TRIUMVIRAT

  ドイツのプログレッシヴ・ロック・グループ「TRIUMVIRAT」。 69 年結成。 英国 HARVEST からの作品含め、81 年の解散までに七枚のオリジナル・アルバムを残す。 ユルゲン・フリッツのプレイを中心にしたクラシカルかつポップなキーボード・ロック。 グループ、作品の詳細は上のグループ名をクリックしてください。

 Mediterranean Tales
 
Hans Pape bass, vocals
Hans Bathelt drums, percussion
Jürgen Fritz organ, electric piano, synthesizer, percussion, vocals

  72 年の第一作「Mediterranean Tales」。 内容は、オルガン、ピアノ中心のクラシカル・ロック。 ビートを強調したロック・バンド・フォーマットではあるが、ギターが不在であること、キーボードのプレイが終始クラシック調(モーツァルトなのだと思う)なので アグレッシヴなプレイ、場面でも、ダイナミクスの範囲はクラシックのものである。 クラシックの範囲は、モーツァルトから現代音楽まで。 唯一ヴォーカルが入るところでは、R&B やゴスペル、ジャズに傾いてくる。 全体にロックらしさはさほどでない。 同じキーボード・ロックというくくりながら THE NICE がサイケデリックなモッズとしてロックの立ち位置をキープしたのとは完全にアプローチが異なる。 ただし、ハモンド・オルガンのパーカッシヴなサウンドが 60 年代終盤くらいの世の中のイメージを強く宿しているので、細かいことに拘泥せずとも時代の音を浴びる楽しみはある。 トリオならではのベースの音使いやキーボードのとのやり取りも特徴的だ。 ファズを使ったエレクトリック・ピアノがおもしろい。 ムーグ・シンセサイザーはキース・エマーソンそっくりのサウンド、プレイでアクセントとして使用されている。 TRACE プラス通常のポップ・センス。 プロデュースはユルゲン・フリッツ。

  「Across The Waters」(16:34)
  「Eleven Kids」(6:00)
  「E Minor 5/9 Minor 5」(8:00)エンディング部分はなかなかアヴァンギャルド。
  「Broken Mirror」(7:15)
  以下ボーナス・トラック。
  「Be Home For Tea (Edit Of Track 1d) 」(3:35)
  「Broken Mirror (Edit) 」(3:21)
  「Ride In The Night」(4:25)
  「Sing Me A Song」(4:38)

(Harvest 1C 062-29 441 / 7243 5 35161 2 3)

 Illusions On A Double Dimple
 
Helmut Köllen bass, acoustic & electric guitar, vocals
Hans Bathelt percussion
Jürgen Fritz Hammond organ, Moog synthesizer, electric piano, Steinway grand piano, vocals
guest:
Ulla Wiesner background vocals
Brigitte Thomas background vocals
Hanna Dolitzsch background vocals
Peter Cadera Spoken words on 1
Hans Pape bass on 1
The Cologne Opera House Orchestra 
The Kurt Edelhagen Brass Section 

  73 年の第ニ作「Illusions On A Double Dimple」。 内容は、極上のキーボード・ポップ・ロック。 演奏、サウンドの中心は多彩きわまるキーボードなのだが、それと同じくらい印象的なのが、ビター・スウィートなヴォーカルである。 英国ポップからライト・ソウル調まで、切なく懐かしいメロディがそこここに現れる。 キーボードも、ポップス風の豊かな音色のピアノがいちばんしっくりくるようだ。 ハモンド・オルガンのスタイルも、ことさらにプログレというよりは、SLY & THE FAMILY STONETHREE DOG NIGHT のような R&B 系の影響を明らかにしている。 おまけに、ブラス・セクションが CHICAGO 風に聞えるので、ストリングスとバック・ヴォーカルも加わると、完全にメイン・ストリームのポップスとなる。 このセンスだと、米国でチャート・インしたとしても何ら不思議はない。 一方、インストゥルメンタル・パートにおけるキーボードのプレイ/サウンド・スタイルは、かなり忠実にキース・エマーソンをなぞっている。 ただし、軸となるテーマがロマンティックなために、デミニッシュで怪しげに攻め立てるアドリヴがあっても、演奏全体の印象は優しく切ないものとなっている。 また、ドラムスが音数のわりには安定感があるので、EL&P の性急さはない。 全体に、クラシカルなエッセンスを盛り込みすぎず、メロディを活かしたのが功を奏したようだ。 キーボードの音こそ似ているが、コンセプトの向きは EL&P とはやや異なるように思う。
   LP A 面には、オムニバス風のタイトル組曲大作、キーボード・ソロを大サービス。B 面は、プログレらしさ全開の大作。ユーロロックの雰囲気にあふれています。 テクニカルなアドリヴをロマンティックなインスト/歌ものでつないでゆく作風は、ロマンチシズムの濃度や洒落っ気の度合いを除けば、FOCUS とも共通する。 いろいろいいましたが、キーボード・ファンは鳥肌もののプレイが連続します。 大人は、歌詞にも泣けるはず。 奇妙なタイトルは、「ダブルのスコッチ(Dimple)一杯で現れる幻」という意味だと思います。 ある小説で「...Reflections in a Double Bourbon」というよく似た記述を見たことがあります。 プロデュースはユルゲン・フリッツ。

  「Illusion On A Double Dimple」(23:11)
    「Flashback」(0:54)
    「Schooldays」(3:20)
    「Triangle」(6:55)インストゥルメンタル。
    「Illusions」(1:40)
    「Dimplicity」(5:28)名曲。あまりに懐かしいポップスです。
    「Last Dance」(4:42)インストゥルメンタル。
  「Mister Ten Percent」(21:21)
    「Maze」(3:01)変拍子パターンで強烈に攻めるインストゥルメンタル。
    「Dawning」(1:01)華麗なピアノ・ソロによるブリッジ。
    「Bad Deal」(1:40)珍しくサックス・ソロも飛び出すハードなヴォーカル・ナンバー。
    「Roundabout」(5:49)EL&P 調のヘヴィ・チューン。 リズムも細かく刻み「走り回る」。 オープニング/クロージングの怪しげな演奏と中盤のジャジーなオルガン・ソロがみごと。
    「Lucky Girl」(4:32)アコースティック・ギターとムーグ、オルガンを中心としたアーシーなバラード。 やはり「Lucky Man」なんでしょう。
    「Million Dallars」(5:19)ジャジーなオルガン・ソロに導かれてピアノ、ストリングスが美しいユーロ・ポップ調のヴォーカル・パートヘ。 今のプログレには絶対無い音です。 傑作。

(Harvest 1C 062-29 491 / EMI/ELECTROLA 1C 538 7 95366 2)

 Spartacus
 
Helmut Köllen bass, acoustic & electric guitar, vocals
Hans Bathelt drums, percussion
Jürgen Fritz Hammond organ, Moog synthesizers, grand piano, srting ensemble, electric piano

  74 年の第三作「Spartacus」。 ローマ共和制末期に起こった奴隷による大叛乱「クラディアドルの乱」をテーマにしたトータル・アルバム。 Spartacus は、その叛乱のリーダーである。(カーク・ダグラスとジーン・シモンズ、ウッディ・ストロードらのハリウッド大作もあった) アルバムの内容は、豊かな音色のピアノ、オルガン、ムーグとストリングス・アンサンブルの二つのシンセサイザーをフィーチュアした、典型的キーボード・ロック。 勇壮かつ小気味よく、痛快にして哀愁もある 70 年代ロックらしいぜいたくな内容である。 ヴォーカルによるメロディアスなアクセントも効かせており、インストゥルメンタル・パートの技巧と豊かな表情と合わせてキーボード・ロック・ファンには無条件でお薦めできる。
   冒頭部分やテーマで分かるとおり EL&P が最もメロディアスになった「Trilogy」辺りの音に迫る内容だが、いくつか違いもある。 一つは、ピアノの演奏に近現代クラシック風味がなく、美音による正統ポップス路線であること。 そして、ストリングスの多用、オルガンにジャズ、R&B 風味が少ないことなどである。 キーボードのほかに、リズムに重みと骨太のグルーヴがあること、ヴォーカルが高品位のヒット・ポップス風であることなども挙げられる。 キーボード・ソロのスタイルやハモンド・オルガン、シンセサイザーのサウンドこそキース・エマーソン直系ながら、目指す方向が違うのだ。 アンバランスでヘヴィ、エキセントリックであることよりも、メロディアスなタッチで万人の胸に届く物語を綴ってゆくことを目指しているのだろう。 逆にいうと、攻撃的で現代音楽風の怪しげな表情を見せるところは EL&P に寄せている。 全体として、サウンド面でも演奏も、華やかさと安定感を兼ね備えたみごとなものである。 全編ほとんど途切れなく、スムースなタッチで演奏が流れてゆき、感動の大団円へと至る。 EL&P 風のキーボード・ロック・アンサンブルとエルトンジョンばりのポップ・ロックのハイレベルな合体技だ。
   コンセプトと歌詞は、ドラムスのハンス・バテルトによる。 ヴォーカルは英語。 プロデュースはユルゲン・フリッツ。

  「The Capital Of Power」(3:13)
  「The School Of Instant Plain」(6:22)
  「The Walls Of Doom」(3:56)
  「The Deadly Dream Of Freedom」(3:54)
  「The Hazy Shades Of Dawn」(3:09)
  「The Burning Sword Of Capua」(2:41)
  「The Sweetest Sound Of Liberty」(2:35)
  「The March To The Eternal City」(8:46)
  「Spartacus」(7:38)
  以下 CD ボーナス・トラック。
  「The Capital Of Power」(3:16)ライヴ・バージョン。
  「Showstopper」(3:37)未発表バージョン。

(Harvest 1 C 062-29 567)

 Old Loves Die Hard
 
Jürgen Fritz piano, organ, synthesizer
Hans Bathelt drums, percussion
Dick Frangenberg bass
Barry Palmer lead vocals

  76 年の第四作「Old Loves Die Hard」。 華麗なポップ・センスとキース・エマーソンに匹敵するキーボード・プレイが同時に存在する面白さ、いってみれば EL&P が「Works Vol.2」で成し遂げられなかったものが、ここにある。 懐かしさいっぱいの優美なメロディを、鳥肌が立ちそうなほどスリリングなハモンド・オルガンとクラシックとポップを両立させたエレガントなピアノが支える。 ヴォーカルとこのキーボードによって繰り広げられる作品は、どれも瑞々しく心安らぐものばかりだ。 フリッツのキーボード・プレイの特徴は、目の醒めるようなクリアな音色とフレージングに漂う、えもいわれぬ落ちつきと気品である。 この端正な品のよさとポップ・タッチは、おそらく、ピアノを多用することによって生まれているのだろう。 また、暖かみにあふれる演奏を基調に、ときおりハッシと息詰まるようなプレイを交える辺りは、すでに熟練を感じさせる。 音色に対する深い配慮にも注目しよう。 ヴォーカル含め、全体のポップ・テイストに、キュートさとともに濃いめのロマンチシズムが感じられるところが、いかにもドイツである。 1 曲目のイントロ、巧みに重ねられたキーボードの音色は、アルバム全体を象徴するかの如きすばらしさである。 70 年代後半キーボード・ロックの最高峰、いや 70 年代ポップス、ロックの良心をアルバムに封じ込めた傑作である。 プロデュースはユルゲン・フリッツ。

  「I Believe」(7:51)ピアノ、エレピ、ムーグ、ストリングス・アンサンブルを組み合わせたキーボード・プレイがリードするロマンチックなヴォーカル・ナンバー。 キーボードは、愛らしいフレーズを中心にした丁寧なプレイが目立つ。 しかし、エレピの使い分けなど音使いは、非常にぜいたく。 そして、その多彩な音を浮き上がらせず、自然に歌と絡めている。 ヨーロッパ風のエレガンスとアメリカンなポップ・センスがバランスした傑作だ。 フリッツとバテルトの共作。

  「A Day In A Life」(8:13)三部構成のインストゥルメンタル作品。 作曲はフリッツ。
    「Uranus's Dawn」(2:57)暖かみのあるローズ・ピアノとオーロラを思わせる冷ややかなムーグ、ストリングス・アンサンブルを組み合わせた幻想的なオープニング・チューン。 エレクトリックかつ安らぎに満ちたキーボード・アンサンブル。 ストリングス・シンセサイザーは、CAMEL のピート・バーデンスとよく似た使い方だ。 こういうテンポはタイム・キープが難しそう。
    「Pisces At Noon」(3:51)ドラマチックなグランド・ピアノのソロ。 近代曲を思わせる民族調からジャジーなプレイまで、細かなパッセージを散りばめて、軽やかに表情を変化させてゆく。 上昇・下降の音形やスケールなど EL&P ファン破顔の瞬間も多い。 ドラムス、ベースもなし。
    「Panorama Dusk」(1:21)ムーグとピアノ、ストリングス・アンサンブルによる終曲。 快速アンサンブルからゆったりとリタルダンド、シンフォニックなエンディングへと向かう。

  「The History Of Mystery(Part 1)」(7:50)ムーグによる行進曲風のテーマをもつ作品。 イントロの切ないピアノからロマンティックなヴォーカル・パートを経て、クラシカルなインストゥルメンタルへ。 ハモンド・オルガンとムーグによるソロの応酬・インタープレイは、まさに EL&P。 勇ましく愛らしい。 グループの作品。

  「The History Of Mystery(Part 2)」(3:59)前曲をダイジェスト・リプライズする演奏。 A 面のムードを持続させるための工夫だろうか。 グループの作品。

  「A Cold Old Worried Lady」(5:50)フリッツとパーマーの共作。

  「Panic On 5th Avenue」(10:31)フリッツの作品。

  「Old Loves Die Hard」(4:26)フリッツの作品。

(Harvest 1C 062-29 622 / 7243 8 28036 2 1)

 Pompeii
 
Jürgen Fritz piano, organ, synthesizer
guest:
Curt Cress drums, percussion
Dieter Petereit bass
Barry Palmer lead vocals
String section
Horn section
choir

  77 年の第五作「Pompeii」。 ベスビオ火山の噴火とともに滅んだ、イタリアの古都ポンペイ。 本作は、この太古の大惨事を巡るドラマを描いたトータル・アルバムである。 キーボードに加えて、管絃楽も動員したダイナミックな筆致によるスペクタクルだ。 なお、本作では、キーボードのユルゲン・フリッツのみが TRIUMVIRAT のメンバーとしてクレジットされており、残り 三人はスペシャル・ゲスト扱いになっている。 「NEW TRIUMVIRAT」というグループ名が示すように、すでにフリッツのソロ・プロジェクトとなっているようだ。 リズム・セクションも前作からメンバーが交代している。 注目は名ドラマー、クルト・クレスの参加だろう。

  1 曲目は「The Earthquake 62.A.D」(6:17)。 打ち寄せる潮騒とカモメの鳴き声の SE。 SE とオーヴァーラップしながら夢見るようなシンセサイザーのメロディが流れ始める。 みるみる目の覚めるように華やかなプレイが閃くと、間髪入れずにドラムスとハモンド・オルガンがけたたましく挑戦的なフレーズの応酬を始める。 キーボードを巧みに使った、みごとな語り口のオープニングである。 ドラも用いたヘヴィなドラムスとハモンド・オルガンが突っ走る。 そして、決めを入れると一気にヴォリューム・ダウン、静けさのなか遠くチャーチ・オルガンが流れ、モノローグが始まる。 柔らかく寄り添うピアノ、そしてドリーミーな女性ヴォカリーズが重なる。 一転、再び激しいハモンド・オルガンとドラムスが復活、エネルギッシュな演奏が続く。 ストリングス・シンセサイザーはうっすらとした音から、次第に壮大な響きへと高まり、朗々たるヴォーカルを守り立てる。 ドラムスの激しい連打とともに、三度アグレッシヴなハモンド・オルガンへと戻る。 スピーディなリズムに乗って、挑戦的なフレーズを繰返し、叩きつける。 最後はシンセサイザーとドラムスの激しい決めが轟いて終り。
  ドラマを予感させる詩的なイントロからシンセサイザー、ハモンドと雪崩れ込むスリリングなオープニング。 キーボードは、熱気を迸らせながらも決して暴走せず、スピーディで引き締ったリズムの上で、きっちりとフレーズを決めていく。 EL&P から、ヘヴィさとムチャクチャさを取り除いたようなイメージだ。 また、ヴォーカルは正統的な美声であり、ストリングスと背景に歌い上げる様が実に決まっている。 ハモンド・オルガンのプレイも、リズムの安定とストリングス伴奏のおかげで、激しさより端正さが印象的だ。 ともあれ迫力満点のオープニングだ。

  2 曲目「Journey Of A Fallen Angel」(6:13)。 ロマンチックかつ気品のあるピアノとストリングスを伴奏に、メロディアスなヴォーカルがさえるポップなバラード。 リズムが入ると、演奏が引き締まり、ポップなメロディ・ラインが一層生き生きとしてくる。 サビの控えめなコーラスもいい感じだ。 ピアノが一閃、ジャジーに表情を変えるとともに、ヴォーカルも情熱的に歌い上げる。 再び、ロマンティックなピアノ伴奏のヴォーカル・パートへと戻る。 静かに湧き上がるストリングス。 再びジャジー、ややカントリー風味もあるヴォーカルと伴奏。 ヴォーカルは、ハイトーンが美しい。 リラックスしたピアノ演奏を切り裂くように、トランペット風の鮮やかなシンセサイザー飛び込む。 最後はクラシカルに和音を響かせて終わり。
  ピアノ伴奏によるポップでジャジーなバラード。 うっすらとカントリー風味なせいか、アメリカのポップ・グループのようだ。 ピアノは巧みにヴォーカルと反応しあっており、伴奏というよりはデュオというイメージ。 時おり見せるシンセサイザーの鋭いフレーズが、フィドルのようにも聴こえるのもおもしろい。 口当たりのいいピアノの演奏は、エルトン・ジョンを思わせるところもある。

  3 曲目「Viva Pompeii」(4:16) ドラマチックなストリングスとドラムスに支えられた、クラシカルなピアノ演奏で、幕を開ける。 ピアノが華麗なリフレインへと収束すると、リズムとともにピアノからスピーディなハモンド、ラテン風のエキゾチックなシンセサイザーと鮮やかに移ってゆく。 ピアノ、シンセサイザーが短いフレーズを重ね、再びピアノのリフレインに戻ると、一転、ハモンドに導かれて、エレピのジャジーなソロが始まる。 激しいリズムとともに、エネルギッシュなピアノ・トリオが盛り上る。 次第に湧き上るストリングス・シンセサイザーのリフレインから、再びピアノのリフレインに戻る。 ハモンドを呼び水に、今度はエレクトリックなシンセサイザー。 再び、ピアノのテーマが繰返され、軽妙なシンセサイザーのアンサンブルが続く。 ピアノのテーマからリタルダンドとともに、ドラム・ロール、最後は大きく見得を切ってフェード・アウト。
  華麗なるピアノのテーマを軸に、全編キーボードがさえ渡るシンフォニックなインストゥルメンタル・ナンバー。 ピアノのテーマが上品なので、ビジーな展開や荒々しさよりも、溌剌たる躍動感が残る。 シンセサイザーは、1 曲目同様ゴージャスな響きだ。 タイトル通り、祝祭的なムードもいっぱいである。 キーボード大会。 ドラムスのプレイもパワフルかつ多彩。

   4 曲目「The Time Of Your Life」(4:35)。 ラグタイムから、和音中心のなつかしのポップスへと変化するピアノ。 ヴォーカルもセンチメンタルだ。 サビのコーラス、湧き上がるストリングスは、ジョージ・マーティン直系のポップの王道である。 女性ヴォーカルも交える曲調は、あたかもミッシェル・ポルナレフか大瀧詠一か。 リード・ヴォーカルの声は癖がないのが奏功し、しっかり曲にハマっている。 最後は、ヴォーカルが幾重にも重なって曲がとろけてしまう。 潮騒とカモメの鳴き声の SE で終わり。 A 面の締めくくり。
  リズミカルなピアノ、ELO 風のストリングス・オブリガート、コーラスとシンプルな 8 ビートにハートも痺れるすてきなポップ・ナンバー。 終りの感じも、ブリット・ポップの王道風である。 この世の春を謳歌するポンペイの街という感じでしょうか。

   5 曲目「The Rich Man And The Carpenter」(5:54) オープニングは、エチュードのようなフレーズを繰返すピアノ・ソロ。 転調してリフレイン。 派手なシンセサイザー、ドラムスの決めからリズムが入るも、ピアノはクリアーな音色でリフレインし、シンセサイザーも艶やかに流れる。 スリリングな 3 連アルペジオでスケールを駆け上ると、シンセサイザーとピアノの伴奏で力強いヴォーカルが歌い出す。 鋭いストリングスのオブリガート。 そして軽快なリズムを刻まれると、ヴォーカルも軽やかに走る。 カラフルなシンセサイザーのオブリガート。 ヴォーカルのシャウトとシンセサイザーのオブリガートから、一転ピアノの伴奏が戻り、ストリングスとともにヴォーカルは続く。 再び、軽快なリズムとシンセサイザー伴奏でヴォーカルが走る。 ピアノとドラムスがかけ合って決め。 一転してリズムは消え、静寂のなか、ピアノの和音とチェロの響きとともに、ささやくように密やかなヴォーカル。 幻想的な女性コーラスが包み込み、ピチカートとピアノが踊る。 再び、ドラムスとシンセサイザーの派手な決めから、ピアノとシンセサイザーが呼応するエレクトリックなアンサンブルに戻る。 またも一転リズムが消え、シンセサイザーは柔らかく変化し、ピアノのリフレインが続く。 リズムが戻り、ストリングス伴奏でピアノが歌いだす。 ピアノのリフレインから決め、そして軽やかなピアノとストリングスの伴奏でヴォーカルが歌いはじめる。 三度、軽快なリズムとともに、ヴォーカルとシンセサイザーが鮮やかに走る。 最後は、アンサンブルの決めとピアノのかけ合いが続き、華麗に幕を閉じる。
  歯切れよいピアノのリフレインを中心に展開するスリリングなヴォーカル・ナンバー。 ストリングス伴奏のポップなヴォーカルと、エネルギッシュなアンサンブルが均衡したカッコいい作品だ。 軽やかなリズムで走る演奏が心地よく、引きのアンサンブルにおける、チェロとコーラスのドリーミーな響きもすてきだ。 激しい打撃を見せるドラムスと鋭利な閃きを見せるシンセサイザーもかなりもものだが、ここでの主役は、さまざまな表情を見せるピアノだろう。 凛としたピアノには、RENAISSANCE を思わせるところもある。

   6 曲目「Dance On The Volucano」(3:30)行進曲風のムーグがドラムスの音とともにフェード・イン。 分厚い和音で伴奏するシンセサイザーと勇ましくも愛らしいムーグ。 ムーグのポルタメントから 8 ビートが刻まれるとシンセサイザーがムーグを引き継いで勇壮なテーマを繰返す。 そしてハモンドが切り込み挑発的なフレーズで煽る。 再びシンセサイザーは、つややかな音色のテーマを繰り返す。 ベースの音は、まるで地響きだ。 転調し、ストリングスとともに進むシンセサイザー。 ストリングスが高鳴り、シンセサイザーと交差して、ムーグが響くとエンディングである。
  EL&P の「Abanddon's Bolero」を思い出さずにいられないオープニング。 勇ましいメロディにも関わらず、どこか微笑ましいシンセサイザーのリフレインと、暴れているようでいて上品なハモンドは、いかにもこのグループらしい。

   7 曲目「Vesuvius 79 A.D.」(6:33)。 ドラムスがエネルギッシュにリズムを刻む。 激しくロールを繰り返すと、シンセサイザーの電子音が飛び交い、ストリングスがスリリングに低音を刻む。 そして、激しく叩きまくるドラムスとストリングスにリードされて、ハモンドがスピーディなフレーズで走る。 ストリングスから、一転リズムが消え、エレピ伴奏でヴォーカルが入る。 優しくメロウなヴォーカルと暖かいエレピ。 バスドラのロールとストリングスに導かれて、激しいリズムが戻り、ヴォーカルも激しくシャウトする。 そして、シンセサイザーのソロ。 フレージングは鋭いが、音はあくまで上品である。 ストリングスが響き、再び、ハモンドのスピーディなソロ、そしてシンセサイザーのソロ。 ここで 1 曲目のハモンドがリプライズ、細かいリズムとともに激走する。 ブレーキがかかり、ヴォーカルも 1 曲目を回想し高らかに歌う。 ハモンドの伴奏で転調し、高らかに歌い上げるヴォーカル。 再びハモンドのシャープなソロへ戻ってアグレッシヴに弾きまくり、最後はドラムスとシンクロして激しく連打でブレーキをかけ決めの轟音とともに消えてゆく。 ストリングスの余韻。
   ドラム・ソロと低音ストリングス、シンセサイザーの電子音が風雲急を告げるスリリングなオープニング。 前半では、迫力満点のストリングスとハモンド・オルガンのコンビネーションから、一転メロウなヴォーカルを経て、再びエレクトリックなシンセサイザーとハモンド・オルガンへ戻る、という展開を見せる。 ひたすらスリリングである。 そして 1 曲目がリプライズ。お約束とはいえ感動的だ。 ストリングスが曲調の転換のきっかけに使われているのも面白い。 ドラムスとハモンド・オルガンのユニゾンが急ブレーキをかけ、シンセサイザーが鋭く切り込むところで分かる人はきっと血が上ってしまうでしょう。 ハモンド・オルガンとシンセサイザー、ドラムスによるこの火の玉ジェットコースター風の演奏もいまだにプログレを追い求める人が後を絶たぬ理由の一つだろう。

  8 曲目は「The Hymn」(7:09)。 波の音。 ピアノは、大惨事の後の浄化と魂の安らぎを表現するように、静かに音を並べてゆく。 厳かなヴォーカル、そしてドラマチックなリズムとともに、ピアノもアクセントをつけた伴奏へと変化。 ヴォーカルは高らかに歌い上げる。 静かに満るストリングス。 そして、暖かさあふれるコーラス。 リズムが止み、ストリングスをバックにヴォーカルが戻る。 高らかに叫ぶと、ストリングスとピアノのアンサンブルにコーラスが響く。 クラシカルなストリングスのリフレインからピアノの静かな演奏へと戻り、消えていく。 最後に銃声のような音がして終わり。
  ロマンチックな中にも厳粛な響きを感じさせる終曲。 美しいピアノ、情熱的なヴォーカル、重厚な弦楽が、はかない夢の余韻と満ち足りた安らぎで胸を一杯にする。 ストレートに感動を呼ぶ作品だ。


  ハモンド・オルガンのフレーズ、ドラムスとの反応性の高いインタープレイ、シンセサイザーの使い方など、EL&P 直系の演奏スタイルである。 ヴォーカルのメロディ・ラインも、優れたポップ・センスを感じさせるとともに、ちょうど同時期の EL&P の作品「Works Vol.1」や「Love Beach」の雰囲気に合い通じるものがある。 しかし、率直にいって僕は、オープニングのハモンド・オルガンに身も世も無く興奮してしまった。 思わず鳥肌である。 ははは、生きててよかった。 世界は広い。 ははは。 この縦横無尽のキーボード・プレイこそ、本グループの音楽の真髄である。
  一方、特徴的なのは、ドラムスによるリズム・キープが、非常にタイトかつきわめて正確なために、演奏全体がビシっとした緊張感をもっていること。 特に、インストゥルメンタルになるほどアンサンブルは明確さと緊密なまとまりを増し、ブルーズを根っこにもつロック特有のルーズなアウト感覚がない。 ハモンド・オルガンのプレイは、確かに、スピーディかつ挑戦的だが、決して暴走するようなことはない。 ピアノのプレイも、クラシックの素養を活かしたものであり、ポップス調の演奏においても、豊かな音色と明確なフレージングが上品で整った印象を与える。 ヴォーカル・ナンバーは、このピアノのおかげで、何倍にも魅力が高まっている。 もっとも、この端正な演奏を聴くと、改めて、いかにキース・エマーソンが無理矢理なプレイをしてるかということが分かる。 俺が俺がをとことん突き詰めて、崩壊寸前の緊張感/迫力を生み出すわけだから、
  閑話休題、本作は、ドラマチックな大作から描写力のあるインストゥルメンタル・ナンバー、ポップなヴォーカル・ナンバーまでバラエティ豊かな曲想を取り揃えて、ドラマを巧みに描いており、トータル・アルバムとして優れている。 エネルギッシュかつダイナミックなアンサンブルが駆け巡るインストゥルメンタル・ナンバーと、気品と明るさを持つポップ・ナンバー、それぞれが特徴を活かし、役割を果たしてアルバムを構成している。 演奏の安定感/バランスのよさは、いわゆるキーボード・ロックのグループ中ダントツであり、この点では本家 EL&P すら凌ぐかもしれない。 また、演奏に先んじて、基本的なメロディのよさがある。 これは、ユルゲン・フリッツが優れた作曲家である証拠だろう。

(Harvest 1C 064-32 466 / 7243 8 28035 2 2)


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