「…よく似合ってる。」

剣によって負った傷は癒せるが、言葉によって負った傷は癒せない。
いつか父がいっていた。
だから、どんなにくだらないことでも、些細なことでも、例えばそれが悪口じゃなくても、
誰かに何かをいう時は、その誰かとその人に向ける言葉を大切に大切にしなくちゃいけないんだと。

「…そう?ふふっ、ありがと!」

セティアが回る。花びらのように重なったスカートが一緒に踊る。
彼女は、少し笑っていた。

「ジャックみたいに、あんまりしゃべらない人から褒めてもらうと、
何かすっごく嬉しいんだよね。
あ、でも、お世辞はいってもわかるからね!
これからも、ちゃ〜んと、思った通りのことをいうのよ!」

小さな手がスカートを押さえると、ぽふ、という柔らかい音がした。

「さ、行こ!ジャック!」
「うん。」

ブレイゲ山の頂は、もう間もなくだった。

おしまい

あとがき的な…


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