THINKING PLAGUE

  アメリカのプログレッシヴ・ロック・グループ「THINKING PLAGUE」。82 年結成。コロラド出身。北米レコメンの原点の一つ。コケットな女性ヴォーカルをフィーチュアし、ART BEARS に迫る。寡作だが作品は重厚。 2008 年欧州ツアーより元 HUGHSCORE の エレイン・デファルコ が参加。2012 年新譜「Decline And Fall」もカッコいい。

 A History Of Madness

 
Mike Johnson guitar & such Deborah Perry singing
Dave Willey bass, accordion Dave Shamrock drum, percussion
Mark Harris sax, clarinet, flute Matt Mitchel piano, harmonium, synths
guest:
Kent McLagan acoustic bass Jean Harrison fiddle
Ron Miles trumpet Dave Kerman drum, percussion
Leslie Jordan voice Mark McCoin sample, various exotica

  2003 年発表のアルバム「A History Of Madness」。 内容は、アヴァンギャルドな現代音楽ロック。 コケティッシュなヴォイス、シリアスなハイテク・ギター、フリーな管楽器、暴発的な打楽器らによる、凶暴にして込み入った演奏である。 まずすごいのが、各プレイヤーの力量。 複雑怪奇なスコアを再現する力と、爆発的な即興に興じる力を兼ね備えたツワモノどもが、揃っている。 (マイク・ジョンソンは、あまり語られないが、現代ロックにおける優れたギタリストの一人である) デイヴ・カーマンの参加やデボラ・ペリーという歌い手を共有することから、5UU'S と通じるイメージもあるが、どちらかといえば、かのグループのような破壊的なダイナミズムよりも、複雑なアンサンブルや音響効果によるクラシカルな構築性が特徴的である。 製作においても、きわめて綿密な編集作業が行われているようだ。 捻じれ、折れ曲がり、膨れ上がるかと思えば、瞬く間に霞の如く掻き消え、降り注ぎ、干上がり、歌うかと思えば、血を吐いて絶叫する。
   1 曲目はポリリズミックな変拍子反復パターンで迫る、美しくも緊張感あふれる傑作。 ジョンソンのギターが冴える、往年の KING CRIMSON にコケットな女声が加わったような内容だ。 4 曲目は超絶的なギターとアコーディオンが印象的な民族音楽風の作品。 6 曲目のような作風は、レコメンやシンフォニックといったキーワードにはとどまらない音楽性を示している。 超絶的なギター・プレイやハードに攻める場面もあるのだが、それ以上に、抽象的なピアノ/管楽器のソロや神秘的な場面が印象的。 8 曲目はライヴによる無伴奏サックス・ソナタと思いきや、ノイズが渦巻く PINK FLOYD 的な世界へ。 拍手はせせらぎに変わり、群れなす怨霊のうめきやら電子のささやきやらが、宇宙を埋め尽くす。 ある意味古典的な作風だが、力作であることは確か。 一方 11 曲目の大作は、いかにもこのグループらしい強圧的で攻撃的なチェンバー・シンフォニック・ロックの傑作。 現代音楽ファンにはお薦め。 ドラムスのデイヴ・シャムロックは、SLEEPY TIME GORILLAMUSEUM のメンバーでもある。

  
(CUNEIFORM RUNE 180)

 ...A Thinking Plague

 
Sharon Bradford voice, noise on 8 casio mini-synth & 'drake noise box' on 10
Bob Drake bass, drums & percussion, voice on 6,8,10, guitar on 6,9,10, bowed balalaika on 7,11, synths on 7,10,12, piano on 12
Harry Fleishman piano & organ on 7,8, voice on 8
Mark Fuller drums on 7, Simons drums on 12
Mike Johnson guitar on 6,7,8,12, synths on 6,7,12, piano & metal pipes on 12, voice on 6,8
guest:
Mark Bradford voice on 12
 
Bob Drake bass, drums & percussion on 1,5 keyboards on 4, voice on 5
Mark Fuller drums on 2,3,5, timbales & Simons drums on 1
Eric Moon keyboards on 1,2,3,5
Mike Johnson guitar, drums & percussion on 5
Susanne Lewis voice
Mark McCoin drums, percussion, voice on 5, cheap sampler on 1(flute, piano), 5(syllables)
Fred Hess alto sax on 5
Glenn Nitta soprano sax on 5

  2000 年発表のアルバム「Early Plague Years」。初期二作品、「...A Thinking Plague」と「Moonsongs」を収録。

  1 曲目から 5 曲目までは 86 年発表のアルバム「Moonsongs」。カセットで発表され、LP 化は翌 87 年。 リード・ヴォーカルはスザンヌ・ルイスに交代。 ヴォーカルと自分の姿勢を問い質すような厳格な雰囲気が ART BEARS を思わせるも、演奏にはクラシカルな重厚さがある。 打楽器をフィーチュアした強固で屈折したアンサンブルが特徴。

  「Warheads」(8:03)アジテーションというにはあまりに重厚な大作。 コケットにして素っ頓狂なヴォーカルを用いるも、内容はあくまでカタストロフィックで重々しい。 巨大な工場が崩れ落ちるようなイメージである。

  「Etude For Combo」(6:59)ノリはけっこういいのだが、終止デンジャラスな音に満ち満ちたインスト・ロック。 生々しい音がニッティング・ファクトリ勢を連想させる。ライヴ録音。

  「Collarless Fog That One Day Soon」(3:20)

  「Inside Out」(4:12)ルイスの朗唱をスペイシーかつインダストリアルなノイズが取り巻くシリアスな作品。

  「Moonsongs」(15:23)波打つパーカッションの群れ、アジテートするヴォーカル/ハーモニー、CRIMSON を思わせる凶暴なギター、ベースらによる攻撃的な演奏に、ノイズやテープ効果による実験も大胆に組み込んだ圧倒的な野心作。 瞬間的に 80 年代 CRIMSON 風のポリリズミックでエキゾチックな演奏を見せるも、サックスが現れるとレコメン指数が一気に上がる。 打楽器がフィーチュアされたエネルギッシュな演奏からピアノを用いた神秘的な場面まで、展開はきわめて劇的である。 ニューウェーヴかつプログレというのが「あり」なのだと、気がつかせてくれた逸品です。 P.I.L の「Flower Of Romance」を引き合いに出しても差し支えなさそう。


  6 曲目から 12 曲目までは 84 年発表の「...A Thinking Plague」。 プログレ、レコメン・サウンドに加えて、XTC などパンク系ニューウェーヴの影響も感じられる第一作。 ソプラノ・ヴォイスをフィーチュアしたスローなパートでは、ART BEARS 的な深みや呪術性があるが、リズミカルに進むところでは、意外なほどストレートなロックンロール・スタイルも見せる。(1 曲目冒頭や 3 曲目のメイン・ヴォーカルなど 80 年代イギリスにあったようなスタイルである) そのため、メッセージ性はさほどでもないような気がしてしまうのだが、一貫して不安で険しい調子やインストゥルメンタルにおけるノイジーで破壊的なタッチ、めまぐるしいコラージュなどは、やはり HENRY COW から受け継いだものであり、シリアスなメッセージが込められているようだ。 ミニマルにして爆発力ある演奏には、80 年代以降の KING CRIMSON の姿も垣間見える。 即興/偶然性というファクターも持ち込んではいるものの、どちらかといえば、ダイナミズムよりも丹念なアンサンブルの構築が目指されているようであり、フリー・ジャズというよりは現代音楽的なロックというべきだろう。 管楽器がないために肉感的な荒々しさよりも、金属的でヒステリックなサウンドになっているところや、前述した軽めのノリとユーモアが基調にあるところも、そう思わせる一因だ。 インスト・パートは、ナチュラル・トーンのギター、アコースティック・ピアノ、アコースティック・ギターなど歪みのないクリアーな音が支配的であり、ワイルドながらも研ぎ澄まされた演奏というイメージが強い。 特に、アコースティック/エレクトリック両ギターのプレイがみごと。 間が抜けたような音が氾濫していた時代ではあったが、そういう音へ明晰にして凶暴な側面をもたせたという点ではかなり個性的だったに違いない。 7 曲目は雑音を利用したミュージック・コンクレートと衝撃的な即興を交えた大作。 チープな音にもかかわらず想像力を刺激するプログレ王道的な聴き応えあり。 8 曲目はテクノ・ポップ調のニューウェーヴ・チューンをヘヴィなギターを中心とした凶暴な音で変容させた作品。 暴力的。 11 曲目は、クレジットによれば、弓で奏でたバラライカの多重録音による歪曲したストリングス・セクションがフィーチュアされる。 12 曲目は中間部にドレーク、ジョンソン、ブラッドフォードによる即興を交えた傑作。 終盤狂乱するギターがいかにも。

  「I Do Not Live」(5:02)
  「Possessed」(8:17)
  「How To Clean Squid」(5:01)
  「A Light Is On And Name The World」(1:28)
  「The Taste That Lingers On」(2:06)
  「Four Men In The Rain」(2:29)
  「Thorns Of Blue And Red / The War」(15:26)
  
(RUNE 141)

 In This Life

 
Mike Johnson guitar
Bob Drake drum, bass, violin
Susanne Lewis voice, guitar
Shane Hotle keyboards
Maria Moran bass, guitar
Mark Harris woodwinds
Lawrence Haugseth clarinet
guest:
Fred Frith guitar on 4

  89 年発表のアルバム「In This Life」。 素っ気なくもコケティッシュなヴォーカルと、生音っぽいのに攻撃的な演奏による緊張感あるサウンド。 木管楽器とアコースティック・ギターがからみあう不気味なアンサンブルや、極度に素っ頓狂な演奏など、典型的なレコメン系のスタイルである。 特に、金属的なギター・ノイズともつれるようなクラリネットの音は、どうしても HENRY COW を連想させる。 もちろん、違いはある。 まず新鮮なのは、現代音楽的な枠組みが感じられるダイナミックにして精密な演奏に、ニューウェーヴ調の蓮っ葉ヴォーカルが入っているところ。 ピアノのプレイや凝ったリズムにアカデミックなセンスを感じさせるとともに、チープな描き割風のテイストもあるのである。 さらに、無機的なメロディ・ラインや傾いだような和声に、どことなく淡いペーソスとロマンティックな絶望感が漂い、そこが 70 年代プログレの残り香のように感じられるのだ。 外しやフェイクではない、丹念に構築してゆく美学があるに違いない。 ややアフロな音使いも見せており、音楽の間口は相当広いようだが、やはり原点にプログレがあるのではないだろうか。 それにしても 80 年代終盤でこういう音をやっていたとは、相当のガンコものか半世捨て人状態だったのでは。 もっとも、そういう世間の上っ面に流されない面々のおかげで、こうしていい音楽が残ってゆくのである。 機敏な運動性と重厚な風格のあるチェンバー・ロックの傑作といえるでしょう。 個人的には、アコースティック・ギターが印象的な 1 曲目「Lycanthrope」、劇的な 4 曲目「Organism(version II)」(フレッド・フリスがゲスト参加)が気に入ってます。 CD には、「Moonsongs」のリミックス版、「Possessed」のリマスター版が収録されています。 なお、本作品と同時期にスザンヌ・ルイスとボブ・ドレークは HAIL なるサイケポップ・デュオでも活動している。

  「Lycanthrope」()
  「Run Amok」()
  「Malaise」()
  「Organism(version II)」()
  「Love」()
  「The Guardian」()
  「Fountain Of All Tears」()
  「Moonsongs」()再録/リミックス・ヴァージョン。
  「Possessed」()リマスター・ヴァージョン。
  
(ReR TPCD1)

 In Extremis

 
Mike Johnson guitar, synthesizer, sequences
Dave Kerman drum, percussion
Mark Harris sax, clarinet, flute, bass clarinet
Deborah Perry voice
Dave Willey bass, accordion
Shane Hotle piano, synthesizer, mellotron
Bob Drake drum, bass, violin

  98 年発表のアルバム「In Extremis」 10 年ぶりの新作。 ロバート・ドレークはこの間に 5UU'S に参加し、デイヴ・カーマンとの知己を得る。 内容は、不協和音と変拍子を多用した深刻な展開という典型的な ReR 系サウンドにもかかわらず、同時にダイナミックで重厚なシンフォニック・ロック。 演奏は、変則奏法も多用するギタリスト、マイク・ジョンソンを中心に、アグレッシヴなサウンドとがっちりとしたアンサンブルが組み合わさったものであり、そこへ個性的過ぎるプレイ(たとえば、ドレークのアコースティック・ギターとヴォーカル、デボラ・ペリーの呪術的ヴォイスなど)が連ねられる。 ときに SAMLA ばりのコミカルさを見せたり、素っ頓狂でありながら、目まぐるしい変転を堂々と突き進んでゆく。 ギターはオーソドックスなトーンによる誠実なプレイ(フレーズは変だが)に、80' 以降の KING CRIMSON 的な煽り、スピード感も盛り込んでいる。 また、デイヴ・カーマンの参加によってロックっぽい骨太さは強まり、コケットなヴォイス(スザンヌ・ルイスに代わる新ヴォーカリスト)や管楽器、キーボードらによるチェンバー風の演奏にカッコいい運動性が生まれている。 厳格な変拍子アンサンブルによる密度の高い構築性のおかげか、即興や脱構築を超えた序破急のセンスというべきか、全編とにかくドラマティック。 4 曲目の大作ではかなりコワれるのだが、全体のイメージはチンドン屋系や絶叫フリー系だけでは決してない、レコメン・シンフォニック・ロックの傑作である。 思い切りメロトロンもあり。 ハードなシンフォニック・タッチは 5UU'S と共通するが、ここでのサウンドは 5UU'S の音塊を解きほぐして、より明快にした感じである。

  
(CUNEIFORM RUNE 113)


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