「えっ?」 俺の誘いに、駿は頬を染めた。 「僕、踊ったことないよ?」 「俺が、リードするから」 大丈夫だというと、駿は小さく頷いた。 俺は、心の中でガッツポーズだ。 俺は、駿の手をとって魅惑のタンゴショーの輪に加わった。 長い睫毛を震わせて、駿が俺を見つめる。 と、その時! 「危ないっ!!暴れ馬だっ!!」 サクチードが口から泡を吹いて、タンゴアルゼンチーノの輪に飛び込んで来た。 「サッチンっ」 駿が叫んだ。 ちなみに、サクチードは最近では、愛称『サクッチ』または『サッチン』と呼ばれている。 サクッチもどうかと思うが、サッチンというと、とある女性デュオの片割れの不幸そうな顔が浮かんでちょっぴり嫌だ。 とか、考えている余裕があるのも、俺の傍に駿がいたからだ。 駿は、あっという間に、暴れ馬のサクチードをなだめて落ち着かせると、俺のほうを見て困った顔で言った。 「サッチンが、やきもち妬いてるんだよ」 「は?」 気が付けば、情熱のリズムにのって駿とサクチードが踊っていた。 二人の――いや、一人と一頭の――息はピッタリだ。 あいつらは間違いなく、三分の二に入ったな。 俺は、遠い眼をした。 続く |