「ええっと、何?」
俺は、封筒を開いて目をむいた。
封筒の中から出てきた紙に書かれていたのは

『産休代用講師西条先生愛用のキティちゃんの交換日記帳』

こんなもの、借りられるのか?
っていうか、そんなもの、本当にあるのか?
とりあえず、生活科に走った。西条先生は、体育大会当日というのに、何故か調理実習の準備中だ。
「おや、少年どうした?」
「実は……」
借り物競争で、先生のキティちゃんの交換日記帳を借りたいというと、先生は大袈裟に困った顔をした。
「Oh〜」
肩をすくめて見せて、
「残念だけれど、それは、いま僕のところには無いよ」
「どこにあるんですか?」
「交換日記の相手のところだね……取りに行くのなら、場所を教えてあげるよ」
「行きますっ」



そして、はるばる中央線に乗って、とあるマンションの前まで来た。
って、体育大会抜けて、何してんだ、俺。
4649号室を呼び出すと、
「はあい、どぉぞおvv」
可愛い声とともにオートロックのドアが開錠された。
部屋の前まで行くと、いきなりドアが開いて、ぐっと腕を引かれた。
「うあっ」
部屋に連れ込まれて、俺は仰け反った。
髯跡も青々とした、ボブサップなみにデカイ、でも小指は両方とも立てたオカマがいた。
「いらっしゃあい」
俺は身の危険を感じた。
「す、す、すみません。俺……」
「ジョージョーちゃんから、連絡は貰っていてよ」
「あっ、じゃあ……」
交換日記を渡してくれといおうとした俺の唇が、オカマの分厚いそれで塞がれた。
「んんん――――っ」
手足をバタバタさせたが、相手はボブサップだ。
散々口の中を蹂躙されて、頭の中が紫色に染まった頃、ようやく解放された。
「もう、ボウヤちゃんたら、可愛いっ」
逃げようとすると、再び羽交い絞め。

絶対絶命の大ピンチ。

そのとき窓ガラスが割れる音と共に、大音声が響いた。
「やめないか!ドドルゲ!!」
はっと見上げると、銀色のジャンプスーツに歌舞伎の隈取をしたような、顔はプラスチック製のコアラのような、何とも形容しがたい円谷プロ着ぐるみ風、が立っていた。
「ダロム・ネオ、見参!!」
誰だって??
驚く俺を尻目に、その隈取コアラは一人でしゃべりだした。

「げえ、コイツ、あの時のオカマだよ」
「どうりで、どこかで見たことのあるマンションだと思った」
「覚えてろよっ」
「自分だって、忘れていただろう?」

ちょっと見、怪しい腹話術のようだ。

「頭脳労働担当が、記憶係りもするんだろ?」
「嫌なことは、忘れる主義なんだ」
「俺は、嫌なことはやんない主義」
「とにかく、相手が悪い」
「そうだな」
「「じゃっ!!」」
最後の一言だけ綺麗にハモると、俺に向かって片手を上げて、そいつはまた窓から出て行った。

いや、ちょっと待て。一体なんなんだ。

なんでもない。
落ちは、ない。
ただ、ダロム・ネオとオカマを出したかっただけらしい。



続く