乗馬部を選んだのは、入学式の朝の出来事が理由だった。 「危ないっ!!暴れ馬だっ!!」 ものすごい声に振り返ると、カムイ外伝にでも出てきそうなデッカイ狂った黒馬が、口から泡を吹きながら、俺に突進してきた。 (蹴り殺されるっ!) 前途洋々たる入学式当日に命を落とす十五歳。 我が身の不幸を呪いながら、俺は目をつぶった。 けれども、俺は狂馬に蹴られることもなく、騒ぎは一瞬にして治まった。 目を開けた俺の前に、この世のものとは思えない綺麗な少年が立っていた。 さっきまで暴れていた馬が、その隣で大人しく鼻面を寄せている。 「大丈夫?」 「君は?」 「ここの生徒だよ。あ、それとも名前をきいている?」 小首を傾げたその少年の名前は、駿と言った。 俺と同じ、ときめき学園の一年生。 その彼が乗馬部に入ったと聞いて、俺は迷わず乗馬部を選んだのだ。 「おいで、サクチード」 駿はあの入学式の暴れ馬に勝手に名前を付けて可愛がっていた。 乗馬部の先輩達も、それについて文句は言わなかった。 なにしろ、あの暴れ馬を抑えることができたのは、この駿だけなのだ。 「駿、すごいな」 馬の言葉がわかると言う駿に、俺は心から感嘆の声をあげた。 「そんな、大したことじゃないよ」 駿は、その白い頬に朱を散らして長い睫毛を伏せた。 そして、ふっと宙を見上げて瞳を輝かせた。 「ねえ、XX、僕には夢があるんだ」 「夢?」 「大きな大会にサクチードと一緒に出て、そこでスカウトされて、ダービーにでるの」 「………………」 俺は、愕然とした。おそるおそる口を開いて、 「ダービーに出たかったらときめき学園に入学している場合じゃないだろう?競馬学校を出て、まず、騎手にならないと。それより、サクチードっていくつだよ?たしか十歳とか言ってなかったか?ダービーは三歳しかでれねえぞ。っていうか、大体、ダービーってスカウトされて出るもんじゃねえし」 おそるおそるの割には、一気に言うと、駿は大きな瞳を丸くした。 「うそお?」 馬のことには天才でも、その他のことはてんで知らない―――そんな駿に俺は心を奪われてしまった。 続く |