Pär Lindh Project

  スウェーデンのプログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Pär Lindh Project」。 クラシックからジャズまでをカバーするマルチ・キーボード奏者パル・リンダーによるプロジェクト。 94 年アルバム・デビュー。 PLP なるアクロニムから分かるように、EL&P、特に、キース・エマーソンに強烈な思い入れを持つリンダーのキーボード・プレイを中心にしたクラシックとロックの本格融合路線である。 2010 年新作「Time Mirror」発表。

 Dreamsongs

 
Par Lindh keyboards, drums, percussion
Bjorn Johansson guitars, bass, synthesizer, percussion
guest:
Magdarena Berg vocals
Roine Stolt bass on 3
Niclas Blixt trumpet, French horn
Nisse Mannerfeldt euphonium, tenor & bass trombone
Ensemble Macogall chorus
Erik Hellerstedt chorus director

  2004 年発表の作品「Dreamsongs」。 サウロンの使者「黒の乗り手」を描いたジャケット通り、「Bilbo」に続くビヨルン・ヨハンソンとの共作によるトールキン・シリーズの第二作である。 Dream One から Dream Ten までの十部から構成されている。 その内容は、キース・エマーソンばりの勢いのオルガンとピアノとシンセサイザー、マイク・オールドフィールド直系のギター・プレイで編み上げ、管楽器のアクセントを配したシンフォニック・ロック・インストゥルメンタル。 親しみやすい旋律を中心にした演奏であり、自然で素朴な味わい、輝くような溌剌さ、心地よくこじんまりとまとまった感じがうまく均衡し、非常に聴きやすい。 トラッド・ミュージック色も散りばめられた、厚過ぎない音、押し過ぎない演奏に親しみがもてる。 素朴なファンタジーのイメージを伝える音楽として出色の出来映えだ。 もちろん、オールド・プログレ・テイストは満載。

(CLSCD 108)

 Gothic Impressions

 
Pär Lindh mellotron, synthesizer, hammond organs
Mattias OlssonANGLAGARD drums, percussion
Johan HogbergANGLAGARD bass
Jonas Engdegard, Jocke Ramsell guitar
Bjorn Johansson classical guitar, basson, tin flute
Roine Stolt acoustic guitar
Hakan Ljung lute
Lovisa Stenberg harp
Anna HolmgrenANGLAGARD flute
Mathias Jonsson lyrics, vocals
Ralf Glasz, Magdalena Hagberg vocals
Camerata Vocals choir

  94 年発表の第一作「Gothic Impressions」。 多彩なゲストを迎え、チャーチ・オルガンまで持ち出してがんばる、キーボード・シンフォニック・ロックの力作。 キース・エマーソンへの強烈な思い入れが感じられる内容だ。 70 年代に作曲されたという作品は、ややゴシック風味は強いものの、キーボード・ロックの王道。 ヴィンテージ・キーボードを用いて繰り広げられる演奏は、本格クラシック、トラッドとモダンな HR/HM を直結したものである。 歌もののメロディ・ラインや英語のヴォーカルの表情など、やや弱いところはあるのだが、強力な世界観は提示している。 また、名手マティアス・オルセンの太く武骨なドラミングとクラシカルなアンサンブルとの相性が今ひとつに感じられるのは、EL&P の破天荒さと、カール・パーマーによるリズムというよりはお囃子に近い手数の多い鼓笛隊型のドラムに慣れきってしまった、私が悪いのでしょう。 逆に、フルート、メロトロン、リュートなどを用いた古楽/トラッド系の演奏は、EL&P にはないすばらしいものだ。 全体としては、甦るキーボード・ロックとしてプログレ史上に残る力作といえるだろう。

  「Dresedn Lamentation(ドレスデン哀歌)」(2:06)ストリングス、オルガンを模すシンセサイザーによる荘厳なる序章。 厳粛。 鐘の音、管楽器含め、本物のオーケストラと何らかわりはない。 ひたすら美しく哀しい。

  「The Iconoclast(偶像破壊者)」(7:05)湧き上がるティンパニとチャーチ・オルガンによる雄大なる幕開け。 力強いリズムとともに、苦悩するオルガンのテーマが迸る。 ヴォーカルは、柔らかな声が本格的ではあるのだが、器楽ほどには存在感がない。 リズムもやや単調に聴こえてしまう。 オルガン、シンセサイザーが渦巻き、高鳴る演奏がみごとなだけに残念。 中盤のモノローグとチャーチ・オルガンの重厚な演奏からカデンツァへ。 ここはすばらしい演奏だ。 再び、骨太のドラムとともに演奏は走り出し、ムーグ・シンセサイザーが軽やかに、しかしダイナミックにリードする。 チャーチ・オルガンのオブリガートは圧巻。 歌メロは、器楽の重厚さに比べるとニ流のハードロックのようで、やや興が醒める。 オルガンとともにリタルダンド、和音が迸り轟々たるエンディング。 そして、エピローグには厳かな混声合唱が湧き上がる。 さらに枯れ果てたフルート調のメロトロンが流れる。 みごとな演出だ。 ここのメロトロンは、それまでの展開を吹っ飛ばすくらい存在感がある。 古い映画音楽を思わせるノスタルジックで心揺さぶる音色だ。
  シンプルな展開ながらも、多彩な音楽性と圧倒的な演奏を見せつける作品。 ロックの部分がもっとも決まらないのが問題か。 ドラムのスタイルに違和感を覚えるのは、おそらく、私が慣れていないだけでしょう。 ヴォーカルは、原語による方が、ゴツゴツした感じが出てかえってよかったような気がする。 タイトルはやはりナニを思い出す。

  「Green Meadow Lands(緑の草地)」(7:25)フルートとチェンバロによる哀愁のデュオ。 メロトロンのように枯れたフルートの調べが、胸に迫る。 チェンバロも、典雅だが哀しげであり、全体にバッハのソナタやコンチェルトを思わせるバロック宮廷音楽風のアンサンブルである。 受けてたつは、重厚なストリングスとメロトロン・コーラス。 チェンバロは、レースのように華やかな襞を広げる。 つぶやくように歌いだすヴォーカル。 ドラムが静々とリズムを刻み、ギターがそっとヴォーカルに寄り添う。 サビはメロトロンが静かに押し上げ、丹念なリズムとアコースティック・ギターが静かにつきしたがう。 たおやかなフルートとシンバルのさざめき。 「宮殿」である。 間奏は、ややトラッド風のフルート・ソロ。 フルートとエレキギターによるリフレインが動きを呼び、再び、ていねいなリズムが始まりオルガンが高らかに歌い上げる。 そしてヴォーカル・パートへ。 ギターの伴奏もロバート・フリップ風だ。 続く間奏は、アコースティック・ギターとメロトロンによるバロック風のデュオ。 夢見るようなヴォーカルが戻り、アコースティック・ギターとメロトロンが静かに伴奏する。
  初期 KING CRIMSON を思わせる、重厚にして幻想的なエレジーである。 ほのかな光が見える終盤は、クラシカルである以上に、ブリティッシュ・ロックの伝統を感じる。 前曲よりはドラムス(リンダー氏本人の演奏か)は自然。 ヴォーカルは、やや表情が硬いものの、空ろな感じが曲調に合っている。

  「The Cathedral(ザ・カテドラル)」(19:34) オープニングは、荘厳ながらもロマンティックな響きをもつチャーチ・オルガン・ソロ。 タイトル通りの正統バロック教会音楽である。 メランコリックでロマンティックなタッチは 軽やかな 3 拍子によるのだろう。 オルガンを受け止めて、静々とバンド演奏が動き出す。 モテット、コラールといったイメージたっぷりのノーブルで細身の男声ヴォーカル。 リズム・キープとベース・ラインがやや単調でデリカシーを欠くため、歌とオルガンのつくり上げた緊張を解いてしまうのが残念。 厳かな「起」。
  一転、ハモンド・オルガンの叩きつけるようなリフ、シンセサイザーが高まり、HR ギターのトリルや暴れるベース・ラインが口火を切って、モダンな演奏が始まる。 パーカッシヴなオルガンの和音、ベース連打がエネルギーを溜め込んでは、炸裂する。 もっとも、本格的な HM と昔のプログレの中間ぐらいのニュアンスであり、中途半端な感じもあり。 変拍子ユニゾンの決めには、不気味なパワーと重量感がある。 ディミニッシュの変則リフがカッコいい。 リズム・セクションは、完全に ANGLAGARD であり、音は個性的で面白いが、リズムそのものはややもたついているような。 激しい「承」。
  一転して、哀愁のクラシック・ギター・ソロ。 鮮やかな場面転換だ。 枯れ果てたメロトロン・フルートとメロトロン・ストリングスの響き、そして序章の男声ヴォーカルが復活する。 ホロコーストの果ての限りない浄化のようなアンサンブルに、オルガンも加わり、宗教的で厳かな空気が高まる。 ヴォーカルはもう少し基本的なパワーが必要だ。 竪琴のこの世ならぬ美しい響きは、突如噴出したシンセサイザーによる勇壮なマーチに破られる。 柔和なる「転」。
  EL&P 趣味丸出しのアナログ・シンセサイザーによるマーチ。 エンヴェロプが効いたシンセサイザーとオルガンとのハーモニー、ユニゾン、オブリガートなど、コンビネーションも冴える。 リズムも軽めであり、キーボード中心の演奏をしっかりと支えている。 クラシカルなフレーズをややイージーに崩したようなスタイルである。 チャーチ・オルガンやクラヴィネットのような音も加えて突き進み、やがてメロディアスな HM ギターも現れる。 イングウェイの伝統を感じさせるプレイである。 たなびくような伴奏はオルガン。 上品なヴォーカルへと回帰するも、演奏がとっ散らかっているためにあまりメリハリがない。 再び、オルガンのリードで力強いトッカータ風の演奏へと変化。 オルガンのパワーでねじ伏せようとするのだが、これはなかなか奏効している。 キーボードが主導権を握った方が、まだまとまりがある。
   厳かなチャーチ・オルガン演奏は、序章への回帰。 リズミカルなフーガは、フランス・バロック風というべきか。 このエンディングのオルガンには、中盤の演奏を忘れさせてしまうだけの説得力がある。 雄大な和音のとどろきとともに大団円。 厳粛なる「結」。
   四-五部構成の組曲。 チャーチ・オルガンの存在感と比べると、バンドの演奏がやや手薄なのが残念。 大聖堂での祈りの時、さまざまな思いが祈りとともによぎる、そんな情景が浮かびます。 キーボード器楽の構成はすばらしいと思います。

  「Gunnlev's Round(ガンレフズ・ラウンド)」(2:52)リュートのアルペジオに軽やかなフルートが舞う.そしてチェンバロが静かに伴奏するアンサンブル。 バロック風のトリオ・ソナタだ。 女性の柔らかなスキャットも加わり、一層軽やかな演奏になる。 フルートの旋律の背景にストリングスがゆったりと響く。 チェンバロの和音とスキャットがエコーを効かせて重々しく響く。 オーボエのようなシンセサイザーのメロディ。 再びチェンバロとヴォカリーズ。 今度はチェンバロとオーボエ・シンセサイザーのデュオになる。 典雅なトリル。 再びヴォカリーズ。 リュートが和音を掻き鳴らす。 チェンバロの重厚なアルペジオとピッコロのようなシンセサイザー。 ピッコロ・シンセサイザーが走りヴォカリーズが重なると、リタルダンド、チェンバロの重い低音で終る。
  アコースティックなバロック風アンサンブルが美しい小品。 チェンバロのクリアーな音が印象的だ。 アコースティック楽器をシミュレートするシンセサイザーも面白い。 ただし、強烈なエコーは意図が不明。 バロック風であると同時にトラッド色もあるメロディが美しい。

  「Night On Bare Mountain (incl.Black Stone)(禿山の一夜)」(13:50)パワフルでストレートなアレンジが活きた傑作。 陰鬱な雰囲気がいい感じだ。 動と静のコントラストと切りかえの妙、幅広いダイナミック・レンジなど演奏もすばらしい。 特に目を惹くのはドラム。 手数多く叩きまくるのに加え、効果音や強烈なアクセントなど、打楽器本来としての使い方が活きていて迫力を支えている。 これを 4 曲目の様なオリジナル曲でも見せてほしかった。 また、極めて描写力のある映像的な演奏になっているが、これはおそらく原曲のなせる技であろう。 シンセサイザーの音はすばらしい。 派手で大仰な演奏としてはピカイチである。


  チャーチ・オルガンなどヴィンテージ・キーボードを駆使して壮大な楽曲をドライヴする、スケールの大きい優れたエンターテインメント。 しかし、問題はロックとしてどれだけカッコいいかだ。 「禿山の一夜」では、すでに「ロック・アレンジに合ったクラシックの名曲」としての地位をもつ作品を取り上げることによって一定の効果を上げているが、オリジナル作品はどうか。 「The Cathedral」は、キーボードの構成はそれなりの線をいっているが、アンサンブルのカッコよさという点ではまだまだ本家に及ばない。 単調なドラミングやヴォーカル・パートの処理はとりあえずの問題点だろう。 そして、ゴシック的なドラマを目指すならば、もっとセンスあるデフォルメを効かせた演奏が必要だろう。 ドラマ性やストーリー展開などは、決して悪くない。 しかし、明快さが足りない。 現段階ではキース・エマーソンの勝ちだがこの先は分からない。 楽しみです。

(CLSCD 101)

 Rondo

 
Pär Lindh mellotron, synthesizer, hammond organs
Nisse Bielfeld drums
Marcus Jaderholm bass
Jocke Ramsell guitar
Magdalena Hagberg vocal on 4

  95 年発表の 4 曲入りミニ・アルバム「Rondo」。 EL&P 路線まっしぐらから、意外なエレクトロニック・ミュージックまで、濃い内容の力作である。 まずは、ここまで真似するかいなと大口アングリな、デイヴ・ブルーベックの「Rondo」。 エマーソンに比べるとオルガンの音色があまり尖がっておらず(何か加工の仕方が異なるのだろう)、プレイもどこかクラシック然と整っており、お行儀がいい。 グリッサンドによる叩きつけるような決めのフレーズがないのは、こちらの方が原曲に忠実だということだろうか。 せっかくなら、「トッカータとフーガ」も入れてほしかった。 手数が多くうるさいドラムは誰かを思い出すが、こちらはひたすらシャフル・ビートを刻むだけなので、さらに単調である。 ギターが入ったせいでやや安っぽくなってしまったのも残念。 シャープなスピード感はみごと。
  「Allegro Percussivo Flumerioso」カール・パーマーのソロ曲のような電気処理したパーカッション・ソロ。 おそらく演奏はリンダー氏。
  「Jazz Eruption」ではジミー・スミス風キース・エマーソンを意識している模様。 本格的にジャズになっているところは、なかなか勉強家だ。 タイトルの "Eruption" という単語も思い入れが見えて微笑ましい。 なり切るにしてはリズムが重過ぎ、スウィングしないのが難点。 リンダー氏自らがプレイした方がよかったかもしれない。
  「Solaris」は、一転して音響実験の如きフリー・ミュージック。 オルガンやメロトロンをイコライズ/変調した波打つような音が折り重なりながら流れてゆく。 白黒映画の映画音楽をコラージュしたようなメロトロンの響きが切ない。 粒子の飛び交う無機世界に仄かに漂うエモーション。 テーマはスウェーデンのフォークソング。
  それにしてもドラム、ギターは完全に HM のプレイである。 交友関係に問題があるのではないだろうか。

  「Rondo」(7:01)
  「Allegro Percussivo Flumerioso」(0:58)
  「Jazz Eruption」(2:36)
  「Solaris」(11:31)

(CLSCD 102)

 Bilbo

 
Pär Lindh percussions, mellotron, synthesizer, organ, harpsichord, piano
Bjorn Johansson classical guitar, electric & slide guitar, bass, bassoon, programming
Anna Schmidtz flute, oboe
Magdalena Hagberg vocals

  96 年発表の作品「Bilbo」。 トールキンの「ホビットの冒険」(「指輪物語」の前段)から着想したコンセプト・アルバム。 第一作にゲスト参加していた、ビヨルン・ヨハンソンとの共作による 1 時間以上にわたる大作だ。 トラッド調の牧歌的テーマとクラシカルなアンサンブルを用いて、「ボ・ハンソン」的ともいえるファンタジーの世界をインストゥルメンタル主体で描いている。 オーボエ、フルート、アコースティック・ギターのプレイはクラシカルであるとともに、爽やかな愛らしさを演出しており、ていねいなアンサンブルとともに、本作の魅力の基調となっている。 女性ヴォーカルも、うますぎないのがかえって素朴でいい味わいだ。 リンダー氏は安定した技巧で演奏にメリハリをつけているのだが、ときおり過激な爆発があり、冷や汗をかく。 とはいえ、エレクトリックなキーボードとアコースティックな音のバランスは自然であり、キーボーディストとしてリンダー氏がいい腕を見せているのも確かである。 マイク・オールドフィールドそのもののようなギター・プレイも、北欧独特の「歌謡曲」メロディとよく合っている。 9 曲目の大作でのタランテラ風のテーマは秀逸。 全体に、リンダー氏のソロ名義作よりも全体的なバランスがよく、聴きやすい好作品といえるだろう。

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 Mundus Incompertus

 
Pär Lindh mellotron, synthesizer, hammond organs
Magdalena Hagberg vocal
Nisse Bielfeld drums
Marcus Jaderholm bass
Jocke Ramsell guitar
guest:
Singillatim Choir 
Jonas Bengisson recorder
Inge Thorsson violin
Michael Axelsson oboe
Aron Lind trombone

  97 年発表の第二作「Mundus Incompertus」。 内容は、26 分にわたる超大作を含む大作 3 曲。 若干の味付けはあるものの、基本はクラシカル(バロック)にして HM なキーボード・プログレである。 1 曲目ではバロック音楽をモチーフに、チャーチ・オルガンからハモンド・オルガン、チェンバロまでを駆使し、メタリックなギターと爆発力のあるリズム・セクションをしたがえて、怒涛のパフォーマンスを見せる。 スピード感、重量感、様式的な美しさは、ファースト・アルバムから比べるとかなり洗練されており、また同時に、デフォルメもきつくなったイメージである。 中盤では、ヴァイオリンのゲストも巻き込んで、正真正銘のバロック・アンサンブルを演っており、この本格クラシック然とした演奏と攻撃的な(HM 的な、といっていい)プレイの壮絶な落差が、作品のもつ激しさ/荒々しさの原動力となっている。 端的にいって、HM/HR とバロック音楽を、エマーソン風オルガンを媒体に加減乗除なしにそのままくっつけてしまった作品である。 また、開き直った容赦のなさが、往年のイタリアン・ロックに通じるところもある。 バッハ、ヴィヴァルディからの引用あり。
   そして、2 曲目以降登場する女性ヴォーカル、コラールの使い方もおみごと。 この作品は、ギター、フルート伴奏でたおやかな女性ヴォーカルが厳かな歌唱を見せるが、チェンバロの響きとあいまって、気品のある詩情を生み出している。 リンダー氏によると思われる 12 弦ギターのアルペジオが、たまに初期 CRIMSON(9th 系)に聴こえるのは偶然だろうか。 前曲の存在があるだけに、いっそう味わい深くなっている。
   3 曲目の大作は、「Singillatim mortales, cunctim perpetui(個は必滅なれど全は不滅なり)」のパート 1、2、3 が、コラール、最終曲がヴォーカル曲である以外は完全にインストゥルメンタルであり、1 曲目と同じくひたすら押し捲るキーボードを堪能できる。 チャーチ・オルガン、ハモンド・オルガン、ピアノ、ムーグからメロトロンまでを駆使して、オムニバス風にさまざまな演奏を繰り広げる。 キーボードのプレイは、凄まじくテクニカルなフレーズを次々弾き倒してゆくというよりは、キーボード毎の音色の特性をうまく活かした着実なフレージングを決めつつ、キーボードの切りかえのタイミングのよさで聴かせていることが分かる。 キース・エマーソンほど無理矢理な迫力はなく、ぐっと整ったプレイだ。 これは以前アメリカの CAIRO というグループを聴いたときにも感じた。 一方、手癖のコピーやジャズ・インプロヴィゼーションまでしっかり入っている辺りはさすがである。 9:30 辺りから現れるピアノが、さりげなくウェイクマン、エマーソンのタッチをほのめかせている。 また、ジャズ・フーガはオリジナリティあるケッサク。 とくにすばらしいのは、終盤のヴァイオリン、チャーチ・オルガンによるトラジックなアンサンブルだろう。 ドラムは全編やたらうるさいが、これがないと感じが出ないのでしょう。 エンディングは確かに痛快だ(まんま EL&P ですが)。 EL&P のヘヴィ・メタル的な面とリリカルな面の彫りを深くしたレトロ・モダン・キーボード・ロックの大傑作。

  「Baroque Impression No:1」(9:10)
  「The Crimson Shield」(6:38)
  「Mundus Incompertus」(26:43)

(CLSCD 104)

 Discus Ursi's

 
Bjorn Johansson guitars, musical saw, flute, bassoon,recorder, keyboards, percussion
Pär Lindh piano, organ, mellotron, synthesizer, drums
Johan Forsman vocals
Monika Fors vocals

  98 年発表の作品「Discus Ursi's」。 マルチプレイヤーぶりを発揮するビヨルン・ヨハンソンのソロ作品。 パル・リンダー氏は、キーボード、ドラムス担当で客演である。 音楽的な内容は「Biblo」を継ぐものだが、その「Biblo」よりもヴォーカル(英語)を大きくフィーチュアし、プログレ常套句に近い表現が多い。 そして、このヴォーカルのせいか、クラシカルな中に GENESIS 風のポップ・タッチがある。 したがって、昔ながらのシンフォニック・ロックのファンにも受けそうだ。 もちろん、オルガン、メロトロンなどリンダー氏による爆発的なキーボード・プレイも、オールドフィールドそのもののようなギター・プレイも健在である。 さらには、3 曲目のように KING CRIMSON のような(もしくは CRIMSON 影響下のスティーヴ・ハケットのような)緊迫感にあふれる演奏もある。 こうなると北欧トラッドの牧歌的な雰囲気から、逸脱(または深化)して呪術的なムードも現れてくる。 あえていえば、ANGLAGARD の作品に近いところすらある。 もちろん、基本は素朴で愛らしい調子であり、そのおかげで、たとえプログレ・クリシェを連ねても近年の英国ものやオランダあたりの GENESIS もどきと比べて鬱陶しさや嫌味がない。 透き通った表現というべきか、はたまた天然脳天気というべきか。 全体としては、単品シンフォニック・ロック作品として 90 年代を代表する一枚といえるだろう。 一部でモーツァルトの引用あり。 最終曲は、本家マイク・オールドフィールドを十分に意識したクラシカルかつエキゾティックな大作。
   ジャケットの「千手熊」は、「ホビットの冒険」の名脇役「ビヨルン」のことでしょう。 そして、この作者のファーストネームも同じようですね。

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 Veni Vidi Vici

 
Pär Lindh keyboards, bass on 6
Nisse Bielfeld drums, vocals
Magdalena Hagberg vocals, violin
Jonas Reingold bass
John Hermansen guitar
Jocke Ramsell guitar on 10
Marcus Jäderholm bass on 10
Niclas Blixt horn
Eric Ullman bassoon
Jens Johansson flute

  2001 年発表の新作「Veni Vidi Vici」。 ライヴ盤に続くフル・レンス第三作目。 ゴシックなアダージョから幕を開ける本作は、大仰系キーボード・シンフォニック・ロックの第一人者の名に恥じぬ、まさに驚異的作品。 エマーソン直伝ハモンド・オルガン弾き倒し、チャーチ・オルガンのカデンツァ、ショパン・ラフマニノフ系ピアノ、ヨーロッパ映画風ストリングス、メロトロンにツーバス・ロールと美女コラールまで、内容は充実そのもの。 ソロ・パートだけでなく挑戦的なテーマに凝る辺りがさすがである。 音質もすばらしい。 キーボード・プログレ・ファンには孫子の代までの愛聴盤、そしてクラシック・ファンには世界を広げる絶好の機会です。 けったいなタイトルは「来た見た勝った」と戦勝を告げたというローマの故事から。 それにしても、ドラマーがジャズ系のプレイヤーに交代したら、インスト・パートは EL&P の新作といっても通りそうなくらいです。

  「Adagio」(0:56)ストリングス・オーケストラ(その名も PLP Sinfonietta!)による厳粛なる序曲。 通奏低音のチェンバロのささやくような響きがいい。

  「Veni Vidi Vici」(7:56) 予想通り、前曲の厳かな雰囲気を吹き飛ばすツーバスロール、連打の嵐。 メインのリフからオブリガート、ソロまで、エマーソン風のハモンド・オルガンがとにかくカッコいい。 特に抑え目のフレージングが似てるの何の。 重厚なチャーチ・オルガンもあって、本家のみならず、METAMORFOSIL'UOVO DI COLOMBO をも思い出してしまう音です。 終盤はジャジーなピアノで締める。

  「Gradus Ad Parnassum」(13:53) ピアノをメインにメロディアスな女性ヴォーカルやバロック・アンサンブルも交えて、得意のオムニバススタイルで奔放なプレイを次々と打ち出してゆく力作。 途中のイタリア風奇想曲な展開がおもしろい。 主役のピアノがややロマン派風になっているが、基本的には、前作の大作を思わせるスペクタクルです。 受難曲の雰囲気もあり。

  「Tower Of Thoughts」(5:00)普通の HM/HR をクラシカルなモティーフ、ピアノ伴奏、チャーチ・オルガンなどで「こっち側」に無理やり引き寄せる怪作。 この小うるさいベースはアンディ・フレイザーではなく、間違いなくあの方。

  「River Of Tales」(3:09)ピアノ伴奏による物悲しいバラード。

  「Juxtapoint」(4:14)ギターもフィーチュアした快速 HM チューン。 メロトロン、ムーグだけが哀しげに漂う。 キーボードはツマ。

  「Le Grand Chambardement」(2:14)無伴奏混声コラール。

  「Adagio Con Flauto Et Clavicembalo」(0:55)1 曲目のアダージョのテーマがリプライズ。フルートは聴こえないのですが。

  「Hymn」(4:56)再び無伴奏混声コラール、そしてチャーチ・オルガン伴奏によるバロック歌曲。

  「The Premonition」(7:32)キャッチーなヴォーカルを活かした正統派キーボード・ロック。 ワイルドなハモンド・オルガンを中心に珍しく普通のシンセサイザー・ソロも交えている。 ヴァイオリンもいいアクセントだ。 邪悪、ミステリアスなムードを取り入れながらも、荘厳な雰囲気を貫き、プレイが HM に傾きすぎないのが好感。 終盤の管弦楽を巻き込んだ盛り上がりがすごい。

(CLS CD 106)


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