TONTON MACOUTE

  イギリスのジャズロック・グループ「TONTON MACOUTE 」。 68 年結成。 NEON レーベル倒産のため作品は一枚のみ。 クールなヴァイブやフルート、サックスをフィーチュアしたサウンドは、ビート・グループがブルーズ、ジャズ、ラテン、R&B といった自らのルーツを内省し、再構築したようなユニークなものである。フレンチは解散後 VOYAGER を結成。

 Tonton Macoute
 
Chris Gavin bass, electric & acoustic guitar
Dave Knowles alto & tenor sax, flute, clarinet, vocals
Paul French organ, electric piano, piano, vibes, vocals
Nigel Reveler percussion

  71 年発表のデビュー・アルバム「Tonton Macoute」。 内容は、管楽器とキーボードをフィーチュアしたアーシーなジャズロック。 ギターとベースはかけ持ちであり、サックスやフルートがメロディをリードしている。 したがって、編成ということでは SOFT MACHINE に似るのだが、サウンドの雰囲気は全く異なる。 複雑な構築性もテクニカルな即興のひらめきも特には見当たらないサウンドにあるのは、シンプルながらもきちんと組み立てられたアンサンブル。 そして、メロディアスなのに奇妙に淡々とした味わいのソロとインタープレイである。 さらには、安定を回避するような大胆な変化。 それらから生まれる空気の微妙な色合いこそ、このグループのサウンドの特徴だろう。 アメリカ的な黒っぽさを見せながらも、控えめな音の佇まいは、ブリティッシュ・ジャズロックの妙味そのものである。 突出する力がないことが、ほどよい抑制という長所になってしまったともいえる。 キーフによるシュールなジャケも秀逸。

  「Just Like Stone」(6:30) フルート、ピアノをフィーチュアした穏やかな牧歌調(ややイタリアン・ロック風)の作品。ていねいなアンサンブルが印象的だ。 ハーモニウム風オルガン、ギターらのバッキングでフルートが舞う夢想的でおだやかなイントロダクション、そしてエレクトリック・ピアノのストロークでビートを強めて動きを演出し、アクセントする。 ヴォーカル・パートはややアメリカンな、カントリー調であり、悪声ながらも、にじむようなピアノのバッキングとあわせると牧歌的な雰囲気が強まる。 コーラスからの中盤、伸びやかなヴォカリーズ、そしてさりげないワウ・ギターの参加を契機に、フルート・ソロで一気に端折るようにテンポをあげる。 ここが醍醐味だろう。 ヴォーカルやオルガンらによるバッキングも一気にサイケデリックなロック色を強め、クールかつダイナミックに迫る。 フルートも間奏ではエネルギッシュなプレイに切り換える。 そして、たたみかけるようなバッキングと汗臭いカントリー・ロック色を強めるヴォーカル・ハーモニー。JEFFERSON AIRPLANEVELVELUNDER GROUND のイメージも。 ひとしきりの熱っぽい演奏の果て、すっとオープニングのアンサンブルへ回帰し、愛らしいアルペジオやフルートの調べとともに一度クールダウン(このカマトト風のファンタジックな描写への変化はジャーマン・ロックに通じると思う)、ピアノとドラムスの力で再び力が甦る。 ヴォーカル・ハーモニーは序章と同じメロディ・ラインなのだが、中盤の熱気がまだ強く残っており、汗臭く迫ってくる。
   幻想性、熱気と虚脱感が入り交じり英国ロックの多彩さを披露する佳作。 フォークっぽい序盤では、エレクトリックなサウンドによってるアコースティックなイメージを描くことで独特な非現実感が出ていると思う。 テーマのモチーフはラベルの「ボレロ」だろうか。 メンバーよりも楽器が多いので一部はオーバーダビングだろう。

  「Don't Make Me Cry」(8:48)ジャズが本職であることをあえて二曲目でアピールするという偏屈さに好感のもてるジャズロック。 オルガンによるパーカッシヴなコード・リフ、リフにベースが活き活きと絡み出すと、目の醒めるようなサックスが飛び込んでくる。全体に音色はソフトだが、サックスとオルガンが奔放に跳ねまわり、ファンキーなノリを生む。 現代でも受けがよさそうな序盤であり、リズムがややもたつくものの、ビート、R&B っぽさを十分残したリズミカルなジャズロックといえるだろう。 サックスからオルガンと、スタッカートのリフでまとまると、クールにヴォーカル登場。 ヴォーカルには、テープ操作による独特の湿っぽく重たいエコーがかかっており、近づいては去ってゆく。 いつの間にか、サイケデリックでけだるい雰囲気が強まってくる。
  突如ガーンと切り込むエレピ。 決めの連続からテンポがぐっと落ち、一気にブルージーなエレピ・ソロへ。 飛び込むのは、ファンキーかつソウルフルなヴォーカル。 初期の CHICAGO のイメージとぴったり重なる。 テンションをあげてゆくエレピ、二本のサックスが野太くも鋭いリフで応酬する。 パワフルなサックスとヴォーカル。
   8 分の 6 拍子によるエレピ、ベースのリフを冷ややかなフルート、ピアノが引継いでカーム・ダウン。 そのまま落ちついたランニング・ベースにリードが移り、ソウル・ジャズ調のクールなオルガンをバックに、フルートのアドリヴが始まる。 フルートを中心に、涼しげなラウンジ風の演奏が繰り広げられる。 乾いたオルガンがいい感じだ。 続いて、短いが印象的なヴァイブ・ソロ。 すぐにピアノ・ソロへと進み、いよいよ湿度も温度も下がってくる。 ベースはいつの間にかダブル・ベースになっている。 完全にモダン・ジャズのピアノ・トリオと化す。
   トリルから憂鬱な和音の響きを受けて、メランコリックな表情が演奏を横切る。 ピアノが呼び覚ましたかのように、フルートが静々と帰ってくる。 リリカルなピアノ、フルートとピアノがユニゾンでたたみかけるところでは、ドラムスもエキサイトする。 コードを刻むピアノと、か細くもしなやかに歌うフルート。 余韻をたっぷり残して、はかなげに終わる。
  ビートでサイケなジャズロック、ブルージーなブラス・ロック、モダン・ジャズの三部構成で迫る、オムニバス風の大作。 クールでリリカルというイメージは、主に後半のジャズ・アンサンブルから来る印象だろう。 前半ももちろん面白い。 中盤、ヴォーカルがソウルフルにシャウトする辺りは、CHICAGOBS&T のようなブラス・ロックの王道である。 全体にいえるのは、ファンキーなリフやなかなかパワフルなサックス・ソロにもかかわらず、演奏に熱気が薄く醒めたけだるさがある。 冷房の効いたホテルの部屋のような他人行儀のクールネスである。 目を覚ますようなエレピが切り込み、派手なソロをぶちかまし、サックスが入る辺りがクライマックスだろう。

  「Flying South In Winter」(6:26)場末のラウンジと厚化粧が似合うラテン・ロック風インストゥルメンタル。 パーカッションが打ち鳴らされ、オルガンがざわめき、フルートがささやくように揺れ動く、南方エキゾチズムあふれる艶美なイントロダクション。 さらさらとかき鳴らされる金属音、鉦を打つ音が鋭く響く。 フリー・フォームの演奏から、フルートのリードで静かに湧き上がってくる演奏は、リズムを得て、次第にシャープなアンサンブルへと整えられてゆき、5 拍子で力が蓄えられてゆく。 その力を吐き出すメイン・テーマは、エキゾティックなロングトーンのメロディとそれを受ける歯切れのいいツー・ノートによるアクセント。 このテーマの対話を通して曲は進んでゆく。 官能的というのが一番当っているだろう。 ハレム・ノクターンばりの悩ましげなメロディ・ラインとシンプルなフレーズ反復が、異国情趣とともに魔術のような効果を生む。 バッキングは、DOORS ばりの切れのいいハモンド・オルガン、アフロ・アジアン調のトライバル・パーカッション、フルートは時にアジア風のエキゾチズムも撒き散らす。 フルートに重なって始まるサックス・ソロは、タランティーノの映画のようなあやかしの中近東風である。 SANTANA 風のうねるようなノリをもった演奏が続く。 うねりの原動力は、エロティックなベースだろう。 そして、唐突に、呪術的なパーカッション・ソロが挿入される。 それでも流れが途切れないところがアレンジの妙である。 挑戦に応じるように、強引にロングトーンのフレーズからシャープなリフの展開へと回帰。 フルートはオブリガートも鮮やか。 転調して、ロングトーン・フレーズを繰り返すラテン・ロック・アンサンブル。 決めのリフレインがたたみかけられると、フルートが鮮やかに応酬して終わり。
  フルートによるエキゾチックなリフがあまりに印象的なラテン調のインストゥルメンタル・チューン。 フリー・フォームの序章から、一気にこのテーマに収束し、グラインドするように粘っこく強力なグルーヴで最後まで突き進む。 フルート、サックスはアドリヴ含め、全体の推進役であり、オルガンが脇を固め、そこへパーカッションが自由なフィーリングで絡んでくる。 テーマ演奏は単純ながらも、巧みなアクセントを効かせロングトーンでため込む力を吐き出すせいで、熱っぽい異国の雰囲気がよく出ている。 もちろんセンスのいいベースの存在あっての演奏である。 常夏の国への憧れを織り込んだラテン風ジャズロック。 クインシー・ジョーンズの "Soul Bossa" に通じる世界であり、本アルバムの目玉となる傑作である。

  「Dreams」(3:57)かき乱された思いを抱いて空ろな視線で醒めた紅茶に口をつけると古びた Bose から迸り出るアートロック。 物憂く和音をかきおろすギター、空ろに応じるヴァイブ。 無常感あるオープニングだ。 ベースのリフとともに、ヴォーカルは静かに歌い出す。 にじみ消え入るヴァイブ、沈んだヴォーカル。 スネアが細かいリズムを刻み始めると、演奏のテンションはやや上がり、ビートっぽいヴォカリーズが静かに響く。 繰り返しはハーモニーが入り、ティンパニのような重厚な打撃音がアクセントをつける。 空しく響くヴァイブ。 再びスネアが刻まれると、ヴォーカルのキメからヴォカリーズが高まる。 間奏は、強烈なファズ・ギター。 ドラムスも力強く 8 ビートを放ち、アコースティック・ギターのエネルギッシュなストロークとともにファズ・ギターが轟く。 再現するヴォーカル・ハーモニーもこの勢いに任せて、激しく走る。 音量を変化させ、繰り返しつつもうねるように突き進むアンサンブル。 激しいギターの一撃で、引き千切られるように終わる。
  メランコリックにしてキャッチーなハーモニーと苛ついたように激しいギターが対比するブリティッシュ・ロックらしい作品。 前半のクールで憂うつな雰囲気は、中盤からの強烈なファズ・ギターとアコースティック・ギターの応酬による激しい演奏で打ち破られる。 ヴォーカル・ハーモニーは、きわめて 60 年代色濃く、クールでシニカルなのにスウィートな響きがいい。 全篇にわたり、ヴァイブが彩りを添えるものの、ジャズ色はなく、アートロック調である。 ヴァイブのささやきは、深夜の街灯のように寂しげである。

  「You Make My Jelly Roll」(7:58)情けなさや怒りに満ちたネガティヴな心を手荒にいたわるブルージーな歌ものオールド・ジャズ。 小粋なベース・ランニング、ジャズ・ピアノによる軽やかな伴奏で歌い出すヴォーカルは、少しけだるげ。 それでもエコーは涼やかだ。 リズムはパーフェクトな 4 ビート。 どちらかといえば、フォーク・タッチのジャズである。 ピアノの激しいオスティナート、そして再びヴォーカル・パートへ。 オブリガートのピアノは転がるようだ。 再び 8 ビートでオスティナートそして 4 小節の短いベース・リフからサックスのリフが熱っぽく決め、そしてアドリヴへ。 フリー・ジャズ調のサックスと、さりげなく受け止めては自己主張もするピアノとのインタープレイ。 ベースも自由なプレイなので、三者がそれぞれに動きを見せる。 つかず離れずの微妙なトリオは、小爆発を繰り返しつつ、どちらかが前面に出ては入れ替わり、そして対話する。 ベースの導きで、ヴォーカル・パートへと戻って終わる。
  一転してブルージーな 4 ビート・ジャズ・ヴォーカルもの。 サックス、ピアノ、ベース、ドラムスのカルテット。 中間部のサックスとピアノの気品あるインタープレイが、アルバム全体を象徴するような淡い色合いをもっている。 ヴォーカルは、どちらかといえば黒人女性ヴォーカリストのスタイルに近い。 なかなか本格的だ。 中盤のアドリヴ合戦は、真の最高潮に達することなく崩れ去ってしまう。 少し不満が残るが、このイきそうでイかない感じがクールなのかもしれない。 ソウルフルなヴォーカルと渋く落ちついたアンサンブルがすばらしいブリティッシュ・ジャズである。 タイトルにある Jelly Roll とはジェリー・ロール・モートンのこと?

  「Natural High Part 1」(6:55)千々に乱れる心のままに思いもよらぬ温もりを抱きしめてさらに錯乱するプログレッシヴ・チューン。威勢のよさと知的な繊細さが矛盾したまま一つになった魅力的な作品である。 ソロ・ピアノによる優美なイントロダクション。 ジャズの煙草臭いイメージは微塵もない、クラシカル(バロック音楽風)で端正な演奏だ。
  やがて、ピアノのトリルの重みが増し、エレクトリック・ピアノが熱っぽいオルガンと雷鳴のようなドラムスを呼び覚ます。 ヘヴィなロックの始まりだ。 物語調のヴォーカルのひねったメロディが冴える。 伴奏はクラシカルなエレクトリック・ピアノ、オブリガートは管楽器だろうか。 繰り返しでは、リズムも鋭くなり、ベースとともにクラリネットのような音が伴奏する。 サビは、エキゾチックにしてキャッチーなテイスト、ここでもクラリネットのような野太い音が印象的。 スタッカートによるキメの連続、そして沈みこんだアンサンブルへ。
  エレピとベースが波打ち、エレクトリック・サックスの幻想的なソロへ。 打ち寄せる波のようにざわめくシンバル。 サックスとエレピがモアレを成し、サックスにワウワウがかかるとともに、奔放なアドリヴ合戦へと発展する。 ハモンド・オルガンが暖かい音色で鋭く切り込むと、思わず鳥肌が立つ。 熱く絡み合うサックス、エレピのデュオをヴィブラートするホットなオルガンが煽る。 ルーズなノリがカッコいい。
  一転、エレピによるクラシカルなリフレインを追いかけるように、ドラムスがフェードイン、猛烈に走り出す。 アヒルが鳴くように素っ頓狂なサックスに煽られてヴォーカルが歌い出し、すべてが走る。 オルガンのオブリガート、そしてサックスの鋭い突っ込み。
  ピアノをきっかけに瞬時にブレイク、エレクトリック・ピアノがバロック調のソロを放つ。 不協和音もあるが、両手をフルに使った本格的なソロである。 一気にベース、ドラムス、エレピのトリオによるキーボード・プログレと化す。 唐突なフェード・アウトにも驚かない。
  キーボードと管楽器をフィーチュアしたプログレッシヴな作品。 R&B テイストあるイージーな歌メロの魅力はいうまでもなく、本作品はクラシカルなキーボードやサイケデリックな管楽器を次々に盛り込んで緊張感を途切れさせない。 中盤のエレクトリック・サックスの入ったアドリヴ・パートは、挑発的な姿勢としなやかなグルーヴがフランク・ザッパ風ですらある。 本編とはほぼ別世界のイントロのピアノの美しさを惜しげなく遠い記憶に追いやってしまう無謀さ。 アルバム全体を通して感じられるのだが、どの作品でもキャッチーなテーマ、ヴォーカルと大胆なインストゥルメンタルの組み合わせが絶妙だ。 強引なフェード・アウトは、イタリアンロック並。

  「Natural High Part 2」(3:53)妄想の末の現実との邂逅には手応えではなく後味悪さのみが残るもなぜか足取りは軽く、これが世渡りかと納得するジャズロック。 軽やかなギター、フルートとベースがささやきあう静かなイントロダクション。 遠くエコーに沈むスキャット。 フリー・ジャズ風のデタラメなスキャットとおだやかな演奏の取り合わせが、妙である。 おだやかにハイハットが緊張を維持する。 ヴォーカル、フルート、ギターが、ルーズながらも次第に結びつき、形をつくり始める。 舞い踊るフルート、そして軽妙なアンサンブル。 かけ声とともに打撃音が轟く。 一気に演奏は力を得て、音量も上げ、ピアノ伴奏でトーキング・フルートがエネルギッシュに暴れ出す。 ギターは歯切れのいいコード・ストロークで演奏を支える。 いくつかのサックスが分厚いユニゾン・リフを押し出し、やがてすべてがそこへとまとまってゆく。 そのままフェード・アウト。
  エピローグ風の軽やかなジャズロック。 荒々しい音ながら、全体としては軽妙なノリの演奏である。 エコーにひたった荒々しいスキャットと、軽やかな響きのフルートの対比が面白い。 中盤からエコーが消えて生々しい音に変り、演奏もエネルギッシュになる。 リフは、Part 1 のテーマを変化させたものである。


  音楽の基本は、2 曲目、5 曲目に示されるように、ジャズ。 したがって、8 ビートで突き進む曲でも、フルート、ヴァイブのクールな音色が、ラウドなロックとねばっこい R&B にまろやかさとひんやりした感触を加えている。 サックスやクラリネットのプレイも、熱気よりも、サラリとした湿度の低さが特徴的だ。 この静謐でクールな音は、いかにもジャケットのイメージ通りである。 このクールネスとファンキーでエネルギッシュな黒っぽさ、歌謡曲風のラテン・テイストがバランスして、魅力的な作品になっている。 特に、エキゾチックな 3 曲目は、クインシー・ジョーンズのソウル・ボッサを思わせるキャッチーでグルーヴィな傑作。 また、最後の組曲は、起伏と意外性ある展開をもつプログレッシヴ・ジャズロックの傑作である。 全体に、テーマとなる旋律がきわめて魅力的でありながら、大胆な展開へと持ち込むことをためらわない作風であり、まさしくプログレッシヴな姿勢を感じる作品といえる。
(RCA NEON NE 4 / REP 4467-WP)


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