「ちょっとまったあ!」
廊下に響き渡る甲高い声、言わずと知れたジル川原。
「今年のチョコキングは、僕よ」
両手を腰に当てての仁王立ち。
本田は、眉間にしわを寄せた。
「川原くんは、海堂くんの半分も貰っていないだろう?」
「チッチッチツ……」
ジルは人差し指を左右に振った。
「横山、あれを」
「はいっ」
横山が抱えてきた紙袋には、チョコレートの山。
「今年は、予約受付と郵送対応も解禁したの。昨日までに、こんなに集まっていたのよ」
鼻高々のジル。
「ってか、卑怯じゃん。自分で買っても、わかんねえし」
チョコキングになど全く固執していなかったのだが、ジルが言うので、言い返した海堂。
「なんですってええ!この僕が、自分でチョコレート買うわけないでしょおっ!!!」
目を吊り上げるジル。
「お前じゃなくても、母親とかいるじゃねえか」
自分ちの麻里絵を思い出して、またつい言い返す。
ジルの顔がギクリとした。
自分のところのお母様に限って…….
(ありえる……)
「横山っ!」
「は、はい?」
「郵送で来たチョコレートの消印を調べなさいっ」
「紅葉丘です」
即答。
「な、何で、すくわかるのよっ!」
「だって、まとめて郵便局のおじさんが持って来てくれて……」
投函された時からまとめられていたという言葉に、ジルはフラリとした。
紅葉丘は、ジルの住んでいる町だ。
「お母様ったら……」
フラフラとジルは立ち去った。
お取り巻きが慌てて後を追う。
そこに、万太郎が駆けて来た。
「高遠先輩っ」
おかっぱをなびかせて手にはリボンのかかったチョコレート。
「僕も、高遠先輩に一票投票させてくださいっ」
いつの間に、投票になったんだ。
「いや、一個増えても変わらないぞ」
生徒会長の言葉に、万太郎は五月人形のような凛々しい眉をキッと上げ叫んだ。
「数の問題じゃありませんっ!愛の深さですっ!!」
「あーいー??」
その言葉をスルーできる海堂ではない。
「喧嘩売ってんなら、高く買うぜっ!」
「やめろ、海堂っ!」
高遠が、羽交い絞めにして止める。
「高遠先輩。僕の気持ちです」
「離せ、高遠、こいつを殴らせろっ!」
「頼むから……二人とも……」

そして、都立和亀高校のバレンタインディは、何の甘い話題もなく終わった。





完  バッドエンディング?(笑)

ご挨拶