「踊りぃ?ふざけんなよ」 梅若先輩は、シャツの裾を捲り上げてへその横をボリボリと掻きながら、眉間にしわをよせた。 「俺は踊りといったら、東京音頭だって踊れねえんだぜ」 「でも、俺、梅若先輩と踊りたいんです」 俺が真剣な目で見つめると、梅若先輩は、頬を染めた。 「ま、まあ……そこまで言うんなら……」 「ありがとうございます」 俺は、梅若先輩の手をとって魅惑のタンゴショーの輪に加わった。 向かい合って見つめ合った瞬間、梅若先輩の身体が大きく揺らいだ。 「だっ、大丈夫ですか?」 思わず全身で支えると、 「ふっふっふっふ……」 梅若先輩が俺の腕の中で笑った。 「この日を……この時を……待っていた」 目が、目がすわっている!! 「私の名前はソラ。アルゼンチンの首都ブエノスアイレスの下町ラ・ボカに生まれた女」 いや、そんなこと聞いてないって!! 「この音楽が、私の情熱の血を滾らせるうううぅぅぅっ」 両手を天に向けて突き上げたかと思うと、ガシッと俺の腕を掴んだ。 そして、踊る。 踊る。 踊る。 踊る。 恐るべし、梅若先輩のイタコ体質。 俺は、三分の一の確率に当たってしまったようだった。 続く |