アメリカのプログレッシヴ・ロック・グループ「PHIDEAUX」。 96 年結成。作品は 2010 年現在八枚。悪夢テイストの横溢する弾き語りフォーク風プログレ。
| Richard J. Hutchins | drums | Armen Ra | thermine |
| Julie Hair | bass | D.J. Demigod | sound making on 2,3 |
| Ariel Farber | vocals, "evacuate your cities" | Valerie Gracious | vocals, "surrender" |
| Mizue Kido | vocals, "wait for the sound" | Catherine Nance | "hello?" |
| Will Guterman | vocals | Sydney Moffat | vocals |
| Keki Moffat | "one" | ||
| Stefanie Fife | cello | Chris Bleth | oboe, coglish horn |
| Tess Kraimer | narration, vocals, countdown | David Gerval | digital stretching treatment, harmonizer |
| Kramer | bass, fuzz bass, organ, harpsichord, baritone & noise guitar, electric piano, autoharp, high voice, echo | ||
| Gabriel Moffat | funeral water, sonar, space guitar, funeral voice, space beeps | ||
| Phideaux | vocals, piano, guitar, 12 string guitar, mellotron, synthesizer, electric piano, organ | ||
2004 年発表のアルバム「Fiendish」。
おそらくデビュー作。
内容は、ポスト・ロック、オルタナティヴ寄りの個性派フォーク・ロック。
演奏の中心は、R.E.M のマイケル・スタイプや INCREDIBLE STRING BAND のロビン・ウィリアムソンを思わせる悪声型男性ヴォーカルに女声によるハーモニーがからむヴォーカル・パートである。
この、アコースティック・ギターやピアノが伴奏するヴォーカル・パートを軸に、ノイジーでワイルドなエレクトリック・ギターとドラムスによるビートの効いたアンサンブルがアクセントを付け、さまざまな楽器の音をふんだんかつていねいに散りばめている。
テルミンやメロトロン・フルート、弦楽器など音色の種類はかなりリッチなのだが、その色付けの役目は、ヴォーカル中心のドラマの流れに小刻みな変化を盛り込むことである。
まずは、歌ものプログレであるというのが特徴だ。
ヴォーカルは、アメリカン・フォークらしい乾いた感じに微妙に賛美歌調が交じり合っている。
つまり、土の香りをまとった声に清らかで幻想的な響きがある。
そして、ポスト・ロックらしく、ファズやトレモロ、フェイザーといた 60、70 年代風の音響効果は自然に取り入れられている。
こういったエフェクトがヴォーカル・ハーモニーを巧みに揺るがせてドラマを波打たせている。
アナログらしいシンセサイザーが唸りを上げてプログレ心を刺激する場面もあるのだが、きわめて限られている。
中心は、やはり素朴で清らかにして薄暗い、歌である。
かように内省的でアコースティックな弾き語り風のサウンドにもかかわらず、インナージャケットには、(タイトルのとおりに)邪悪なガーゴイルの石像がいくつも載せてある。
歌詞も変わっている。
悪魔から怪物、そして「100 Mg」や「Hellphone」といった奇妙な言葉が配され、また、「Vultures & Mosquitoes」のように寓話らしきものもあれば、「Soundblast」では、太平洋戦争中に米軍が日本本土にバラ撒いた降伏を促す恐喝宣伝ビラの文句を読み上げる(クレジットによれば、この読み上げは日本人女性によるものだ)。
さらに、「Space Brother」では、いつか迎えにくるであろう異星の兄弟を待ち焦がれる気持ちが綴られる。
このように風変わりな歌詞やサウンド面などから、PINK FLOYD の弾き語りものやピーター・ハミルの作品が思い浮かんでくる。
長閑な音楽とオカルティックな意匠の組み合わせが生み出す居心地の悪さや違和感は、本作品の基調にあるのが、自己同族嫌悪の果ての自浄のための祈りに近いものであることが分かってくるに連れ、ほろ苦さに変わってくる。
精神の危うい均衡を保つための魂のささやきがこの音だとしたら、なにより過激な作品ではないだろうか。
GSYBE から FLEET FOXES までもを思い出させる大所帯による宗教的な幻想絵巻であると同時に、Matthew Parmenter と同じ個の苦悩が織り込まれている。傑作。
「Fragment」
「Animal Games」
「100 Mg」
「100 Coda」
「Hellphone」
「Little Monster」
「Headstones」
「Fiendish」
「Vultures & Mosquitoes」
「Sounblast」
「Space Brother」
(ZYZ 1001)
| Rich Hutchins | drums, gongs |
| Gabriel Moffat | drums, distressments, textures, decay, lead guitar, ambient loop |
| Phideaux Xavier | vocals, acoustic guitar, fuzz guitar, bass |
| Sam Fensler | bass |
| Mark Sherkus | organ, piano, mini moog, lead guitar, synthesizer, volume guitar |
| Naomi Uman | maniacal loff |
2004 年発表のアルバム「Ghost Story」。
1996 年から製作を開始するも仕上がりが悪かったために棚上げされていた作品に、「Fiendish」の発表を契機に再び取り組んで発表された。(したがって、ディスコグラフィ的には第一作となるらしい)
内容は、アコースティックな音を基調にした若々しいフォーク、オルナタティヴ・ロックである。
クセのある声のヴォーカルとヒネリのあるメロディ・ラインが印象的だ。
宗教的な厳かさややり切れない無常感も渦巻いている。
キーボードの音や、ファズ・ギターによるざらっとしたタッチ、ヴォーカルの電気処理などにいわゆる「アートロック、プログレらしさ」が見える。
ディープなプログレらしさを期待すると裏切られるかもしれないが、ドラマティックな展開はそこここに現れる。(オルガンはいい音で鳴っている!)
内省的な弾き語り風のパートは、60、70 年代のフォーク系の音のファンを魅了すると思う。
(ZYZ 1618)
| Ariel Farber | violin, vocals | Valerie Gracious | vocals |
| Rich Hutchins | drums, chant | Mathew Kennedy | bass, chant |
| Gabriel Moffat | guitars, lap steel | Molly Ruttan | vocals, percussion |
| Linda Ruttan Moldawsky | vocals | Mark Sherkus | keyboards, guitar |
| Johnny Unicorn | keyboards, saxophone, vocals, chant | Phideaux Xavier | acoustic guitar, electric 12 string, piano, vocals |
2009 年発表の第七作「Number Seven」。
男女混声のリード・ヴォーカル、アコースティックなサウンドとブリティッシュ・フォーク風のナイーヴさが特徴のオルタナティヴ・ロック。
三部構成の御伽噺大作を流れるようなタッチで描き切った力作である。
中心人物が R.E.M のファンであることは間違いなかろう。
フォーク、フォーク・ロック的な表現を基本にシンフォニックなキーボードや凝ったアンサンブルを組み込んだスタイルは、デビュー作と変わらないが、この作品では分かりやすいシンフォニック・プログレ・テイストが強まった。
シンセサイザーがギューンと高鳴るような場面が現れ、ギターのプレイはいわゆるロック・ギターらしいものになり、メロトロンも「ここ」というところで放たれる。
リズム・チェンジを組み込んだアンサンブルやサックス、シンセサイザー、ヴァイオリンのアクセントなど、長丁場を乗り切るしかけも充実している。
2 曲目や 3 曲目のようにエレピの 3 連をドラムスが激しく追い込みピアノが渦を巻く演奏なんて、往年のイタリアン・ロックに近い「コテコテ」のものである。
そして、序盤から物語を一気に広げてリスナーを引き込んでゆく勢いがすごい。
いくつかの主題を巡って決然たる演奏を繰り広げる第一部、これだけで本アルバムの力の入り具合が分かる。
とにかく、無常感にじむ叙情性やたたみかけるような攻撃性の文脈が明快であり、全体にプログレ・プロパーには受け入れやすくなっていると思う。
弾き語りに悟りの境地を織り込んで不器用に淡々と歌うスタイルに、PINK FLOYD の姿がだぶることもある。
また、第二部冒頭の弾き語りでは I.S.B や FAIRPORT CONVENTION を思わせる英国フォーク調の堂々とした名演を見せる。
この第二部は、トラッド調から YES ばりの躍動感あるシンフォニック・ロックへと発展する一大クライマックスである。
男女ツイン・ヴォーカルの威力も発揮されている。
そして、第三部ではベートーベンの交響曲を思わせる重厚な幕開けを経て、テクニカルな変拍子アンサンブルへと突っ込む。
この興奮は全盛期のイタリアン・ロックと寸分たがわぬと思ったら、なんと 14 曲目はイタリア語ヴォーカルであり、みごとに往年のイタリアン・プログレになっている。
テーマは、ぶったるんだ日常から脱却し、真の人生を歩むべく下界へ飛び出した「ヤマネ」の物語。
イラストによると、飛び出した世界で「パコ」に出てくるような「ザリガニ魔人」と戦うようだ。
衣食足りてしまうと怠惰な人間は目的を失って易々と日常という無限ループにはまってしまう、そこから飛び出して真の人生を歩むのだ、というメッセージなのかもしれないが、今更そんな紋切り型の寓話というのも疑問だし、そうなると裏の裏やら何やら深読みもしたくなる。
こんな風にうがってしまうのは、こちらに今のアメリカの病み方ではそんなにまともなメッセージを送れるはずがないという思いがあるからだろう。
僕にこんな風に思われてしまうなんて、ちょっと哀れじゃないか、アメリカも。
全体に語り口にはフォーク・ソング風の素朴さがあり、内省的で独特のたどたどしさすらある。
その一方で、音そのものからも、またフォト・コラージュによるジャケット、インナーからも、ナンセンスな薄気味悪さ(どう見ても「ヤマネ」ではなく、凶悪な「モグラ」である)やどうしようもない違和感が伝わってくる。
この不気味なすわりの悪さ、アンビバレンスは、このグループの本質的なところにつながっているように感じる。
本作品をテコに、ECHOLYN、SPOCK'S BEARD を継いで新時代のプログレの導き手となるか。期待してます。
(ZYZ 1007)