イギリスのギタリスト「 Steve Hackett」。
元 GENESIS のリード・ギタリスト。
76 年ソロ第一作発表以来、現在までコンスタントに活動中。
震えるようなロングトーンが特徴的なエレクトリック・ギターから正統的なクラシック・ギターまで、センスのあるプレイと神秘的な楽曲が魅力。
ギターのタッピングを考案したのは彼だ、という説もあり。
2005 年のリマスター盤はお薦め、もちろん新譜も。
| Steve Hackett | guitars, Mellotron, harmonium, bells, autoharp, vocal, effect | ||
| John Hackett | flute, Arp synthesizer, bells | ||
| Mike Rutherford | bass, fuzz 12 string, bass pedal | ||
| Phil Collins | drums,percussions, vibes, vocals | ||
| John Acock | Elka Rhapsody, Mellotron, harmonium, piano | ||
| Sally Oldfield | vocals | ||
| Robin Miller | oboe, cor anglais | ||
| Nigel Warren-Green | cello | ||
| John Gustafson | bass | ||
| Percy Jones | bass |
75 年発表の第一作「Voyage Of The Acolyte」。
内容は、ジャケットのイメージ通り、幻想ロマンあふれるアコースティックかつシンフォニックな作品。
ギターの他にもメロトロンを操るなど、プレイヤーとして才能を発揮するが、それ以上に、神秘的にしてポップ感覚もある独特の「ねじれ」をもつ楽曲が魅力である。
リリカルな場面がダイレクトに GENESIS に通じる一方で(ラザフォードの 12 弦アルペジオのおかげもあるだろう)、ヘヴィでシンフォニックなサウンドと軽快なメロディがせわしなく交錯するところは、彼独自のスタイルなのだろう。
メロトロンの用い方など、初期 KING CRIMSON の世界にも近接するが、リズミカルな演奏を聴いていると、クラシックばかりではなく R&B などの影響も感じられる。
歌詞および曲名は、タロットカードによるとのこと。
プロデュースは、ジョン・アコックとハケット。
1曲目「Ace of Wands」(5:25)
攻撃的なドラミングとギターのアドリヴが、転げ落ちるようにもつれ合う強烈なオープニング。
ギターのリードするメイン・テーマは、変拍子特有のつっかかるような効果をもつ。
タイトなアンサンブルだ。
ムーグのオブリガートをレガートなギターが追いかけると、次の展開である。
テンポは速いが音色は一転、アコースティック・ギターのアルペジオ(ラザフォードの 12 弦だろう)から華やかなフルートの跳躍アルペジオ、そしてストリングス・シンセサイザーがうっすらと響き渡り、パーカッションが鐘の音のように散りばめられる。
典雅な天上界のイメージだ。
再び、スピーディなアンサンブルからアコースティック・ギター、フルート、ストリングス・シンセサイザーとめまぐるしく進み、ムーグによる捻じれるようなテーマが現れる。
再び沈み込むかと思わせて、爆音、素っ頓狂なホイッスルとともに、せわしない演奏が復活する。
バーンとはじけて散らばるようなアンサンブルをまとめるのは、やはりギターである。
4 分過ぎからの、ややラテン風味ある、溌剌としたギターのテーマが鮮烈だ。
メロトロンの高まりとともに、ギターが天駆ける。
躍動感溢れるスピーディな演奏のなかに、楽器そのものの響きの美しさと堅固なアンサンブルへのこだわりを感じさせる作品。
せわしなく変転しつつも、筆致は繊細である。
メイン・テーマの変拍子の使い方や、トレモロ風のベース、中間部のアコースティック・ギターなどが GENESIS 的な一方で、後半の明朗快活、歯切れのいいギター・プレイに、ハケット特有のセンスを感じる。
やや狂的でせわしないところも個性的。
Wands はトランプでいう「クラブ」のこと。「クラブのエース」。
インストゥルメンタル。
2曲目「Hands of the Priestess Part 1」(3:28)
あまりに典雅な 12 弦アルペジオに、メロトロンの翳りが重なるオープニング。
そして流れるは、妙なるフルートの調べ。
透き通るような音色による、上品で初々しい演奏だ。
フルートのテーマを、スライド・ギターが、か細くすすり泣くようになぞってゆく。
アコースティック・ギターのアルペジオ伴奏は、完全に竪琴のイメージである。
再びフルートのささやき、たなびくメロトロン・ストリングス。
フルートのテーマは呼びかけと応えになっており、特に、後半のマイナーの響きがドラマチック。
再び、むせび泣くようなスライド・ギターから三度哀愁のフルートへと還り、静かに消えてゆく。
クラシカルにして優美、そして、あくまでも端正な小品。
ロマンチックにして、どこか陰のあるメロディが美しい。
フルートとギターの交歓が切ない。
インストゥルメンタル。
Priestess は「女教皇」の意。
3曲目「A Tower Struck Down」(4:53)ギターがパワー・コードを叩きつけ、ささくれだったベースが応じるヘヴィなオープニング。
アクセントの強い単調なリズムとともに、前曲と同じスライド・ギターがささやき、それをきっかけにムーグ、ベース、ギターらによる力強いリフへと変化する。
噛みつくような調子なのだが、ほんわかユーモラスな響きもある。
オープニングのリフが再現され、コーラスが絡む。
ブレイクから、再び第二リフへ回帰、ファズを効かせたギターのタッピングか、あるいはシンセサイザーのようなレガートなリフレインがオーヴァーラップする。
蠢くノイズ、シュプレヒコールのような SE がパッチワークのようにインサートされるも、再び、ヘヴィなリフとムーグの絡みが続いてゆく。
炸裂音とともにエンディング、と思わせて、再びメロトロン・ストリングスが不気味に周囲を照らし始め、あまりに暗いギターの調べが、つぶやきのように、晩鐘のように消えてゆく。
力強い変拍子リフで押し捲る、魔術的なパワーをもつインストゥルメンタル。
"Struck Down" というタイトル通り、緊張感あふれる破綻寸前の空気がある。
GENESIS でのギター・スタイルからはあまり想像できない、ヘヴィな曲想だ。
終盤は、コラージュなど現代音楽的な側面を見せつける。
エンディングのメロトロンも印象的だ。
インストゥルメンタル。
Tower も、タロットカードの一つ「塔」。
4曲目「Hands of the Priestess Part 2」(1:34)
パート 1 の典雅なアンサンブルが、フェード・インで復活。
しかし、メイン・テーマはあっさりと妙なるオーボエへと移り、フルートは可憐なさえずりでオーボエをオブリガートする。
アコースティック・ギターは誠実なアルペジオを刻み続ける。
メロトロンの響きも柔らかく、フルートのトリル、ギターらとともに慈愛と救いに満ちた世界が示される。
パート 1 を変奏する第二曲。
3 曲で「A Tower Struck Down」を中間部とするシンフォニック組曲という聴き方が可能。
インストゥルメンタル。
5曲目「The Hermit」(4:49)
哀愁あふれる 12 弦アコースティック・ギターの調べを伴奏に、憂鬱な歌が始まる。
英国フォークらしいメロディ・ライン、そして、チェロによる厳かなオブリガート、翻って間奏は、ささやくようなフルート。
セカンド・ヴァースは、アルペジオとともに、エレキギターがやるせなくヴォーカルを取り巻く。
本曲も、12 弦アコースティック・ギターの竪琴のようなアルペジオが、抜群の存在感を示す。
やがて、オーボエ、エフェクトされたギターのアルペジオによる夢想的な演奏が、世界を穏かに染め上げ、陰鬱な空気を振り払ってゆく。
KING CRIMSON の「Islands」に近い世界だ。
静かに追いかけるフルート、にじむアルペジオ。
弾き語りフォークをクラシカルなアンサンブルで守り立てる、香り立つように美しい作品。
アルペジオを極めると、メロディ楽器との組み合わせでこんなにすばらしい演奏になるという、見本のような内容だ。
ヴォーカルは、おそらく「世捨て人」ハケット本人なのだろう。
Hermit は、タロットカードの「隠者」であり、アルバム内ジャケットのキム女史によるイラストは、まさにこの hermit を描いている。
6曲目「Star of Sirius」(7:08)
穏やかな 12 弦ギターのアルペジオに優美なコ・アングレーズが重なる、夢見心地のオープニング。
一人ハーモニーはフィル・コリンズである。
ヴォーカルに追いすがるように、シンセサイザーによる荘厳な響きが高まり、まろやかなムーグのメロディが朗々と歌う。
器楽のようにソフトなヴォーカル・ハーモニーが、キーボード群と重なりあい、幻想的なアンサンブルを成す。
GENESIS の作品に直結する、美しく幻想的なアンサンブルである。
高まるストリングス、ハーモニウムとヴァイブの呟きをきっかけに、一転して、エネルギッシュなアンサンブルが飛び込む。
一気に、演奏は躍動感にあふれ、ヴォーカルも高らかに舞い上がる。
勢いはあるのだが、憂鬱な空気は去り切らない。
ムーグ・シンセサイザーの導きとともに、リズムは去り、再びアコースティック・ギターによるクラシカルな演奏が始まる。
ベース連打による重々しい響きとシンセサイザーの反復がひととき緊張をもたらすも、オーボエとシンセサイザーが、あたかも天上からのメッセージのように降り注ぎ、アンサンブルに救済をもたらす。
アコースティック・ギターは、熱っぽいアルペジオで思いの丈をぶつけ、ムーグ・シンセサイザーは朗々と歌う。
再び、ハーモニウム、ヴァイブの美しいささやきをきっかけに、躍動するリズムが復活、なめらかなムーグ・シンセサイザー、小気味いいギターとともにヴォーカルが走る。
ギターのオブリガートは、1 曲目にも通じる独特のきらめきとポジティヴなエネルギーを放って主役に踊り出る。
トリッキーなブレイクをはさむも、活気あるギターとスキャットがリズミカルに呼応しつつ、軽快な演奏となる。
ソフトな歌唱とアコースティック・ギター、シンセサイザー、オーボエらの美しいメロディによる「静」のパートと、躍動感にあふれるリズムによる「動」のパートの対比によってドライヴされる劇的な大作。
キャッチーでメロディアスにして、気品のある佳作である。
アコースティック・ギターに支えられた優しげなハーモニーがいい。
中間部のオーボエの演奏は、とてつもなく美しい。
エンディングは、スマートなのだがフェード・アウトは残念。
ヴォーカルはフィル・コリンズ。
Star もタロットの一つ、「星」。
7曲目「The Lovers」(1:50)
止んでは響くアコースティック・ギターのアルペジオ、そして握り締めるような和音の響き。
ためらいがちに、奥ゆかしくギターは歌い、逆回転テープによる幻想夢、はたまた車窓を飛び去る風景のような音が、あたかも水滴のように散ってゆく。
埋め草というにはあまりにロマンチックな小品。Lovers もタロットカードの一つ、「恋人」。
8曲目「Shadow of the Hierophant」(11:45)
メロトロンとギターの響き渡るシンフォニックなイントロダクション。
一転、アコースティック・ギターのアルペジオとフルートの伴奏で、サリー・オールドフィールドによるトラッド調の美しいヴォーカルが始まる。
ガット・ギターのオブリガートは、いかにも優美でクラシカル。
再び重々しいリズムとともにシンフォニックなアンサンブルが響くも、すぐにギター、フルートとヴォーカルによる典雅なアンサンブルへと戻る。
トラッド風のヴォーカル・メロディと雅な器楽。
三度重厚なアンサンブルが轟き、膨らみあるギターとメロトロンの余韻を残して、またもやアコースティック・ギターとフルートの美しい演奏へと移る。
そしてヴォーカル。
ドラムをきっかけに、またもや重厚なアンサンブル、アコースティック・ギターのアルペジオへと移るが、今度はヴォーカル・パートは始まらず、深くエフェクトされたギターが流れだす。
ハマリング・オン/プリング・オフを多用した独特のプレイである。
ハードなリズムが入り、ギターのリードでフォーク風のアンサンブル。
しかしすぐに音は消え、ヴァイブによるオルゴールのような可憐なソロ。
ギターのテーマを支えるようにドラム、メロトロンがフェード・イン、シンフォニックなテーマの繰り返しとともに音は厚みを増し、どんどん膨れ上がってゆく。
ボレロを思わせる演奏にメロトロン・コーラスが重なり、さらに厳かなムードが高まる。
鳴り響く鐘の音、一声むせび泣くギター。
クライマックスへ向けて全てが轟々と高鳴りそして去ってゆく。
前半は重厚なアンサンブルとアコースティックなヴォーカル・パートの繰り返し、そして後半は一転してボレロのように一直線に盛り上ってゆく。
展開そのものはシンプルだが、シンフォニックなアンサンブルが繰り返しごとに説得力を強め、感動せざるを得ない。
サリー・オールドフィールドによる美しいヴォーカルと、切ない歌を奏でるクラシック・ギターもいい。
初期 CRIMSON に近いセンスを感じる。
Hierophant はタロットカードの「教皇」。
もっとも、個人的には、本作のタイトルは、著名な SF 小説の章の名前のもじりのようにも思える。
アコースティックで透明な美感と、熱くシンフォニックなダイナミズムを自然に一つに結びつけた名盤。
いわゆるギタリストのソロ・アルバムとは異なり、楽曲のすばらしさそのものを堪能できるアルバムである。
アコースティック・ギターのアルペジオとフルート、オーボエらを組み合わせたクラシカルなアンサンブルや、メロトロンを使ったシンフォニックな展開は、正にプログレッシヴ・ロック・アーティストの面目躍如。
特徴は、フィル・コリンズ独特のアタックの強いドラミングが追い立てるアグレッシヴな「動」の部分と、クラシカルな器楽を巧みに配したデリケートな「静」の部分を際立たせる手法である。
1 曲目のインストゥルメンタルで、唯一ギターのリード・プレイが見られるが、他のほとんどの作品では、アタックを消した音色でアンサンブル中の一人として音を配置している。
キーボード的な使い方といってもいいかもしれない。
ブルーズ・フィーリングを根っこに持ちつつも、いわゆるロック・ギターとは一線画す演奏スタイルをもつところが、この人の個性だろう。
(CAROL 1863-2)
| Steve Hackett | electric & acoustic guitars, keyboards, vocals, percussion |
| Richie Havens | vocals, percussion |
| Steve Walsh(KANSAS), Randy Crawford | vocals |
| Dave Lebolt, John Acock | keyboards |
| John Hackett | keyboards, flute, piccolos, bass pedals |
| Chester Thompson, Phil Ehart(KANSAS) | drums, percussion |
| James Bradley | percussion |
| Tom Fowler | bass |
| Graham Smith | violin |
| Hugh Malloy | cello |
78 年発表の第二作「Please Don't Touch」。
"Voice Of KANSAS" スティーヴ・ウォルシュ、リッチー・ヘヴンス、ランディ・クロフォードら、多彩なゲストによるヴォーカル・ナンバーをフィーチュアし、ハケットの音楽的な間口の広さを楽しめる好作品である。
表層は、リラックスしたノスタルジックなポップス・アルバムという趣ながらも、要所で見せる音響効果などから、独特の香りと不可思議な味わいがにじんでくる。
タイトル・ナンバーは、軽快さと圧迫感あるスリルが同居した、いかにもハケットらしいインストゥルメンタル。
また、鮮やかなクラシック・ギターも聴くことができる。
エンディング・ナンバーは、メローだがシンフォニックな響きももった名曲。
メロディ・ラインやアレンジなど、ストレートなポップス/AOR 的な面もあるのだが、ダークな世界がしっかりと底流となっており、陰影とともに深みのある作品となっている。
「Wind & Wurthering」にうっすらと感じられたポップ化路線を嫌って GENESIS を脱退したのかと思っていたが、ここで見せるあまりにみごとなポップ・センスを考えると、それはこちらの勝手な勘違いかもしれない。
アメリカ風味を散らしたブリット・ポップの一級品である。
プロデュースはジョン・アコックとハケット。
各曲も鑑賞の予定。
「Narnia」スティーヴ・ウォルシュがリード・ヴォーカルをとる軽快なナンバー。
ハケットのギターも溌剌としている。
「Carry On Up The Vicarage」素材・アレンジともに GENESIS を思わせる小品。
寸劇風のヴォーカル・アレンジや高まるオルガンがいかにも。
「Racing In A」躍動するキャッチーなギター・ロックと幻想的なアコースティック・アンサンブルを巧みにゆきかう傑作。
レガートにして粘っこく金属的な独特のギター・トーンを駆使して走るロック・パートは、どことなくデヴィッド・ボウイの作品に通じるところもあり。
華やいだアップ・テンポのロックが、ふっとエア・ポケットのように澱みへと落ち込み、弦楽アンサンブルが朗々と歌いセゴヴィアを思わせる古式ゆかしきガット・ギターが流れる展開は、さながら名監督による手練の演出のよう。
ヴォーカルは本人とウォルシュ。
「Kim」アコースティック・ギター伴奏でフルートが憂鬱な調べをささやく。
深く湿ったエコーがギターとフルートを取り巻く。
題名はおそらく奥様なのでしょう。
「How Can I?」
GENESIS 的な作品なのだが、リッチー・ヘヴンスのヴォーカルのおかげでイメージはぐっとアメリカ風になる。
マンドリンを思わせるキラキラとしたアコースティック 12 弦、そしてメロトロンを思わせる厚みある音は、ヴォリューム奏法だろうか。
「Hoping Love Will Last」ランディ・クロフォードをフィーチュアしたジャジーなナンバー。
スタンダードと見まがう風格ある作風だ。
間奏やオブリガートでは、ハケットのギターがしっかり存在感を示し、ストリングスがファンタジックな広がりを生む。
正統的な R&B というべきソウルフルなヴォーカルと GENESIS 的な世界が矛盾なくとけあう辺りに、ブリティッシュ・ロックの秘蹟を垣間見る気がする。
「Land Of A Thousand Autumns」前曲のエンディングからそのままストリングスがゆったりと広がってゆく。
シンセサイザー、テープ効果なども重なった悪夢的な流れは、やがてアコースティック・ギターのざわめきにとって代わられる。
「Please Don't Touch」多彩なギターをフィーチュアしたスリリングなインストゥルメンタル。
めまぐるしいリズム・曲調の変化をギターのリードで走り抜けてゆく。
おおむねアップ・テンポではあるのだが、明るいのか暗いのかにわかに判じられない不思議な色調をもつ。
「The Voice Of Necam」手回しオルガンを思わせるノスタルジックな演奏に続くのは、風が吹き抜けるような初期のポリシンセサイザーを思わせるメロディ。
一転、あまりに 19 世紀的というか人間的なニュアンスをもつガット・ギターの調べ。
そのギターの音をポリシンセサイザーのような音が追いかける。
さながら人間と機械の共演である。
「Icarus Ascending」
やはりアメリカン・ロック的なバラードなのだが、伴奏するクネクネしたギターやキーボードのせいで、どうしても GENESIS に聴こえる。
途中からはルーツを確認するようなジャジーでポップな演奏も見せて、楽しげに進んでゆく。
ヴォーカルはヘヴンス、ハケット。
(CAROL 1861-2)
| Steve Hackett | guitars, guitar synth, koto, harmonica, vocals, extra |
| Peter Hicks | vocals |
| Dik Cadbury | bass, bass pedal, violin, vocals |
| Nick Magnus | keyboards, Vox stringthing, Novotron, harpsichord, clavinet |
| RMI, Fender Rhodes, Mini Moog, Roland string synth & SH 2000 | |
| John Hackett | flutes, concert & Chinese bamboo models, bass pedals |
| John Shearer | drums, percussion |
79 年発表の第三作「Spectral Mornings」。
耽美で神秘的な面とキャッチーな面がバランスよくまとまった傑作。
時代の空気をつかんだ勢いのよい曲に、しっかりプログレ・テイストを入れ込むところがうれしい。
多彩な曲想も彼らならでは。
ブリティッシュ・ロックの明るい面を強調しているといってもいいだろう。
エフェクトで加工されたエレキギターと対照的なアコースティック・ギターの透明な音が印象的。
また、ニック・マグナスによるキーボード・サウンドの充実もキー・ポイントだろう。
プロデュースはジョン・アコックとハケット。
2005 年リマスター盤は、7 曲のボーナス付き。
1曲目「Every Day」(6:15)
シンセサイザーとギターによるポップ化 GENESIS 風のテーマに胸躍るシンフォニック・チューン。
AOR 調のソフトなヴォーカルとテーマが、躍動するリズムとファンタジックな小道具に支えられて、ぐんぐん翼を広げてゆく。
快活な曲調に、初期の GENESIS を思わせる幻想的なキーボードとアコースティック・ギターのアンサンブルで瞬間「Stagnation」風の変化をつけるところがニクい。
後半は、エレキギターが飛び出して、鮮やかなプレイを続けてゆく。
希望の光に手をさしのべるようなイメージのみごとな演奏だ。
タッピングも盛り込んだ弾きまくりでテクニックを見せつけた後は、メロディアスにして緊張感のあるプレイで、翳りのある独特の曲調を支えてゆく。
幅広い音程の変化や一人ハーモニーは、ギター・シンセサイザーだろうか。
そして、メロトロン・コーラス風のバッキングはシンセサイザー?
この曲を GENESIS でやってもらいたかった、なぞという思いにもとらわれる。
卓越したドラミング、不思議な音色のキーボードなどサポートも充実。
躍動的で明朗なカッコよさとメランコリックでデリケートなところが共存する、いかにもブリティッシュ・ロックらしい作品といえるだろう。
70 年代終盤の CAMEL や YES のタッチにも共通するところがある。
2曲目「The Virgin And The Gypsy」(4:29)
透き通るようなアコースティック・ギターのコード・ストローク。
ヴォーカルは、声質は甘いながらも詠唱の如く神秘的。
コーラスも美しい。
トラッド調を取り入れたファンタジックな AOR という感じだろうか。
サビでは、シンセサイザーとコーラスがメロディに厚みを加え、気高さが香る。
ギター・シンセサイザーによるヴァイオリン奏法だろうか。
間奏は、やや南米風のエキゾチックなフルート・デュオ。
竪琴のようなアコースティック・ギターが絶え間なく続き、深く透明なストリングス・シンセサイザーがどこまでも夢の翼を広げる。
再びヴォーカルとコーラスが静かに戻る。
深く清らかに流れるシンセサイザー。
初期 GENESIS 風のアコースティック・ギター・アンサンブルが支える神秘的なフォークソング。
エレクトリックな音を用いながらも、アコースティックで優美な深みがある。
特徴は、ゆったり広がるコーラスと雄大にして冷気のあるシンセサイザーの生む神秘の響き。
アジア/アンデス風フルート・デュオなど、ニュー・エイジ・ミュージックの先取り感もあり。
全てを見通したような沈んだ慈愛の響きと、ヴォーカルによるアーバン・ポップ風のニュアンスがいいバランスである。
ヴォーカルのメロディのよさはさすがです。
3曲目「The Red Flower Of Tachai Blooms Everywhere」(2:05)
中華風のテーマが美しいインストゥルメンタル。
透明感あるシンセサイザーをメインに、琴とギターが東洋の神秘を綾なす。
繊細なヴィヴラートをもつシンセサイザーが、ちゃんと GENESIS に聴こえるから驚きである。
サウンドスケープというか映画音楽のようです。
優美な YMO もしくは JADE WARRIOR のようだ。
4曲目「Clocks-The Angel Of Mons」(4:17)
緊迫感にあふれるヘヴィなシンフォニック・インストゥルメンタル。
重厚なシンセサイザーのテーマの背後でメロトロンが切れ切れに、しかし存在感たっぷりに迸る。
メトロノームが刻むビートが繰り返し挿入されて、緊張を高める。
シンセサイザーとギターによるシンプルなテーマが、たたみかけるように迫ってくる。
タム回しが強烈なパワー・ドラム。
ふとテーマのメロディが和らぐところが、なんとも可憐だ。
エンディングへ向けて、次第に広がりを見せるアンサンブルがみごと。
最後は、複数のドラム・セットがいっせいに壮絶な連続打撃を繰り広げる。
第一作の「A Tower Struck Down」に通じる世界である。
5曲目「The Ballad Of The Decomposing Man」(3:49)
軽妙なラグタイムによる演奏をバックにユーモラスなヴォーカルが入ってくる。
ピアノとギターによるヴォードヴィル調の軽快な演奏だ。
間奏は、ホンキートンク調のエレピ伴奏でハーモニカが踊る。
セカンド・ヴァースからハーモニカ・ソロ、そして一転ゆったりと広がるキーボードによるブリッジを経て、リズムは突如ラテンへと変化。
演奏もすっかりジャマイカン、カリプソである。
マリンバかスチール・ドラムのような音はキーボードだろう。
ギターは、まるでフィドルのようななめらかなソロを見せる。
コミカルなラグタイム・ジャズからラテンへと軽やかに変化する歌もの。
アコースティック楽器を真似るシンセサイザー、ギターが面白い。
ここまでずいぶんさまざまな国の音楽が出現している。
パロディ風ながらも、リラックスした演奏がなかなか決まっている。
歌詞は、工場の過酷な夜間勤務をコミカルに皮肉ったもの。
6曲目「Lost Time In Cordoba」(4:04)フルートとクラシック・ギターによる美しいデュオ。
ギターは古いモノラル SP 盤を模したような深いエフェクトをかけている。
胸に迫るヴィブラート。
デュオによるテーマからアルペジオ主体のギター・ソロ、そしてクラリネット風のシンセサイザーが、静かにハーモニーをなす。
セゴヴィアを思わせる、ギターの淡いスペイン古典滋味がいい。
アルペジオを続けながらもメロディをしっかりと歌わせている。
ラスゲアードの連続は、あたかもほの暗く燃える情熱をかきたてるかのようだ。
コルドバはスペインの古都であり、イサク・アルベニスの名曲のタイトルでもある。
ふと気づいたのだが、ジョン・ウィリアムスによる同曲の演奏の冒頭にとてもよく似た音響処理が行われている。
これは偶然だろうか。
インストゥルメンタル。
7曲目「Tigermoth」(7:35)うめき声のような不気味な声とともシンセサイザー・ベースが打ち込まれて、ずっしりと歩みだす。
狂乱するギター、そして緊迫したリズムが追いうちをかける。
悲鳴のように絶叫するギターと狂おしいドラミング。
シンセサイザーは歪な管弦楽のように波打ち、通り過ぎる電子音とともに、深刻なムードが強まる。
位相を変化させ音がねじれてゆく、シンセサイザー独特のサウンド・スケープが波紋のように広がってゆく。
ゆったりと、しかし確実に全てが重なりあう、神秘の世界である。
ビートのない世界で、木霊のように舞う電子音と、密やかに歌うエフェクトされたギター。
クロス・フェードで立ち上がるのは、再び狂おしいギター・リフと力強いドラム・ビートである。
マーチング・スネアが寄り添う。
厳かなシンセサイザーが再び湧き上がり、重苦しい演奏が消えてゆく。
低音で唸るシンセサイザー、そしてクロス・フェード・インするサイレンの響き、空爆の轟音、機関銃の射撃音。
緊迫した音を背景に、おだやかなアコースティック・ギターが奏でられて、ラジオから流れる古いジャズのような歌が始まる。
イコライジングによるポール・マッカートニー得意のアレンジを思い出す。
軽やかに舞うアコーディオンのようなシンセサイザーとおだやかなハーモニウムのワルツがヴォーカルを守り立てる。
変調した声はノスタルジーをかきたて、ストリングスはうっすらと響き、シンセサイザーがさえずる。
やがてアコースティック・ギターのアルペジオが静かに辺りを満たしてゆく。
オルゴールのようなエレピが彩る。
夢語りのような切ない余韻。
名機 Tigermoth を巡る戦争夜話。
前半のインストゥルメンタルにおける緊迫感と不安が中間部の戦闘を模した SE へとつながってゆくことや、ラジオから流れるような後半のノスタルジックな歌など、戦争をイメージさせる演出が施されている。
(Tigermoth は「大きな蛾」のことだが、デ・ハビランド社の複葉機の呼称でもある)
前半は、迫真のヘヴィ・シンフォニック・チューン。
シリアスなテーマをファンタジーとして昇華してゆく手腕は、ここでも冴えている。
最後のアコースティック・ギターでは、改めてハケット氏が GENESIS の音を担っていたのだなあと再認識できる。
ストーリーものなので、ヴォーカリストに個性があれば、もっと印象深い曲になったかもしれない。
いえ、べつにゲイブリエルにやってもらいたいとかそういう意味ではなくて。(そういう意味でしょ)
独特のせわしなさ、切迫感のある語り口が、ハケット氏の持ち味らしい。
8曲目「Spectral Mornings」(6:33)
静かに湧き上がるストリングス系シンセサイザーの響きが、霧に霞む田園をイメージさせる。
伴奏は安らかなギターのアルペジオ。
力強いリズムとともにギターがしなやかに歌いだす。
第一曲にも近い世界であり、さらにいえばやはり GENESIS へと思いを馳せてしまう演奏だ。
ギターを支えて緩やかに立ち上がり、響き渡るメロトロン。
ギターとオルガン、シンセサイザーらが淡い色彩の帯を成し、優美な姿で流れてゆく。
高く高くどこまでも上ってゆくようなギター。
ときおりはさまれるオブリガートでは、クラシカルなシンセサイザーが、ゆったりとした寒色系のサウンドで空間を満たしてゆく。
ニューエイジ風味もあり。
ヴァイオリン奏法の響きも柔らかく美しい。
再びリズムが戻り、ギターはいよいよ空高く歌を描いてゆく。
レガートなギターが天駆けてゆくファンタジックなインストゥルメンタル。
ギターとキーボードがとけあって、クールな美感のあるシンフォニーになっている。
エモーショナルなのだが、どこか彼岸的。
アンディ・ラティマーとの違いは、メロディアスなプレイにおけるこのクールさである。
クールな故に、フュージョンにもベタベタのファンタジー/ニューエイジにも接近しない。
ストレートでありながら、醒めた感じと淡白さ、そして深い翳りをもつ独特のギターである。
単調に見えて細かな工夫が散りばめられているのは、いうまでもない。
アレンジの手腕も一流である。
インストゥルメンタル。
ハケット独特のギター・プレイをじっくり聴くことができる作品。
オープニングとエンディングの作品ではわかりやすいギター・ソロを十分にフィーチュアし、シンフォニックにまとめている。
しかしながら、メロディのキャッチーさとは裏腹に、曲の作りは綿密である。
またエキゾチズムを追求した作品群でも、こういうメロディを弾いてみたかったという素直な気持が見える一方で、手の込んだ作り込みもある。
ギター・アルバムのようでそうでないところは、一筋縄ではいかないハケット流を垣間見た気がする。
甘く美しい音にもかかわらずどこか屈折しているのだ。
クラシック・ギターの名手なのだが、クラシックをやってもやはりハケット流のポップ・センスがあふれてくるようだ。
ギタリストであるよりもまず作家なのだろう。
最後まで不思議な感触をもった内容である。
GENESIS はもちろんマイク・オールドフィールドやアンソニー・フィリップスのファンにもお薦め。
プログレ・ファンには第一作に次いでのお薦め。
個人的にはベスト。
(CAROL 1862-2)
| Steve Hackett | guitars, guitar synthesizer, vocals |
| Nick Magnus | keyboards |
| John Hackett | flute, keyboards |
| Peter Hicks | vocals |
| John Shearer | drums |
| Dik Cadbury | bass |
80 年発表の第四作「Defector」。
この頃になると、いわゆるメインストリームと彼の音の間に、距離ができ始めたような気がする。
しかしながら、拒絶でもあからさまな迎合でもない微妙な音作りが、苦悩というよりも個性に感じられてしまうところが、彼のバランス感覚なのだ。
内容は、エキゾチックなテーマのインストゥルメンタルやダークなパワーで驀進するシンフォニーを基調に、親しみやすく明快なメロディをふんだんに散りばめたもの。
ほぼ前作の延長上といっていいのだが、やや時代を下ったせいでサウンドがデジタルな響きになっている点を除けば、透明感や神秘性という点では「Voyage Of The Acolyte」にも通じる作風である。
親しみやすく品のあるメロディ・ラインなど、相変わらず曲がいいのだが、今回は、テクニカルなエレキギターからセゴヴィアばりのクラシック・ギター・ソロまで、いつになくギターを弾き捲くっている。
一方、キーボード・サウンドも非常に充実している。
ほとんどの作品で、キーボードとギターの対等なバランスによるユニゾンもしくはハーモニーで、テーマが奏でられている。
軽やかなナンバーでふと覗かせるシリアスな表情も特徴的だ。
ヒネリのある曲想を得意とするだけに、「Hammer In The Sand」や「The Toast」の厳かな空気と哀感のあるオーケストラルな響きが一層しみてくる。
ニュー・ウェーヴ調のポップ・センスや、ニューエイジ的な音も取り込んでいる辺りにも、柔軟な音楽観が感じられて興味深い。
オールド・ファンは、3 曲目のような初期 GENESIS、CRIMSON 調のダークなテクニカル・チューンでニンマリできる。
6 曲目は、CAMEL を思わせる軽快な変拍子チューンに、微妙なゆらぎを散りばめた、ハケットらしいタッチの作品である。
プロデュースはジョン・アコックとハケット。
各曲も鑑賞予定。
「The Steppes」神秘と慈愛を行き交い、明朗にして謎めくハケット節全開の名品。
ほのかなエキゾチズム。
これなら、映画の主題曲としても十分通用する。
「Time To Get Out」「Every Day」をシンプルにしたような溌剌としてプログレなヴォーカル・チューン。
「Slogans」「Tower Strucks Down」調のミステリアスでハードなナンバー。
ユーモラスですらある快速タッピングなど超絶的なプレイを解き放つ。
表情を変えつつ圧迫する変拍子ダーク・シンフォニーである。
「Leaving」ファンタジックな歌もの。
初期の GENESIS を思わせる。
美しきハーモニー。
シンセサイザーのポルタメントは漂う霊魂のようだ。
「Two Vamps As Guest」
「Jacuzzi」CAMEL にも通じるアップテンポの軽快な変拍子チューン。
フルート、シンセサイザーをフィーチュアして、明朗なテーマを高らかに奏でる。
代表作の一つでしょう。
「Hammer In The Sand」ピアノとストリングス・シンセサイザーによる慈愛と郷愁の物語。
「The Toast」
「The Show」
「Sentimental Institution」
(CAROL 1862-2)
| Steve Hackett | guitars, harmonica, narration, choir, thumb piano |
| rainstick, orchestral simulation, chimes, percussion | |
| Sir Douglas Sinclair | bass, fretless bass |
| Roger King | rhythm design, keyboards, bass extraction, drumming |
| woodwind, bass, strings, choir, Mellotron, virtual drums, piano | |
| Ben Fenner | string arrangement & design, Mellotron, DX7 |
| organ, keyboards, percussion, bass | |
| Jerry Peal | bells, bass, strings, keyboards |
| Ian McDonald | sax | Julian Colbeck | keyboards |
| John Pearl | woodwind | Jim Diamond | vocals |
| Billy Budis | cello line, bass | John Hackett | flute, pan pipe |
| Hugo Degenhardt | drums | Aron Friedman | piano, keyboards |
99 年発表の作品「Darktown」。
プログラミング・サンプリング技術を駆使した楽曲がイメージさせるのは、タイトル通り、彼のサウンドの根底にある「暗黒」。
ループやブレイク・ビーツなど、リファインされたデジタル・テクノロジを用いたゴシック調が全体を支配するが、その根本には多彩なギター・プレイとヴォイスを中心にしたメロディアスな作風があるように思う。
ノスタルジックな音を使うところでも、暖かみよりは密やかな痛みがある。
これは、主題が彼自身の物語であることに起因するのだろう。
おもしろいのは、そういう私小説的な内容にもかかわらず、独特の作風のせいで本人が陰に隠れてしまっているような印象を与えることだ。
プライベートでありながら、クールに突き放した視線をもつところがこの人の面白さの一つだろう。
音響処理については、元々デリケートな表現を得意としていたところへ技術の進化があいまってさらに充実し、リズム・セクションやストリングス・アレンジなど、驚くべきリアルな感触の音になっている。
もちろんメロトロンや管楽器などの音も美しい。
ギター・プレイは、円熟というよりは、この歳にしてさらにうまくなっているというべきだろう。
アコースティック・ギターの豊かな表現力に加えて、目もくらむような速弾きもあるのだ。
今までの作品で彼のサウンドに通底していた「ダーク」な部分に気づいていれば、本作のテーマにさほど驚かないはずだ。
挑戦を続けるミュージシャン・シップには感動を覚える。
タイトル・ナンバーでは、イアン・マクドナルドのサックスを聴くこともできる。
ボーナス・トラックを除く最終曲は、「クリムゾン・キングの宮殿」や「スターレス」に似ているだけではない、運命的な悲劇性をもつ重厚なエレジーである。
プロデュースはハケット。
各曲も鑑賞予定。
「人生は一生続く致死率 100% の病」などというすごいことを考え出してしまう人からすれば、昨今流行りの「心の病」なぞ、噴飯ものでしょう。
「Omega Metallicus」凶悪なギター+ドラムン・ベース。超絶的な速弾き、さまざまな特殊奏法、サウンド・エフェクトを駆使して、強い切迫感をもつ作品に仕上げている。
インストゥルメンタル。
「Darktown」暗く重苦しい「語りもの」。テープ速度を落としたような低音のナレーション、轟々と鳴り響くストリングス、ヘヴィで間歇的なビート、そして狂おしく輝くイアン・マクドナルドのサックス。
「ダークタウン」とは学校のメタファーのようだ。英国の寄宿舎制の学校生活は、人によっては、地獄になりえると断言している。
家庭から切り離された世界に潤いはないという点では同感。
「Man Overboard」アコースティック・ギターをフィーチュアした美しくメロディアスなバラード。
ほの暗い色調ながらも、10CC の「I'm not in love」のように完成されたイメージを与えるポップスである。
「The Gold Age Of System」キーボードによる管弦楽を使った映画音楽風の華麗な作品。
重厚な弦楽、愛らしい木管。
マイク・オールドフィールドにも通じる世界だが、ディズニー映画の音楽のような、巧みな雰囲気の変転の魅力がある。
「Days Of Long Ago」ナイロン・ギターとストリングスがジム・ダイアモンドのヴォーカルを支える。
歌には祈りに似た響きがある。
「Dreaming With Open Eyes」クールな表情のシティ・ポップス。
ややラテン調のリズム、ヴァイヴ風のキーボード、アール・クルーのようにメローなナイロン・ギター・プレイ。
ラスゲアート風のアルペジオがみごと。
アクセントのフルートが、よく効く冷房のようにすっと湿度を下げる。
「Twice Around The Sun」メロトロンのようなキーボードと、ハケットらしいややヒステリックなディストーション・ギター(本人いわく「Golden tone」)による、情熱的かつ奥行きのあるインストゥルメンタル。
メランコリックな表情もたたえてドラマを成す。
打ち込みによる強圧的でアブストラクトなビートは、90 年代以降の流行のようだが、本作ではその音が非常に効果的に使われている。
「Rise Again」ややトラッド調のヴォーカル・ナンバー。
ここでもナイロン・ギターがいい音を出している。
「'Unquiet Slumbers For The Sleepers ...」を思い出させるラスゲアード。
そして中盤からは、人力ドラムのせいか、中期 GENESIS そのもののような軽やかな疾走。
「Jane Austin's Door」
レイド・バックしたブルーズ・フィーリングあふれる名バラード。
抜群のメロディ・センスと哀感は、アンディ・ラティマーの作品といっても違和感なし。
「Darktown Riot」ヒップホップ風のリズムとあまりに重苦しくメタリックなサウンド。主役はやはりギターである。
「In Memoriam」初期 KING CRIMSON を思い出さざるを得ないダーク・シンフォニー。
空ろに響くモノローグ。
降り注ぐ砂の雨が裾野の広い山を成してゆくように、地にもなじまず天にも届かない悲劇的なストリングス、コラール。
さえずるようなギター。
「The Well At The World's End」
「Comin' Home To The Blues」
(MERCURY PHCW-1027)
| Steve Hackett | guitars, vocals, harmonica, optigan, koto, rain stick, chimes, quatro |
| Roger King | piano, organ, synthsizer, vocoder, research & programming |
| Rob Townsend | brass, woodwind, whistles, one-man serpentine chorus marching band |
| Terry Gregory | vocals, basses, pedals, thunder |
| Jerry O'Toole | vocals, acoustic & electric drums, percussions |
| John Hackett | flute on 16 | Ian McDonald | sax on 7 |
| Jeanne Downs | backing vocals | Sarah Wilson | cello |
| Howard Gott | violin |
2003 年発表の作品「To Watch The Storms」。
軽やかなギターの響き、ぬぐえぬメランコリーと R&B 愛、ノスタルジックなヴォードヴィル調、初期 KING CRIMSON への思い入れ、アンソニー・フィリップスと共通する英国田園幻想、など、スティーヴ・ハケットの作風の集大成のような傑作アルバム。
ごく個人的に、CAMEL の「Rajaz」を聴いたときと同じ気持ちになりました。
3 曲目「The Devil Is An Englishman」は、どうにも 80 年代風テクノ/ディスコと思ったら、その通り、トーマス・ドルビーのカヴァー。
4 曲目「Frozen Statues」は、ベルギー辺りの気鋭のプログレ・アーティストが作りそうな小曲。
5 曲目「Mechanical Bride」は、「A Tower Struck Down」以来変わらぬ、初期 KING CRIMSON へのオマージュ。
6、7、15 曲目では、セゴヴィア - パークニング路線のヴィンテージ・クラシック・ギターの腕に、さらに磨きがかかっていることを証明。
6 曲目「Wind, Sand And Stars」は、終盤静かに盛り上がる美しい作品。
7 曲目「Brand New」は「Everyday」をリミックスして荒っぽく捻じ曲げたような、それでもカッコいい作品。
気まぐれな展開を支える情念の濃さを感じる。
9 曲目「Rebbeca」は、ハケット的英国ロックらしさがあふれる名作。
12 曲目「Fire Island」は、エリック・クラプトンばりのブルーズ。
(INSIDE OUT 6 93723 0032 9)