VAN DER GRAAF GENERATOR

  イギリスの超個性派プログレッシヴ・ロック・グループ「VAN DER GRAAF GENERATOR」。 67 年結成。 69 年アルバム・デビュー。 哲学的な歌詞を歌うヴォーカルをフィーチュアした、暗くヘヴィなサウンドが特徴である。 前期は、オルガン、 サックスをフィーチュアし、ギターレスというユニークな編成。 また、英国のみならずヨーロッパ本土でも人気を誇る。 78 年解散。 孤高のヴォーカリストという呼び名がふさわしいハミルは、現在もソロ活動を続ける。 2005 年新作発表とともにライヴを行う。ひさびさの CD リマスターも。

 Trisector

 
Hugh Banton organ, bass guitar
Guy Evans drums, percussion
Peter Hammill vox, guitars, pianos

  2008 年発表の作品「Trisector」。 ヒュー・バントンのオルガンが完全復活、ナルシスティックなヴォーカルとともに、VDGG が永遠のブリティッシュ・ロッカーとして毅然たる姿を現した。 オールド・スクールであるのは間違いない。 しかし、頑ななまでにスタイリッシュなところと、それが完全に音になりきっているところなどは、デヴィッド・ボウイや JETHRO TULL と同じしたたかさと心底からのアーティスト魂を感じてしまう。 元々、唯一無二の個性派だったので、それがそのまま年月を経ただけである。 むしろ、変わったのは「こちら」の方である。 デヴィッド・ジャクソンの管楽器がないため、サウンドのバリエーションは少なくなっているのだが、モノクロームなイメージを作り上げるという点では奏効していると思う。 3 曲目に「さよなら」と歌っているところがあるようです。

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 Present

 
Guy Evans drums
Hugh Banton organ, bass
Peter Hammill vox, electric piano, guitar
David Jackson saxes, flutes, soundbeam

  2005 年発表の最新作「Present」。 黄金期のメンバーによる奇跡の復活作。 スタジオ新作 6 曲とライヴ・インプロヴィゼーション 10 曲による CD 二枚組。 不思議なほど、音楽が変わらない。 古びてもいないし、今風でもない。 「孤高」とは、こういうことをいうのでしょう。

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 The Least We Can Do Is Wave To Each Other

 
Guy Evans drums, percussion
Hugh Banton piano, organ, backing vocals
Nick Potter bass, guitar
Peter Hammill lead vocals, acoustic guitar, piano on 2
David Jackson alto & tenor saxes, flute, backing vocals
guest:
Gerry Salisbury cornet
Mike Hurwitz cello

  69 年発表の第二作「The Least We Can Do Is Wave To Each Other」。 本作にて、70 年代を通して活動する不動のラインアップが整う。 サイケデリックなムードを残しつつも、ハミルのヴォーカルを中心にした個性的な演奏スタイルが芽を吹いた作品といえるだろう。 バロック音楽調とヘヴィなエレクトリック・サウンドのコントラストがすごい。 プロデュースはジョン・アンソニー。

  「Darkness(11/11)」(7:27)。 オルガン、サックス、そしてうねるようなリフを操るベースが生み出す暗黒の空間を、ハミルのヴォーカルが切り裂いてゆくアグレッシヴなロック。 吹き荒れる風から生まれるハイハットのリズムと、ガラスを叩くようなピアノ、蠢くベースによって描かれるミステリアスなイントロから、この暗闇の物語は始まる。 密やかな呟きから、演奏とともに感情をクレシェンドさせてゆくハミルのヴォーカルが強烈だ。 そして、ヴォーカルに絡みつきながら、クライマックスではともに爆発するサックスとオルガン。 ピアノの音は、時おりさし込む光のように、暗黒に突き刺さる。 終盤の圧倒的なツイン・サックス(スタジオではオーヴァー・ダヴだろうが、ジャクソンは、ライヴでは二管吹きも見せているようだ)の演奏は、後の作品でも見られる得意技。 暴力的な昂揚と狂乱が、ピークに達してゆく。 執拗なベース・リフとオルガン、サックスが繰り広げる激しいソロは、ハードにしてすさまじい粘り気がある。 それでいて、演奏全体のイメージは、不思議なくらい硬質でアコースティックなのだ。 ニュー・ロック的な質感を引きずりながらも、さまざまな情動を叩き込み、たぎる坩堝のようなへヴィ・ロックへと進んだ傑作。 ヴォーカルが生むドラマに酔いしれるべし。 (11/11) とは何を意味するのでしょう。

  「Refugees」(6:22)。 フルート、オルガンとチェロによる典雅なバロック・トリオと、切々と訴えかけるヴォーカル・コーラスがあいまって、宗教的な感動を呼び覚ます作品。 まっすぐ切り立つようなオルガンの響きとともに歌い上げるアンサンブルは、静々と、そして時おりたたみかけるようなリズムも用いて、表情を変化させてゆき、やがて高みへと昇りつめてゆく。 一貫してヴォーカルに寄り添うチェロの癒しの響きは、あたかも心の傷一つ一つに染み込んでゆくようだ。 前曲から本曲への落差は、あっけにとられるほどみごと。 ヴォーカルには、慈愛に満ちた神々しさが宿っている。 時のほむらに焼かれるものへの鎮魂歌。 ここでのピアノはハミル。

  「White Hammer」(8:15)。 荘厳なチャーチ・オルガン、天上へと誘うコルネットの響きが織りなすバロック調のサウンドと、燃えたぎるサイケデリック・ロックが交互に現れるドラマを貫いて、ヴォーカルが駆け抜けてゆくナンバー。 あまりに鮮やかなコルネット。 そして、あくまでヘヴィで現世的なサックス・オルガン。 ヴォーカルは、気高く両方の世界を物語る。 硬軟を巧みに行き交う演奏において、やがてハードな部分が、あたかも貪欲な炎のように拡大し始める。 ここでも中盤再び、ツイン・サックスのプレイがある。 ここまで、オルガンとサックスの演奏だけとると、いかにもニュー・ロック風である。 最後は、静寂を突き破って現れる重戦車のようなディストーション・オルガンとサックスの狂喜乱舞が、演奏を締めくくる。 二重人格のように表情を変えるヴォーカルには改めて感嘆。 「Darkness」とはまた違った攻撃性を孕んだナンバーであり、後々まで続いてゆくアヴァンギャルドで大胆な構成をもつ作風の始まりである。 コルネットの響きとエピローグの異常なまでのヘヴィネスは、どうしても KING CRIMSON を思わせる。 いわば「裏 21 世紀」。
  ここまで旧 A 面の流れは、ただただ圧巻。 音楽を聴いて涙を流すことはほとんどないのですが、これだけは例外です。

  「Whatever Would Robert Have Said?」(6:07)。 スリリングなオルガンのリフイレンに、ギターのロング・トーンと躍動するドラムが重なってゆく劇的なオープニング。 しかし、アコースティック・ギターのストロークも交えつつなだれ込むテーマは、今一つ冴えない。 それでも、アコースティック・ギター一本で歌い上げるヴォーカルは、存在感抜群だ。 サビでは、力強いリフに刺激され、吟遊詩人からアジテーターまで表情の変化を見せる。 ギターの音が新鮮だ。 8 分の 6 拍子による激しい突き上げ。 イタリアのグループが、好んで流用した手法である。 中盤はサックス、オルガン、ギターによるフリー・フォームのプレイ。 しかし、音はすかすかだ。 やがて、激しい混沌へと突き進むが、こちらの方がこのグループらしい。 再び静かなヴォーカルと 8 分の 6 拍子のトゥッティの突き上げを繰り返し、テーマを再現して終る。 GENESIS を真似るギターは、音への配慮が今一つ。 ロバートとは朋友ロバート・フリップだろうか。 ヘヴィだが芯のない不思議な曲だ。

  「Out Of My Book」(4:07)。 リリカルなフルートとアコースティック・ギターの伴奏で、優しく歌われるフォーク調のナンバー。 オーヴァー・ダブされたフルートは、小鳥のさえずりのように舞い、オルガンとともにクラシカルな響きで曲を満たしている。 ヴォーカル・メロディもブリティッシュ・フォーク調のたおやかなもの。 オーヴァー・ダブされた一人コーラスも用いられている。 ファルセットも美しい。 こういう歌をとてもすてきに聴かせるハミルのヴォーカル・スタイルの幅広さに敬服。 ひたすら安らぎを覚える曲である。

  「After the Flood」(11:28)。 アコースティック・ギターが奏でる 8 分の 10 拍子のテーマを狂言回しに、挿話のようにさまざまな演奏が現れるオムニバス大作。 せわしなくたたみかけるリズムでオルガン、サックスがノイジーに暴れる演奏や、ストレートなヴォーカルを前面に押し出した力強い演奏、伸びやかでシンフォニックな演奏などが、テーマをはさんで次々と姿を現す。 フルートとサックスによるフリー・ジャズ的アンサンブルや、サックス、オルガンのユニゾンによる荒々しい変拍子パターンなど予想もつかない展開が続く。 混沌とした世界で、サックスが金切り声を上げ、オルガンが発狂する。 やがて、百鬼夜行が吸い込まれるように消えてゆくと、ベースの導きで抑制された演奏が始まる。 そして現われるは、混沌を統べる若き魔王の如きハミル。 電気処理したヴォーカルとオルガンが轟音を響かすと、再びアコースティック・ギターのテーマが静かに浮かび上がる。 そして一気に力強いヴォーカル・パートへ。 電気処理やノイズ、フリー・フォームでの大暴れなど、本アルバム中最もストレートなサイケデリック色が強い作品である。 何曲分かのアイデアを詰め込んだ贅沢なナンバーなのだが、一気呵成の勢いに乗り損なうと、放り出されて寂しいのも確かである。 散漫というよりも、八方破れを楽しむべきだろう。 つなぎのテーマは、一歩間違えると珍妙になるのを辛くも逃れている際どい面白さをもち、このグループの器楽を象徴している。 若くしなやかな感性が生み出したアヴァンギャルドな問題作。 個人的には好きな作品です。


  個性的なヴォーカルと重苦しい演奏をフィーチュアした、ドラマチックな作品。 サックス、オルガンを中心にした救いのないヘヴィな演奏から、チャーチ・オルガンやアコースティック楽器による魂を浄化するような気高い演奏まで、若いエネルギーの奔流のようなパフォーマンスが次々と現われる。 アグレッシヴなナンバーと文学性を感じさせる詩的なナンバーが、交互に配置されているのも、豊かな音楽性を印象づける。 基調はサイケデリックな要素もあるヘヴィで暗いサウンドだが、つややかなヴォーカルとサックスやピアノのせいか、なぜかアコースティックでモノトーンのイメージを強く感じる。 この辺が、いずれ彼らの特徴になってゆくのであろう。 ただのオルガン・ロック、サイケデリック・ロックとは一線を画し、オリジナリティのある前衛サウンドへ第一歩を踏み出した作品、といえる。 とにかく、はちきれそうなくらい瑞々しい感性がある。 60'、サイケデリック・ファンにもお薦めできる作品だ。 歌詞内容も、かなり奇矯なようだ。 傑作。

(CASCD 1007)

 H To He Who Am The Only One

 
Guy Evans drums, percussion, tympani
Hugh Banton organs, piano, bass on 2,5, vocals
Peter Hammill lead vocal, guitar, piano on 2
David Jackson saxes, flute, vocals
guest:
Robert Fripp guitar on 3
Nick Potter bass on 1,3,4

  70 年発表の第三作「H To He Who Am The Only One」。 ベースのニック・ポッターが脱退し、本作にはゲスト参加。 他にも、KING CRIMSON のロバート・フリップをゲストに迎えている。 ポッター不在の曲では、ベースはヒュー・バントンがペダル演奏でカヴァーしているようだ。 ハミルの歌詞の世界は、きわめて SF 的なタイトルが示すように、内省的なものから空想物語、ゴシック趣味とさまざまな広がりを見せ始める。 ヴォーカルの比重が高まる一方、演奏面でもかなり大胆な前衛性を見せている。
  ジャケットの記述によれば、アルバム・タイトルは、水素からヘリウムへの熱核融合が宇宙のエネルギーの唯一の源泉であるということらしい。 また、ジャケットの奇妙な絵は、大気圏を出て無重力になったため用を成さなくなった天秤のようだ。 プロデュースはジョン・アンソニー。 アシスタント・エンジニアとしてデヴィッド・ヘンチェルの名前もある。

  トップを飾る「Killer」(8:07)は、煮えたぎるようなテーマ・リフと扇動的なメッセンジャーたるヴォーカル、そして、それらすべてを押し流すようなアコースティック・ギターの力強いストロークなど、ダイナミックな面が強調された傑作。 荒々しくも緻密な構成をもち、緊迫感ある作品だ。 絶望的な孤独を象徴する寓話的な歌詞も魅力。 間奏のサックス・ソロとそれを支えるドラムも、緊張感に満ちている。 このグループの作品にしては派手なイメージを与える、完成度の高いハード・チューンである。

  「House With No Door」(6:03)は、切なさに満ちたピアノ伴奏にハミルの静かなヴォーカルが映える内省的な作品である。 間奏のフルートによる救いを暗示するような旋律や、柔らかくも引き締ったドラミングがすばらしい。 体に突き刺さるような孤独感や、絶望を語るハミルの言葉と、その表情が胸を打つ。 哀しく美しいバラードにもかかわらず、演奏自体はポジティヴでシンフォニックな響きを持っている。 陶酔できる曲だ。

  「The Emperor In His War-Room」(9:04)フルートが奏でる哀しげな旋律が印象的な本作は、二部構成の物語であり、テーマは「戦いに明け暮れる王の孤独」である。 前半の「The Emperor」は、哀しみのあまり足場を失ったような密やかなアンサンブルと、オルガン/フルートが押し出す力強いテーマが交錯する中を、力強いヴォーカルが突き進む。 ハミルによるアコースティック・ギターも聴こえる。 クライマックスは、パワフルなユニゾン。 そして、一転厳かな響きの中へ、暗い諦念のメッセージをそっと置き去りにしてゆく。 改めて、ヴォーカルと演奏の一体感に驚かされる作品だ。 フルートは KING CRIMSON を思わせる。
  後半「The Room」は、ドラムのピックアップからベース・リフの主導でロバート・フリップのロングトーン・ギターが迸る。 左右のチャネルにオーヴァー・ダビングされたギターが、手数多く叩きまくるドラムとともに、渦を巻くように叫び暴れる。 力強いヴォーカルは、ストレートに歌を叩きつけ、ギターは狂おしく叫ぶ。 ギター・ソロが静まると、演奏は「Emperor」の静かなテーマに回帰、前半のフルートをサックスへともちかえ、オルガン、サックスが力強く叫び、ノイジーなギターとともに激しくユニゾンを決める。 最後は、祈りの如き厳粛な余韻を残す。 リリカルな中にエキセントリックな響きをもつメロディが耳に残る作品。 前作に通じる厳かな空気を持ちながら、ヴォーカルと器楽が歪な形で結合したまま走り続けるようなイメージである。 ヘヴィにしてメロディアスに整ったスタイルは、独自のものである。 管楽器が細やかに用いられているのも特徴的。

  「Lost」(11:13)も二部構成の組曲。 「Dance in sand and sea」は、フルート、サックスとオルガンによる錯乱気味のイントロダクション。3 連によるストレンジな軽さが、狂気を暗示する。 意味深なブレイクを経てオルガン、サックスの 3 連リフレインを伴奏に、ハミルが歌いだす。 高らかに主張するヴォーカルをきっかけに、サビではリズムがシュアーな 8 ビートへと変化。 ヴォーカルは、ふわりと着地するように、メロディアスに変化する。 いつもながら、ヴォーカルにしっかりとつきしたがう伴奏がみごとだ。 ヴォーカルは、まさに正調ハミル節。 メイン・ヴォーカル・パートの繰り返しを経て、間奏部は、オルガンによるノイジーな変拍子リフレインで始まる。 緊迫感をあおるようなハイハット連打。 そして、突如サックスによるフリー・ジャズ風の変態リフレイン(懐かしの「生活向上委員会」のようだ!)が迸り、世界は歪み始める。
  一転沈痛な面持ちのヴォーカルとともに、陰鬱な「Dance in frost」が始まる。 切実な思いを歌い上げるヴォーカルが、圧倒的だ。 伴奏は、ほとんど鮮やかなサックスのみであり、抑制された演奏といっていいだろう。 ボレロ風のスネア連打とともに、オルガンのヴォリュームも次第に上がってくるのだが、それを凌駕するのは、圧倒的な切実さで迫るヴォーカルである。 哀しげなのだが、どこまでも雄々しい。 ヴォーカルを追うようにサックスが哀しげに歌い上げ静かに消えてゆくと、今度は、よりジャジーなサックスのプレイが始まる。 そして、オルガンの 3 連リフレインがフェード・イン。 第一部のヴォーカルが復活し、オルガン、サックスとともに着実な歩みを見せる。 メロディアスなサビにも、噴出しそうな情念の炎が燃え盛る。 沈み込むような表情を見せつつも、すでに抑制は困難である。 苦悩するヴォーカルとともに演奏も高まってゆく、ゆっくりと。 再び現れるフリー・ジャズ調のリフレイン。 リズムは一拍づつ落ちてゆく。 そして、陰鬱なヴォーカルが甦る。 最後は、バリトン・サックス、テナー・サックスが迸る重厚なアンサンブルに、ハミルの叫びが吸い込まれてゆく。 そして、未来永劫続くかと思わせるサックスのプレイを、狂ったようなピアノの和音の連続が断ち切り、迸るサックスとドラムス、ピアノが呼応しつつ消えてゆく。 重厚にして悲劇的なヴォーカル・パートとコミカルなフリー・ジャズ・パートを大きく揺れ動くアヴァンギャルド大作。 常にオーセンティックなイメージを与える声質と歌唱を十分活かして重心としながら、楽曲を破壊する限界ギリギリまで器楽演奏のデフォルメを試みた、といってもいいだろう。 リフレインが繰り返しごとに一拍づつ縮まってゆく辺りは、真剣さと思いつきのいい加減さがきわどくバランスしている。 器楽の中心となっているサックスは、きわめてフリー・ジャズ的。 その一方で、オルガン、ドラムス、ヴォーカルによるパフォーマンスはきわめてクラシカル。 終盤は、序盤のテーマへと回帰し、初期 KING CRIMSON を思わせる力強い演奏を繰り広げる。 錯乱し「I Love You...」と絶叫するハミルの声が、耳に突き刺さる。

  「Pioneers Over C」(12:25)は、1983 年という"未来"に地球を飛びたった宇宙飛行士達が遭難し、救助を求めているというレイ・ブラドベリィの短編小説を思わせるシチュエーションを描く作品。 歌詞だけ読むとやや唐突で妙な感じだが、深刻さと哀愁をにじませるハミルのヴォーカルとバックの演奏がうまく練り込まれており、ドラマチックかつエキセントリックな名曲にしたてている。
  オシレータの電子音がうねるイントロダクション。 オルガンのリフレインは、既に救いのない暗さに満ちている。 静かに立ち上がり、みるみる高まってゆくヴォーカル。 ベース・ペダルとサックスのユニゾンによるテーマは、不気味だが力強い前進力にあふれる。 ヴォーカルも、ストレートに歌い上げるかと思えば、突然調性を無視したようなシャウトを見せるなど大胆極まりない。 深い空間を意識した演奏は、虚空に放り出された主人公たちの状況を示すのだろう。 変拍子のフレーズでたたみかけるような攻撃性を見せる一方で、不安に満ちたコラージュ風の演奏で闇に漂うなど、展開もアヴァンギャルド。 フリー・ジャズを呑み込んだ強烈な演奏が、次々と飛び出してくる。 そして、明解な流れがないようでいて、暗澹たる雰囲気がしっかりと全体を貫いている。 本アルバムを象徴する大作といえるだろう。 前曲とともに、イタリアン・ロックへの影響ははかり知れない。


  特異な歌詞とヴォーカルを中心とするアンサンブル、そして前衛的なインストゥルメンタルに、いよいよミュージシャンシップの真髄が発揮された傑作。 演奏には、独特のハードネス、ダイナミズム、そしてダークネスがある。 前作で見せたクラシカルな雰囲気は、この暗い演奏へと、とかし込まれているようだ。 比較的ナチュラルで直線的な展開をもつ 1、2 曲目と比べて、後半の 3 曲では、凝った構成と実験性を存分に見せつける。 ヴォーカルと管楽器に明らかなように、演奏は、暗さと同時にジャズ的なしなやかさ/力強さも持っている。 しかし、それ以上に、エキセントリックでアヴァンギャルドな面が強調されている。 バンドは、あと一歩で緊張から失笑へと破綻してしまいそうなポイントで、アクロバチックな反転を繰り返し、ハミルはピエロになる寸前で、青ざめた死神のような凄まじい微笑みを見せ、不可思議な物語を囁きかける。 おそらく、好悪のはっきり分かれるアルバムである。 しかし 4、5 曲目を聴いてのめり込めれば、もう逃げられないはずだ。 また、まったく根拠はないのだが 1 曲目、2 曲目の展開、配置は KING CRIMSON の第一作の「21st」と「I Talk To The Wind」に、よく似たムードを持っているように思う。 フルートが入っているせいだけとも思えないのだが。 また、現在入手できる CD は音がややこもっている。 こういう作風だけに、雰囲気としては悪くないのだが、明晰な音で聴いてみたい気もする。 結論、1 曲目「Killer」だけでも十分元は取れる作品。 ハミルのカリスマ性は、デヴィッド・ボウイを凌ぐ。

(CASCD 1027)

 Pawn Hearts

 
Guy Evans drums, percussion
Hugh Banton organs, piano, Mellotron, bass pedal/guitar, synthesizer, vocals
Peter Hammill lead vocal, guitars, piano
David Jackson saxophone, flute, vocals
guest:
Robert Fripp guitar

  71 年発表の第四作「Pawn Hearts」 。 トータルな色調の統一が感じられる大傑作。 アヴァンギャルドな作風を大作三つに集約した、前期を総括する作品といっていいだろう。 オルガンと管楽器によるアンサンブルは、混沌のうちに神秘を極め、ハミルのヴォーカルは、精神を病む人のように無限の神々しさを放つ。 その質感、重量感は KING CRIMSON の第一作に共通する。 プロデュースはジョン・アンソニー。

  「Lemming(Including Cog)」(11:39)燃え盛る炎のような錯乱の嵐のうちに、空ろな暗闇がぽっかりと口を開く攻撃的作品。 あまりに荒々しく毒々しいオルガン、サックスと、静かで気品あるピアノ、フルートのコントラストがみごと。 ヴォーカルは、多重人格者のような表情を操る。 密度の高い即興演奏がすばらしい。

  「Man-Erg」(10:21) あまりに暗く美しいシンフォニック・バラード。 厳粛なオルガンとモノクロのピアノに彩られたハミルの歌は、苦悩する精神に差しかかる曙光のように力強い。 対して、複合拍子がドライヴするアヴァンギャルドな中間部は、自らのナイーブさを強引に振りほどき、叩き潰すためのものだろうか。 心の暗闇にある邪悪な病魔をふり切れ、動け、そして立ち向かえ。 再び、静かに始まり高まってゆくハミルの歌声に、暗黒を貫くようなサックスが応え、遥か眼下ではオルガンが渦を巻く。 フリーなピアノとパワフルなトゥッティ。 ハミルは虚空へと遠ざかりつつ、歌を残してゆく。 漆黒の大伽藍に壮大な演奏が響き渡り、恐るべき狂気の複合拍子アンサンブルがクロス・フェードする。 しかし、今度は、その強引な響きが賛歌へと変わり、すべてを押し流してゆく。 力強いメッセージを感じる名作である。

  「A Plague Of Lighthouse Keepers」(23:04) 10 のパートから成る大作。 孤独感を灯台守になぞらえた懊悩と慈愛、解脱の寓話であり、永遠の代表作である。 このグループの作品をもし一曲だけ聴くとしたら、この曲だろう。
    「a.Eyewitness
    「b.Pictures Lighthouse
    「c.Eyewitness
    「d.S.H.M.
    「e.Presence Of The Night
    「f.Kosmos Tours
    「g.(Custard's)Last Stand
    「h.The Clot Thickens
    「i.Land's End(Sineline)
    「j.We Go Now

  このアルバム発表後、メンバーはツアーに疲れ、グループ活動を停止する。 同年ハミルは、ソロ活動に専念し始める。 ただし、このソロ作品には、バントン、エヴァンス、ジャクソンらメンバーが参加しており、完全なグループ解散ではないことがわかる。

(CASCD 1051)



  お薦めは、以上の前期の三枚。 すでに、サイケデリック・ロックから抜け出して、夢と現実の狭間のような、暗く重たい世界を構築している。 大音量で聴くと、すばらしい世界が啓ける。 再始動後、後期の四枚は、グループ存続のための苦肉のアルバム「Quiet Zone」以外は、すでにピーター・ハミルのソロ・アルバム的色合いが濃いが、その中でも「Still Life」、「World Record」は、名盤といえるだろう。
  歌詞を眺めると、ピーター・ハミルの作品が、世界と人生に関する真摯な態度がにじむものばかりではなく、SF /怪奇趣味をも横溢していることも分かり興味深い。

 Godbluff

 
Guy Evans drums, percussion
Hugh Banton keyboards, vocals
Peter Hammill lead vocal, guitars, piano
David Jackson saxes, flute

  75 年発表の「Godbluff」。 再結成後、前作から 4 年ぶりの作品。 混沌たる器楽と表情豊かに激しく挑発するヴォーカルを中心とした、ヘヴィな作風である。 唐突ともいえる曲調の変化が、強烈だ。 また、ハミルのギター・プレイも聴くことができる。 ハミルのソロ作品との区別は、すでに困難である。 プロデュースはグループ。

  1曲目「The Undercover Man」(7:25)眩惑的なフルートとつぶやくようなヴォーカルによる、波乱含みのインントロダクション。 ミステリアスながらも背筋が寒くなるほど興奮させられる。 ゆったりとしたクレシェンドで音が満ち渡り、崇高なメロディへとまとまってゆく様子は、「Refugee」などの名品につながる感動がある。 伴奏はピアノ、フルートそしてオブリガートにクラシカルなオルガンが翻る。 丹念なドラミングが、スリルをかきたてる。 クラヴィネット(ギター?)からサックスへと渡る間奏は、すでに彼岸にいる精神と現世に漂う肉体を行き交うような、不思議な感触がある。 変幻自在のヴォーカルが展開をリードし、フルートとピアノ、オルガンによる、控えめながらも的確な演奏が、背景を塗り込めてゆく。 巧みなストーリー・テリングと、凍るような厳かさとあふれ落ちんばかりのロマンが、いかにもこのグループらしい。 名曲。

  クロス・フェードで立ち上がる「Scorched Earth」(9:48)。 ギターのリードするイントロダクションへ、オルガン、サックス、ドラムが同調してゆくカッコいいオープニングだ。 呪いの言葉を吐きかけるようなハミルのアジテーションに、サックス、ギター、オルガン中心のアンサンブルが強力なリフで対抗し、その拮抗とシンクロの絶妙の呼吸で、曲が展開してゆく。 派手なプレイはないのだが、演奏は決してバッキングにとどまらず鋭くダイナミックだ。 中盤、サックスのリードするシンフォニックな全体演奏が、光り輝く。 そして変拍子を用いた全体演奏によるリフは、いかにも VDGG らしい歪な力強さをもつ。 再び力強いメイン・テーマへと戻ると、荒々しいヴォーカルとサックスのバトルが続き、いつの間にか、中盤のサックス・リードのテーマも復活する。 終盤は、二つのテーマが激しくせめぎあう雄大かつワイルドなアンサンブルが、ぐんぐんと高まってゆく。 三つのテーマが綾なす、パワフルかつシンフォニックな作品。 器楽が充実。 これも名曲だ。

  3曲目「Arrow」(9:45)珍しくジャズロック調のジャム・セッションがフェード・インするイントロ。 オルガンが演奏を制し、エフェクトの響きを残して静まると、エレピが物悲しい和音をゆったりと奏で始める。 広がるサックス、フルートも寂しげな音だ。 ヒステリックに歌い出すヴォーカルは、身を削り血を吐くような悲愴感であふれている。 バラードかと思えば、みるみるうちにアジテーションへと変貌し、悪鬼のように怒りを撒き散らすのだ。 アドホックなプレイを続けていたドラムが、パワフルなリズムを刻み始めると、すべてが大きなうねりを成す。 エレピの響きが不吉だ。 いよいよキレたヴォーカルが叫ぶ。 強烈なシャウトを引き継ぐように、サックスのリードするパワフルな全体演奏の間奏へ。 続くヴォーカルを支えるのはサックスだ。 あまりにヘヴィでデンジャラスなヴォーカルである。 エレピの和音がまたも叩きつけられ、ヴォーカルは身を捩るように、呪詛の言葉を吐き散らす。 圧巻。 再びサックのリードで演奏が進む。 エレピ、ギターがつき従う。 複雑なリズムによるインストゥルメンタルが続いてゆく。 ヘヴィなリタルダンド。 エンディングは謎めいた余韻が残る。 スペイシーかつグルーヴィなジャズロック調の演奏と、もはやパンクに近い強烈な調子で叩きつけるヴォーカルのコンビネーションによる、嵐のような傑作。 絶え間なく刻まれるエレピ(クラヴィネット?)の音が、珍しい。 ベース・ペダルも用いられている。

  4曲目「The Sleepwalkers」(10:31)サックスとオルガンによる 8 分の 6 拍子を基調にした変則的なテーマ。 スリリングなオープニングである。 なめらかでリズミカルなテーマと対照的に、ヴォーカルの声はシリアスだ。 沈み込むような音色のオルガンと、軽やかなサックスのコントラストもみごと。 サビでは、サックスがテーマの変奏を奏で、ドラムも鋭くたたみかける。 突如ラテン調のサックス、パーカッションが、ユーモラスに飛び込む。 このラテンのテーマを用いたプレイがしばらく続く。 しかし、すぐにシリアスなユニゾンに戻る。 オルガンのアルペジオとシンバルを打ち鳴らす音が、スペイシーに響く。 しかし、タイトなリズムにのったヘヴィなアンサンブルに取って代わられる。 やがて、演奏は安定した 8 ビートへと移り、力強いサックスのリフとオルガンが重厚に響く。 そして再び激しく叫ぶヴォーカル。 先ほどのラテン調も含みつつ、めまぐるしくメロディ/拍子が変化してゆく。 しかし、アンサンブルは躊躇なく突き進んでゆく。 ヴォーカルばかりが注目されるが、各パートの演奏技術もべらぼうであることがよくわかる。 やがて、泣き叫ぶようなヴォーカルを中心にシンフォニックな曲調へと変化し、最後はオルガンの眩惑的なアルペジオとサックス、シンバルがスペイシーに響き渡って、消えてゆく。 タイトル通り、悪夢的な予測不能の展開を持つ大作。 その変化の相に魅力がある。 軽妙なラテン調への変化は、大胆不敵。


  変拍子を駆使した複雑にしてパワフルなインストゥルメンタルと、ハミルのアジテーションが強烈な傑作。 ダークにして一体感のある、このグループらしいサウンドであり、まさに完全復活といえるでき映えである。 4 曲すべてが、それぞれに独特の光を放つ名曲だ。 メランコリックにして猪突猛進な 1 曲目、シンフォニックな 2 曲目、血を吐くようなアジテーションに絶句の 3 曲目、そして 4 曲目は、狂気のヘヴィネスと軽妙なラテン・ダンスを激しく往復する野心作である。 唯一残念なのは、CD スリーヴに歌詞が印刷されていないこと。

(CASCD 1109)

 Still Life

 
Guy Evans drums, percussion
Hugh Banton organs, bass pedals, bass guitar, Mellotron, piano
Peter Hammill lead vocal, guitars, pianos
David Jackson saxes, flute

  76 年発表の作品「Still Life」。 内省的な歌詞とともに、力強く肯定的なシンフォニック・サウンドが特徴の、再結成二作目。 剥き出しの感性とハードなサウンドの調和は、類を見ないレベルを極め、聴きやすさも含め、本当に傑作といえる作品となった。 プロデュースはグループ。

  オープニングは、「僕らは皆旅人だ」というメッセージを、清々しくも力強く訴えるストレートなナンバー「Pilgrims」(7:12)。 味わい深い歌詞に加え、ファルセット・ヴォイスによるメッセージを繰り返しつつ高揚してゆく、気高きアンサンブルにも胸を打たれる。 ヴォーカルとオルガンとのやりとりが非常に美しい。 シンフォニックな響きが、素直に心に流れ込む。 「Refugee」とともに、道に迷ったときに涙を受け止め、力強く背中を押してくれる作品だ。

  あまりに陰鬱なヴォーカルが切々と語りかける「Still Life」(7:24)は、本グループの代表作といえる傑作。 オルガンを背景に密やかに囁きかけるヴォーカルが、やがて伴奏とともにアグレッシヴに変化し、呪いのように言葉を吐き散らし、パワフルなサックスと激しくせめぎあう。 パンク的な荒々しさを振り撒きながらも、演奏は崇高かつメロディアスである。 圧巻。 凶暴なアジテーションは、終盤にて、再びピアノの調べとともに悩ましく沈み込み、嵐の余韻のような演奏とともに静かに去ってゆく。 明快なクライマックスをもつシンプルな展開にも関わらず、ドラマを感じさせ深い感動を呼ぶ。 演奏は、ヴォーカルにしっかり寄り添い、挑発を繰り返す。 そして、独特のうねりを生んでゆく。 ヴォーカリストとしては、もはや完成されたイメージを与える。 傑作。

  オルガンが印象的な「La Rossa」(9:52)は、珍しくラブ・ソングらしい。 遠回しのほのめかしが、余計にエロティックな内容を想像させる。 しかし、つやのあるサックスとオルガンにあおられるようにハミルが強烈に歌い上げており、曲そのものは、非常に攻撃的なものだ。 パンキッシュに叫ぶヴォーカルと、肉感的でリアルな響きをもつサックスが激しく挑発しあう演奏は、いつのまにか規則的なビートへとシンクロする。 それとともに、演奏に落ちつきも生まれるのだが、再び次第に熱を帯びてくる。 オルガンによる 8 分の 6 拍子のリフレインをきっかけに、サックス、オルガンのユニゾン・リフから、再び荒々しいヴォーカルが復活する。 一体感あるラウドな演奏だ。 アップ・テンポの演奏と、渦を巻くようなオルガンのリフレインを繰り返しつつ、演奏は次第に鋭さと速度を上げてゆく。 シンフォニックにして快調な演奏が、堂々と進み大団円を迎える。 長大だが、最後までテンションの落ちないハードロックである。 ブギー風のノリのよさもある。

  ソプラノ・サックスとピアノによるテーマが美しい「My Room」(8:02)。 低音で呟くヴォーカルが、切ない歌を語りかける。 たおやかに歌うサックスは、痛々しいまでに優美であり、郷愁を誘う。 そのサックスと静かに歌うヴォーカルが、あたかも救いの手を差し伸べるように、優しく重なりあう。切々とした調べが、次第に胸にしみてくるタイプのバラードだ。 過去の栄華にひたる微笑のように、安らかながらも空疎で非現実的なテーマがすばらしい。 ベース・ペダルとピアノが重いユニゾンを刻み、サックスのアドリヴが空ろに響いてゆくエンディングは、暗く果てのない旅を暗示するかのようだ。 胸を掻き毟る、耽美な作品。 初期 GENESIS の諸作と通じる雰囲気がある。

  最後を飾る「Childlike Faith In Childhood's End」(12:24)は、フルートの調べと密やかな語りから始まって、サックスとオルガンのバックアップで次第にヴォーカルが力を得て突き進んでゆく大作。 絶望的な状況を力強く打開しようとする歌詞は、PINK FLOYD にも似た深刻さを持ち、演奏はヴォーカルとオルガン、サックス、ドラミングが一本の流れになって、しなやかにドラマチックに展開する。 伴奏とともに次第に高揚してゆくヴォーカルがすばらしい。 今までハミルの歌に現れたいくつかのキーワードが、この作品ではすべて現れ、いわば彼の精神世界の総決算的な作品となっている。 喉も裂けよと叫ぶハミルに引き金を引かれた、後半のエネルギッシュかつアヴァンギャルドな演奏は、本作世界の緊張をみごとにキープしつつ、アナーキーなヴォーカルに導かれて、宇宙へとしみ出すようにシンフォニックに広がってゆく。 エンディングのヴォーカル・アンサンブルの力強さ。 救済を迎えるエンディングの感動。 初期を思わせる暗黒のシンフォニック・ロックであり、リアルな魂の物語である。 畢生の大作。


  頑固なまでに前衛を貫く姿勢と、楽曲に込められたエモーションがバランスし、自然な流れをもちながらも崇高なまでの力に満ちた音楽となった大傑作。 奇を衒うような不自然さは霧消し、撚り合わされたすべての音が必然であり、一貫した流れが感じられる。 そして結果的に、初期のシンフォニックなサウンドに近づいているのも、興味深いことだ。 ハミルのヴォーカルの表現力は、囁くようなバラードから烈しくアジるハードロックまで、すべてにわたってほぼ円熟に達し、モノクロームの鈍い輝きをもったナンバーに生命を吹き込んでいる。 そして、インストゥルメンタルも、パワフルに前進する演奏からメロディアスにヴォーカルと絡む演奏まで、必要十分の音を配置している。 贅肉を落とし研ぎ澄まされたトゥッティの、なんとすばらしいことか。 ダークでシンフォニックかつ手折れそうなデリカシーを感じさせる名作。 音が明晰である。

(CASCD 1116)

 World Record

 
Hugh Banton manuals & pedals
Guy Evans drums, cymbals, percussion, fingerpop
Peter Hammill vox, Meurglys III, Wassisttderpunktenbacker
David Jackson alto & tenor & soprano sax, accountrements, flute

  76 年発表の作品「World Record」。 苛立つように猛るヴォーカルを中心に、アグレッシヴな演奏が冴えわたり、新たな方向を指し示す好作品。 内省的な部分や切実なメッセージ性が感じられた前作と対照するのは、もう一度怒りを自らかきたてるような、エスタブリッシュされたものへと遮二無二反発するような荒々しさ、そしてその果ての虚脱寸前の表情である。 大きくフィーチュアされるハミルのエレキギターとともに、シンセサイザーも導入されて、インストゥルメンタルにはあたかも黒光りするかのような過激な味わいが備わっている。 歌へと傾いた前二作から、改めて器楽の充実へと揺り戻した感もあり。 ヴォーカルの表情には、さまざまなスタイルの実験の果てに辿りついた、一種独特の虚無感すら感じられる。 それだけに、最終曲の慈愛の響きがいっそう美しい。 プロデュースはグループ。

  1曲目「When She Comes」(7:59)。 ジャズ調のスウィンギーなリズムとともに、サックス、フルート、ハーモニウムらによるフリーなジャム・セッションから始まる。 次第にサックスのリフへと収束し、荒々しくもファンキーなヴォーカルが入ってくる。 アグレッシヴな歌唱を、ジャズ風のテーマを中心に、その発展型であるサックスの力強いブロウと、オルガンによるシンフォニックなオブリガート/伴奏が取り巻き、全体演奏のリフが強烈に攻めたてる。 ギターのコード・ストロークも聞える。 ドラムスの 2、3 拍目のアクセントもユニークだ。 間奏部分では、ワイルドなサックスのソロとともに、控えめながらも、泡立つような金管楽器風のシンセサイザーが奏でられている。 冒頭と同じくサックスのリフの周辺に音が集まり始め、後半が始まる。 ここをぐっと引き締めるのは、意外にもジャジーなピアノのストロークである。 歯をむき出すようなヴォーカル、オルガン/管楽器によるまろやかにしてパワフルな演奏が、一体となって高まり、去ってゆく。
  歌詞の主題は、幽霊のような女性に魅入られた男という、象徴的かつユーモラスなもの。 この歌詞のせいか、ジャズ風のリズムを用いたエネルギッシュにしてシンフォニックな演奏という得意のスタイルにもかかわらず、どこか逸脱した奇妙なタガの緩みが感じられる。 ヴォーカルは、クレイジーにして噛みつくようにアグレッシヴ。 要所でたたきつけるようなギターが入る。

  2曲目「A Place To Survive」(10:02) 淡々と刻まれるリズムに、焼けつくようなオルガンとサックスによるテーマが重なってゆくオープニング。 サム・テイラー風の下品なサックスが印象的だ。 演奏の無表情な感じが、かえって、波乱を予感させる。 ダルでロウキー。 オブリガートで気まぐれに奇声をあげるオルガン、そして、ノリ切らない演奏への怒りを噛み殺すようなヴォーカル。 サビでは、我慢の限界のように荒々しく吠え立てる。 間奏は、サックスがヘヴィで垢抜けない第二テーマを打ち出し、ひずんだオルガンが煮えたぎるように絡みつく。 デュオにもかかわらず、ハーモニーは破綻しかけている。 サックスは、スタッカートのテーマを、荒々しく官能的になぞる。 すべてに、ブルージーというのとも違う、けだるくやるせない感じがあり、そこから、きわめて不機嫌で凶悪な空気が立ち昇っている。 激しく挑発するヴォーカルと一人コーラスによるきわめて荒々しいかけあいを経るうちに、演奏は力をため込み、サックスによる力強い演奏が始まる。 サックスに対抗するのは、刃物のようなきらめきで一閃するシンセサイザー。 再びぶつぶつと煮えたぎるオルガンとサックスがリードするヘヴィな演奏へ。 一気に激しいドラムス連打が巻き起こり、サックスとオルガンがばらばらに金切り声を上げる。 どう考えても破綻寸前である。 そして、とどめを刺すのは、究極の「ドレミファソラシド」ギター。 狂乱し、失神寸前のサックス、唐突な 3 連フレーズで渦を巻くオルガン、修羅の巷をぐいぐいと突き進むドラムス。 エンディングでは、すべてが脱力したかのようにヴォリュームを落とし、ベースが唸りを上げ、そして、すべてが崩れ落ちてゆく。
  豊かな音量のサックス、オルガンがリードするヘヴィなブギー調の演奏と、凶悪なヴォーカルによる殺伐たる雰囲気が特徴のハードロック。 ジャジーなヘヴィ・ロックという稀有の作風であり、70 年代初頭から数々のグループが試みたジャズ、ブルーズ、R&B の融合を、きわめて個性的な形で完成させたといっていいだろう。 FREE にジャズの要素を加えたら、こういう感じになったかもしれない。 エンディングへ向け、狂乱するインストゥルメンタルは圧倒的な破壊力をもつ。 まさに、乱調美の極致である。

  3曲目「Mask」(6:56) メロディアスに歌うサックスを熱っぽいオルガンが支える、ロマンティックでおだやかなイントロダクション。 ここで、こういう音に出会えるとは思っていなかった。 ヴォーカルは、ザラついた声ながら、まるで前曲までのアジるような調子が嘘のような、淡々とした表情に変化する。 それでも、おだやかというよりは、気だるげであり、一暴れしたあとの虚脱状態のように取れなくもない。 ただし、歌い込む力は、まったく変わらない。 そして、どこかデンジャラスな感じが残っているのである。 懐が深い。 オルガンは、しっかりヴォーカルに付き随っている。 珍しくギターのパワーコードが口火を切るサビでは、ヴォーカルにあいかわらずのアジテーション調が復活する。 メタリックなシンセサイザーの響きがアクセントになっている。 間奏は、まずはサックスのリードで走り始める。 やがて、サックスのラインから、オルガン、ギターが離れ始め、それぞれ気まぐれなプレイで走り出す。 ここでも、シンセサイザーが、金管風のシンフォニックな響きで曲調を一転させ、メインパートへの復帰のきっかけとなっている。 間奏を経て、再び、荒々しさの中に空しさを漂わせるヴォーカル・パートへ。 ひずんだギターとオルガンが、ヴォーカルとともに、高く力強く駆け上がる。 ヴォーカルもパワーを取り戻し、豪快に主張を強める。
   荒々しくも繊細な表情も見えるバラード。 序盤と終盤のメイン・パートは、エリック・クラプトンのバラードのようだ。 ギターとシンセサイザーという新たな音の新鮮な質感、そしてヴォーカルの微妙な表情の変化が、興味深い。 力強く一体となったアンサンブルは今まで通りなのだが、新たな境地へと進む可能性を示しているようだ。 個性派ポップスといっていい内容である。 ジョン・レノンを思わせる瞬間もある。

  4曲目「Meurglys V」(20:47)。 キーボードとフルートが気まぐれにフラフラと揺れ動くオープニング。 ほのかに耽美でミステリアスである。 サックスのリードによって、演奏はやがてギターとオルガンによる変拍子のしなやかなメイン・テーマへとまとまってゆく。 反復のたびに、さまざまな音が飛び出したり引っ込んだりと、微妙な変化をつけながら、刻み込むような演奏が続いてゆく。 全体の雰囲気を支える、ドラムのリズムの取り方がみごとだ。 5 分付近で、演奏はいったん軸を失い、浮遊するような呆然と立ち尽くすような様相を見せる。 再びドラムス、朗々たるサックスとともに演奏はベクトルを取り戻し、スローながらも、オルガン、ギターも加わったアドリヴ調の展開が続いてゆく。 哀しげにささやくサックス、そして時おり、素っ頓狂といっていいほどの勢いで牙をむくギターとオルガン。 ギターとオルガンのユニゾンが暴れ、それに続いて、ギターとサックスによる明快なインタープレイが繰り広げられる。 演奏は、変則的なリズムでも難なく、みごとに一体感を見せる。 そして、ハミルの凶暴なヴォーカルが重なってくる。 しだいに高まるテンション。 刺々しくキナ臭い空気。 変拍子のテーマが、狂おしく延々と続いてゆく。 オルガン、ギターのきっかけで激しい決め、そして新たなパターンが生み出され、再び狂乱のアンサンブルが走り出す。 今度はサックスの勢いが強く、フリー・ジャズ的な破壊力が中心だ。 初期の KING CRIMSON を思わせるダイナミックで生々しいアンサンブルが、弾け飛ぶように消えてゆく。 そして、虚脱したギターの弾き語り、モノローグ。 オルガン、ドラムスは、静かにレゲエのリズムを刻み始める。 ギターとサックスによる官能的なリード。 あまりに意外なレゲエへの発展なのだが、不思議なことに、脈絡が感じられる。 音やリズムこそ変化しても、色合いが、全然変わっていないのだ。 サックスとややきまぐれなギターによる軽妙ともいえるやりとり、そして歯切れよいオルガンの和音。ジャジーな安定感を持つサックスに対し、ギターは素人臭さがパンクなテイストを生んでおり、ミスマッチの妙がある。 シリアスかつぶち切れたヴォーカルと、ヘヴィにしてねじくれたインストゥルメンタルが、反復をしつつ変化を遂げ、最期にはレゲエに落ちついてしまうという問題作。 バントンのオルガンによるレゲエ・ビートが、あまりにナチュラルでびっくりする。 最後は、これ以上発展できず、力尽きてゆくような印象すらある。 音楽的な間口の広さを感じさせる 20 分にわたる超大作。 短期間で習得したといわれるハミルのギターが、大きくフィーチュアされている。 歌詞にも人と話すのが不得手になったとあり、それほどギターに打ち込んだということなのかもしれない。

  最終曲「Wondering」(6:35)は、シンガーとしてのオーセンティックな力量を正面から見せつけるハミルを、キーボード、管楽器と丹念なドラムスらが支えるドラマチックな大感動作。 暗黒世界にほのかな反射光を放つシンセサイザーとオルガン、フルートらによるアンサンブルは、GENESIS にも匹敵するクラシカルで幻想的な美しさをもつ。 そこへ、ヒューマンな暖かさと厳格さを併せもつハミルのヴォーカルが加わり、さらに重厚かつ荘厳なイメージを付与している。 「祈り」や「神」といった、人知を超えたものも感じられる。 巧みに盛り上げるドラムは特筆もの。 リヴァイアサンを打ち滅ぼさんと、水平線からめくるめく光とともに立ち上ってくる天上の進軍ラッパの響きのように、歓喜と祝福に満ちた演奏であり、曲調は賛美歌といって差し支えないだろう。 未来への希望か、明るさを孕むシンフォニックな響きが、いつまでも余韻を残す名曲だ。 弦楽系の音や冒頭のフルートのような音など、メロトロンも使われているようだ。


  完成から破壊/再構築と、やむことなく前進を続けようとしたバンドの姿を活写した作品。 すでに完成されていたヴォーカル中心の楽曲に、ギターやシンセサイザー、ヴォーカルの表情など新たな要素を放り込み、既存と新規が軋みをあげながらも突き進む。 その様子は感動的だ。 手持ちをさらに洗練し、新たなものを積極的に取り込むのも、無限の荒野へと踏み出すためである。 また、最後のナンバーは、このアルバムで頂点を極めることを予見した上での、リスナーへの最後のメッセージとも取れるような胸を打つ名曲である。

(CASCD 1120)

 The Quiet Zone/The Pleasure Dome

 
Graham Smith violin, viola
Nic Potter bass
Peter Hammill vocals, guitars, keyboards
Guy Evans drums, percussion
guest:
David Jackson saxes inserts

  77 年発表の作品「The Quiet Zone/The Pleasure Dome」。 さまざまな事情で脱退したヒュー・バントン、デヴィッド・ジャクソン(一部ゲスト参加)に代わる器楽担当として、レーベル・メイトである元 STRING DRIVEN THING のヴァイオリニスト、グラハム・スミスを招き、グループ名も「VAN DER GRAAF」に変更する。 新布陣による起死回生を図ったアルバムである。 (グラハム・スミスとは、ハミルのソロ作「Over」で共演済み) ヴォーカルを中心にした引き締まった演奏による作品が主であり、オルガンによる奥深い音空間がないことで、バンドの作品というよりも、ハミルのソロ作というべきイメージが強い。 前作、前々作よりもエレキギターを抑え、アコースティック・ギター、アコースティック・ピアノによる弾き語りも多い。 常にヴォーカルを取り巻くエレクトリック・ヴァイオリンは、オルガンとは異なる独特の奇妙な(一種コミカルな)味わいをもっており、シリアスなヴォーカルとの微妙な対比、緊張感があるようだ。 それにしても、本作を前にして改めて感じられるのは、彼らの音楽が、プログレだ、パンクだといったレッテルとはほとんど本質的に無関係であることだ。 デヴィッド・ボウイほどスタイリッシュではないが、ナルシスティックな現代の象徴詩人としての存在感は、勝るとも劣らない。 ハミルの歌声に魅せられたファンにとっては、何の問題もなく聴くことのできる内容である。 本作が最後のオリジナル・スタジオ・アルバムとなり、グループは 78 年に解散。 プロデュースはピーター・ハミル。 各曲も鑑賞予定。

  「Lizard Play」(4:29)
  「The Habit Of The Broken Heart」(4:40)
  「The Siren Song」(6:04) バラードの名品。
  「Last Frame」(6:13)
  「The Wave」(3:14)
  「Cat's Eye / Yellow Fever(Running)」(5:20)
  「The Sphinx In The Face」(5:58) ハミルらしいアコースティック・パンク。軽妙なノリもある怪作。リズムも乱れ捲くり。クライマックス。
  「Chemical World」(6:10)
  「The Sphinx Returns」(1:12)前々曲のリプライズ。

(CASCD 1131)

 Vital / Van Der Graaf Live

 
Graham Smith violin
Nic Poter bass
Peter Hammill vocals, guitars, keyboards
Guy Evans drums
Charles Dickie cello, keyboards
David Jackson saxes, flute

  78 年発表の作品「Vital / Van Der Graaf Live」。 解散後発表されたライヴ・アルバム。 パンク入ってます。 エレキギター、ヴァイオリン、チェロそしてヴォーカルすべて凶暴。「Still Life」は、光り輝く。 オリジナル LP は、二枚組。 日本盤 CD では、さらに「Sci-Finance」、「Nadir's Big Chance」の二曲が追加されているそうです。

  「Ship Of Fools」(6:43)シングル「Cat's Eye」B 面曲。
  「Still Life」(9:42)同名アルバムより。
  「Last Frame」(9:02)アルバム「The Quiet Zone/The Pleasure Dome」より。
  「Mirror Images」(5:50)ハミルのソロ作「PH7」より。
  「Medley」(13:41)
    「Plague Of Lighthouse Keeper's」()アルバム「Pawn Hearts」より。 ピアノとヴァイオリンによるオープニングが美しい。
    「The Sleepwakers」()アルバム「Godbluff」より。 綴りが間違ってます。
  「Pioneers Over 'C'」(17:00)アルバム「H To He Who Am The Only One」より。
  「Door」(6:00)新曲。
  「Urban part 1.- Killer (section)- Urban part 2.」(8:20)新曲。 中間部はアルバム「H To He Who Am The Only One」より。

(CVLCD101)

 Time Vaults

 
Peter Hammill vocals, guitars, keyboards
Guy Evans drums
Hugh Banton organ, bass pedals
David Jackson saxes, flute

  85 年発表の作品「Time Vaults (Unreleased tracks 1971-75)」。 解散期の録音も含まれる、VDGG 時代の未発表曲集。 ヴォーカルとサックスの一部が、オーヴァー・ダビングされている。 後半の迫力が音質を補ってあまりある作品だが、カタログ志向のヘッドフォン・フリークには、あまりお薦めできない。 イマジネーションとユーモアに富んだ中毒リスナーにのみ、贈られたプレゼントである。 「Roncevaux」は、オリジナル・アルバム収録曲と遜色ない濃密な作品。 深みのあるハミルのヴォーカルとサックスが迸る、VDGG らしいナンバーである。 「It All Went Up」は、ホルストの火星を思わせる狂乱のインストゥルメンタル。 インストゥルメンタル「Faint And Forsaken」も、オリジナル・アルバム収録曲のモチーフとなっているように思える。 小曲だが圧倒的な迫力である。 「Black Room」も傑作。CD ジャケットは二種類ある。

  「The Liquidator」(5:24)ヴォーカル・ダビング。73 年録音。
  「Rift Valley」(4:40)ヴォーカル・ダビング。75 年録音。
  「Tarzan」(2:09)74 年録音。
  「Coilnight」(4:12)サックス・ダビング。即興。75 年録音。
  「Time Vault(Miscellaneous)」(3:33)カットアップ録音のコラージュ。
  「Drift(I Hope It Won't)」(2:40)72 年録音。
  「Roncevaux」(6:55)ヴォーカル・ダビング。72 年録音。
  「It All Went Up」(4:07)71 年録音。
  「Faint And Forsaken」(2:45)即興。75 年録音。
  「Black Room」(8:52)72 年録音。
(PHRL014CD、CDTB 106)

 First Generation

 
Peter Hammill vocals, guitars, keyboards
Guy Evans drums
Hugh Banton organ, bass pedals, guitar, Mellotron, piano
David Jackson saxes, flute
Nick Potter bass

  86 年発表の作品「First Generation」。 セカンド・アルバムから三枚の、いわゆる前期の作品からのベスト・コンピレーション・アルバム。 シングルのみだった「Theme One」が聴けるのがうれしい。

(COMCD 2)

 Second Generation

 
Peter Hammill vocals, guitars, keyboards
Guy Evans drums, percussion
Hugh Banton organ, bass pedals, guitar, Mellotron, piano
David Jackson saxes, flute
Nic Potter bass
Graham Smith violin, viola

  86 年発表の作品「Second Generation」。 再結成後から四枚の、いわゆる後期の作品からのベスト・コンピレーション・アルバム。

(COMCD 3)

 I Prophesy Disaster

 
Peter Hammill vocals, guitars, keyboards
Guy Evans drums
Hugh Banton organ, bass pedals, guitar (tracks 1-8)
David Jackson saxes, flutes (tracks 1-8, 10)
Keith Ellis bass (tracks 1, 2)
Nic Potter bass
Graham Smith violin (tracks 9, 10)
Charles Dickie cello, keyboards (track 10)

  93 年発表の作品「I Prophesy Disaster」。 二つの時代をカヴァーする、前出二枚のベスト・アルバムの補遺プラスシングル曲集。

  「Afterwards」アルバム「The Aerozol Grey Machine」より。
  「Necromancer」アルバム「The Aerosol Grey Machine」より。
  「Refugees」シングル版。 フェード・インや華麗なストリングス、チェンバロなどアレンジが異なる。 アルバム版は「The Least We Can Do Is Wave To Each Other」に収録。
  「The Boat Of Millions Of Years」シングル「Refugees」の B 面。 初 CD 化。 (LP ではベスト盤「68-19」(Charisma CS2)に収録)
  「Lemmings(including Cog)」アルバム「Pawn Hearts」より。
  「W」シングル「Theme One」の B 面。
  「Arrow」アルバム「Godbluff」より。
  「La Rossa」アルバム「Still Life」より。
  「Ship Of Fools」シングル「Cat's Eye」の B 面。 スタジオ版。 吐き捨てるようなヴォーカルとエレキギターが強烈。
  「Medley(parts of "A Plague Of Lighthouse Keepers" and "Sleepwalkers")」アルバム「Vital /Van Der Graaf Live」より。

(CDVM 9026)

 Maida Vale(The BBC Radio One Sessions)

 
Peter Hammill vocals, guitars, keyboards
Guy Evans drums
Hugh Banton organ, bass pedals, guitar
David Jackson saxes, flutes

  94 年発表の作品「Maida Vale (The BBC Radio One Sessions)」。 71 年から 76 年にかけての BBC スタジオ・ライヴ音源集。 曲目はすべてオリジナル・アルバム収録。

(SFRSCD 064)



  雑談。 僕は、まず初期のベスト盤から入って、「World Record」、「Pawn Hearts」の順で聴いていった。 第一印象は、普通ならギターが出るような場面で代りにサックスがふんばり、初期 KING CRIMSON にも似た、渦を巻くような曲調になるところがおもしろい、ということだった。 独特の暗い雰囲気と、いわゆる即興とも異なるグループの一体感から成る、ひきずるようなヘヴィーな演奏、そして暗いが艶のあるヴォーカルは、いかにもブリティッシュ・ロックらしいとも思った。
  ただ、彼らの音楽をいわゆるロックと決めつけてしまっていいのだろうか、という思いもある。 彼らの音楽は、ユニークなテーマをもつ詩歌を強力な器楽が取り巻くスタイルであり、その器楽も、主題を怪奇に彩る以外は自己主張というにはあまりに衝動的で過激なものだ。 曲構成はシンプルなようで複雑。 前衛音楽といって間違いないものである。
  ロバート・フリップが参加しているアルバムがあるせいか、KING CRIMSON と並べて、演奏のヘヴィさを語られることが多いような気がする。 しかし、両グループには大きな違いがあるのではないか。 このグループは、KING CRIMSON ほど作品毎にさまざまな顔を見せてはくれないし、演奏技術そのものをさほど重視してもいないようだ。 とにもかくにも、ハミルの思いと物語をどうやったら効果的に伝えられるか、が作曲と演奏の力点のようである。 詠唱に耳を傾けないリスナーがいたならば無理矢理にでも耳に捻じ込むためにエネルギッシュな演奏を繰り広げる、いわば過激な詩人のパフォーマンスなのだ。
  PINK FLOYD には、詩人にして意識家のロジャー・ウォーターズがいて、自分の思い入れを延々作品にしていた分けだが、デイヴ・ギルモア以下のメンバーのプロ根性が、娯楽としての作品というスタンスで抽象的な思いとバランスを取り、その結果、セールス的にはとてつもない成功を収めた。 VDGG に、このギルモアにあたる人物がいたのかどうかは知らないが、結局コマーシャルな成功は収められず、グループは解散してしまう。 その一方で、リーダーであるハミルは、コマーシャルな面はどこ吹く風でソロ・アルバムを製作し、自分の思いを延々と歌い続けている。 たとえ外的な要因がなくとも、このグループの音楽の成り立ちからいって、解散は時間の問題だったのかもしれない。 しかし、それでもなおグループとしてもっと活動していたらどうなっていたのだろう。 ハミルのセンスからして、さらなる傑作が生まれたのではないだろうか。
  ハミルの唱法は、ささやくように語りかけるかと思えば、激しくアジり倒す、ファルセットを使うなどきわめて多彩なものだ。 役柄に徹した演劇的な表情も見せる。 ただし、あくまで優れた声質を活かした本格的なイメージを与えているところが、この人の特徴だ。 ピーター・ゲイブリエルが、声量と声質をカヴァーするためもあって演劇的なスタイルを取り入れたのとは、少し事情が異なる。 ゲイブリエルのフォロワーがたくさんいるのに対して、ハミルのスタイルがさほど明らかには受け継がれていないのは、そのオーセンティックな歌唱を真似ることが難しいためだろう。 もっとも、激しくアジるスタイルが、初期のパンク・ロッカーに影響を与えてはいるようなのだが。



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