TEMPUS FUGIT

  ブラジルのネオ・プログレッシヴ・ロック・グループ「TEMPUS FUGIT」。 96 年アンドレ・メロを中心に結成。 97 年アルバム・デビュー。 2001 年現在、作品はオフィシャル・ブートレッグ・ライヴ含め三枚。 2008 年新作「Chessboard」発表。
  作風は、現代的なサウンドによる美しく躍動感のあるシンフォニック・ロック。 旋律美/ハーモニーを追求しながらも、スリリングなアンサンブルも忘れない理想的なスタイルだ。

 Chessboard
 
Andre Mello keyboards, vocals
Ary Moura drums
Andre Ribeiro bass, acoustic guitar
Henrique Simoes electric & acoustic guitar

  2008 年発表の第三作「Chessboard」。 内容は、CAMEL(純朴なヴォーカルのスタイルも含め)、PENDRAGON に南米風の爽やかさを加味したメロディアスなシンフォニック・ロック。 前作は傑作だったが、本作品でも、リズム・セクション含めバランスのいい音と演奏で、全編を通じて穏かな語り口で、切々としかし重くならずに歌を綴っている。 南半球特有の清涼感という点では SEBASTIAN HARDIE とも共通項があるが、彼のグループよりも若干しっとりとウェットな、英国風ともいうべき情感が強い。 演奏の中心はやはりキーボードだろう。 無邪気に歌い捲くるギターにフロントを譲っているようでいて、その実きわめてハイセンスなサウンド・メイキングとプレイで全体をしっかり支えている。 気品あるアコースティック・ピアノ、オブリガートやリフで流々と歌うミニムーグ、アグレッシヴなアクセントになる角ばったハモンド・オルガンといった役者をいい場面でいい感じで使っている。 弾き倒しでもバッキング・オンリーでもなく全体演奏をリードし、補完している。 こういったバランス感覚あるキーボードの演奏はかなり貴重である。 アンサンブルの作りも音を分厚く重ね過ぎていず、明快な動きをライトな量感とともに、なめらかで適度なスピード感がある。 昔のフュージョンや AOR のような表現も、こういう作風だと、適所に配することでより一層クリシェとしての存在感がアップする。 優しげで伸びやか、なおかつ素朴な健やかさのあるヴォーカルもいい。
  飛びぬけてはいないが、メロディアスでロマンティックなシンフォニック・ロックという点では十分及第点である。

  「Pontos De Fuga」(1:12 + 3:27)
  「Unfair World」(7:58)
  「Only To Be With You」(10:07)
  「The Princes」(4:23 + 3:20)
  「Chessboard」(11:03 + 8:27)

(MRCD 0708)

 Tales From A Forgotten World
 
Andre Mello keyboards, lead vocals, backing vocals
Ary Moura drums, electronic percussion
Bernard bass, narration, backing vocals
Henrique Simoes electric & acoustic guitar, cavaquinlo, mandolin, backing vocals

  97 年発表の第一作「Tales From A Forgotten World」。 内容は、豊かな音色をもつ本格的なキーボードとメロディアスなギターを中心とした、潤いある溌剌たるシンフォニック・ロック。 旋律をていねいに積み上げて演奏を形づくるスタイルであり、初期 MARILLIONPENDRAGON らに続く、ネオ・プログレッシヴ・ロック第二世代の一つである。 南米らしい爽やかな涼感とともに、耽美でアンニュイな表情や知的な深みもあり、かなりの力作といえるだろう。 泣きのメロディ一辺倒の貧弱ポンプ・ロックとは、かけはなれた出来ばえとなっている。 繊細にして爽快感あるアンサンブルを支えるのは、キーボーディストの卓越したプレイである。
   演奏は、万華鏡やステンド・グラスをイメージさせるカラフルで奥行きのあるキーボード・オーケストレーションを中心に、躍動感あるテーマを朗々と歌い上げ、それをクラシカルなアンサンブルが取り巻いてゆく。 そして、レガートなギター・プレイなどアクセントも巧みにちりばめられている。 さて、アコースティック・ピアノとつややかなシンセサイザーのソロ、深い色彩感のあるバッキングなど、キーボードのプレイは、まちがいなく演奏の中心である。 雰囲気重視なようでいて、メロディ/音色ばかりでなくアンサンブルの呼吸のよさが生むスリリングな演出もある。 そして、ファンタジー・ノベルのような味わいを中心に、ゴシックな耽美センスよりは、素直な情感と音の涼感を優先させている。 キーボーディストは、甘いヴォイスでリード・ヴォーカルもとっており、大活躍である。 アルバムの主題が陳腐な指輪物語風御伽噺なのにはガックリさせられるが、音そのものはすばらしい。 とってつけたようにも聴こえる変拍子のリフでがっかりする人もしない人も、さらに先へと進むと、美しくも健やかな感覚にあふれた世界が見えてきます。 メローなタッチが主なだけに、5 曲目のたたみかけるような展開が GENESIS のエネルギッシュな面を思い出させて GOOD。 難点は、ややリズム・セクションが弱いこと。 ただし、繰り返しますが、キーボーディストはかなりの逸材です。

  「Prologue」(4:38)
  「The City And The Crystal」(7:05)
  「The Goblin's Trail」(7:18)
  「War God」(6:12)
  「Bornera」(10:37)
  「A Song For A Distant Land」(7:02)
  「Proncesa Vanessa」(6:07)
  「The Lord Of A Thousand Tales」(11:43)

(RSLN 025)

 The Dawn After The Strorm
 
Andre Mello keyboards, lead vocals, backing vocals
Ary Moura drums, electronic percussion
Henrique Simoes electric & acoustic guitar, mandolin, backing vocals
Andre Luiz bass, acoustic guitar
guest:
Marco Aureh flute on 8
Fernando Sierpe vocals on 9

  99 年発表の第二作「The Dawn After The Strorm」。 ベーシストが、クラシック・ギターもプレイするアンドレ・ルイズに交代。 基本的には前作の踏襲ながら、透明感のある構築型メロディアス・ロックにフュージョン風の涼感とダイナミックな表現が加わり、さらにグレード・アップした内容になっている。 1 曲目から、青空を突き抜けるてゆくような爽やかさがある。 キーボードは、ニューエイジ風のアトモスフェリックなプレイとアナログ・シンセサイザーやオルガンによるプログレらしいプレイを、非常に美しい音色でこなしている。 ギターは進境著しく、ソロのなめらかさのアップに加えて、キーボードとの対等のからみもしっかりと見せ場にしている。 また、今回は、リズム・セクションも安定感があり、そのおかげでアンサンブル指向の楽曲の完成度がさらにアップしている。 ナイーヴさを前面に出しつつもディテールに凝るスタイルは、いわば宮崎駿的。 ポップな聴きやすさもあるラテン・シンフォニック・ロックである。 また、JADIS に通じる世界に、よりリリカルでアコースティックな音も配した傑作ともいえるだろう。 全体にインストが主。 ヴォーカルは美声で健闘するも、ほんのすこしだけ不安定。 キーボード・ファンには特にお薦めです。 本作品が気に入ったらメキシコの CODICE の唯一作もお薦めです。

  「Daydream」(8:30)蒼天に舞うが如き爽快にして豊かな広がりと深みのある名曲。 インストゥルメンタル。 SEBASTIAN HARDIE に迫るイメージである。 ギターは JADIS に酷似。 しかし中心は、息を呑むようなキーボードのサウンドだろう。 後半の楽曲のモチーフが現れる。

  「The Dawn After The Storm」(8:53)前曲の躍動感/官能美を受けとめるような優美で落ちついたインストゥルメンタル・ナンバー。 後半ややハードに表情を変えスリリングなギターとオルガンのインタープレイもあるのだが、最後はメロディアスなギターと朗々たるシンセサイザーが決める。 ややギターの主張の仕方がワンパターンで食傷する。 ここまで 2 曲はなかなかの佳作。

  「Never」(6:07)甘くメロディアスなヴォーカル・ナンバー。 ギターが大きくフィーチュアされる。

  「Tocando Voce」(6:54)往年のイタリアン・ロックを洗練したような美しいインストゥルメンタル。 クラシカルでアコースティックな音を丹念に紡ぐオープニングからギター、シンセサイザーによるロマンティックなアンサンブル・ソロへと進む。 クラシカルなストリングス、アコースティック・ギターでテーマを受けとめる展開も、いい感じだ。 近年のポーランドのグループ同様、CAMELGENESIS の美麗な部分に憧れる音である。 素直なエモーションと明快な曲想が胸を打つ傑作。

  「The Fortress」(5:18)8 分の 5 拍子によるアップ・テンポのテーマから一転メロトロンの広がる幻想世界へと進む、キーボードをフィーチュアした作品。 イントロのピアノと後半切々と歌うシンセサイザーが美しい。 最後の DEEP PURPLE のような演奏は、展開としては刺激的だがやや中途半端。

  「Preludio De Sevilla」(2:07)ベーシストによる本格的なクラシック・ギター・ソロ。 かなりの実力です。

  「The Sight」(4:45)センチメンタルな泣きのバラード。 かなり歌謡曲。 ヴォーカル入り。 サビの旋律は、第一曲でさらりと提示されている。

  「O Dom De Voar」(6:38)ピアノ、アコースティック・ギターの伴奏でフルートがさえずり、ストリングスがゆったりと響くリリカルな作品。

  「Discover」(7:52)曲調/テンポが激しく変化し、ヘヴィでテクニカルなプレイを見せつけるプログレらしい作品。

(RSLN 032)


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