学年代表リレーは、この体育大会の華だ。
それに出るというので、俺のところにもぞくぞくと応援の声が集まっている。
同じ白組の駿が、少女めいた顔をほころばせて言う。

「ちゃんと、追い切りやってきた?」



学年代表リレーは、各学年の代表選手を選んで一人200メートルずつ走るという競技だ。
俺たち白組の一年生代表は、俺と強。
この強ってヤツは俺と同じくらい足が速いから、最初のスタートで他の組に大きく差をつけることができそうだ。
と、思っていたのになんだか強の顔色がよくない。
「おい、大丈夫か?」
「ん? うん、大丈夫……」
強は、ちょっと顔を赤くした。
「どっか悪いのかよ?」
「いやっ、そうじゃなくて……昨日、ちょっと……」
「なんだよ?」
「春日が……俺は、やだって言ったんだけど……」
唇を尖らす顔を見て、これ以上は聞かないほうがいいぞと思った。
そこに、二年代表のラオ太先輩がやって来た。
「おい」
俺を見て、拳を突き出した。
いや、喧嘩を売っているわけじゃない。握った手の先には白い鉢巻があった。
「結べ」
「…………はい」
いつもラオ太先輩についているあの人は、どこに行ったんだ?
ラオ太先輩は、自分では靴も脱げない人だが、足は速い。この世のものとは思えない走り。
いや、この世界の人じゃないって噂もあるけど。
とにかく、俺はラオ太先輩の額に鉢巻をしめた。
そうこうしていると三年生の海堂先輩がやって来た。
「いいか、お前らぁ!出るからには絶対に勝つんだぞっ」
可愛い顔して、俺様だ。
そして、ふっと思った。
うちのリレーって、俺除いて、キャラかぶってねえか?




そしてリレーが始まった。
一年から二年にバトンが渡る。
ラオ太先輩がものすごいダッシュを見せて、突然、転んだ。
「あ!」
すぐに起き上がったが、そのままじっと足元を見ている。
しまった!!!
靴紐がほどけている。
自分で靴の脱げないラオ太先輩は、当然、自分で靴紐が結べない。
ここがギムナジウムだったら
「やあ、靴紐が結べなかったXXX」と苛められたことだろう。
ここではそんなイジメはないが、グラウンドの反対側で、海堂先輩は激怒している。
それを背の高い人がなだめている。

「ああ、終わったな」
俺は、遠い目をした。


続く