TANGERINE DREAM

  ドイツのプログレッシヴ・ロック・グループ「TANGERINE DREAM」。 67 年エドガー・フローゼらによって結成。 69 年クラウス・シュルツ、コンラッド・シュニッツラー加入。 70 年「Electronic Meditation」でアルバム・デビュー。 現在もフローゼが残り活動を続ける。時代(ピカソのように「青の時代」といった名前がついているらしい)によって音楽はやや変化するが、一貫するのは想像力をかきたてる音響の魅力である。 Virgin 時代の一連の作品でシンセサイザー・ミュージックの代名詞となり、ポピュラリティも高まる。 無限のサスティンと任意のヴォリューム変化というエレクトロニクス・インプリメンテーションが可能ならしめた、新時代の音楽の一つ。

 Electric Meditation

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Edgar Froese 
Kraus Schulze 
Konrad Schnitzler 

  69 年発表のアルバム「Electric Meditation」。 本作は、リハーサルを編集したものであり、その内容は、Virgin レーベル時代以降の本グループのイメージとはかけ離れている。 後年の作品に親しんだ耳には衝撃的といっていいだろう。 その内容とは、ギター、ドラムス、オルガンらによるインプロヴィゼーション。チェロやフルートも駆使して、エネルギッシュに憂鬱に落差大きく迫る。 酔っ払っているのかもしれないが、ヴォルテージは高い。コワれたハードロック、いや、乱調気味のブリティッシュ・ロックか。 ものすごい勢いで爆発的な高揚を見せるかと思えば、厳かな表情も見せ、そして、呆けたような調子にもなる。 また、静かに始まったかと思えば、突如ドシャメシャになる。 おそらく力点は、まとまった演奏よりも衝撃的な音そのものにあるのだろう。 ギターがサイケ調であり、突如オルガンが荘厳に高鳴るため、個人的には、あまりブルージーでなくやや頭の悪い PINK FLOYD (特に「Ummagumma」や「A Sourceful Of Secret」付近)といった印象をもった。 クラウス・シュルツがドラムスを担当し、パワフルなドラミングで強引に全体を引き締める。 そして、これだけいい加減な作品ながら、聴き心地はさほど悪くない。 おそらくそれは、この音に何か伝えたいことが(本人たちの意識、無意識にかかわらず)込められている(正確には、何かを伝えたいがために練習している最中の音だが)せいだろう。プロデュースはエドガー・フローゼ。
  
  「Genesis」(5:57)
  「Journey Through A Burning Brain」(12:32)
  「Cold Smoke」(10:48)
  「Ashes To Ashes」(3:58)
  「Resurrection」(3:21)
  
(CMACD 554)

 Atem

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Edgar Froese 
Chris Franke 
Peter Bauman 

  73 年発表のアルバム「Atem」。 トラジックな暗さ、絶望感、暴力性、湿り気、そして運命的な悲劇を超克するかのような不気味なエネルギーの蠢きを感じさせる作品である。 パンク、インダストリアル・ミュージックの先駆けということもできそうだ。 メロトロン、シンセサイザーとともにシーケンサ(もしくはその原型)も使用されているようだ。 前作「Zeit」の流れに沿った作品であり、後に Virgin レーベルで確立する作風を提示した作品である。 プロデュースはエドガー・フローゼ。 邦題は、「息」。
  
  「Atem」(20:24) ライナーノーツにあるとおり、巨大な墳墓に石を積み上げる無数の奴隷たちが口ずさむ労働歌、もしくは、邪悪な儀式で生贄を捧げるドルイド僧の呪文のような、絶望感極まる導入部があまりに強烈。 ドラミングは絨毯爆撃のようだ。 6 分付近で人知を超えた世界に足を踏み入れ、三半規管の性能を試される。 静寂に耐えられずに脳が生み出すノイズを再生したような音である。
  「Fauni Gena」(10:45)深夜の密林で奏でるメロトロン。中盤からメロトロンが他を圧して膨れ上がる。
  「Circulation Of Events」(5:49)
  「Wahn」(4:29)
  
(ESM CD 348 GAS 0000348ESM ACO)

 Phaedra

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Edgar Froese Mellotron, Guitar-Bass, VCS3 Synthi, Organ
Chris Franke Moog Synthesizer, Keyboards, VCS3
Peter Baumann Organ, E-Piano, VCS3 Synth, Flute

  74 年発表のアルバム「Phaedra」。 Virgin レーベル移籍後、初の作品である。 「Phaedra」は、ギリシャ神話中の女性であり、クレタのミノス王の娘。ギリシャ王テーセウスに嫁ぐも、義理の息子ヒッポリュトスとの悲恋に命を落とす。 内容は、キーボードの可能性を強く感じさせるものであり、いわばメロトロンの語るシンセサイザー誕生夜話である。 メカニカルなビート、効果音と対照するエモーショナルなメロディがすばらしい。

  「Phaedra」(16:45)シンセサイザー、ベースの刻むビートで疾走しつづけるミステリアスな曲。通り過ぎる風景の様にメロトロンやフルートが現れては消えてゆく。ひたすら続くシンセサイザー・ビートに酩酊し、眩暈を起こしそうだ。ビートが消えた後の荒涼とした空間に、悪夢のような生き物の鳴き声と星のささやきが満ち始める。そして決めはエンディングのメロトロン。古の機械のたてる轟音のような響きはどこか物悲しい。

  「Mysterious Semblance At The Strand Of Nightmares」(10:35)でも重厚なメロトロンが交響楽のような感動を引き起こす。背景では寒風が吹きすさびシンセサイザーがメロディを揺るがせて通り過ぎるが、メロトロンの旋律はただ朴訥に力強く響いてゆく。

  「Movements Of A Visionary」(7:55)テンポを刻むシンセサイザーの上にさまざまな音が去来する。どこかへ連れ去られてしまいそうな心持にさせるビートである。やがてアフロ・エキゾティックなリズムへと変化し、その上でオルガンが響き渡る。
  「Sequent 'C'」(2:17)ポリフォニックな旋律美が宗教的高揚を巻き起こす。
  
(VIRGIN 7243 8 40062 28 TAND 5)

 Rubycon

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Edgar Froese Mellotron, Guitar-Bass, VCS3 Synthi, Organ, Gong
Chris Franke Double Moog Synthesizer, Synthi A, Organ, Modified Elka Organ, Prepared Piano, Gong
Peter Baumann Organ, Synthi A, E-Piano, Prepared Piano, Organ, Arp 2600

  75 年発表のアルバム「Rubycon」。 即興風に音が散りばめられる分、前作よりもシンセサイザーのビートが強調されて感じられる。演奏は、特定の像を描くというよりは、抽象図形を描くような印象である。音のうねりが収まり、空間が強調されると、無機的な神秘性を越えて不気味さも醸し出されてくる。
  
  「Rubycon Part.1」(17:17)序盤は、電子音の大きなうねりとともに幽玄たるシンセサイザーの調べが美しく響くリズムレス・パート。メロトロン・クワイアも要所で厳かなアクセントとなる。叙景的とはいえ虚空をさ迷うような展開だが、7 分半辺りから重々しいシンセサイザー・ビートが刻まれて、ベクトルが生まれる。もっとも、それでも、そのビートの上を、音は気まぐれに去来する。メロトロン・ストリングス、トーン調節したエレクトリック・ピアノ、木管楽器のようなシンセサイザー、変調したオルガンらが腫れぼったい音でリフを提示し、荒々しいビートとともに走りぬけてゆく。終盤、メロトロン・フルートによるラヴェルのボレロのようなテーマをきっかけに、きわめてゆっくりとビートレスの混沌世界へと回帰する。

  「Rubycon Part.2」(17:34)メロトロン・クワイアだろうか、映画「2001 年宇宙の旅」のサウンド・トラック・ミュージックを連想させるコラール調のハーモニーが、序盤を不気味にリードする。リズムはない。 4 分付近で、コーラスから波打つような弦楽風メロトロンまたはシンセサイザーへと変化し、シーケンスも出現する。終盤のメロトロン、または VCS3 は、KING CRIMSON の「Starless And Bible Black」と同じ音がする。儚くも慈愛の歌である。
  
(VIRGIN 0777 7 86091 2 4 V2-86091)

 Stratosfear

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Edgar Froese Mellotron, Moog Synthe, 12 & 6 String Guitar, Grand Piano, Bass, Mouth Organ
Chris Franke Moog Synthe, Organ, Percussion, Loop Mellotorn, Harpsichord
Peter Baumann Moog Synthe, Project Electronic Rhythm Computer, E-Piano, Mellotron

  76 年発表のアルバム「Stratosfear」。 内容は、メロディとビートをメロトロン、シンセサイザーとループで実現したエレクトロニック・ロック。 あたかも、ロック・バンドをそのままキーボード・シミュレーションしたような動きと流れがある。 もっとも、ギターやベースも用いており、いわゆるシンセサイザー・ミュージックに比べると、はるかにロック・バンドとしての体裁がある。 したがって、現在この手の音楽についてまわる「静謐」、「心安まる」、「リラクゼーション」といったイメージは見事に覆されている。 シンセサイザーやメロトロンによるエモーショナルでライヴなフレーズが聴きものだ。 ただ、元々奥行きのある音が組み合わさるため、映像や情景を喚起しやすいサウンドとなり、それゆえ一種のヒーリング効果が生じるということはあり得るだろう。
   シンフォニックで幻想的な幕開けからシンセサイザー・ビートとともに走り始める 1 曲目の快感は何物にも変えがたい。 ムーグ・シンセサイザーの音色には確固たる存在感があり、サイケデリックなギターも圧巻だ。 ギターのアルペジオが導く終章は哀愁あふれる余韻を残す。 2 曲目は、メロトロン・フルートのリード、ギターのアルペジオ、ベース・ラインというアコースティックなアンサンブルから始まり、次第にエレクトロニックなキーボード演奏へとシフトしてゆく。 メロトロンによる古色蒼然たる幻想サウンドが大幅にフィーチュアされ、シリアスな現代音楽風のニュアンスも感じられる。 1、2 曲目ともに、イントロダクションがなかなか意表を突いている。 3 曲目も、電子音にマウス・オルガンがオーヴァーラップするセンチメンタルなイントロから、宇宙のささやきのような雄大なメロトロン/シンセサイザー・オーケストレーションへとなだれ込み息を呑む。 ミステリアスなメロトロン・コーラス、重厚なムーグなど、いわゆるキーボード・プログレの音が充実している。 4 曲目も、ギター、パーカッション、シンセサイザーがそれぞれに活躍し、ピアノとメロトロン・フルートの終章へと流れ込む感動作。 間違ってもピコピコ・テクノではない。邦題は「浪漫」。
  
  「Stratosfear」(10:35)
  「The Big Sleep In Search Of Hades」(4:26)
  「3am At The Border Of The Marsh From Okefenokee」(8:49)
  「Invisible Limits」(11:24)
  
(VIRGIN 7243 8 40065 25 TAND 8)

 Cyclone

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Steve Jolliffe Vocals, Flutes, Cor Anglais, Clarinets, Keyboards
Edgar Froese Keyboards, Guitars
Chris Franke Keyboards
Klause Krieger Drums

  78 年発表のアルバム「Cyclone」。 PINK FLOYD 調の瞑想的にしてメロディアスなヴォーカル・ナンバーや軽快なロックンロール・ノリなど、ポップなアプローチを見せる異色作。 神秘性や幻想性を期待し過ぎず、シンセサイザー・ミュージックという言葉にもとらわれなければ、聴きやすいなかなかの名作だろう。 シンセサイザー・ビートが独特の切迫感を生むのだが、その上で踊るメロディそのものは、わりとイージーである。 3 曲目の大作の終盤では、珍しくクラシカルで重厚なロマンティシズムも漂わす。 いずれにせよ、グループのイメージを覆しており、発表時に賛否の嵐を呼んだのは想像に難くない。 管楽器(STEAMHAMMER の第二作に参加したスティーヴ・ジョリフが担当)やキーボードなどでアコースティックな音も多く使っている。

  「Bent Cold Sidewalk
  「Rising Runner Missed By Endless Sender
  「Madrigal Meridian
  
(GCD 246-2)

 Force Majeure

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Edgar Froese Keyboards, Bass, Guitar
Chris Franke Keyboards, Guitar
Klause Krieger Drums

  79 年発表のアルバム「Force Majeure」。 ソリッドなドラムスとギターを大幅にフィーチュアしたタイトル・ナンバーは、ロック的なカッコよさでいっぱいの作品。 シンセサイザーが幾重にも積み重なる幻想空間でギターがうねる。演奏は、明確な展開とドラマを持つ。 このグループとしては、異色の作品かもしれない。 ただし、本作でも、オーロラのように空気の色を変化させるシンセサイザーがすばらしい。 特に、エンディングへと向かうファンファーレを奏でるブラス系シンセサイザーは、どこまでも美しく逞しい。 いわゆる電子音楽独特の荒さやノイジーなところはなく、プログレッシヴ・ロック風に生真面目かつ丁寧に組み上げられている。 左が GEFFIN の USA 版 CD のジャケット。右がオリジナル・アナログ LP のジャケット。
  
  「Force Majeure」(18:23)
  「Cloudburst Flight」(7:28)
  「Thru Metamorphic Rocks」(14:29)
  
(GCD 350-2)

 Tangram

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Edgar Froese 
Chris Franke 
Johannes Schmoelling 

  80 年発表のアルバム「Tangram」。 ヨハン・シュメーリングを新メンバーに迎える。全体に、ロマンティックで優美な表現を中心とした佳作である。 A 面は、全体にメロディアスかつシンフォニックな名品。 いかにもシンセサイザーらしいホイッスル系サウンドとシンセサイザー・ビートによる 3+4、4+4、3+3 拍子のシーケンスを交錯させながら、きらめく音が描いてゆく甘美なファンタジーである。 いわゆるシンセサイザー・ミュージックながらも、クラシカルなマーチやエレクトリック・ポップ調、マイク・オールドフィールドなど、多彩な表現が織り込まれている。 流行りのニューエイジ風味ももちろんある。 「人工音による叙景」を営々と試みてきたグループだけに、「ニューエイジ」や「癒し」などは周りがようやく追いついたというべきだろう。 B 面も美しいシンセサイザーの音色が優美にして活き活きとした印象を与えるも、ややビートが強調されている。
  
  「Tangram Set 1」(19:47)
  「Tangram Set 2」(20:28)
  
(CAROL 1805-2)

 Logos

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Edgar Froese Synthesizer
Chris Franke Synthesizer
Johannes Schmoelling Synthesizer

  82 年発表のアルバム「Logos」。 欧州ツアー終盤イギリスでのライヴ録音。 限りなくライヴとスタジオが接近してしまうサウンドだけに、あえてライヴ盤をつくる意味合いもよく分からないが、本作でのパフォーマンスは後々語り継がれるだけのすばらしいものである。 エレクトリックな音を組み合わせたストーリー・テリングの巧みさには舌を巻かざるをえない。 9 パートに分かれた表題作は、シリアスな音響ものから軽快なポップ・ナンバーまで多彩にして自然な流れを持っている。

  「Logos」(45:06)
  「Dominion」(5:44)
  
(7243 8 39445 2 1)

   TV などで、シンセサイザーの音が宇宙や深海、深いジャングルや砂漠の映像と組み合わされて使われることが多いのはなぜだろう。 風の音や潮騒といった自然の音では「薄味」なので、シンセサイザーで模倣、デフォルメして、より濃い目の味で映像の印象を強めるためだろうか。 それとも、自然が発する不規則な音よりも秩序立った音の方が心地よいためだろうか。 人間不在の自然の情景を描くにあたり、なるべく人間臭さを感じさせない音としてシンセサイザーのサウンドを採用しているのだろうか。 いずれにしろ「大自然の情景」と「シンセサイザー・サウンド」の組み合わせが興味深い。 シルクロードの映像にシンセサイザーの BGM を使うのがとても不思議なことに思えるのだ。 シルクロードの映像の背景にローリング・ストーンズの曲を使うことはあまりないように思う。


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