イタリアのネオ・プログレッシヴ・ロック・グループ「SYNDONE」。 ラテン風味たっぷりのキーボード・トリオ。91 年結成、93 年解散。 テクニカルでスピードあふれる演奏と伸びやかなリード・ヴォーカルのコンビネーションでポップな曲をかっ飛ばす。 2010 年、18 年ぶりの新譜発表。
| Nik Comoglio | piano, keyboards, lead vocal |
| Paolo Sburlati | drums |
| Fulvio Serra | bass |
| guest: | |
|---|---|
| Tony Seffusatti | accordion |
| Patrizia Caramazza | chorus |
| Alessandra Piovera | chorus |
92 年発表の第一作「Spleen」。
内容は、キーボードをフィーチュアした、スピーディなラテン・ポップス調シンフォニック・ロック。
苦悩する青年を描いたトータル・アルバムらしいが、あまりそういうイメージはない。
サウンドは、いわば、プログレ・フュージョン・ポップスであり、EL&P をモダンにしたような華やかなキーボード・ワークと、情熱的なヴォーカル、キャッチーな楽曲と、三拍子揃っている。
さすがに現代のグループらしく、プログレらしいクラシカルなアレンジを用いながらも、音数の多いリズム・セクションなどジャズ・フュージョン調を吸収している。
プレイそのものはかなり自由奔放なのだが、全体のイメージはわりとまとまっている。
80 年代初頭の P.F.M の歌もの路線に、派手なキーボードを突っ込んだようなイメージといってもいいだろう。
また、もともと EL&P も R&B やブリット・ポップ的な面も強くもっているので、こちらはその R&B 色をイタリアン・ポップで置き換えたともいえる。
作曲は全てニック・コモグリオ。
プロデュースはベッペ・クロヴェッラ。
1曲目「Spleen」(5:57)。
冒頭に「春の祭典」のテーマが現れるなど、いかにもプログレらしいドラマチックなシンフォニック・ロック。
イントロから凄まじいプレイへの急転直下が続き、息を呑む。
情熱的なヴォーカルとキーボードの絡みは濃密だ。
粘っこさを現代的なシンセサイザーの和音の輝きで一掃するのも面白い。
ストラヴィンスキーやチャーチ・オルガンなど、プログレ的な役者も揃っている。
70' クラシカルなキーボード・ロックに、フュージョンやラテン・ポップを持ち込んだ野心作。
デジタルなシンセサイザー・サウンドが耳に残る。
2曲目「Padre」(5:55)。
EL&P 風のミステリアスな演奏とラテン・フュージョン/ポップ調のヴォーカルをあわせた華美な歌もの。
メロディアスかつやや翳のあるテーマを、激しく変化するキーボードで彩る作品だ。
メイン・ヴォーカルはグラム風のチープなポップ・テイストあり。
ジャジーなピアノの狂言回しや華やかなムーグ、ハモンド・オルガンなど、EL&P 風のプレイが満載。
それでも、キーボードよりラテン・ポップ風のヴォーカルがメインのようだ。
プログレ・フュージョン・ポップの傑作。
3曲目「Quousque Tandem」(3:36)。
小気味よいビートによるロカビリー、歌ものラテン・ロック。
シンセサイザーのオブリガートは、オーケストラ・ヒットのようだ。。
熱っぽく濃いテーマと、ランニング・ベースなどジャジーなアクセントが効いている。
イタリアというよりも、南米・スペインに近いような気がする。
4曲目「Il Salto Degli Amanti」(3:25)。
妖しげなヴォーカルが冴えるアップ・テンポのラテン・ロック。
ハモンド・オルガンとピアノを用いた過激なインストとパワフルなヴォードビル風のヴォーカルのコンビネーションだ。
ヴォーカルは、ささやきと早口を駆使し、女衒のようないかがわしい表情を操る。
5曲目「Dentro L'Inconscio」(3:46)。
熱愛と別離を歌うような、パッショネートにして秘めやかなバラード。
熱っぽくもあくまで気高いピアノ。
ヴォーカルも熱演だ。
ストリングスの高まりにイタリアン・ポップ、いや、オペラの伝統を見た。
6曲目「Il Sogno Di Sigfrido」(2:58)。
近年のフレンチ・ロックにありそうな変拍子シンフォニック・フュージョン。
アナログ・シンセサイザーときらめくようなパーカッション系の音色をもつデジタル・シンセサイザーが、思うさま走り回るテクニカル一本勝負である。
音色はモダンなのだが、病的に手数の多いリズム・セクションや度派手な押し捲りなど、マインドはやはり EL&P である。
インストゥルメンタル。
7曲目「Il Gioco Del Gatto」(4:58)。
一気呵成に押し捲るシンセサイザー・ロック。
せわしなくもキャッチーな曲展開のなかに、正統プログレたるクラシカルなシンセサイザーのプレイが次々と現れる。
初期 MASTERMIND にも通じる世界である。
8曲目「Tu Sei」(5:48)。
ジャズ、R&B 的なキーボード・プレイをフィーチュアした、軽快かつ熱っぽいイタリアン・ポップス。
前曲と同じく走りっぱなしである。
パーカッション系のデジタルなシンセサイザー・サウンドが強烈だ。
いかにも 80 年代以降の音である。
9曲目「David E' Golia」(4:41)。
イタリアン・ポップスの伝統を感じさせる正統的なバラード。
どこまでも甘く、それでいて躍動的。
ピアノ伴奏がメインであり、間奏にシンセサイザーが少しだけ現れる。
10曲目「Marianne」(7:06)。
インストゥルメンタルを充実させた、ジャジーで官能的なバラード。
決めどころでは、いかにも体温の高そうなヴォーカルが、しつこく迫ってくる。
セクシーなのだろうが、東洋人にはあまり馴染みがない。
変拍子アンサンブルはどこか洒脱でおもしろいのだが、突如シンフォニックに膨れ上がるところは、ヴォーカルといっしょでややしつこいかもしれない。
歌ものにいろいろとしかけを施して膨らませる、本グループの作風の典型だろう。、
エンディングは、爆発音による突如の破断。そして、オープニングと同じせせらぎの音。
「春の祭典」が流れる。
せせらぎの音。
70 年代キーボード・ロック・リヴァイヴァルに、イタリアン・ポップスをブレンドした佳作。
スピーディかつ迫力満点のキーボード・プレイに加えて、ヴォーカルの放つ独特のあでやかさがいい。
この明るく朗々たるイタリア語ヴォーカルだけでも、充分楽しめる。
プログレ然としたプレイも、ラテン・ポップス調の流麗なメロディが加わると、こんなに粋なのだ。
演奏は、キーボード・トリオの多くがそうであるように、到底トリオと思えない音数で勝負する、テクニカル押し捲りスタイル。
ヴォーカル兼任のキーボーディストは、かなりたいへんだろう。
シンセサイザーはデジタルにして華麗なサウンドを誇り、なおかつ、端々に 70 年代ロックの研究成果も現れている。
とにかく、演奏技術はまったく文句ない。
生きのいいメロディ・ラインとテクニカルなプレイをフュージョン風の音も交えて結合し、キーボード・トリオの新しい可能性を拓いているともいえる。
しかし、曲そのものは、テクニカルなキーボードで押し捲るものよりも、ヴォーカルを活かしたものの方がよいようだ。
キーボード・プログレ・ファンはもとより、ラテン・フュージョン・ファンにもお薦め。
EL&P の大きな特徴でありながら、最近のキーボード・ロックが失った R&B 色を、イタリアン・ポップスで補うというアイデアの勝利でもある。
(VM NP 02)
| Nik Comoglio | piano, moog, synthesizer, hamonnd, acoustic guitar, lead vocal |
| Edo Rogani | piano, moog, synthesizer, hammond |
| Paolo Sburlati | drums, percussion |
| Fulvio Serra | bass |
| guest: | |
|---|---|
| Renaldo Doro | bag pipe on 5 |
93 年発表の第二作「Inca」。
キーボード担当のメンバーが増員し、4 人編成となる。
作風は、ややジャズ色が強まるも、前作から大きな変化はない。
「インカ帝国」をテーマに、エネルギッシュなキーボード・プレイを満載したアルバムである。
ピアノ、アナログ・シンセサイザー、ハモンド・オルガンを縦横無尽に操る演奏は、まさに甦る EL&P。
プロデュースはベッペ・クロヴェッラ。
「Inti-Raymi」(1:39)
エキゾチックかつ神秘的な序章から、一気にハイ・テンションの変拍子アンサンブルへと飛び込み、シンセサイザーが高らかに歌い上げる。
EL&P のリズムを補強したイメージの痛快な演奏だ。
インストゥルメンタル。
「Inti-Illapa」(5:13)
ヘヴィにして快調な EL&P 風インストゥルメンタル。
「運命の三人の女神」を思わせる荘厳なチャーチ・オルガン、あくまで挑戦的なハモンド・オルガンのリフ/オブリガート、エフェクトされたオルガン・ソロ、破天荒なシンセサイザー、バルトーク風のピアノ打撃技まで、何でもあり。
つんのめったまま走り続けるような演奏は、イタリアン・ロックの伝統芸。
ヘヴィな曲調にもかかわらず、せわしなさとスピード感が勝っており、決して重くなり切らない。
本家と同様である。
シャフル・ビートとともに走るハモンド・オルガンの切れ味はかなりのもの。
「Proverbi」(4:49)
せわしないテーマが印象的な、ジャジーな歌もの。
前曲との落差が小気味いい。
洒脱なヴォーカルとトリッキーなリズムのテーマのコンビネーションが、みごとにハマっている。
ベースも、ランニングから手数の多いプレイも見せ、すっかりジャズである。
フュージョン風味もあるゴージャスなナンバーだ。
「Inca」(5:29)
シンセサイザーをフィーチュアした、エキゾチックな行進曲風の作品。
重苦しいビートにもかかわらず、ヴォーカルは華やいでいる。
シンセサイザーは、金管から弦楽まで微妙な音使いを見せる。
EL&P もこういうエキゾチズムは得意でした。
「Naele」(6:18)
幻想的なオープニングからアコースティック・アンサンブル、激しいハモンド・オルガン中心のアンサンブルへとすすむ、変化に富んだ作品。
ついてゆくのが精一杯。
「Sogno」(4:47)
アップ・テンポの AOR 調ナンバー。
エレポップ風のチープなビート感がある、走りっ放しの演奏である。
リズムは打ち込みと人力の合成か。
「Nazca」(4:34)
ビジーなアンサンブルがせわしなく展開してゆく、エキセントリックなヴォーカル・ナンバー。
多彩なリズムの変化を繰り返し、曲調は限りなく落ちつかない。
ドラムは、これだけ叩いてなお叩き足りないようだ。
アップ・テンポのヴォーカル・パートを支えるのは、現代音楽風のピアノ、ジャジーなハモンド・オルガン。
中間部のシンセサイザーが気持ちいい。
「L'alba Dei Tempi」(2:33)
ハモンド・オルガンとシンセサイザーによるクラシカルなインストゥルメンタル。
EL&P の「Toccata」を思わせる曲だ。
「Bambole」(3:51)
やたらとエネルギッシュなヴォーカル・ナンバー。
今風のサウンドに、シンセサイザーとハモンド・オルガンだけぶち込んでみました、という感じ。
8 ビートから 8 分の 6 拍子に移るところは、なかなかおもしろい。
ポップでハードでプログレな不思議な曲。
こういう曲では、けたたましさがより強められる。
「Pizarro」(6:48)
リズミカルなヴォーカル・パートとメロディアスな演奏のパートが交互に現れる構成の力作。
全体にリズム・テンポの変化は激しく、演奏そのものもかなりエネルギー過剰気味だが、この曲については、そういう派手さと対応するゆったりした情感がある。
もう少しじっくりタメれば、本当にエンディングにふさわしい感動的なナンバーになったのでは。
ほぼ前作と同じ路線の 70 年代キーボード・ロック。
コブシの効いたセクシーなヴォーカルとジャジーなポップ・センスも健在である。
暑苦しいのだが、ハマるとなかなかいい感じだ。
主題を得たわりには、曲調そのものにはあまり変化がなく、ストーリー・テリングはもっぱら歌詞に頼っているように思う。
前半は、EL&P そのままのミステリアスかつアグレッシヴな演奏が続き、後半は、メローな音やジャジーなプレイも交えている。
ドラムスがテクニックを誇るあまりに、やや落ちつかない感じを与えるのが残念。
(もっとも EL&P 風の曲での落ちつきのなさは、こちらも慣れているため大丈夫なのだが)
エンディングの作品は、やや盛り込み過ぎながらも、叙情的な面も現れている。
これが自然体だとすると、無理にプログレにする必要もない気がする。
もう少し全体に重さがあるといいと思うのだが、EL&P 風味を消さずに音をずっしり重くするのは、本家もチャレンジして果たせなかったくらいなので相当難しいのだろう。
(VMNP 05)