UNIVERS ZERO

  ベルギーのチェンバー・ロック・グループ「UNIVERS ZERO」。 74 年ダニエル・デニとロジェ・トリゴーを中心にブリュッセルで結成。 78 年アルバム・デビュー。 87 年解散。 五枚のアルバムを残す。 MAGMA の影響に始まり、RIO に参画して HENRY COW らの薫陶も受けつつ独自の「室内楽ロック」に磨きをかけた。 98 年のリユニオン・ライヴを契機に再編、99 年末から、すでに三作を発表。2012 年来日。 2006 年、初のフル・ライヴ・アルバム発表。

 1313

 
Michel Berckmans bassoon
Daniel Denis percussion
Marcel Dufrance violin
Christian Genet bass
Patrick Hanappier violin, viola, pocket cello
Emmanuel Nicaise  harmonium, spnet
Roger Trigaux guitar

  77 年発表の第一作「1313」。 84 年の再発にあたり、表題を「Univers Zero」から改め、リミックスを行った。 CD もこの版を採用している。(2008 年現在、新ミックスの CD も存在する) ジャケットは、左が CUNEIFORM 発の CD、右がオリジナル LP のもの。 編成は、バスーンと弦楽器、鍵盤楽器のアンサンブルにエレキベース、ギターとドラムス、パーカッションが加わった、文字通り、室内楽アンサンブルとロック・バンドの融合体である。 演奏は、多様な楽器の音質のヴァリエーションを活用し、変拍子パターンの反復や、現代音楽的な無調/不協和音を駆使した複雑怪奇なものである。 音圧やスピード感はさほどではないが、悪夢のように執拗にまとわりつくタイプの音といえるだろう。 きわめて厳格なのだが、どこか逸脱したようなところもあるという不思議な特徴をもつ。 以下各曲を鑑賞してゆこう。

  「Ronde」(14:45) いくつものシリアスな変拍子反復パターンからなる恐怖に満ちたロンド。 導入部、リズムがリフに合わせて複雑に変化する中間部 1、ヴァイオリンがクライマックスに達する中間部 2、轟音の決めの後アンサンブルが形を取り戻しエンディングに向かう最終部の 4 部から成る明確な構成を持つ。 中間部 1 の狂気じみた変拍子アンサンブルと中間部 2 の恐怖が窮るクライマックスは凄絶の一言。 最終部、次第に秩序が復活する様子は感動的ですらある。 フレーズ、アンサンブル、すべてにわたり暗いパワーが満ち溢れている。 恐怖感と高揚感が交錯し、心底疲弊する。 デニの作品。

  「Carabosse」(3:40) バスーンとヴァイオリンが気味悪いハーモニーを成して進み、ドラムスが厳しく音を入れ込みビートを強調する。 小品だが峻厳だ。 デニの作品。

  「Docteur Petiot」(7:25) 前半は狂気のアンサンブル。 一旦小康状態になるが、再び狂気を迸らせてゆくところで終わる。 すでに前半で十分疲れているので、思わずほっとする。 トリゴーの作品。

  「Malaise」(7:42) 切れ味鋭くアクセントの強いリズミカルなパッセージが絡み合うアンサンブル。 胸のすく過激さである。 KING CRIMSON を思わせる部分もある。 疾走するユニゾンと急激な停止、そして狂おしい決めの連続がめまぐるしく展開し、緊張を強いられる。 トリゴーの作品。

  「Complainte」(3:18) 最後までドラムレスで進行し、弦楽とバスーン、ハーモニウムの暗いアンサンブルを聴かせる曲。 バスーンの音色豊かな旋律と中間部のヴィオラの思い切った旋律が印象的。 デニの作品。


  恐怖の暗黒室内楽。 緊張感のある弦の音に、生々しいバスーンとパーカッシヴな音が加わることで、非常に不気味で強迫的な音楽になっている。 リズム・セクションの存在は、この音楽を特徴付ける上できわめて重要である。 また、我関せず風のとぼけた音をもつバスーンと、凄まじいまでの深刻さをもって迫るヴァイオリン/ヴィオラの対比も面白い。 オープニングの「Ronde」における、重量感あるドラムスとともに迫る狂気のアンサンブルには、背筋が寒くなり、心臓が締めつけられるような恐怖を覚える。 まさしく悪夢の BGM だ。 「Malaise」は、驚異的なテクニックを認められる、スピーディかつトリックに満ちた曲。 しかし、全編を貫くのは、暗闇で牙を研ぐ異形のパワーであり、最後まで緊張を解かずにスピーカの前で音楽と対峙しなくてはならない。 ポー、ラヴクラフトの系譜にあるべき音である。

(CUNEIFORM RUNE 20 CD)

 Heresie

 
Michel Berckmans oboe, bassoon
Daniel Denis drums,percussion
Guy Segers bass, voice
Patrick Hanappier violin, viola
Roger Trigaux guitar, piano, organ, harmonium

  79 年発表の第二作「Heresie」。 ジャケットは、左が CUNEIFORM 発の CD、右がオリジナル LP のもの。 ヴァイオリンとキーボード奏者が脱退し、ベースはギ・セガーズに交代。 ロック・トリオに、管弦一人づつの五人編成である。 内容は、三つの大作で迫る暗黒ゴシック・チェンバー・ロック。 精密なドラミングとハーモニウムのドローンに支えられ、木管とヴァイオリンが悲鳴をあげる怪奇の宴である。 管弦による不気味な伸音と力強い打撃音の組み合わせが、ロック的なドライヴ感を生み出しており、アンサンブルは闇の力を得たような荒々しさで唐突に驀進し始める。 眩暈がするような変拍子は当然だ。 呪術的なアジテーションが先導するゴシック・ホラー調の 1 曲目は、ただただ強烈。 渦巻く呪いの調べは、胎教には絶対不向き。 ジャケットは再発盤のものであり、CD でも採用されている。 各曲も鑑賞予定。

  「La Faulx」(25:18)サステインを活かした不気味なドローンが重なり合い、やがて古の機械が蒸気を吹き上げて狂ったように歯車を回し始める。 前半はノイズを有効に使って演出するゴシック・ホラーそのもののようなパフォーマンスである。 中盤は、変拍子のリフの上で木管やヴァイオリンが挑戦的なアンサンブルを繰り広げる。 デニの作品。
  「Jack The Ripper」(13:29)デニ、トリゴーの作品。
  「Vous Le Saurez En Temps Voulu」(12:56)トリゴーの作品。

(CUNEIFORM RUNE 29)

 Ceux Du Dehors

 
Michel Berckmans oboe, bassoon, English horn
Daniel Denis drums, percussion
Guy Segers bass, voice
Patrick Hanappier violin, viola
Andy Kirk piano, organ, harmonium, mellotron

  81 年発表の第三作「Ceux Du Dehors」。 邦題は「祝祭の時」。 ジャケットは、左が CUNEIFORM 発の CD、右がオリジナル LP のもの。 暗く邪悪なイメージを民族音楽や室内楽、さらにはロック的なリズムなどを総動員して作り上げた、戦慄の 45 分である。 オリジナル・メンバーのギタリスト、ロジェ・トリゴーは、本作収録前に PRESENT 結成のため脱退、代わって専任キーボーディストのアンディ・カークが加入した。
   刻みまくるドラムスとともに一度走り出せばピアノとバスーン、ベースらの低音部が変拍子による圧倒的な推進力を見せ、その上で、ヴァイオリン、オーボエらの旋律パートが尋常ならざる緊張感を高めてゆく。 室内楽的な均整を超えた過剰なアクセントや無機的なフレーズもあり、現代音楽の影響は強そうだ。 そして、特筆すべきは、ロック的なダイナミズムのある展開である。 強いビート感とヴォリューム/テンポの変化を用いて明確なドラマを生み出しているのだ。 個人的には、ミニマルな面をもちながらも比較的つかみやすい流れがあること、アンサンブルの明解さといった特徴から、きわめて重苦しい音楽にもかかわらず意外に取りつきやすかった。 ニューウェーブだ、テクノだと喧しい世の音とは完全に隔絶した孤高の暗黒音楽だったのだろう。

  「Dense(濃厚)」(12:23)。 室内楽的な編成でダイナミックなロックを演じた名曲。 扇動する複合拍子の上でヴァイオリンやバスーン、オルガンらテーマが交錯し、呼応し、絡みあいながら疾走してゆく。 インダストリアル系やハードコア・パンクに比べれば音圧は低いかもしれないが、邪悪さを前面に出した異様な音は特筆すべきである。 音にあたかもガラスをひっかくような神経を逆なでするタッチがある。 ドラムスのビートが抑えられた場面では、オルガンによる反復パターンの上で管弦楽器が謎めいた調べでうねり続ける。 極めつけは、深刻さと表裏一体をなった怪奇なナンセンスさを放つバスーンである。 その一種呆けたような、意味を失わせるような響きが強烈だ。 変拍子でたたみかける「動」の部分と不気味過ぎる「静」のコントラストを際立たせつつ演奏は走り続ける。 最初のクライマックスを通過し、静寂の中オーボエをきっかけに、長い斜面を登るように着々と勢いを獲得してゆくアンサンブル。 圧倒的だ。 そして、クライマックスで軽やかにすべりだす演奏が湛える異形の美。 輝かしき狂気をはらむ昂揚感という点で MAGMA と共通しながらも、重低音圧迫爆走型ではなく、邪気を飛び散らせながらも室内楽アンサンブルのイメージをとどめている。 変拍子で邪教の呪文を迸らせながら隙あらば軽々とソロで飛翔しようとする管弦をドラムスが地につなぎとめている。 これはいわば、百鬼夜行の御囃子である。 大きく緩やかなクレシェンド、デクレシェンドの生むスケール感もある。 ハーモニウムによるペーソスと暖かみのある音すらも、かえって不気味さを煽る。 チェンバー・ロックの代名詞足りうる傑作。 メロトロン・ストリングスは前半で現れる。

  「La Corne Du Bois Des Pendus(コルヌ・ドゥ・ボア・デ・ペンドゥス村)」(8:38) ドラムスを控え、キーボード、ヴァイオリン、木管楽器によるゆっくりとねじを巻いてゆくようなアンサンブルを主役にした作品。 重厚なテーマにミステリアスな旋律が次々と重なってゆく。 管弦、キーボード、ヴォカリーズのサスティンのある音を活かし、静かに妖気を膨らませてゆく。 まさに暗黒の室内楽、いや邪教の祝詞か死神の楽隊か。 バルトーク風のバーバリズムも感じられる。 オーボエとヴァイオリンは恐るべきデュオを成し、死霊の喚きのようなヴォカリーズが轟く。 途中 5 分付近で、背景にざわめきのような SE が入る。 これは、タイトルにある村の様子を現しているのだろう。 終盤は、オーボエとオルガン、ベースによる闇夜の夜空に向かって何かを呼び寄せるような、おぞましくも輝かしき演奏が続く。 1 曲目を「攻め」とするとこちらは「守り」なのだが、その「守り」も恐ろしい。 しゃれこうべの真っ暗な眼窩の向こうに広がる深宇宙、そんなイメージの作品である。

  「Bonjour Chez Vous(こんにちは、諸君)」(3:48)。 ドアが開くとともに、ピアノが刻む奇妙なリフが支えるバスーン、ヴィオリンらによるユーモラスなアンサンブルが動きはじめる。 調子っ外れでめまぐるしく変化する変拍子アンサンブルであり、現代音楽調である。 2 曲目から一転し、ビート感が強く、攻撃的で、強弱、高低の急激な変化による衝撃が強い。 捲くし立てる変拍子トゥッティに目眩がしそうだ。 弦と木管によるヒステリックにして艶かしい交差とアラレがばらまかれるようなピアノ。 小気味のいい呼応とインタープレイによる明快さは演奏者のスコア解釈の正しさを示している。 最後はドアがきしみながら閉まる。 1 曲目をコンパクトにしたような超高密度の演奏。 シェーンベルグ風のピアノが顔をのぞかせる。

  「Combat(戦闘)」(12:50)。 サスティンを活かした管弦の旋律部と低音及びドラムスのリズム部が自らの役割を熟知して力を解き放った傑作。 「Dense」がせわしないトゥッティを駆使したドライブ感重視の作品であったのに対し、こちらは、深刻さと強迫さは同等ながらも演奏全体に色彩がある。 ポリフォニーも抑揚も変化に富んでいる。 全楽器がフル・スロットルで運転しながらも、KING CRIMSON の作品に通じる神秘的な調和がある。 最初のクライマックスに続くピアノとオーボエのデュオ、ヴァイオリンとオーボエのソロは、完全に現代クラシック。 狂乱の果ての幻想夢のようなメロトロンの調べが描く怪奇小説風の場面もある。 再び演奏は激しい変拍子リフレインへとなだれ込み、すべてを圧倒しようとする。 それでも、音響には輪郭があり、美しく、息遣いもあり、迫力だけではないアンサンブルの妙がある。 ハーモニウム、ヴァイオリン、オーボエによるトリオへ。 ここでは、不安定さの中で優美さがクローズ・アップされる。 ファルセットのヴォカリーズが加わるにいたっては、MAGMA を連想せざるを得ない。 やがて、三度演奏は激しいトゥッティへと流れ込み、きわめて MAGMA 的な暴走を続ける。 躍動する輝かしき狂気、止むことのない蠢動。 最後まで無言劇の劇伴音楽のようにドラマティックである。

  「La Musique D'enrich Zann(エーリッヒ・ツァンの音楽)」(3:25)。 ノイジーな擦過音が次第に渦を巻いてゆく。 じりじりと迫りくる処刑台の刃、はたまた地獄の作業場で蠢く怪しい機械。 閾下で渦巻くノイズが遂に表面へと粘つく触手を伸ばし、最後の理性を奪い取ってゆく。 完全な即興であろう。 タイトルはもちろんラブクラフトの作品から。 怖いです。

  「La Tete Du Corbeau(烏の頭)」(3:08) 低音を強調した管弦楽風の重厚なるオープニング。 厳かというには圧迫感が強くあまりに重苦しい。 ピアノのトリルが耳に残る。 異教の王との謁見か、極刑の判決が為される法廷か。 軋むような重低音の振り子の上でオーボエもハーモニウムもうっすらと流れるのみである。 暗い音の上にヴァイオリンとオーボエが流れ出し、低音との静かな呼応が始まる。 じわじわと歩を進むアンサンブル。 真っ暗な音の群れが飛び出そうとしたその瞬間、いらつくようなピアノに断ち切られる。 狂おしいピチカート、弦の響きと対を成して地を穿つベース。 ほのかな灯りが見える。 ドラムレス。

  「Triomphe Des Mouches(蝿の凱旋)」(5:34)。 メンバー脱退後残った、デニ、カーク、セガーズの 三人で録音された CD ボーナス・トラック。 恐怖に満ちた低音ノイズから喘ぎ声を経て、地を這うが如きリズムが刻まれる。 ピアノの危険なリフレイン。 あまりに轟々たる低音とともに地獄へまっしぐら。 ピアノの変拍子リフレインによってアンサンブルは昂揚する。 荒い息のようなヴォイスと止めを刺すようなドラムス。 噴出する狂気の如きピアノ。 急旋回を繰り返し、メールストロムの直中へと進んでゆく。 動悸すら変拍子に陥りそうになる、その瞬間に急激なポーズ。 「蝿」は間違いなく魔神「蝿の王」を意味するのだろう。 悪夢から覚めたような後味の悪さを残す、怪奇な音楽性をコンパクトに表現した佳作。


  音は暗黒ゴシック指向、アンサンブルは室内楽、たたみかけるような展開はロック。 こういってしまうといかにもキワモノだが、高度な作曲と充実したテクニックが、音楽にありきたりでないリアルな重みと優れた芸術性を与えている。 ヘヴィさだけではなく、ここまで徹底して奇怪であることがすごい。 本作は、キーボードの存在感にも注目すべきだろう。 お薦めは(ライナーと同じになってしまったが)、音楽を一通り俯瞰できるということで「Combat(戦闘)」と「Dense(濃厚)」。 「Troimphe Des Mouches(蝿の凱旋)」も入れておこう。 曲のタイトルからは、ポーや梶井基次郎など、精神を削って狂気とともに芸術の至高を極めた文学作品をイメージさせる。 底知れぬ暗闇にいながら、力強く蠢くパワーがあり、いつしか無尽蔵のエネルギーとともに輝かしい狂気を爆発させる。 暴走する室内楽といえるだろう。 名盤。

(CUNEIFORM RUNE 39)

 Crawling Wind

 
Daniel Denis drums, percussion, voice, violin, piano, harmonium
Dirk Descheemaeker clarinet, bass clarinet, casio
Andy Kirk piano, organ, sythesizer, voice, viola, music box, percussion, harmonium, radio, guitar
Guy Segers bass, voice, violin, invisible voice, flies talk, percussion
Alan Ward violin
Christian Genet bass on 6
Andre Mergenthaler cello on 6
Jean-Luc Plouvier keyboards on 6
Michel Berckmans oboe & bassoon on 7
Patrick Hanappier violin on 7
Roger Trigaux guitar on 7

  83 年発表の第四作「Crawling Wind」。日本でのみリリースされた 3 曲入り EP。 内容は、クラシカルかつ民族音楽的な部分もある変拍子アコースティック・ロック。 怪奇な管弦に鍵盤が揺らぎを与え打楽器が扇動する作風である。 鋭いビートを推進力に、各種楽器による変拍子パターンの反復を幾重にも織り込んでいる。 もっとも、不気味なだけではなく、耽美で繊細な美感を訴える箇所も多い。 そういうところではアンディ・カークのピアノに存在感あり。 邪悪さはモーメント/密度よりも神秘的な広がりとして、冷気とともに拡散してゆく。 クラシックの素養があるメンバーはごく一部らしいが、楽器を手にとって自分の感覚でこれだけのものを描き出せるのだから、たいしたものだ。 オリジナル EP に収録された 3 曲は、他アルバムの作品を含めても上位に入る出色の作品だと思う。 ジャケット裏の毛筆による「宇宙零」の文字が不気味。(書体が美しくて不気味なのではなく、下手で不気味) 2001 年トラックを追加して CD 再発。 既発曲のライヴ録音も迫力ある演奏だ。

  「Toujours plus à l'Est」 (5:29) デニの作品。 管弦のレガートと打楽器系の極太なピートとピアノによるきらめきが胸を厚くする「陽」のチェンバー・ロック。 渦巻くフォークダンス変拍子の間隙をぬう木管の表現力がみごと。
  「Before The Heat」 (4:03) カークの作品。寒々しく怪奇なサウンド・スケープ。 開くべきでない扉が開く音、もはや動かないはずの脚が踏むステップ。もはや笑わないはずのものが笑い出し、濃い霧とともに百鬼夜行が現れる。
  「Central Belgium in the Dark」 (9:50) グループの作品。ミステリアスなインプロヴィゼーション。 ラジオらしき効果音も使われている。 KING CRIMSON の即興と異なるのは、ハーモニウムによるサスティンと主として木管による管弦楽色。 中盤から墓場のパーティのようなコミカルかつ怪奇なアンサンブルと化す。 キーボードのサウンドを肌理細かく使い分けて効果を上げている。

  「Up or Down」 (4:48)デニの作品。日本盤 CD ボーナス・トラック。82 年ベルギーでのライヴ録音。カンタベリー風味もある厳かな佳曲。
  「Influences」 (7:36) カークの作品。レコメンディッド・レコード・サンプラーより。非常に「らしい」スリリングな演奏。
  「Triumphe des Mouches」 (9:51)デニの作品。第三作より。84 年ドイツ・ハノーヴァーでのライヴ録音。 主役はキーボードとドラムス。強引に進むイメージが怖い。発狂したヴァイオリンとともに遮二無二突進してゆく。
  「Complainte」 (5:28)デニの作品。第一作より。79 年ベルギーでのライヴ録音。 ベックマンのオーボエ、バスーンとヴィオラ、ハーモニウムによる神秘的なアンサンブル。ロジェ・トリゴーのギターの音が分からない。

(CUNEIFORM RUNE 155 CD)

 Uzed

 
Daniel Denis drums, percussion
Dirk Descheemaeker soprano sax, clarinet, bass clarinet
Christian Genet bass, balafon, tapes, whistle, bowed guitar
Andre Mergen cello, alto sax, voice
Jean-Luc Plouvier electric & acoustic piano, synthesizer, piano strings, percussion
guest:
Michel Delory guitar
Marc Verbist violin

  84 年発表の第四作「Uzed」。 メンバーを刷新し、ゴシック室内楽を基調にするもエレクトリックなサウンドも積極的に用いて、前作よりもダイナミックで俊敏な演奏を見せる作品。 新しい木管奏者は加入しているが、ベルクマンの不在はそのまま室内楽的なニュアンスの減退につながっているようだ。 モダン・クラシック風の厳格なアンサンブルというイメージに加えて、運動性と弾力に優れたジャズ・ロックというイメージも現れている。 つまり、これまではディオニソス的世界観にどっぷりだったが、本作では若干だがアポロンの方向にも眼を向けるようになった、ということだ。 ロック的なビートを強めたドラムスとメタリックなスラップを多用するベースがアンサンブルを力強く駆動し、その影響か、金管楽器の演奏にフリー・ジャズ的な爆発力がある。 幾何学的な構築性は SOFT MACHINE に接近していないだろうか。 その一方で、木管/弦楽とともに多様なキーボードがクラシックのイメージをキープする。 特に、怪奇な弾力を持つ演奏にクールな秩序と安定性を付与するピアノの存在感が大きい。 管絃楽器による狂おしくもつれる演奏がいやがうえにも緊張感を高め、モノクロのゴシック様式と毒々しい色彩のアヴァンギャルド・ジャズの間を絶え間なく揺れ動いている。 ピアノとギターがフィーチュアされた 3 曲目は、美しくも恐怖に満ちた傑作。 5 曲目の大作は、シンフォニックな昂揚感もあるゴシック・ロマン。 シンセサイザーと金管の光沢のある響きが、重厚な演奏にきらめくような新しい魅力を加えている。 全作品デニによる。
   全体に MAGMAKING CRIMSONSOFT MACHINE といったグループの音楽性に共通する面もある充実した内容なので、プログレ・ファンには聴きやすいはず。

  「Presage」(9:48)変拍子パターンのテーマが折れ曲がったまま解き放たれてゆく傑作。 邪悪さ、悪辣さとは少し違う無機性と抽象性さらには若干だが開放感もある。 メロトロンに似た音も。

  「L'Etrange Mixture Du Docteur Schwartz」(3:52)前作の作風に近い怪奇モノ。

  「Celesta(for Chantal)」(6:55) シンフォニックな広がりを見せる美しい作品。個人的には、VdGG の初期作品との共通性を感じた。

  「Parade」(6:37)スピーディな演奏に新境地を見せる傑作。木管が冴える。

  「Emmanations」(15:43)キーボードを活かしたヘヴィ・シンフォニック・チューン。突き進む力、断ち切る力、解き放つ力、これらの拮抗の上に、呪いと祈りのエッセンスを注ぎ込んだ痛快作である。室内楽でサイケデリック・ロックと同じ効用を(ドラッグなしで)成し遂げた曲です。 エピローグ直前、一瞬の爆発で溜飲を下げてください。ところで、Emmanation というのはどういう意味なのでしょう。

(CUNEIFORM RUNE 15 CD)

 Heatwave

 
Michel Delory guitar
Daniel Denis drums,percussion, voice
Dirk Descheemaeker soprano sax, clarinet, bass clarinet
Christian Genet bass, nailsnake
Patrick Hanappier violin, viola
Andy Kirk piano, sythesizer, voice
Jean-Luc Plouvier piano, sythesizer, voice

  87 年発表の第五作「Heatwave」。 最終作。 ヴァイオリン、キーボードのメンバーが復帰し、ギターも正式メンバーとなって再び大所帯となる。 アコースティックなゴシック室内楽路線とエレクトリック・サウンドの融合はここに極まれり、インダストリアル・ミュージック的なサウンド傾向も現れる。 小刻みにたたみかけるドラムス、ヘヴィ・メタリックなギター、凶々しいヴァイオリン、狂気を孕んで絶叫する管楽器、金属的に振動するキーボードが綾なすアンサンブルには、異様な圧迫感のみならず、常軌を外れた逸脱感がある。 電化の度合いは強まったのだが、ロックっぽさはそのものはじつは前作ほどではなく、元々の複雑な怪奇室内楽を電気楽器の音を大幅に取り入れてやっている、というのが正しいようだ。 したがって、シンセサイザーは新たな室内楽のメンバーとして、冷ややかで無機的、調子ッ外れな表情を貫く役割を果たしている。 4 曲目は、クライマックスへ向けてひた走る異常な高揚感が見事なダーク・シンフォニー。 序盤はアコースティック・ピアノ、管絃がフィーチュアされてクラシカルな調子だが、打楽器とともに一気に荒々しく怪しいアンサンブルへと変化し、中盤からはノイズも巻きこんだ不機嫌で険しい変拍子演奏、つまりこのグループを特徴付ける演奏になってゆく。 終盤にかけてのヘヴィな演奏は、ややスリムな MAGMA といったイメージ。ギターも大きく前面に出る。

  「heatwave」(8:34)
  「chinavox」(4:49)
  「bruit dans les murs」(8:25)
  「the funeral plain」(20:24)

(CUNEIFORM RUNE 9 CD)

 The Hard Quest

 
Michel Berckmans bassoon, oboe, English horn, melodica, piano on 8,9
Daniel Denis drums, all keyboards, percussion, melodica, voice on 5
Dirk Descheemaeker clarinet, bass clarinet
Igor Semenoff violin
Reginald Trigaux bass, voice on 10, acosutic guitar on 10
guest:
Alain Neffe harmonium on 5

  99 年発表の第六作「The Hard Quest」。 十二年ぶりの新作。 初期の現代音楽的作風を支えたミシェル・ベルクマンと中後期のへヴィ・ロックへの変遷に参加したディルク・デスへーメケルの二人を擁する編成は初ではないだろうか。 その音楽は、初期のアコースティック・アンサンブルへの回帰を見せ、独特の禍々しさと圧迫感は保ちながらも、ロック的なビートよりもクラシカルな整合感を印象付けるものになっている。 それぞれの楽器がスコアを守りつつ呼吸のいいやり取りも見せ、一体となった迫力や音の厚みよりも、明晰さや構造性を意識したスタイルを取り上げたように思える。 室内楽と変拍子リズム・セクションの融合の原点へと立ち戻り、一歩一歩確かめながら歩み直すような演奏である。 木管楽器が主役であることや鍵盤ハーモニカの音によってアンサンブルはあたかも古びた巨大なアコーディオンのように鳴り響く。 チェンバロやヴァイオリンが美しいモノクロームの起伏を設け、打楽器が炎のようにゆらめきつつエネルギーを注ぎ込む。 暗く不気味ではあるが、ゴシック/怪奇趣味は以前ほどではなく、狂気が微笑をたたえつつ静かに踊り続けるようなイメージの音である。 従来のイメージからは意外なほどの運動性がキーである。 または、大地の鼓動を手に入れた幽鬼が跋扈する地獄の管弦鍵盤絵巻か。 個人的には、10 曲目をさらに驀進させたような演奏をより前面に押し出してほしい。 次作に期待。 「困難なる旅路」は続くのだ。 ロジェ・トリゴーの子息レジナルドがメンバー入り、又共同プロデュースに ART ZOYD の名前も見える。

  「Vieux-Manants」(2:50)
  「Civic Circus」(4:38)
  「Affinite」(5:52)
  「Rouages」(5:50)
  「News From Outside」(3:24)
  「Rebus」(2:46)
  「Kermesse Atomique」(5:33)
  「Succes Damne」(4:18)
  「L'Impasse Du Cholera」(1:48)ベルクマンのピアノ独奏。
  「Xenantaya」(10:34)つややかな暗黒チェンバー・ロックの傑作。
  「L'oubli」(1:46)

(CUNEIFORM RUNE 120)

 Rhythmix

 
Michel Berckmans bassoon, oboe, English horn, voice
Aurelia Boven cello on 1,5,9
Ariane De Bievre flute, piccolo on 2
Daniel Denis drums, keyboards, percussion, harmonium
Dirk Descheemaeker clarinet, bass clarinet
Bart Maris trumpet on 6,10,12
Eric Plantain bass
Christophe Pons acoustic guitar on 1,3,5
Bart Quartier marimba, glockenspiel
Louison Renault accordion on 1

  2002 年発表の第七作「Rhythmix」。 内容は、人力変拍子シーケンスを取り巻いて多彩な管絃打楽器が幾重もの螺旋を描くロック室内楽。 ドラムス、エレクトリック・ベース、木管管楽器を中心にアコーディオン、チェロ、フルート、マリンバなどさまざまな楽器を作品ごとにフィーチュアしている。 つまり、管絃各種アンサンブルにダイナミックなリズム・セクションを持ち込んだ、本グループの基本形を再認識させる作風になっている。 全体、特に前半で、アコースティックな音の明快さ、透明感が印象的であり、演奏はストラヴィンスキー的な変拍子を駆使しつつも整ったイメージを与える。 スペーシーでシンフォニックな表現や、かなり意外だが、サロン・ミュージックの雰囲気すら出てくる瞬間がある。 また、いわゆるロック的なビート感はさほど強くない。 ドラムスのプレイは「打の衝撃」を活かした使い方が主であり、いわゆるロック・ドラムスよりも幅広い表現で打楽器としての役割を果たしている。 パーカッション奏者についても同じことが言える。 また、このグループの作風の特徴の一つだった邪悪さ、狂気、陰鬱さ、暗黒さは強調されていない。 こわいだろ、こわいだろ、と迫る代わりに、幾何学的なパターンを次々と切り替えてゆく CG アートのように複雑に組み合わさった音を冷静に突きつけている。 したがって、無調の響きや反復による効果は、リスナーの中でより広く深く醸成される。 オーボエ、クラリネット、バスーンも、血のにじんだ刻印を空間に刻みつけるような恐怖表現よりは、さまざまな心象の機微をきめ細かく伝える表現をしている。 さらに、ゲストによるアコーディオン、フルートといった繊細な叙情性や優美さの演出が得意な楽器類が、意外なほどにこれまでの UNIVERS ZERO の音楽ときちんと交差できている。 エキセントリックなプレイの集合力でねじ伏せるような表現を超えて、複数の音がごく整った呼吸の下で有機的な連関を成すという「クラシック」な表現になっている。 思い切り室内楽に寄ったチェンバー・ロックといっていいだろう。 これまでの看板であった「怪奇で凶暴なチェンバー・ロック」に、メカニカルで詩的な現代音楽としての側面が付け加わった作品であり、音楽的には充実していると思う。
   個人的には、前半に現れる、チェンバロの補完的な位置づけにとどまらないリリカルな表現も見せるアコースティック・ギターがきわめて新鮮だった。 12 曲目「The Fly-Toxmen's Land」は、邪悪なプログレッシヴ・ロックの力作。トランペットがカッコいい。 チェンバー・ロックのバリエーションとして(本家なので当然といえば当然だが)、出色の内容である。シンフォニックなプログレ・ファンにもお薦め。

  「Terres Noires(Blacklands)」(6:06)
  「Reve Cyclique」(5:53)
  「Rouages: Second Rotation(Cogwheels: Second Rotation)」(3:38)
  「The Invisible Light」(3:09)
  「Phobia」(5:31)
  「Zorgh March」(3:23)
  「Zebulon」(3:09)
  「Foret Inviolee(Secret Forest)」(2:19)
  「Shanghai's Digital Talks」(4:48)
  「Emotions Galactiques(Galactical Emotions)」(5:47)パーカッションをフィーチュアした AFTER CRYING のような傑作。
  「Waiting For The Sun」(3:16)
  「The Fly-Toxmen's Land」(4:50)ドラムスが大暴れする、スピード感ある傑作。
  「Reve Cyclique(reprise)」(0:50)

(CUNEIFORM RUNE 165)

 Implosion

 
Michel Berckmans oboe, English horn, bassoon
Serge Bertocchi alto, soprano, sopranissimo saxes, tubax
Aurelia Boven cello
Daniel Denis drums, percussion, all keyboards, samplers, accordion, cheap guitar
Bart Maris trumpet, flugelhorn
Eric Plantain bass
Christophe Pons acoustic guitar
Bart Quartier marimba, glockenspiel
Igor Semenoff violin

  2004 年発表の第八作「Implosion」。 クラシカルな管弦とリズム・セクションを並置してフル機能させた「ロック室内楽」。 重厚でシリアス、やや病的な陰鬱さをかもし出すゴシック・テイストは健在であり、得意の変拍子も随所に盛り込んで歪な世界を作り上げている。 また、インダストリアルな険しさの演出も効いている。 しかしながら、本作では、リズム・セクションを活かした民謡、フォークダンス風のアンサンブルも盛り込んでおり、チェンバーロックと評せられた音楽の領域をゴシック調一辺倒からより広めようとつとめているようなふしがある。 一種の野心作なのだろう。 全体としては、楽曲のヴァリエーションに富み、メリハリのある好作品だと思う。 デニのシンプルなビートには力強さと切れがある。 改めて名ドラマーと感じる。 アコースティック・ギター、キーボード、マリンバのアクセントも非常に印象的。
  ファズ・ベースが唸る 8 曲目「Temps Neufs」は、プログレな佳曲。 9 曲目「Mellotronic」は、フランク・ザッパの作風を思わせる傑作。新たな代表曲になりそう。 16 曲目の大作「Meandres」は、徹底した悪意、邪悪さと理解不能なコミカルさが一つになった、まさに亡者を先導する冥府のチンドン屋らしい力作。
   全編インストゥルメンタル。 結成三十周年記念盤。

(CUNEIFORM RUNE 190)

 Arkham

 
Jean-Luc Manderlier hammond organ, electric piano, clavioine
Daniel Denis drums, whistle
Patrick Cogneaux bass, some strange frequency modulations

  2001 年発表の作品「Arkham」。 70 年代初頭にダニエル・デニが参加していたユニットの発掘音源。70 年から 72 年にかけての録音である。 アルバム・マテリアルではなく、ライヴのリハーサル音源が主であるため、音質は良質の海賊版並。 楽曲内容は当時デニが傾倒していた中期の SOFT MACHINE そのもの。 変拍子でドライヴされるオルガン主導のアンサンブルである。ノイズを多用したフリーフォームのパフォーマンスもあるが、基本的にはかっちりと作曲された作品を演奏している。 全曲インストゥルメンタル。

(CUNEIFORM RUNE 160)


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