イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「PINK FLOYD」。 65 年結成。 初期のスペイシーなニュー・ロックから、メンバー交代や種々の音楽的な実験を経て、前衛ロックの頂点へと登りつめたグループ。 ロジャー・ウォーターズが内面に抱える問題意識と詩的世界を実験的なサウンドで展開するスタイルは、ロックの表現としてシリアスかつ深い共感を呼ぶものだ。 意表を突くスタジオ・ワークと完璧な再現力をもつライヴを両立させたところもすごい。 今聴いて全然ハマれなかった人は、20 年くらいとっておいてください。 必ずハマるときがきます。
| Syd Barret | Lead guitars, Vocals |
| Roger Waters | Bass, Vocals |
| Rick Wright | Organ, Piano |
| Nick Mason | Drums |
| Dave Gilmour | Lead guitars, Vocals |
68 年発表の第二作「A Sourceful Of Secret」は、心を病んだシド・バレットの参加した最後の作品。
タイトル・ナンバーでは、既にデイヴ・ギルモアが参加している。
甘やかでファンタジックなナンバー(それでもかなりサイケデリックであり、トリップ・ミュージック調ではあるのだが)である「Remember A Day」や「See-Saw」よりも、「Let There Be More Light」や「Set The Contorls For The Heart Of The Sun」、さらにはタイトル・ナンバーらなど、重心は空間的なサウンドをベースとしたヘヴィなナンバーに移りつつある。
特にタイトル・ナンバーは、サウンド・エフェクトとミュージック・コンクレートの手法を存分に生かした現代的なスペース・ロックの傑作であり、脈動するようなアンサンブルと暗い音像に、後の大作の片鱗がうかがえる。
THE BEATLES 調のサイケデリック・チューン「Corporal Clegg」のコーラス・ワークにも、オリジナルなセンスが感じられる。
そして、アルバムの最後を飾るキュートなアコースティック・ナンバー「Jugband Blues」が、PINK FLOYD におけるバレット最後の作品となった。
この後、数枚のアルバムの音楽的路線の礎となった作品。
「A Sourceful Of Secret」に代表されるスペース・サウンドを支えるのに、ライトのキーボード・ワークが重要な役割を果たしていると思う。
プロデュースはノーマン・スミス。
「Let There Be More Light」(5:38)扇動的なサイケデリック・ロック。
終盤のギターはバレット?
ウォーターズ作。
「Remember A Day」(4:33)スウィートなビートポップ調の歌を、クラシカルなピアノと奇妙なノイズのようなスライド・ギターが捻じ曲げてゆく佳曲。
独特の重くユルいドラミングが似合っている。
ライト作。
「Set The Controls For The Heart Of The Sun」(5:28)
呪術的な傑作。執拗なベース・パターンが眠りを誘い、エフェクトやフィードバックを利用したエレピ、オルガンが悪夢を描き、ヴァイブが覚醒をうながすように意識にちらつく。
「太陽讃歌」という邦題がカッコいい。
ウォーターズ作。
「Corporal Clegg」(4:13)ガレージ風のダーティにしてユーモラスなサイケ・チューン。
ヴォーカルは、声色を使うウォーターズ独特のスタイルである。
サビのハーモニーは、後々まで PINK FLOYD の定番となる。
「A Sauceful Of Secrets」(11:57)
前半は、コンクレート・ミュージック風にさまざまな断片が散りばめられる。
ノイズが高まるピークを経て、中盤はパワフルなドラム・ビートがドライヴし、アヴァンギャルドなピアノ、轟々たるノイズが拮抗する。
衝撃的。
そして終盤は、チャーチ・オルガンとノイズが渦巻きコラールが湧きあがる、厳粛にして永遠なる世界。
レクイエム調である。
次作の「Sysyphus」へとつながっていったに違いない大作。
邦題は「神秘」。
ウォーターズ/ライト/メイスン/ギルモア作。
「See-Saw」(4:36)キュートな歌ものをメロトロン、オルガンらによる重厚なサウンドで取り囲んだ佳品。
ライトのメロディ・メイカーとしてのセンスは抜群。
マリンバの音が愛らしい。
ライト作。
「Jugband Blues」(3:00)バレット作。
(7243 8 29751 2 0)
| Dave Gilmour | Guitars, Vocals |
| Roger Waters | Bass, Vocals |
| Nick Mason | Percussion |
| Rick Wright | Keyboards |
69 年発表の第三作「Ummagumma」。
ライヴ録音とメンバーのソロ作の並ぶスタジオ新作から構成される、アナログ二枚組。
ライヴ・サイドは、スタジオ盤を凌ぐサイケデリック・ロックで力強く迫り、スタジオ・サイドは、ピュアでアヴァンギャルドな感性が牙を剥く充実した内容だ。
ライヴ・サイドでは、荒れ狂う音が呪術的な酩酊感を生む「ユージン、斧に気をつけろ」と、轟音の果てに瞑想的な世界の広がる「太陽讃歌」、「神秘」が圧巻。
やや取ってつけたような拍手が気になるが、ライヴ演奏としては文句ないできばえである。
スタジオ・サイドにおけるライト、ウォーターズ、メイスンの作品は、もはやアカデミックといってもいいほどの現代音楽への試み。
一方、ギルモアは個性的なポップ・センスを貫いており、後の PINK FLOYD のサウンドのファサードに当たる部分が彼の音であることがよく分かる。
また、前衛的な音のイメージには、THE BEATLES が踏み込んだ世界をさらに押し広げて、風通しをよくしたようなところもある。
なににせよ、若く屈折したセンスが、コマーシャルな追い風を得て、理想的な形で表に出た野心作といえるだろう。
「Sysyphus」は、個人的に現代音楽への目ざめとなった曲であり、忘れられません。
KING CRIMSON ファンはぜひ試しましょう。
初期 PINK FLOYD を見渡すためにはお薦め。
プロデュースはライヴ・サイドがグループ、スタジオ・サイドがノーマン・スミス。
「Astronomy Domine」(8:25)
「Careful With That Axe. Eugine」(8:46)
「Set The Controls For The Heart Of The Sun」(9:07)
「A Sauceful Of Secrets」(12:48)
「Sysyphus Parts 1-4」(1:08+3:24+1:47+6:55)ライト作。メロトロン、ピアノらによるきわめて重厚な現代音楽。
「Granchester Meadows」(7:26)ウォーターズ作。
「Several Species Of Small Furry Animals Gathered Together In A Cave And Grooving With A Pict」(4:56)ウォーターズ作。
「The Narrow Way Part 1-3」(3:27+2:53+5:53)ギルモア作。
「The Grand Vizier's Garden Party Part 1-3」(1:00+7:06+0:38)メイスン作。
(TOCP-65734-35)
| Roger Waters | Bass, Vocals |
| Nick Mason | Percussion |
| Dave Gilmour | Guitars, Vocals |
| Rick Wright | Keyborads, Vocals |
71 年発表の作品「Meddle(おせっかい)」。
アルバムとしての密度、バラエティが充実した佳作。
吹きすさぶ嵐の中、ベース・リフが魔術的なドライヴ感を生むスペース・ロック、「One Of These Days」以降、リリカルなヴォーカル・ナンバーが並び、最後に、幻想的な超大作「Echoes」で大団円を迎える。
表題作ともいえる「Echoes」のみならず、全てのナンバーにおいて、サウンドに対する配慮がゆきとどいており、ヴォーカル・ナンバーでの表情はきわめて豊かである。
挑戦的なハードロック・インストゥルメンタル「One Of These Days」を経て、
「A Pillow Of Winds」では、さまざまなギター・サウンドを駆使した透明なリリシズムを示し、「Fearless」では、しなやかなアンサンブルに SE を大胆に切り貼り、「San Tropez」では、ジャジーなムードを演出し、「Seamus」では、けだるいブルーズ・テイストで意表を突く。
そして、イントロのピアノの響きがあまりにも有名な「Echoes」は、はりつめた空気の中を一つ一つの音が静かに生まれ出で、そのほのかにして幽玄なる音の流れが、やがて悲劇的なメロディとなって全てが共鳴し始める、きわめて神秘的な作品である。
幻想的なのだが、サイケデリック・ロックから進化した構築の美と、たゆむことなく前進する力強さをもつ。
中盤、タイトにして挑発的なリズムとともにハモンド・オルガンとギター、ベースが繰り広げる、元祖ドラムンベースというべきジャムがすばらしい。
全体として、いわゆる PINK FLOYD 的な音/進行は、本作で確立されたように思う。
ひょっとすると、次作のプロトタイプという面すらあるのかもしれない。
個人的には、トリップ・ミュージックのようでいて、ちゃんと人間臭いところがいいです。
本曲には「2001 年宇宙の旅」の公開試写で終盤のクライマックスの音楽として使われたものの最終的に採用されなかったという逸話があるようです。
余談ですが、PINK FLOYD は往時の流行であったサイケデリック・ロックを出発点に、英国らしいヘヴィなブルーズ・ロック、その進化系のハードロックなど、常にロックたることを意識しながら、次第に独自性のある音楽を確立させていったのだと思います。
ジャズやクラシックといった他の音楽とのクロスオーヴァーや現代音楽風の構築的なアプローチではなく、ロックらしい「反骨心」や「オルタナティヴ」としての矜持を明快に掲げたまま、前衛を走り続けていたのです。
常にジャズを奥底に抱えたままサイケデリックからジャズロックへと進んだ GONG、クラシックと交わるポップ・アーティストとして名声を確立した THE MOODY BLUES といった他のグループの歩みと対比してみると、その独自性がよく分かります。
「One Of These Days」(5:57)
「A Pillow Of Winds」(5:07)
「Fearless」(6:05)
「San Tropez」(3:40)
「Seamus」(2:13)
「Echoes」(23:31)
(7243 8 29749 2 5)
| Roger Waters | Bass, Vocals, VCS3, Tape effects |
| David Gilmour | Vocals, Guitars, VCS3 |
| Richard Wright | Keyboards, Vocals, VCS3 |
| Nic Mason | Percussion, Tape effect |
| guest: | |
|---|---|
| Dick Parry | Saxophone |
| Clare Torry | Vocals |
| Doris Troy, Leslie Duncan | Backing vocals |
| Liza Strike, Barry St John | Backing vocals |
73 年発表の「Dark Side Of The Moon(狂気)」は、幻惑的なサウンドが多くの人々を惹きつけ、ロックのアルバムとして空前のセールスを記録した作品である。
「月の裏側」という暗喩が示すとおり、人間の狂気について言及した非常に暗い主題をもつのだが、テーマ性にとどまらずに、描写力のある演奏と巧みな音響効果によって音楽だけでも十分に楽しめるようになっている。
これが、この作品の凄いところだ。
優れた BGM になり得るし、なおかつマニアックな思い込みを伴うリスニングにも耐えることができる、稀有なアルバムといってもいい。
生命の誕生をイメージさせる心臓の動悸を模したバスドラのキックから始まり、様々なドラマを経て、終盤のクライマックスは、幻惑的かつ刺激的なエレクトリック・サウンドによるメドレーでひた走り、感動的な大団円を迎える。
ごく個人的な感想だが、サックスとジャズ風の女性スキャットも手伝ってか、このアルバムの持つ雰囲気には、当時のイギリスの音楽よりもアメリカのミュージシャンの作品のようなところがある。
60 年代後半から 70 年代にかけてブリティッシュ・ロックが持ち続けた、どこか屈折した美しさ、独特のダークな雰囲気といったものを、このグループは長い時間をかけて吸収し変容させて、遂にははるかにコンテンポラリーな音楽へと推し進めてしまったのかもしれない。
非常に高級な BGM であり、薄暗くも明快なポップスという印象があるのだ。
個人的にはプログレ = 長い曲というイメージは、この作品で確立した。
実際にはタイトルのある複数の楽曲から構成されるアルバムだが、暗く幻惑的な色調が、歌詞から演奏、そしてそれらが喚起するイメージをも貫いており、アルバム一枚で一曲に聴こえる。
そして、スペイシーかつ悪夢的なサウンドと絶望的現実を語るメッセージが、みごとなまでに一つになって、リスナーの心を揺さぶり魅了するのだ。
パーソナルな苦悩を織り込んだメッセージが、結果として、70 年代の社会、文化といった人間の活動をそのものを象徴、包括するようなメッセージへと拡張されて、今に至っても色褪せることなく永遠の輝きを放っている。
「and everything under the sun is in tune, but the sun is eclipsed by the moon.」というメッセージには、諦念と悲痛な叫びが交じり合った「生きること」そのもののような響きがある。
個々のプレイというよりも、効果音を含めた全体の音像が語りかけてくるタイプの音楽だが、ライトのキーボードとギルモアのギター・ワークは本作でも冴え渡っている。
あまりに唐突なアメリカ志向の音という点について、他にも何人かの方が、同じ意見を持っておられるようです。
最終プロデュースのクリス・トーマスのアイデアなのか、それともバンドの意思なのか興味あるところです。
「a)Speak To Me」(3:57)
「b)Breathe」
「On The Run」(3:31)
「Time」(7:05)
「The Great Gig In The Sky」(4:47)
「Money」(6:23)フランク・ザッパの「Grand Wazoo」との聴き比べもおもしろい。
「Us And Them」(7:48)
「Any Colour You like」(3:25)
「Brain Damage」(3:50)
「Eclipse」(2:04)
(CDP 0777 7 46001 2 5)
| Roger Waters | Bass, Vocals |
| David Gilmour | Guitars, Vocals |
| Richard Wright | Keyboards, Vocals |
| Nic Mason | Drums |
| guest: | |
|---|---|
| Dick Parry | Saxophone |
| Roy Harper | Vocals |
| Venetta Fields, Carlena Williams | Backing vocals |
75 年発表の「Wish You Were Here(炎)」は、シンセサイザーによる壮大にして憂鬱なオープニングや圧巻のギター・ソロ、曲間の SE など、パフォーマンスと優れたアイデアは、決して前作に劣らない傑作。
しかしながら、前作ほどは全体を貫く芯のようなものは見当たらず、リスナーを巻き込んでいくようなパワーも露には感じられない。
そして、エンディングへ向けた、駆け上がってゆくようなクライマックスもなく、アルバムは思いのほかあっさりと終ってしまう。
前作の強烈なベクトルにさらされたリスナーは、畢竟さらに強烈なものを求めてしまったのだろう。
それはそれで仕方がない。
首をひねるような第一印象は、多くのリスナーに共通の思いであったが、このアルバムの凄さは一つのヒントが明らかにする。
それは日本盤のタイトルをグループ側が指定してきたこと。
「あなたがここにいてほしい」。
これは、全ての人に「Wish You Were Here」という英語の意味を明確に知ってもらいたい、という意図に違いない。
そして、その意図とは、本作がバレットへの思いを歌いこんだ作品でもあると見なしてもらいたい、ということである。
自己と世界の関係から社会そのものの成り立ちというスケールへ広がるメッセージ力をもってしまった前作とは、異なった視点でも聴いてもらいたい、という注意なのだ。
こうして、ラヴ・ソングにも近い思いをもつということを知らされることによって、個人的に、ここでのパフォーマンスが一気に表情を変えた。
切実さのなかに初期のリリシズムを感じ取ることも可能であり、PINK FLOYD は、もともとこういう歌を歌っていたグループなのだと、改めて見直すことができたのだ。
それにしても「Wish You Were Here」とは、あまりに直截的で切ないメッセージである。
分かれていた評価は、抽象性の高いメッセージをもつ前作から、一気に具象の極みである一人の人間への思いを描く本作へと降りてきたために、そのギャップに誰もがとまどってしまったということなのだろう。
前作の成功によって、遂に自らの作品が怪物化して作者へ牙を剥いてくるという予測不能の事態に直面したウォーターズが、ここで吐露したような切ない思いを膨らませながらも、音楽/バンドに道を定めてさらに歩み続けた、その精神的なタフネスには驚かされる。
もっとも、その疲弊が並大抵ではないことは、次作まで二年という月日を要したということ、そして、その作品の内容が、自らの苦悩の音化という地獄からは一歩離れて、よりジャーナリスティックな社会性という方向へと変化したことなどに明らかだ。
サウンド面では、そそり立つ音の壁のように、透明なまま全編へと覆いかぶさるライトのシンセサイザーと、不気味なまでにリアルな感触で迫るギルモアのギターが強烈な印象を残す。
1曲目「Shine On You Crazy Diamond(Part One)」 冒頭のギター・プレイだけは、評価の賛否分かれる本作品においても無条件に絶賛されるだろう。
個人的には、数少ないブルーズ・ロックのフェイバリットでもある。
プログレのような高踏趣味のスタンスでこの音に近づくと、えぐるようなギターの生々しいタッチに耐えられないかもしれない。
ディック・パリーのサックスが、前作に続き大役を果たしている。
2曲目「Welcome To The Machine」 エレクトリックなサウンドが衝撃的なバラード。
歌詞は、無垢な少年を集金マシンに変貌させるミュージック・ビジネスを皮肉ったものなのだろうが、ジャケット・カバーの「機械の握手」が喚起するイメージなど、オーウェル風の非人間的な教条世界までもが浮かび上がる。
後の「The Wall」へとダイレクトにつながる内容だ。
3曲目「Have A Cigar」 この作品の歌詞も自嘲気味ともいえる音楽業界内幕もの。
リード・ヴォーカルはレーベル・メイトの怪人ロイ・ハーパー。
4曲目「Wish You Were Here」 ギルモアによるレイド・バック気味のアコースティック・ギター弾き語り。
こんなに小さな曲なのに、なぜか世界を見渡すようなスケールの大きさがある。
最終曲「Shine On You Crazy Diamond(Part Two)」 1 曲目の主題の重厚な変奏によるクライマックス。
前作終盤、前々作の大作のイメージに近いインストゥルメンタルが荒れ狂い、最終局面では、ジャジーなジャムからライトのキーボードによる訥々としたソロへと吸い込まれ、祝福の余韻とともに消えてゆく。
ごく個人的な感触なのだが、このグループが放っていた 70 年代特有の一種の魔術的なオーラのようなものは、この作品を最後に消えてしまったような気がする。
ニューロック、アートロックというくくりは、本作を含めてプログレッシヴ・ロックという形で総括され、幾つかの作品に結実して完全に役割を終え、そして冷めた目で現実と対峙する新しい時代が始まり、新しい音楽も始まろうとしていたのではないだろうか。
そして、そのことをこのグループがいち早く気づいていたように思えてならない。
(CK 68522)
| Dave Gilmour | Guitars, Vocals |
| Roger Waters | Bass, Vocals |
| Nick Mason | Percussion |
| Rick Wright | Keyboards |
77 年発表の「Animals」。
コンセプトへの評価はともかく、緻密に計算された暴力的なサウンドが、一種独特な美しさ/力強さをもって迫ってくる傑作である。
ロックとしての強度/ダイナミズムという点では、全作品中一番だろう。
サイケデリックでトリップ感覚にあふれたサウンドから、明快なヘヴィ・ロックへと変化したともいえる。
アルバムは、プロローグ/エピローグとして「Pigs On The Wing」という短いアコースティック・ギターの弾き語りをすえ、間に三つの大作が並ぶという、極めて明快な構成をもつ。
三つの大作は、それぞれに特徴的でありながらも、荒々しく苛ついたタッチが共通するきわめて現代的なハードロックである。
「Dogs」(17:03)
ワイルドなギターとオルガンが生み出す緊張とアコースティック・ギターの響きによる寂寥感のコントラストがすばらしい、ドラマチックなナンバー。
迸るようなシンセサイザーによる暗黒の広がりと孤独な歌声が、いかにもこのグループらしい。
イコライジングされたコーラスも活かされている。
「Pigs」(11:30) サスペンスフルなオルガンのリフレインに思わせぶりなベース、ギター、シンセサイザーが重なってゆくイントロは、哀しくもスリリング。
ヴォーカル・パートでは、ウォーターズが得意の投げやりでヤクザな雰囲気を漂わせる。
パフォーマンスはシニカルでコミカル。
しかし、噛みつくようなギターのコード・ストロークと、機を見ては鋭く切り込むキーボードのプレイが、全体に重厚な感じをもたらす。
シンプルなリフレインの積み重ねで進んでゆくにもかかわらず、音色への細かな配慮が、全体にきめ細かい運動性を与えている。
エンディングの迸るようなギターとベースのリフが、印象的だ。
「Sheep」(10:18)は、ジャジーなエレピのソロがベースのリフで次第に持ち上げられ、一気に荒々しいヴォーカルへとなだれ込むハードなナンバー。
ヴォーカルが、いつのまにかシンセサイザーの電子音に取って代わられるアレンジも、当時は新鮮だった。
オルガンとギターによる何かを叩き切るような鋭いストロークがズシッと響く。
シンセサイザーの上昇音形も頂点で全てを解放するには至らず、もがき苦しむようなギターのストロークが、暴れ回る。
そして得意の浮遊感を演出するシンセサイザーとベースのリフレイン、ヴォコーダーを通したナレーション。
再びヴォーカル・パートへと舞い戻るも、さらに演奏は激しさを増し、遂にはエンディングへ向けてギターのコードが虚空を切り裂くように轟き渡る。
最もエレクトリックなハードさが強調されたナンバーだ。
そしてそれぞれの曲で、動物の鳴き声がシミュレートされ効果的な SE として挿入されている。
ギルモアの粘りつくようなギター・サウンド、シンセサイザーやエレピを巧みに使い分けアンサンブルを支えるライトとともに、ウォーターズのベースのリフの力強さも印象的な作品になっている。
さらにウォーターズのヴォーカルは、カリカチュライズされた表情が一層冴えており、この風刺劇を演じきってやろうという力強さも感じられる。
日本盤 LP のライナーノーツは、著名人からのコメントを幾つか集めたものになっていたと思います。鰐淵晴子さんのコメントがあるのにびっくりしました。
(CK 34474)
| Dave Gilmour | Guitars, Vocals |
| Roger Waters | Bass, Vocals |
| Nick Mason | Percussion |
| Rick Wright | Keyboards |
79 年発表の「The Wall」は、再び、コンセプチュアルな二枚組大作。
確かに普遍的なテーマと劇的な展開をもつ作品ではあるのだが、個人的に首をひねるところもあった。
つまり、この主題をわざわざ取り上げることが、一種の時代錯誤に感じられたのだ。
この時代、60 年代から 70 年代前半とは異なり、こういうドラマがセンセーショナルなリアリティをもつための雰囲気や姿勢が、すでに消えかかっていたのかもしれない。
また、コンセプチュアルな面を除いても、楽曲に今一つ深みが感じられなかった。
唯一「Comfortably Numb」が、それまでに馴染んだ PINK FLOYD サウンドの延長上にあるせいもあって、比較的すんなり耳に入ってきた。
おそらく、本作は、主題をどれだけリアリティと重みを持って感じられるかで、評価が大きく分かれる作品なのだろう。
「Another Brick In The Wall Part 2」が全米チャート一位になったことに驚いた理由の一つは、70 年代前半から大衆の問題意識に大した進展がないことに気づかされたからだ。
もちろん、ウォーターズにとっては、このテーマが特にリアリティをもつのかもしれないし、世の中が常にどこかで暗澹たる状況を抱えているのも確かである。
しかしながら、それでも、問題の切り口が、オーウェル、トミー、時計じかけのオレンジなどですでに使い古されたものに感じられてならないのだ。
アーティストとしての PINK FLOYD にこんな陳腐な語り口はないはずだ、と考えると、一つの仮説が思い浮かぶ。
すなわち、彼らがこういう語り口をせざるを得なかった、いや意図的にこういう語り口にしたのでは、という仮説だ。
つまり PINK FLOYD は、永遠のオルタナティヴとしての気概と大いなる皮肉を、同じことの繰り返しを求める記憶力のない大衆=リスナーとレコード会社の守銭奴たちに向けて、慈愛と絶望をまとったバーレスクを演じることで、示したのである。
今でこそ名作というような地位を得ているようだが、これを受け止めた私は、正直にいって、「炎」以上に当惑し、ある純粋な輝きをもった時間と空気の終わりを感じた。
もっとも、こういう感じ方は、70 年代初頭にはプログレですらある種のポップ・ミュージックを売るためのキャッチフレーズにすぎなかったことを、後追い世代の私が知りえなかったために抱いたわけであって、あくまでビジネスであったシーンには、おそらく純粋な輝きなぞハナからなかったのだろう。
ナイーヴだったのは、むしろ私の方だったのである。
そのナイーヴさはあまりに弱々しく、知りえぬ世界を勝手に自分の理想の色に染め上げることによってのみ成り立っており、猥雑でパワフルな現実の前には、幻滅感とともに砕け散るしかなかったのだ。
それでも、あえていうならば、おそらく本作の最大の弱点は、音楽そのものの革新性、魅力を引っ込めてしまい、物語や主題、メッセージといったものを前面に出したことだろう。
もっと音で語るべきだったのだ。
本作品完成前にキーボーディストのリチャード・ライトが脱退する。
「Dark Side Of The Moon」以前にも「Ummagumma」、「Meddle」や「Atom Heart Mother」など、それぞれに特徴を持った野心的な名盤を作っているが、それらで積み重ねたものが「Dark Side Of The Moon」で一気に花開いた感が強い。
そして、面白いことに、このグループは、一見すでにいい尽くされて陳腐な感じすら受けるモチーフ、例えば、資本家はブタで労働者はヒツジというようなオーウェル流の喩えや、完全官僚機構による支配のディストピアといったモチーフを、コンセプトの中心とした作品で、大きな商業的成功をおさめている。
サウンド自体の魅力はさておき、それだけ受けたということは、こういった主題はすでに大昔から幾度となく謳われ繰り返されたものなのだ、メタファーとしてはすでにかなり手垢がついているのだ、ということを分かっている知的な人が、意外なほど少なかったということになるんじゃないだろうか。
アメリカ人も日本人以上に、喉元過ぎれば何も覚えていないんじゃないだろうか。
もし、消費社会に浸かりきったそういう大衆のレベルを知り得て、あえてこういうアルバムをつくったんだとすると、彼らは、金もうけについて相当の切れ者であると同時に、大いなる皮肉屋であることにもなる。
グループとしては、偉大な意識家ウォーターズの強烈な思い入れを、ギルモアやライトらプロフェショナルな職人肌のミュージシャンが把握して、うまくバランスしていたのだろう。
また、技巧面で語られることの少ないグループだが、少なくともキーボードだけは超一流のプレイのセンスをもっている。
セルフ・パロディのようになってしまった現在のグループに、なんとかもう一度ウォーターズを入れて、復活できないだろうか。
もしそうなれば、きっと 21 世紀を控えて、さらに人類の縁となるような曲をつくってくれるに違いない。