「それ……どういう意味だよ……」

海堂は『らしくなく』ポツリと呟いてうつむいた。


『海堂から貰おうなんて、思ってなかったし……』


(それは、別に俺からのチョコレートなんて期待していなかったってことなのか……)
事実、持って来ていないだけに、海堂は悲しかった。
自分が、気が利かなくて、それは普段からずっとそうで、だから高遠は期待もしていなかったんだというのが、寂しかった。
「ごめん……俺……」
海堂は教室に入らずに屋上へと向かった。突然鼻の奥が痛くなったから、人のいないところに行きたかった。

「待てよ、海堂」
高遠が後を追ってくる。
誰もいない屋上に、二人向き合って見つめ合った。
「俺……」
海堂が口を開いた。
「いっつも、お前から貰ってばっかりで……こういう時だって、どうしていいかわかんねえんだ」
「海堂」
「昨日、麻里絵がチョコ買って来てくれたんだ。お前に持っていけって……」
海堂の綺麗な顔が僅かに歪んだ。
「俺……いらねえって、思った……関係ねえって……」
高遠の制服をギュッと掴む。
「でも、こんな気持ちになるくらいなら、持ってくりゃ良かった」
「海堂っ」
高遠は胸が詰まって、海堂を抱きしめた。
髪に顔を埋めて囁く。
「馬鹿だな。そんなもん、持って来なくっても」
「高遠……」
「今のお前だけで……」
抱きしめる腕に力を込めて
「チョコレート百個分だよ」
高遠はうっとりと呟いた。

「んっ、ん……」
唇が重なり、互いの舌が絡み合い、角度を変えては口腔を犯しあう。次第に身体の中心に熱が溜まる。
「ふ……あ……たかと、っ」
高遠の制服を握り締めた海堂が、我慢できないように下半身を押し付けてくる。
「ここじゃ……」
授業時間中の二月の屋上には他に誰も来るはずも無かったが、それでも高遠は理性で海堂を押しとどめた。
「やめんなよ……」
海堂が潤んだ瞳で、高遠を睨む。
「さっき、高遠、言ったじゃねえか……」
「え?」
「今の俺が、チョコ百個分だって……」
唇を寄せて甘く囁く。
「ちゃんと食べろよ」

その言葉にノックアウトされた高遠は、理性を手放すことにした。






ご挨拶