誰もいないと思って、ガラリと障子戸を開けると、珍しく又市が中にいると思ったら、

「あ、治平さん、お邪魔しています」

あろうことか、戯作者志望の若隠居まで、擦り切れた畳の上に、ちょこんと座っていた。

「何でェ…とんだ野暮天か」

治平が開けた戸に手をかけたまま入ろうか入るまいか逡巡していると、伸びかけた坊主頭をぼりぼりと掻きながら、

「手前ェの家だろう、何しゃちほこばってやがるンだ。風通しが良すぎるから、とっとと入ェりやがれ」

先生から、頼みの筋で話聞いてただけだよと言った。

「頼みの筋?先生から?」

「はい」

百介は頷いた。

治平は戸を閉めると、土間に草履を脱いでのそのそと框に上がってきた。

百介が脇に詰めて空いたところにどっかりと座り込んで、

「俺の手も要るかね」

と訊ねた。

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