化学療法には、大きく分けて手術の前に行う『術前化学療法』と、手術の後に行う『術後化学療法』があります。

術前化学療法はPRETEXT−1で肝外進展のない場合は行いませんが、それ以外のPRETEXT−2、3、4は基本的に数回の術前化学療法を行います。

術後化学療法組織型が『純高分化型』という非常の予後のよい場合以外は行います。 

 

1. 化学療法はやりたくなくても
2. プロトコールの種類
3. プロトコール以外の薬
4. プロトコールは絶対なの?
5. 治療の間隔
6. 28日間隔なのはなぜ?
7. 投与の減量と延期についての特例
8. 化学療法中の日常の注意
9. 術後化学療法



  1.化学療法はやりたくなくても 

小さな子どもに「抗がん剤は使いたくない」と思う親は多いでしょう。
たしかに抗がん剤は副作用もありますし、副作用に苦しむわが子を見守らなければならないのは親としてとても辛いものです。けれども必要な化学療法をやらなければやがてがん細胞はまた勢いづくことがあります。
「子どもの命を救う」
と言うのが最優先です。まずはそのことを考えるようにしましょう。
肝芽腫はたしかに10年前20年前と比べると格段に「治る」ようになりました。けれども最初から甘い覚悟でも何とかなるほど「治る」わけではありません。化学療法がほぼ必要ないタイプの肝芽腫では手術のみで化学療法をしないこともありますが、肝芽腫全体のごくわずかです。それ以外のタイプには必要な治療です。



  2.プロトコールの種類 

ここではJPLT−2プロトコールの術前化学療法で行われる薬の組み合わせについて説明します。
プロトコールが変更になれば薬の組み合わせや量なども変わりますので、参考として読んで下さい。(術後化学療法でのみ行われるものについては『
術後化学療法』をご覧下さい)


「シスプラチン」と「THP−アドリアマイシン」という薬を組み合わせた化学療法ですが、シスプラチンの量が後述のCITAの半分です。


ローシータと同じ薬の組み合わせですが、シスプラチンの量が倍です。
肝芽腫の化学療法ではこの「シータ」が基本的位置にあります。


カルボプラチン、イフォスファミド、エトポシドという3種類の薬を組み合わせた化学療法です。
シータで充分な効果が得られなかった場合に行われます。


「キャタエル」というよりも「テース」とか「動注療法療法」あるいは「動注塞栓法」と言うほうが一般的です。
これは腫瘍に栄養や酸素を運んでいる動脈に抗がん剤を注入し、腫瘍に高い濃度の抗がん剤が行くようにするとともに、腫瘍細胞に栄養が行き渡らないようリピオドールという物質で血管を詰まらせる治療で、抗がん剤はカルボプラチンを動注した後にTHP−アドリアマイシンを使います。
(注・この治療は局所療法なので破裂や肝臓の外にも腫瘍がある「肝外進展」の場合にはやりません。)



  3.プロトコール以外の薬 

術前化学療法でプロトコールにある薬を使っても効きがよくない時には、「イリノテカン」や「トポテカン」などの薬を使うことがあります。



  4.プロトコールは絶対なの? 

絶対ではありません。分かりやすく言うと、「肝芽腫になった場合に、日本で今一番効くであろう治療方法」ということです。
ですから肝芽腫の他に重い合併症がある場合や、プロトコールでは思うように手術できるところまで進まない場合などはプロトコールにはこだわらずその子にとって最善の治療をしてもらいます。




  5.治療の間隔 

各治療とも投与を開始してから28日間あけてから次の治療に入ります。
投与にかかる日数は次のとおりです。
ローシータ
シータ
アイテック
テース



2日間
3日間
5日間
1日間
各プロトコールとも副作用を抑えるための点滴を投与の前後1日ずつ行うので、点滴しているのは各コースとも治療に2日加えた日数になります。



  6.28日間隔なのはなぜ? 

抗がん剤を投与すると、骨髄抑制が始まりその状態が約2週間続きます。
その後骨髄が回復してきて、次の治療が出来るまでに身体が回復するには約28日間かかります。そのため各治療と治療の間を28日あけるのです。これは現在のプロトコールで使う薬の場合ですので、薬が変われば間隔が変わることもあります。
ただし次の治療をするにはWHO(世界保健機構)が定めた基準があり、その基準に達しない場合には数日間治療を延期することもありますが、回復していればすぐに次の治療に入ります。
治療と治療の間隔が長すぎると、せっかく叩いたがん細胞がまた勢いづいてしまうので、むやみに治療の間をあけることはしません。




  7.投与の減量と延期についての特例 

次のような場合には抗がん剤の投与量を減らしたり、投与する時期を延期することがあります。

1才以下の場合は量を減らす。
月例に応じて投与量を減らします。1才で100%投与となります。

副作用が激しい場合は延期や減量、中止をすることもある。
副作用の判定は、WHOがん治療結果報告基準によってなされますが、シスプランとTHP−アドリアマイシンの主な副作用とその対応については次のとおりです。(他の抗がん剤の副作用や実際に治療した子にどのように出たかなどについては『治療の副作用について』をご覧下さい。)


・好中球 1000/μ以上、または白血球2000/μ以上。かつ血小板7万/μl以上。
が、各コースの化学療法を始めるにあたっての必要条件です。(*プロトコールが変更した場合にはこの条件が変わることがあります。)
この条件となるまで1週間以内の開始延期はありますが、それ以上延期する場合は75%の投与量で開始します。
好中球を上げる薬(G−CSF。商品名:「グラン」、「ノイトロジン」、「ノイアップ」など)は必要に応じて投与します。
*

*
好中球(こうちゅうきゅう)は白血球の中にあり、菌やウィルスに対して直接防御する役割をします。これが500以下になると感染症に罹りやすくなります。
血小板は血を固まらせるのに必要です。これが少ないとちょっとしたことで出血し、それがなかなか止まらなくなります。


肝炎など他の原因を探すことが第一ですが、副作用によるりものと考えられる場合はTHP−アドリアマイシンを25%減らします。


・尿中β2マイクログロブリン
・血清クレアチニン
・尿素窒素
を定期的に測定し、腎障害に注意します。また、クレアチニンクリアランス、糸球体ろ過率が正常の50%になった場合には、シスプラチンの投与を中止することもあります。


聴力障害を早期に発見するために定期的な聴力検査をします。
両側聴力の減少が8000Hz、40dBより大きいときは耳鼻科専門医の診察を受けるようにします。



  8.化学療法中の日常の注意 

感染しやすいので本人のうがい手洗いはもちろん、周りの人間が感染症を持ち込まないよう充分注意してください。
特に水痘・はしかなど重症化しやすいので要注意です。中でも見落としやすいのが、
帯状疱疹です。数が少ない場合は単なる虫刺されと間違えることもありますが、これは水痘と同じウィルスですので、水痘の抗体がない場合には病棟で隔離されることがあります。患児と接触する可能性のある大人にはあらかじめなった時には接触しないようお願いしておくのがよいでしょう。もちろんその機会が一番多い親は言うまでもありません。
転んで頭をぶつけた場合はすぐに主治医に報告しましょう。血小板が非常に少ない時に頭をぶつけると頭の中で出血することがあります。
化学療法中は口内炎や虫歯など口腔内のトラブルが起きやすくなりますので、口腔ケアにも気をつけて下さい。ただし吐き気があって口を開けるのが苦痛な時に無理に歯磨きをさせるとかえって歯磨きが嫌いになってしまうので、そういう時は軽く口をすすぐくらいでよいと思います。





  9.術後化学療法 

術後の化学療法開始時期は、肝臓をどのくらい取ったかによって違います。50%以上の肝切除例では2週間経ってからにしますが、子どもの回復状況をみた上で開始時期を延期することもあります。

通常は術前化学療法と同じ組み合わせですが、術前で使った組み合わせがあまり効かなくなった場合には、別の組み合わせにします。また場合によっては造血幹細胞移植を行うこともあります。
術前の組み合わせがどれもあまり効かなかった場合は、次のような薬を使うことがあります。

商品名:カンプト(ヤクルト本社)。トポテシン(第一製薬)。
日本で開発された植物由来の抗がん剤。肝芽腫で使用される他の薬と比べれば骨髄抑制などはやや穏やか。主な副作用は下痢。


商品名:ハイカムチン。
日本では『トポテシン』という名のイリノテカンがあるのでややこしいですが、「
トポテシンはイリノテカンのこと」で、「ハイカムチンがトポテカンのこと」です。副作用はイリノテカンと同じく下痢ですが、イリノテカンよりは下痢もやや穏やかという子が多いようです。