園芸部を選んだのは、理由があった。

入学式の次の日、学園内を探検している際に、温室を見つけた。
まだ固い薔薇の蕾の立ち並ぶ向こうに、息をのむほどの美少年が立っていた。
「だれ?」
その少年がゆっくり振り向いて、俺を見た。
「お、俺は……」
ドキドキしながら自己紹介すると、その少年は微笑んだ。
「そう、僕の名前は、ジル」
「ジル……」
お前、日本人じゃねえのか?
などと突っ込めない美貌の持ち主だ。
「僕の温室に、何か用?」
後から聞いたら、俺と同じ前日に入学したばかりの新入生が『僕の温室』もないもんだが、とにかくその時の俺は、薔薇の香の魔法にかかったのか、ジルに一目惚れしてしまっていた。
そう、こんな性格だとは知らずに。

「ああっ、もう、もうっ!爪の間に土が入ったあっ!」
「だから、軍手をしなよ」
「嫌よっ、そんなダサいのっ。どうしても僕に軍手をさせたかったら、エルメスかシャネルの軍手を持ってきてちょうだいっっ!!」
無いって。たぶん。



続く