「それ、どういう意味だよ」

海堂の顔が険悪になった。
「お前、さっき、好きなヤツからは貰いたいって言ったじゃねえかっ」
いや、そんな風には言っていない。しかし、海堂はそう受け取っていたのだからしかたない。
「海堂?」
「何だよ、川原からはホイホイ貰いやがって」
「ホ?」
高遠、焦る。
「ホイホイって……そんな……」
「もういいっ!」
自分がチョコレートを持ってこなかったことへの八つ当たり。キレた海堂は高遠をおいて教室に入っていった。
「海堂……」

休み時間になっても、海堂の機嫌は直っていない。
いや、直ってないというより、考えれば考えるほどイライラしてくる。
(ちくしょう、麻里絵のヤツ。あんとき、もっと強く俺に言えば良かったんだよっ)
母親麻里絵まで持ち出してきた。

「海堂……ちょっと」
「あ?」
困った顔の、それでも真剣な目をした高遠が立っている。
「ちょっと、付き合えよ」
海堂を立たせて、屋上に連れて行く。
「なんだよっ」
ちょっと気まずくて、海堂は赤い顔。
寒風吹く二月の屋上には、誰もいなかった。
前を歩いていた高遠は、海堂に振り向くと唐突に言った。
「俺たち、チョコなんかいらないだろ?」
「え……」
海堂、思わず高遠の顔をじっと見た。

「チョコレート渡して気持ち伝えるって……俺たち、そんなことする必要あるかよ」
珍しく厳しい声の高遠に、海堂は心臓の鼓動が早くなった。
「だっ、て……」
「チョコなんか渡さなくたって……俺が、一番好きなのは、海堂だ」
高遠の顔がかっと赤くなる。
「か、海堂だって……」
そうじゃないのか、と言う語尾は急に恥ずかしそうに小さくなっていった。
「高遠っ」
海堂は、高遠に飛びついた。
「俺、俺もっ」
突然、明るく元気になる海堂、瞳キラキラで、見えない尻尾がブンブン振られている。
シャイな高遠の、滅多に聞けないような言葉が嬉しい。
「俺も、チョコレートなんかなくっても、高遠が一番好きだっ」
「海堂……」
海堂を胸で受け止めて、高遠は微笑んだ。
二人同時に唇が寄せられ、そして、しっとりと重なった。

「高遠、愛してる」
「うん……だから、俺たちにはチョコはいらないよ」
「来年も?」
「ずっと……」
「そっか……」

幼稚園の時にチョコレートを食べ過ぎて鼻血を出して以来、高遠がチョコレートを苦手としていたという事実を海堂が知るのは、次の日のことである。






ご挨拶