TAI PHONG

  フランスのプログレッシヴ・ロック・グループ「TAI PHONG」。  ベトナム・フランス混血の兄弟を中心に結成、75 年アルバム・デビュー。 81 年解散。作品は三枚。 メロディアスなハードロックかつ幻想的なプログレッシヴ・ロック。 完成された音楽性は、優れたミュージシャンが、たまたまプログレ時代とシンクロして化学反応を起した結果なのだろう。


 Tai Phong

 
KHANH vocals, electric & acoustic & slide guitars
TAI vocals, bass, acoustic guitars, moog
J.J.Goldman vocals, electric & acousitc guitars, violin
Jean-Alain Gardet piano, organ, moog & all keyboards
Stephan Caussarieu drums,percussions

  75 年発表の第一作「Tai Phong」。 メロディアス・ハードという様式の出発点ともいうべき、美麗にしてロマンティックな傑作。 バラードもアップテンポのナンバーも、とにかくメロディアス。 これで、演奏がストレートになってしまうとハードロックなのだが、心配ない。 バッキングやオブリガートにいたるまで、アレンジ/演奏は、練りに練っている。 その結果、全体に、豊かなシンフォニック色が生まれているのだ。 ロックなパワーとデリケートな美感のバランスの取れた演奏である。 ハイトーンのヴォーカルは、英語。 プロデュースはジャン・マレスカ。

  オープニングは、リズミカルなギターのコード・ストロークをバックにハイトーン・ヴォイスが快調にすべり出す「Going Away」(5:44)。 スピーディな 8 分の 6 拍子である。 サスティンを効かせたギターのオブリガート、そしてヴォーカル・ハーモニーがハッシと受けとめると、8 ビートへと変化、ヴォーカルがギターとともにメロディアスに決める。 テンポ・ダウンのように聴こえるが、3 拍子系から 4 拍子系への変化のためだろう。 再びメイン・テーマへ。 同じメロディ・ラインながら、今度は 3 連による 4 拍子である。 したがって、ギターのオブリガート、ハーモニーへの展開のリズムが、自然に聴こえるところが面白い。 ハモンド・オルガンも伴奏に加わって、パーカッシヴな味つけをしている。 ここまで 1 分弱、かなり凝った展開だ。
  ギターのコードが荒々しくかき鳴らされると、一転シャープなイメージの演奏へ。 ヴォーカルもハードロック調である。 ここでも、ドラム・ビートなしのギターのストロークとジャジーなエレピ伴奏によるヴォーカル・パートで、メランコリックに変化をつけている。
  三度テーマ演奏へ。 再びギターが高鳴り、ヴォーカルが絶叫するシャープな演奏、ジャジーな変奏へと進む。
  今度は、ツイン・ギターのコード・ストローク、リフが華やかにリードする演奏へ。 ラウドにしてヒステリックな演奏を受けるのは、ナチュラル・トーンのメランコリックなソロである。 そして、ツイン・ギターによる巧妙なハーモニーが続く。 やがてリズムを失い、密やかなギターに導かれて、リリカルな演奏へ。 切ないヴォーカルを支え、高鳴るベースと、むせび泣くスライド・ギター。 いつの間にか、ハードロックというよりもシンフォニックな高まりを迎えている。 泣きのギター・ソロ。 続くソロは、ワウを用いたプレイ。 再び、ナチュラル・トーンのギターが受けとめる。
  最後のテーマ演奏へ。 過激に動くベース・ラインに注目。 幕切れは、ややあっけない。
  目まぐるしく変転しながらもロマンティックな空気が一貫するハードロック。 ぞくぞくするほどスピード感のあるテーマを軸に、さまざまな雰囲気の場面を配し、目まぐるしく、そして切れ味よく展開する。 テーマ演奏そのものも、繰り返しごとに味つけがなされている。 演奏の中心であるギターは、ソロ、オブリガート、ツイン・リード、リズムなど、全てにおいて小気味よいプレイを決めている。 そしてギター、ヴォーカルのみならず、ベース・ライン、伴奏のオルガン/エレピ、リズム・セクションなど、全てのパートが存在感あるプレイを見せており、それらの全てが集約されてドラマになっている。 全編アレンジに凝っており、音色の種類と音数も多い。 古めかしい音作りも、かえって生々しい臨場感を支えていないだろうか。 稀代の名曲。

  「Sister Jane」(4:05)。 ピアノをバックに、切々と紡ぎだされる哀愁のメロディ。 深い哀感が、暖かくロマンティックな幻想を生んでゆく。 テーマに厚みをつける伴奏のオルガンや、消え入るようなコーラスなど、幻想的な演出が行き届く。 ドラム・フィルに心揺らされると、「In The Court Of The Crimson King」のロマンティック版なのでは、という気持になってくる。
  売りである「泣き」でたたみかけるバラード。 やや大仰なメロディ・ラインは、やはりメロディック・メタルなど現代の HM に通じる気がする。 リズムも大袈裟だとうんざりするところだが、グッと抑えたバッキングのおかげでヴォーカルが映え、いい雰囲気になっている。 タイトルは VELVET UNDERGROUND の名曲「Sister Ray」と「Sweet Jane」のハイブリッドなのかもしれない。(根拠はありませんけど) バラードの名品であり、シングル・ヒットも生んだ代表曲。

  オープニングからチャーチ・オルガンが鳴り響く「Crest」(3:28)。 オルガンにアタックの強いベース・リフの連打が重なり、ギターが口火を切ると、演奏は一気に走り出す。 激しいタム回しがエネルギーを注ぐ。 ギターは、ロングトーンのテーマと小気味いいコード・ストローク。 スピード感あふれる演奏だ。 そして、勝ち鬨のようにムーグが高鳴る。 一転、柔らかなファルセット・コーラスが受けとめ、カラフルな幻想世界が広がる。 鮮やかなムード・チェンジだ。 メイン・ヴォーカルが伸びやかなテーマを歌い上げ、ギターとムーグの伴奏も広がりを見せる。 再び、チャーチ・オルガンが湧き上がり、ムーグとギターによる勇ましいテーマが再現。 パワフルなタム回しが、爆撃のように駆け巡る。 ギター、ムーグのハーモニーがうねり、一瞬で全てが消える。
  オルガン、ムーグをフィーチュアしたエキサイティングなシンフォニック小品。 ソロを長くしてもっと演奏を伸ばせそうだが、コンパクトにテーマ主体でまとめてみました、という感じだ。 ストラトのナチュラル・トーンを活かしたコード・カッティングもいい。 スリリングに疾走するアンサンブルの流れを、ドリーミーなコーラスによってピタッとブレイクする手際の鮮やかなこと! 躍動するテーマ部と伸びやかなヴォーカル・パートのコントラストも鮮やかだ。 やはり、緩急や音色の変化がきめ細かい。

  豊かな音色のピアノによる気品あるアルペジオが導く「For Years And Years(Cathy)」(8:32)。 そっとささやくようなメイン・ヴォーカル。 メランコリックなテーマである。 悠然たるリズムが入り、まずはスライド・ギターによる切ないソロ。 ピアノの和音が刻むビート感など、アメリカン・ロック的である。 ゆったりとささやくヴォーカル、そして、うっすらと寄り添うコーラス。 ブレイク。
  一転、クラヴィネットとギターが小刻みなパターンでリードする、せわしないアンサンブルへ突入。 テクニカルだがユーモラスでルーニーな演奏だ。 続いて、ハードロック調のギター・ソロが爆発。 しかし、それも、アコースティック・ギターの憂鬱なアルペジオが受け流して、消えてゆく。 ブレイク。
  全ては夢だったかのように、アコースティック・ギターが静かなコードをかき鳴らす。 空ろに響くエレピ。 ドラムスとともに、エレキギターの爪弾きが始まる。 ジャジーで悩ましげな演奏だ。 きらめくようなハーモニクス。 ギターはブルージーにささやく。 そして、ヴォーカル・ハーモニーの復活。 柔らかく翳りのある歌が続く。 ハモンド・オルガンが受けとめ、メランコリックながらも R&B 調の演奏が続く。 きらめくようにささやく音は、チェレステかエレピか。 ヴォーカル・ハーモニーを支えてギターのアルペジオ、チェレステ、ELO 風のシンセサイザーも湧き上がる。 リタルダンド、そしてフィーネ。
  ジャジーなアメリカン・テイストあふれるバラード。 前半は、アコースティック・ピアノやミドル・テンポ、マイナー進行、スライド・ギターなど西海岸風である。 そして、最も野心的な中間部は、GENTLE GIANT ばりのハイテンションのトゥッティだ。 イタリアン・ロックと見紛う強烈な演奏である。 遠慮のないハードロック・ギターには、思わず笑いがこぼれてしまう。 そして後半は、フォークとジャズ・コードを合わせたような MARK ALMOND 調の AOR タッチも見せる。 ギターのアドリヴもさることながら、終盤を締めるのは、黒っぽいハモンド・オルガンだろう。 もっとも、チェレステの響きと歌メロのおかげで、完全には AOR にならず、ヨーロッパ的な幻想美が浮かび上がる。 並々ならぬアレンジ・センスを縦横無尽に駆使したドラマチックなプログレッシヴ大作といえるだろう。

  「Fields Of Gold」(7:39) 爪弾かれるピアノの響きとともに、ささやくような重唱が始まる。 昔語りのような優しさにあふれる歌であり、70 年代の名曲をいくつも思い出す。 おそらく、当時においてもノスタルジックな響きで、琴線をゆるがせたのではないだろうか。 そういうタイプの歌なのだ。 リタルダンドから、ギターに導かれてドラマチックにリズムが入ると、一気にキーボードが高まり、サビである。 ヴォーカルは、力を得てゆったりと語るのだ。 ストラトのナチュラル・トーンは、ここでも心地よい。 再びメイン・ヴォーカル・パートの繰り返し。 今度は、伴奏のピアノがエレピ(チェレステか)に代わっている。 再び、悠然たるサビ。 あの時代の音である。
  チェンバロによるクラシカルな演奏に導かれるのは、モノローグとストリングスの雄大な広がり。 そして、轟音とともに、シンセサイザーがオーロラのようにそそり立つ壁をなす。 透明感あふれる幻想的な演奏が続く。 ハイハットの打撃、うねるようなベースが特徴的だ。 ストリングスは、次第にシリアスな重さを増し、ギターも鋭く歌いだす。 美しくも重厚な演奏が続く。 遠吠えのように一声高鳴るのは、ギターだろうか。 波打つストリングスとドラムス。 潮が引くようにリズムが消え、ストリングスは息を呑むようなブレイクから、長調の和音を響かせ大団円である。
  繊細な情感と素直な高まり、そして耽美なセンスも感じさせるシンフォニック・ロック。 前半は、ロマンティックなメロディをタイトなアンサンブルでドライヴし、子供の頃の夢をそのまま音にしたようなイノセンスを感じさせる世界である。 後半は、ファンタジックな音使いながらも、力強く重厚なタッチのインストゥルメンタルが続き、やがて神秘的な世界が見えてくる。 叙景的な演奏としては逸品である。 そして、これだけの変転をナチュラルな流れで描くところがすごい。 ギターとシンセサイザー類の効果的な配置の妙もある。 ぐっとシンプルなのだが、CAMEL の「Snow Goose」にも迫る世界のように思う。

  「Out Of The Night」(11:37)雷鳴と暴風を背景にパーカッションが鳴る。 次第に響きわたるオルガン、そして、ヴォーカルが哀愁に満ちたメロディを歌い始める。 2 コーラス目からリズムが入り、ドラマチックなムードで盛り上がる。 ヴォーカルは、オルガンの伴奏でストレートに歌い上げる。 メランコリックだが、力強いメロディ。 何かを刻みつけるようなリズムと、オルガンの響き。 シンセサイザーの轟音とともにリズムが消え、アコースティック・ギターの静かなリフレインとせせらぎのようなピアノ。 そしてコーラス。 緩やかなメロディで歌うヴォーカルを支えて、ギターのコードがかき鳴らされる。 きっちりと刻まれるリズム。 コーラスの後を受けたオルガンの間奏とともに、演奏は次第にシンフォニックな盛り上がりを見せる。 切ないアコースティック・ギターの爪弾きと高まるノイズ。 クライマックスを過ぎ、リズムが止むと、メロトロン・ストリングスが輝かしき曙光のように満ちあふれる。 再びコーラスに導かれて、曲が動き出す。 ベースのオブリガートやドラムのフィルが、初期の KING CRIMSONP.F.M を思わせる。 コーラスは祈りである。 最後は、ソロ・ヴォーカルがヴォカリーズに支えられて、切なく力強く歌い上げる。 そして間奏は、オルガン伴奏のギター・ソロ。 華麗なる「泣き」のギターがコブシを震わせる。 ギターの歌が続くうちに、やがて、リズムは躍動するシャフル・ビートへと変化してゆく。 オルガンとともに、ギターが切々と訴えかけてゆく。 そして、エンディングはあまりに切ないピアノ・ソロ。 たなびくようなオルガンとささやくアコースティック・ギター。 そして哀しげに舞うピアノ。 やがて驟雨がクロスフェード。 空も泣いてるぜ。
  ちょっと一本調子なのが気にかかるが、静々と盛り上がるシンフォニックなバラードの名品。 今にも噴出しそうな過剰なロマンチシズムを、ぐっと抑えながら、少しづつ歌とアンサンブルへと注ぎ込んでいる。 絶え間なく鳴り響くオルガンには、宗教的な感動をおぼえる。 ロマンの香り芳しい、正調ブリティッシュ・ロック風の作品である。 本曲のようなキーボードの使い方やリズムの取り方をする作品をシンフォニックとして受容してしまう傾向は、やはり KING CRIMSON の巨大なインパクトが作り上げたのでしょう。

  以下は、ボーナス・トラック。 75年のセカンド・シングルの両面。
  「(If You're Headed) North For Winter」(3:13)チャーチ・オルガンの祝祭的な響きのなか静かにヴォーカルが歌いだす。 伴奏は柔らかいアコースティック・ギター。 ソフトなヴォーカル・ナンバーだ。 間奏のストリングスが美しい。 2 コーラス目は、ピアノの伴奏で、間奏は再びストリングスである。 ヴォーカルに次第にコーラスが重なってくると、鐘の音がしてフェード・アウト。
  ロマンティックかつファンタジックな歌もの。 賛美歌とフォークソングの中間ぐらいである。 ソフトなヴォーカルとピアノ、ヴァイオリン奏法ギター、弦楽など音は非常にぜいたく。
  「Let Us Play」(2:34)スピーディなムーグのメロディから幕を開けるアップテンポのインストゥルメンタル。 アコースティック・ギターの伴奏で入るヴォカリーズは、クラシック風のメロディ・ラインをスピーディに歌う。 ムーグのソロ。 そして再びリズミカルなヴォカリーズ。 ムーグのソロに続き、ギターもスピード感あるソロを見せる。 最後もムーグのテーマでフェード・アウト。
  ムーグの 3 連テーマがリードするスピードと躍動感にあふれたクラシカル・ロック。 テーマからオブリガートまで、一人かけあい状態で弾き捲くるムーグは、いかにも EL&P 風である。 ただし、ヴォカリーズや密かなアコースティック・ギターは、いかにもこのグループらしい。 シングルなので、ごく短いのだが、この調子ならばロング・ヴァージョンが聴きたいものだ。


  ロマンティックなメロディをタイトなインストゥルメンタルで支える、美麗シンフォニック・ロックの最右翼。 「泣き」のメロディ・ラインを雄大かつ繊細なサウンドに巻き込んで、ドラマチックな楽曲へと仕立てる作風が大成功した、屈指の傑作である。 緩急/音色の変化や多彩なモチーフなど、憎いまでに演奏に配慮がある。 疾走する演奏を一瞬のブレイクでメローな曲調へと変化させる手腕には、諸手をあげて降参だ。 読めているのに感動させられてしまう口惜しさと、それを超越した法悦。 「For Years And Years」のような典型的プログレ・ナンバーから「Fields Of Gold」や「Out Of The Night」のように神秘的でシンフォニックな曲まで、メロディのクサささえ気にならなければ、十分過ぎるほどのクオリティの作品が目白押しである。 オープニング・ナンバーでヴォーカルの声質にちょっとビックリするかもしれないが、アンサンブルの巧みさに気づくと、すばらしくヴァリエーションに富んだ名盤であること分かるはず。 ジャジーな音、ほのかにフュージョン・タッチのプレイも散りばめられている。 また、シングル B 面の「Let Us Play」のようなリズミカルでシャープなクラシカル・キーボード・ロックでは、キーボード奏者のテクニックにも驚かされる。
  メロディよし、テクニカルなアンサンブルよし、曲/アレンジも面白いという理想的なアルバムの一つ。 メロディアス・ハードなど HR/HM への進化のミッシングリング、という見方もできそうだ。

(WMC5-609)


 Windows

 
KHANH vocals, guitars
TAI vocals, bass, acoustic guitars, keyboards
J.J.Goldman vocals, guitars
Jean-Alain Gardet keyboards
Stephan Caussarieu percussions, drums

  76 年発表の第二作「Windows」。 前作と同じ雰囲気ながら、全体にロマンティシズムと幻想性を強め、サウンド、楽曲の完成度を高めた傑作。 泣きのギターとヴォーカルと絢爛たるキーボードを用いて、肌理細かいアレンジを活かしたヨーロピアン・プログレ・ハードの逸品といえるだろう。 A 面では HM/HR 的なスタイルで叙情性を前面に打ち出し、B 面ではプログレらしい芸術性を見せつけている。 アルバム中の作品が、甘めのメロディ・ラインながらも神秘的なシンフォニック・ロックとしての響きをもつのに対し、シングル曲では、ストレートにマイナー調のメロディを推しだすユーロ・ポップス路線をキープしている。 こういうスタンスも特徴的だ。 さすがに、音響面では現代の作品には一歩譲るものの、手作り風の暖かみのあるサウンドとクールにしてセンチメンタルなメロディ・ラインには、目を見張るものがある。 他のグループの影響というのがあらわには見られない、きわめてオリジナルな音楽性をもつ作品といえるだろう。 ロマンティシズムとクールな演奏、そしてポップ・センスの冴えという点で、孤高のイタリアン・ロックである IL VOLO にも迫るように思う。

  「When It's The Season」(8:12) ストリングス・シンセサイザーの響きが、朝焼けの光のように湧き上がる。 一気にラテン調のエネルギッシュなドラムがリズムを放ち、ギターがクラシカルなテーマを、性急な調子でスピーディに打ち出す。 テーマを受け止めるのは、ずしっと重量感のある情熱的なアコースティック・ギター・デュオ。 一人かけあい風のエレキギターに、さらにかけあうようなアコースティック・ギターを重ねたカッコいいオープニングだ。
  ハイトーンのヴォーカルはハイトーン一人コーラスによる ふと沈み込むギター、そして高鳴るストリングスとアコースティック・ギターの思わせぶりな呼応が続く。 ギターはテーマを繰り返し、リタルダンド、そして消えてゆく。
   リズムが止み、朗々と教会風のオルガンが響きわたる。 渦を巻くように流れるギター・エフェクト。 悠然としたリズムの復活とともに、スライド・ギターが切なく歌い始める。 そして現れるのは哀愁のギター・ソロ。 ギターにオーヴァーラップする幻想的なヴォカリーズ。 鮮やかな雰囲気のチェンジである。
   再び耐え切れないように鋭いリズム、ギターが復活、シンセサイザーのリフレインが湧きあがり消えてゆく。
   代わって浮かび上がってくるのは、アコースティック・ギターをかき鳴らす音。 そして、哀しげなピアノとともに始まるバラード。 はかない思いの果ての諦念を浮かび上がらせる歌。 途切れてしまいそうなヴォーカル、ピアノ。 静かに消えてゆく。
  きわめてロマンティックかつドラマティックなハードロック。 ギターを用いたスピーディなテーマを軸に、劇的な場面展開を繰り広げる。 テーマでは、エレキギターとアコースティック・ギターのデュオがラテン調のドラマティックな応酬を見せ、はりつめたスリルを生む。 せわしなくたたみかけて迫り、息詰るような緊張感を高めるスタイルは、前作 1 曲目と同じ。 華麗なソロで盛り上がるかと思えば、一転してメランコリックな幻想シーンや哀切のバラードへと耽溺するなど、展開は絶妙である。 そして、これだけ緻密な構成をもちながらも、演奏/サウンドはあくまで華麗なイメージだ。 あたかも、本当のドラマのように、曲が表情を大きく変えてゆく。 終盤は、無常感とともに説得力をもつ。 品のあるロマンティシズムは、FOCUS にも通じないだろうか。

  「Games」(4:07)潮騒。 まろやかにしてクールなピアノの爪弾きを受け、あまりに切なくセンチメンタルに歌いだすヴォーカル。 自然なヴィブラートがいい感じだ。 ドラムの打撃が重厚なアクセントとなる。 響き渡るオルガン。 ヴォーカルはドラマチックに歌い上げ、切なさを募らせる。 サビはヴォーカルと美しいコーラスが追いかけあい、アコーディオンが愛らしいトリルで彩る。 シンセサイザーの憂鬱なヴェールが垂れ込め、オルガンがむせび泣く。 そして決然たるピアノの響き。 切なく高らかに歌い上げるヴォーカルを包み込むヴォカリーズ。 霧にかすむように薄れてゆく声。 丹念に刻むドラミング。 潮騒が聴こえる。
  前作の「Sister Jane」を思わせる哀愁のバラード。 「泣き」のヴォーカルとコーラスをフィーチュアした、ひたすらロマンティックな作品だ。 伴奏はキーボード主体で、ギターはないようだ。 こういう曲でのファルセットによるシャウト・スタイルは、間違いなくハードロックから HM へとつながってゆく。 訴えかける表情が、大昔の GS 歌謡を思わせるところも。 オープニングが、前曲の終わりと連携し、雰囲気を引き継いだいるようだ。

  「St.John's Avenue」(7:47) エレクトリックにトリミングされたドラムのピック・アップ。 イントロは、コンプレッサを効かせたメロディアスなツイン・ギター・ハーモニー。 ゆるやかに満ち渡るオルガン。 追いかけあうようなギター。 メイン・ヴォーカルが、アコースティック・ギターの静かなアルペジオ伴奏で、物寂しげに、ややカマトト風に歌いだす。 メロディアスなサビの後、鋭いギター、ベースのストロークがいいアクセントになっている。 オルガンの調べ、ギターのアルペジオとともに、アカペラ風のヴォーカルが切々と迫る。 小刻みなロールがリズムを呼び覚ます。 ここでもミュートしたギターのオブリガートが入り、アクセントになっている。
  イントロのギターのハーモニーが復活し、再びメイン・ヴォーカルへ。 ファルセットのヴォーカリーズが繰り返され、インストの予兆となる。 最後は泣きのギター・ソロ。 ドラムスがエネルギッシュなプレイでギターを支える。 キーボード、ヴァイオリン奏法らによるシンフォニックなエンディングがいい味わいだ。
  ミドル・テンポによる哀切のバラード。 ヴォーカルをメインに、ギターとともにナイーヴさを素直に前面に出した「泣き」の作風である。 歌を支えるアンサンブルは、1 曲目のように派手なしかけこそないが、デリケートで美しい。 それでも、甘さに押し流されないのは、要所でリズム隊がキレのいいプレイを入れるためだろう。 終盤のインストでも、ロマンティックなギターをドラムスがみごとな演奏で支えている。 雰囲気もののために、好みは分かれそうだが、シンプルなポップス調の味わいのある名曲といえるだろう。 ストラトキャスターの音色を活かしたギター・ソロがみごと。

  「Circle」(5:30) クラシカルな哀愁の響きをまとうオルガン、そしてたゆとうようなエレピによるデュオ。 オルガンのロングトーンと敏捷に動くエレピの組み合わせが、効果的だ。 いかにも 70 年代後半らしい、ジャジーでロマンティックなオープニングである。 文句があるとすれば、AOR というには、オルガンがいい音過ぎること。(文句ではないな) オルガンに重なって、ベースが、動きを予感させるリフを提示する。 シンバルのざわめきとバスドラのアクセント。 ギターが美しい和音を奏で、軽やかなコード・ストロークがオブリガートする。 ギターのダブル・ノートのハーモニーが美しい。 ドラムのリズム・キープとともに、二つのギターがモザイクのような華麗なリフレインを提示する。 背景では、ストリングスが一気に膨れ上がる。 重なりあうギターのメロディたち。
  鮮やかなシンセサイザーのコード・リフ、そしてドラムの応酬、やがてギターのリフレインが弾ける泡のように漂いだす。 ストリングスがおだやかに流れてゆく。 そして飛び出すは、トニー・バンクスを思わせる端正なピアノのオスティナート。 スクエアなリズムとベース・ランニング。 やがて、クラシカルなカデンンツァ風のピアノがリタルダンド。
  そして、ギターによる華麗なるテーマが現れるのだ。 ギターにつき従うのは、華やかなストリングス・シンセサイザー。 泣きのギターとキーボードのコンビネーションがみごと。 静かにリズムは止み、イントロと同じオルガンが、ゆったりと流れ出す。 やがて、か細く切ないヴォーカルが、そのメロディをなぞるように歌いだすのだ。 オブリガートは即興風のベース。 ジャジーな賛美歌である。 厳かなオルガンとベースのアドリヴが消えてゆく。
  白昼夢のように幻想的なシーンが連なる中に、鮮やかなアクセントを配したファンタジック・ロックの傑作。 ギターを抑えてキーボード主導にすると、途端に、シンフォニックなプログレらしくなるところが興味深い。 クラシック、ジャズを直接的に参照するスタイルは、このグループでは珍しい。 ふわりとしたなかに鋭く飛び出すアクセント的なプレイが、カッコいい。 また、ドラムのプレイに工夫を凝らし、ドラマティックな流れをつくっている。 最後に少しだけヴォーカルが入るが、ほとんどインストゥルメンタル。 GENESISYES の作風に共通する、いわゆるプログレらしい曲といえるだろう。

  「Last Chance」(3:45)アコースティック・ギター弾き語りによるブリティッシュ・フォーク調の作品。 繊細で密やかな表情を見せるヴォーカル。 エレクトリック・ピアノが、暖かな音色と余韻で伴奏する。 サビでは、コーラスも加わり、美しいハーモニーを成す。 子供の頃に、なかよしの友達と交わした約束のように、甘く密やかな空気がいい。
  優しさあふれるメロディと穏やかなギターの響きがすてきなフォーク・ソング。 作風としては意外だが、みごとな出来映えだ。 アレンジは、素朴な歌をジャジーで暖かなエレピ伴奏で支えるポップス風のものであり、並々ならぬセンスを感じる。 ヴォーカル・コーラスの表情の巧みさにも注目。 個人的には Donovan の作品を思い出す。

  「The Gulf Of Knowledge」(9:57) 銅鑼が打ち鳴らされ、パーカッション、マリンバがユーモラスに踊る中華風のオープニング。 クロスフェードでハミングとともにオルガンがうっすらと湧きあがり、おそらくギターのヴァイオリン奏法によるメロディを、クラシカルなオルガンのリフレンが支える。 スピネットのような音色で、切ないメロディが綴られてゆく。 アコースティック・ギターによる、ほんのりスパニッシュで鮮やかなオブリガート。 轟々と沸き起こるティンパニ。 オルガンのリフレインの上で、スピネットの調べとギターが行き交う。 悠然とした響きが導くのは、マンドリンのトレモロ。 ドラムスがビートを刻む、静かながらもきっぱりとした表情のある演奏へ。 スピネットとマンドリンのトレモロにキーボードも重なって、切ない調べが響きわたる。 突如旋律は止み、ストリングスの淡い響きとフェイズシフタ風のまろやかにねじれるような音が現れては、消えてゆく。 おだやかなギターのアルペジオ、そして、ヴァイオリン奏法による柔らかな調べ。 ドラムスのフリーな打撃が、穏やかな演奏に不思議と違和感なくとけこむ。 いつの間にか、アコースティック・ギターによるデュオが演奏をリードしている。 そして、現れたときと同じようにすべては去ってゆく。 ストリングス、ギターによるまろやかなサウンドスケープを横切るのは、意外や甘いヴォーカルである。 軽やかなギターのストローク、むせび泣くようなヴァイオリン奏法ギターそしてスライド・ギターによる切ないメロディ。 エレピがソフトな和音で彩る。 スキャットとギターがロマンティックな呼応を続ける。 そして、銅鑼が鳴り響く。 ギターが静かに消えてゆく。
   きわめてファンタジックで瞑想的な大作。 リズム、リード、メロディというくくりにこだわらず、音の響きと息遣いを活かした作品である。 ふわふわとしたまま、自然の力で演奏はあちらこちらへと揺れ動き、それでいておだやかな秩序も感じられる。 完全即興のセッションをまとめていったのか、譜面が先にあるのか興味深い。 東洋の神秘風のエキゾチックな味つけすらも、全体の抽象的なイメージのなかへと埋没してしまうような気がする。 YES の「Close To The Edge」のイントロ/アウトロが延々続くといってもいいだろう。 本曲の終了後、鳥のさえずりとざわめき、そしてメンバーのものらしい明るい笑い声で、アルバムは終わる。

  以下はボーナス・トラック。 77 年発表のシングル B 面と 78 年発表のシングル両面である。 特に、78 年のシングルは、ベースのタイとキーボードのギャルデ脱退後、新メンバーで録音された作品。
  「Dance」(4:28)
  「Back Again」(4:16)
  「Cherry」(4:24)

(WPCR-1717)


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