「踊ってくれませんか?英語で言うなら、
Shall We Dance?――だね?」
ジルは、優雅に微笑んだ。手を広げてクルリとまわって応えた。
「イエース、いいよ。アイアムダンス」
それじゃ、お前がダンスだよ。
と、突っ込みたかったけれど、我慢した。
なにしろジルは気分屋だから、ここで怒らせたらせっかく誘いを受けてくれたのが駄目になってしまう。
「ありがとう」
俺は、ジルの手をとって魅惑のタンゴショーの輪に加わろうとした。
「ちょっと待ってよっ」
ジルが柳眉を跳ね上げた。
「まさか、この僕に体操服でタンゴを踊れなんていわないよねっ」
腰に手を当てて、仁王立ち。
「えっ?だって、体操服じゃなかったら……何を?」
驚く俺を尻目に、ジルは教室に向かった。
携帯電話で何か話している。
「もしもし、ママン?僕のドレス何着かセバスチャンに持って来るように言って……ううん、タンゴなの……うん、ええっ?あれは嫌だよ。ううん、黒いと遠くから見たら地味だから赤とか、ピンクとか……うん、うん、そうなの、うん」

そうして、ジルの家から大量のドレスが届けられた頃には、フォークダンスの時間はとっくに終わっていた。

俺たちは、情熱的な恋にも落ちず、救急車の世話にもならなかった初のカップルだ――と呟いて気が付いた。
当たり前だ。踊ってないんだから。



続く