ZAO

  フランスのジャズロック・グループ「ZAO」。 73 年、MAGMA を離脱したヨシコ・セファー、フランシス・カーンによって結成される。 インプロヴィゼーション中心のライヴな演奏を目指し、MAGMA の影響濃いサウンドから次第にオリジナルなサウンドへと変化した。 初期のバーバリックかつエキゾチックなジャズロック・サウンドは、アメリカの音と比べると、やはり独特のものがある。 セファーの東欧ルーツや東洋指向もうかがえる。


 Z=7L

 
Jean My Truong drums
Mauricia Platon vocals
Francois Cahen keyboards
Joel Dugrenot electric bass
Yochk'o Seffer soprano saxophone, bass clarinet
Jean-Yves Rigaud electric violin

  73 年発表の第一作「Z=7L」。 内容は、エキセントリックな女性ヴォーカルをフィーチュアした MAGMA 風ジャズロック。 エレクトリック・ヴァイオリンとスキャットを中心にした澱みない変拍子トゥッティや、ミニマリズム、ベースの動きには、MAGMA 的なものが感じられる。 一方、サックスとヴァイオリンが即興的に絡むシーンやフュージョン寄りのプレイは新鮮だ。 コンパクトな編成だけに音はぐっとスリムであり芯がある。 WEATHER REPORT と同じキーボードとソプラノ・サックスの双頭グループであるだけに、それなりの意識はあったのかもしれない。

  1曲目「Marochsek」(7:13) 抑制されたアンサンブルを背景に狂おしいスキャットが奔放に暴れまわる作品。 ナンセンスと不気味さが一体となったような、エキゾチックなスキャットのメロディは、やはり MAGMA 風である。 ベースが主導するアンサンブル。 神秘的なトゥッティが、緩やかだが着実なクレシェンドに乗って押し寄せる。 即興風のヴァイオリン・ソロも強烈だ。 管楽器が入った後のビッグ・バンド風の演奏や、エレピのプレイは、アメリカのグループに近いようにも思う。

  2曲目「Ataturc」(5:49)MAGMA 風の腰の座ったテーマとスキャットが繰返される。 今度は、初めからサックスも伴奏に入っている。 ミニマルで分厚い音の演奏だが、緊迫感よりも、ビッグ・バンド・ジャズのような伸びやかな広がりがある。 ヴァイオリンがアンサンブルを加速して、弾けたようにテンポが落ちると、エレピのソロ。 ジャジーなソロは、さらに明快さを出している。 続いて、ヴァイオリンがリードするアンサンブル。 テンポ・アップ、そして迫力のトゥッティ。 スキャットが入ると、再びジャジーで穏やかな表情へと演奏が変化する。
  MAGMA とよく似た音楽だが、強迫的なものは感じられない。 メインストリームのジャズロックと MAGMA 調サウンドの合体というべきか。 ドラムは手数が多いが、インパクトはさほどでない。

  3曲目「Ronach」(4:39)スキャットのリードする変拍子ユニゾンから始まる技巧的なジャズロック。 振り回されるような強烈な演奏だ。 エレピの刻む 8 分の 10 拍子の上で、スキャットがフリーに重なり合う。 再び、不気味な重みを持つアンサンブルへと収束し、シャープなユニゾンが繰返される。 スキャットも管楽器のようだ。 アクセントの強い変拍子ユニゾンで攻めてたてる。
  一体となったアンサンブルが、自由自在なテンポとリズムで動き回る劇的な作品である。

  4曲目「Atart」(3:31)エレピの繰り出す 16 分の 9 拍子のリフ上で、各プレイヤーがせめぎあうスリリングなナンバー。 リフは次々と手渡され、手が空いたプレイヤーがソロを取る。 即興風のヴァイオリンに続くソプラノ・サックスは、オーヴァー・ダビングされ、スキャットとともにロングトーンで重なり合う。 抜群の存在感だ。 シンバル中心の巧みなドラミングも目立つ。
  シンプルかつハイテンションの疾走型テクニカル・ジャズロック。 SOFT MACHINERETURN TO FOREVER を思わせる堂々たる演奏だ。

  5曲目「La Soupe」(7:20) 疾走感のあるエネルギッシュなナンバー。 序盤は、ミステリアスなスキャットと重々しいブラス。 エレピとマーチング・スネアによる演奏に、パワフルなスキャットと管楽器による力強いアクセントをつけると、疾走が始まる。 テーマは、ハンガリー風と思われるエキゾチックなもの。 続いて、ビッグ・バンド風のブラスの扇動によるパートと、フリーなプレイで澱むパートが次々現われる。 エレピ伴奏、サックスとスキャットによるポリリズミックなアンサンブル。 安定感ある演奏だ。 サックス・ソロは存在感抜群。 すばらしい音色だ。 ヴァイオリンが不気味にざわめき、緊張が高まる。 雷雨のようなドラムスと稲妻のようなサックス。 再びアンサンブルは沈み込む。 スキャットが復活し、演奏はスピードと活力を取り戻す。 鮮やかな疾走。 クリアーに高鳴るサックス、技巧的なユニゾン。 再びやや沈むアンサンブル。 歯切れよくたたみかけるがリタルダンド。 そして、華麗なるエンディング。
  幕開けこそおどろおどろしくスローだが、すぐさま、パワー全開の壮絶な疾走が始まる。 その後は、エネルギッシュでヘヴィなプレイを積み重ねながら、機を見ては疾走を繰り返す。 アンサンブルは、流れるような展開を持ち、物語風ですらある。 バーバリックな美しさのある本作のクライマックス。

  6曲目「Satanyia」(6:46) エレピが繰り返すノイジーなリフにサックス、ヴァイオリン、ベースが気まぐれに反応する、自然発生的なイントロダクション。 一気にヴォリュームは上がり、ヴァイオリンとスキャットが強烈なリフで演奏をリードする。 そしてきわめて MAGMA 的なテーマへとランディング。 ベースが唸りを上げ、管楽器が高鳴る厳粛なムードの演奏だ。 エレピと管楽器が入ると、ややアンサンブルの表情が和らぐのが面白い。 中盤、オープニングのリフとクロス・フェードで背筋も凍るヴァイオリンのカデンツァが湧き上がるシーンは、やや脈絡に欠けるような気もするが、プログレッシヴな展開といえるだろう。 再びオープニングのリフが復活し、やけくそ気味にがなりたてるスキャットを経て、神秘的な MAGMA 風テーマへと落ちついてゆく。
  モールス信号のようにせわしない変拍子リフレインによるビート感と、重厚かつメロディアスなテーマが対比するドラマチックなジャズロック。


  管楽器、ヴァイオリン、エレピ、女性スキャットをフィーチュアしたテクニカルかつエキゾティックなジャズロック作品。 変拍子を多用し、一体感の強いアンサンブルでひた走るスタイル、不気味ともいえる重々しいテーマ、繰り返しの多用など MAGMA の影響は色濃い。 サックス、ヴァイオリンが一部ソロで見せ場をつくるが、どちらかといえば、彗星のように飛び回る敏捷で緊密なアンサンブル主体の演奏だ。 スキャットは、一体と化したミステリアスなアンサンブルの最上層に肉感的な表情で仕上げをしている。 また、セファーのサックスは、本格的なモダン・ジャズの音色の豊かさがあり、存在感は大きい。
  ビッグ・バンド風の直線的なパワーを持つ演奏や、ジャズロック的なスリルは盛り込まれているものの、いまだオリジナルな音への過渡状態にあるという印象を与える作品だ。 ハンガリー的、バルトーク的な面はさほど感じられない。

(MUSEA FGBG 4081.AR)

 Osiris

 
Francois Cahen keyboards
Joel Dugrenot bass, vocals
Yochk'o Seffer saxophone, vocals
Jean My Truong drums, percussion
Jean-Yves Rigaud electric violin
Marc Chantereau percussion
Pierre Guignon percussion

  74 年発表の第二作「Osiris」。 女性スキャットを外し(セファーやデュグルノによるスキャットはあり)、MAGMA 風の圧迫感あるジャズロックを基本に、RETURN TO FOREVERWEATHER REPORT のような典型的スタイルも散見される内容となる。 特徴は、強圧的なテーマ、スピーディな変拍子リフ、昂揚し膨張するアンサンブルなど。 スリリングな演奏とともに、エレピの音に象徴されるようにジャジーでメロディアスな面もあり、一つの楽曲においても変化の振幅は大きい。 一方、低音部の強調は前作ほどではなくなっている。 緻密なリズム・セクション上でソプラノ・サックス中心にすべてが煮えたぎる場面には、空恐ろしいまでの迫力ある。 しかし、それでも今回は、重量感より疾走感と小気味よさがキーではないだろうか。 多彩なパーカッションもアンサンブルのスピード増強に一役買っているようだ。 エレクトリック・ヴァイオリンとサックスによるレガートなアンサンブルも印象的だ。

  1 曲目「Shardaz」(4:48) レガートなテーマを刻み込む圧迫感あるオープニングから、スピーディな変拍子リフがドライヴする演奏へと突っ込む。 リフは、8 分の 8+9 拍子。 ヴァイオリン、ソプラノ・サックスによるなめらかなビッグ・バンド調のトゥッティと、ミステリアスな「呪文」スキャット。 カーンのピアノも凄まじい迫力で和音の打撃を放つ。 軽めの MAGMA といってしまうと失礼かもしれない。 バンドの一体感のあるジャズロックである。 セファー作曲。

  2 曲目「Isis」(9:32) オープニングは映画音楽のようなフルートによるひめやかなアンサンブル。(メロトロンの可能性もある) ソプラノ・サックスによるジャジーで穏かな演奏は、きわめて RETURN TO FOREVER 的である。 ピアノの和音連続打撃を境に、スキャットも加わって高音部が強調され、やや MAGMA 風の圧迫感ある反復トゥッティへと進む。 8 分の 7 拍子によるスピーディな演奏。リードするピアノはまるでキース・エマーソンのようだ。 サックス、エレクトリック・ヴァイオリンのソロ辺りから熱気が生まれてくる。 8 分の 9 拍子のリフの生む不安定感、その上で小刻みに制御されるエネルギーの流れ、ドラマティックな展開などが特徴の大作である。 カーン作曲。

  3 曲目「Reinna」(4:23)デュグルノ作曲。 スリリングなビッグ・バンド風のオープニングから MAGMA 的な狂乱スキャットへと進むオープニング。 ヴァイオリン、サックスのソロをドラムが挑発し、エレピ、パーカッションも巻き込んで、火の出るような一直線の演奏が続く。 テーマ、ソロともにややエキゾチックであり、リフはきわめて挑戦的。 運動能力を活かした扇動と挑発のジャズロック。

  4 曲目「Yog」(8:05)セファー作曲。 謎めいたスキャットとエレピによるダークなテーマ。 メランコリックなサックス、ヴァイオリンのデュオが美しいだけに、狂的なアジテーションとのコントラストが鮮明。 エレピが細かなパッセージのリフを提示するところから、テンポ・アップし、狂乱する演奏がスタート。 変則的なリフの上でヴァイオリンとサックスのなめらかな歌が走り、狂おしいスキャットが応じる。 一旦静まった後の全体演奏は、ファズ・ベースのような意表を突く音も飛び出し、リズム・セクションも全力を出し切る壮絶なものとなる。 静と動をダイナミックに行き交うヘヴィな MAGMA 風ジャズロック作品。 率直にいってかなり変。

  5 曲目「La Rhune」(4:08)カーン作曲。 ピアノを用いた 8 分の 6 拍子によるシンコーペーテッド・リフ。 波乱を予感させるスリリングな作品だ。 どこかで聴いたような気がするのは、なぜでしょう。

  6 曲目「Montreal」(11:44)カーン作曲。ボーナス・トラック。カナダのミュージシャンとの共演。

(MUSEA FGBG 4130.AR)

 Shekina

 
Yochk'o Seffer saxophone, clarinets, vocals
Francois Cahen keyboards
Gerard Prevost bass
Jean My Truong drums
Pierre Guignon percussion
Michele Margand violin
Marie-Francoise Viaud violin
Francoise Douchet viola
Claudine Lassere cello

  75 年発表の第三作「Shekina」。 ストリングス・カルテットをゲストに迎えた作品。 前作までの MAGMA 色はほぼ払底し、エキゾチックで神秘的ながらも、繊細な美感をともなうサウンドとなった。 アジア・ヨーロッパ折衷風の不思議な旋律を用い、バルトークを思わせる瞬間もある。 ジャズロックでいえば、初期 WEATHER REPORT にも通じる世界だろう。 三作目にして、オリジナルなサウンドへ到達したと考えられる。 ここでも、セファーのサックスは、存在感抜群。 ベーシストは、ジョエル・デュグルノからジェラルド・プレヴォに交代。 この弦楽セクションをバンドに取り込んだ作風は、セファーの ZAO 脱退後のユニット NEFFESH MUSIC へと引き継がれてゆく。

  1曲目「Joyl」(3:52)いきなりセファーの鋭利なユニゾンでぶっ飛ばされるパワー・ナンバー。
  2曲目「Yen-Lang」(8:07)弦楽を活かした幻想的な作品。
  3曲目「Zohar」(10:54)テクニカルなジャズロック。 ベースが MAGMA 風。 シリアスな弦楽もフィーチュア。
  4曲目「Metatron」(8:15)
  5曲目「Zita」(4:34)
  6曲目「Bakus」(5:12)

(MUSEA FGBG 4067.AR)

 Kawana

 
Francois Cahen piano, electric piano, synthesizer
Dedier Lockwood acoustic & electirc violin, bass violin
Gerard Prevost acoustic & electric bass
Yochk'o Seffer soprano & sopranino saxophone, vocals, piano
Jean My Truong drums
Bill Gagnon bass
Christian Saint Roch drums
Michel Seguin percussion

  76 年発表の第四作「Kawana」。 前作の試みは一段落し、本作では、ディディエ・ロックウッドらテクニシャン達が繰り広げる火花散るインタープレイと、華麗なソロをフィーチュアしたジャズロックへと突入する。 奔放なプレイが高いレベルでユニットとして結晶しており、テクニカル・ジャズロックとしては白眉といえるだろう。 もっとも、パワフルなフリー・ジャズと構築的なクラシックが融合したような作風には、安易にジャズロック、フュージョンとはいいにくいほどの、真剣勝負の重みがある。 ロックなんて、どこにもないような気さえする。 さて、演奏面では、サックスと対等の位置でせめぎあうヴァイオリンの存在が、アンサンブルに大いなる刺激を与えて大正解。 カーンのキーボード・プレイも多彩だ。 本作を最後にヨシコ・セファーは脱退。 ロックウッド、トルオンも SURYA 結成のため脱退。

  1曲目「Natura」(7:06)渦を巻くようなアコースティック・ピアノの響きが印象的な、クラシカルな陰翳あるジャズロック・ナンバー。 険しさとファンタジックな美感のバランスがいい。 セファーのプレイにはエルトン・ディーンを越え、コルトレーンのような重厚な存在感あり。 スリリングにして品格と優美さも兼ね備えた名品。 キメがカッコいい。

  2曲目「Tserouf」(8:53)WEATHER REPORT をほうふつさせる切れ味いいフュージョン/ジャズロック。 前半は、キーボード、ドラムスをフィーチュアした超絶演奏。 後半は、ロックウッドの「ロマンティックな」ヴァイオリンと、セファーのソプラノ・サックスの壮絶にして華麗なるバトル。 ヴァイオリンのプレイは、速度が上がると、ピッチベンドを使用したシンセサイザーと区別がつかない。 その間を、典型的なテクニカル・ユニゾンで縫う。 ファンキーだがしっかり 7 拍子。 終盤のポリリズミックなバスドラ連打もすごい。 本作の最初のクライマックスです。

  3曲目「F.F.F」(2:29) 近代クラシック的なピアノとヴァイオリン、コントラバスのトリオ。 ミステリアスな和声による衝撃的かつ幻想的な小品である。 バルトーク風。 ピアノはセファー。

  4曲目「Kabal」(4:08)再びハイテンションのテクニカル・チューン。 変拍子のテーマをつんのめるような勢いで弾き飛ばす。 アドリヴをそのまま発展させたような細かく強引なユニゾンと、歌うようにメロディアスなフレージングを対比させつつ、ぐいぐいと進む。 ドラムスのピックアップによるイントロダクションがいかにも挑戦的。 佳曲。

  5曲目「Sadie」(3:37)メロディアスなバラード。 ソプラノ・サックス、ヴァイオリンがなめらかなユニゾンで歌い上げる。

  6曲目「Free Folk」(10:39) イントロとアウトロはミステリアスなヴォカリーズである。 テーマもほのかに中近東風味(中央アジアもしくは東欧なのでしょうか)漂うエキゾチックなもの。 演奏はなめらかだが、リズムは変則的。 中盤のヴァイオリン・ソロが圧巻。

  7曲目「Salut Robert」(12:48)ボーナス・トラック。 73 年録音の作品。 MAGMA 調の快速ビッグバンド・チューン。 サックスはきわめてフリーなソロを展開。 扇動的。

(MUSEA FGBG 4039.AR)
  


  close