NUCLEUS

  イギリスのジャズロック・グループ「NUCLEUS」。 69 年トランペットのイアン・カーを中心に結成。 70 年代を通して活動する。 マイルス・デイヴィスの影響を受けつつも独自なセンスを貫いた、革命的な英国ジャズロックの筆頭グループ。 ロック・ファンのためのジャズ入門であり、ジャズ・ファンのための英国ロック入門である。 2009 年 2 月イアン・カー逝去。

 Elastic Rock

 
Ian Carr trumpet, flugelhorn
Karl Jenkins baritone sax, oboe, piano, electric piano
Brian Smith tenor & soprano sax, flute
Chris Speddingguitar
Jeff Clynebass, electric bass
John Marshalldrums, percussion

  70 年発表の第一作「Elastic Rock」。 トランペット、エレピ、ギターらによる静謐なアンサンブルを中心としたジャズロック・アルバム。 謎めいた静けさと神秘性が特徴であり、エレクトリック・サウンドを導入したマイルス・デイヴィスの音楽に強く影響された内容である。ユニークなのは、カール・ジェンキンズお得意の反復や、ジャジーだが武骨なギター表現など。 ベースもストレートな 12 小節のブルーズ進行がロックっぽさを訴えている。 また、ジョン・マーシャルによる重みと敏捷さを兼ね備えたドラミングも、ジャズ・アンサンブルにおいてはきわめて新鮮だったに違いない。 ホーンの二人のオーソドックスなプレイに比べて、ジェンキンズのオーボエは、音色もプレイもいわゆるジャズというよりも、クラシックのイメージが強い。
  サウンドの基調は、ジャズ的なホーンとロック的なギター、リズム・セクションのコンビネーションである。 一見穏やかでメロディアスに感じられるアンサンブルには、ヒリヒリするような緊張感と噴き出さんばかりのパッションが押し込められているようだ。 リフの上にホーンのロングトーンを幾重にも重ね合わせて肌理細かな色合いのグルーヴを生み出す演奏は、確かに電化マイルス風ではあるのだが、こちらには独特の陰影とタッチがある。 小品が多いアルバム構成は、実験的アプローチの成果をとりあえず提示しているのか、それともオムニバス調を狙ったと見るべきか。 個人的には、前者のような気がする。 仮に素材集だったとしても、これだけの瑞々しさと品格ある演奏はまれである。
  冒頭の爆発的なドラム・ソロとメロディアスなホーンの衝撃的なコントラスト。 そして呆然としているうちに始まるタイトル・ナンバーでは、ホーン、エレピ、ドラムのジャズ・トリオがギターの介入によって次第にロック調のノリを強めてゆく、ファンタスティックな瞬間に酔わされる。 プロデュースはピート・キング。

  「1916」(1:10)ドラムのエネルギッシュなソロに神秘的なホーンのユニゾンが重なるインパクトあるオープニング。 ジェンキンズ作。

  「Elastic Rock」(4:25)ホーンのハーモニーが織り成すテーマとエレピ伴奏のギター・ソロ。 ドラムは、スローだが生き生きした 8 ビートを刻む。 妖しくも涼やかで落ちついたテーマと、デリケートながらもロックな語り口のギターがすばらしい。 フェード・アウトがあまりに惜しい。 ジェンキンズ作。

  「Striation」(2:15)ベースのボウイングと即興風ギターのデュオ。 アコースティックな音。 クライン/スペディング作。

  「Taranaki」(1:41)つぶやくようなベース・リフが誘導するホーンのユニゾン・テーマ。 クールなモダン・ジャズの余韻。 暖かく響くエレピとギター。 スミス作。

  「Twisted Track」(5:12)4 曲目から続くメローなギターのリフ。 シンコペーションを用いたフォーク・タッチのレガートなリフだ。 ホーンが柔らかいハーモニーで追いかける。 トランペットとテナー・サックスのインタープレイを、ギターが静かに彩る。 モード特有の浮かび上がるような演奏は、次第に加熱する。 ギターもコード・ワークからボトル・ネックも用いたブルーズ・スケールで絡む。 ロックなギターとジャズなホーンによる絶妙のアンサンブルだ。 頂点を過ぎ、最後までギターのフレーズが静かに流れる。 Prestige のマイルス・デイヴィスからバート・バカラックまでを思わせるリリカルな名品である。 スペディング/ブラウン作。

  「Crude Blues(part 1)」(0:54) ジャジーな和音をかき鳴らすギターをバックに、雅なオーボエが歌う。 クラシカルにして透き通るような涼感のある、夢見るようなアンサンブルである。 カー/ジェンキンズ作。

  「Crude Blues(part 2)」(2:35)一転エネルギッシュなアンサンブル。 ホーンのユニゾンがファンキーなテーマで迫り、ギターが反応する。 R&B 調のテーマは抜群にカッコいい。 ソロの口火は、オーボエ。 前曲から一転、ジャジーに、テクニカルに走る。 演奏は、シャープな 8 ビートによる 12 小節のブルーズ進行である。 ギターは、バッキングながら、ブルーズ調のベンディング・フレーズを連発。 再びテーマ。 クールに醒めつつもファンキーにうねる。 大胆にしてデリカシーを保つファンクネス、個性的なオーボエ、荒削りなギターなど際どい魅力に満ちた名品だ。 カー作。

  「1916-The Battle of Boobaloo」(3:05) ベース、ギターによるブルージーにうねるリフが提示される。 シンコペーション、変拍子を用いたリフは独特の緊張感を保つ。 リフに乗って、ホーンのユニゾンがレガートに歌う。 伸びやかで優美なテーマである。 カノン風に追いかけ、重なり合うホーン・セクション。 リフとホーンがポリリズミックなモアレを成す。 ボトムは一貫して細かくビートを刻む。 いかにもジェンキンズらしい変拍子リフだ。 後期の SOFT MACHINE にホーンが加わった感じ。 名作。 ジェンキンズ作。

  「Torrid Zone」(8:52) リムショットが静かに導く明快な 8 ビート。 ギターによるブルーズ・ロック調の軽めのリフ。 サックス、トランペットのロングトーンのユニゾンによる、ややメランコリックなテーマ。
  ソロの最初は、トランペット。 わりとモダン・ジャズ調である。 リフをベースに任せてギターはアドホックに、時にかなりヘヴィな音も使って、トランペットの挑発に応じ、絡んでゆく。 バッキングはエレクトリック・ピアノ、この組み合わせになるとマイルスのイメージが強まる。 手数の多いドラミングもカッコいい。 高潮を経て、再びギター・リフとユニゾンのテーマに回帰し、小休止。
  続いてソロはサックス。 なかなか技巧的だが、なめらかで叙情的な印象のプレイである。 エレクトリック・ピアノがサックスによく反応する。 サックスは次第に加熱、コルトレーンばりのシーツ・サウンドも披露する。 最後はリフから緩やかなテーマを回想し、トランペットとサックスの小競り合いを経て終わる。
  トランペットとサックスのソロをフィーチュアした大作。 リフにテーマ、そしてソロという堅実なフォーマットによる作品である。 思いきりジャジーになった SOFT MACHINE であり、グルーヴはさほどでないが、ストイックな感じの整合感がある。 ジェンキンズ作。

  「Stonescape」(1:43) ドリーミーなエレピ伴奏によるトランペット・ソロ。 マイルス・デイヴィスそのもの。 コントラバスとともに静かにギターが重なる。 静けさのなかに懊悩があるような気がする。 ジェンキンズ作。

  「Earth Mother」(5:59)トランペットのフレーズが続いて、そのまま本曲へ。 ギターとベースが呟きフェード・アウト。 (本来ここは前曲に入るべきなのだろう。 CD のミス・カットではないだろうか)
  一転シンバルが刻まれ、ベースとギターによる 8 曲目のリフが再現。 オーボエ・ソロが始まる。 ベースのリフが変化すると、シンバルも細かく躍動的な動きを見せる。 オーボエの挑発に乗せられて、ギターも次第に動き出す。 長いオーボエ・ソロが終わるとギター・ソロ。 コードをかき鳴らし、ハマリングオン/プリングオフの連続で弦をひねり回す。 最後は明快なホーンのリフレイン。 緩くグルーヴィなリズムに支えられて、各プレイヤーが自由に歌う。 オーボエの音色は新鮮。 グループ作。

  「Speaking for Myself, Personally, In my Own Opinion, I think...」(1:30)そのまま続いてドラム・ソロ。 マーシャル作。

  「Persephones Jive」(2:12)ギターとテナー・サックスのインタープレイから、トランペットとサックス、さらにオーボエが加わってトリオ、ギターも復活してカルテット、とポリフォニックなアンサンブルが次々に変化し、最後は管楽器がユニゾンで走る。 スピード感あるシャープにして込み入った小品。 カー作。

(VERTIGO 6360-008 / LMCD 9.00688 O)

 We'll Talk About It Later

 
Ian Carr trumpet, flugelhorn
Karl Jenkins baritone sax, oboe, piano, Hohner Electra piano
Brian Smith tenor & soprano sax
Jeff Clynebass, electric bass
John Marshalldrums, percussion
Chris Speddingguitar, bouzouki

  70 年発表の第二作「We'll Talk About It Later」。 第一作の続編的なタッチをもつサウンドとともに楽曲が充実、大曲が出揃って音楽的な方向性への深い自信が感じられる傑作アルバムとなった。 後期 SOFT MACHINE でも花開くカール・ジェンキンズ色はすでに全開である。 前作に続き、またも派手なぶちかましを決めてくれるオープニング・ナンバーのリフは、後に SOFT MACHINE の「Bundles」の 1 曲目でも用いられる名品だ。 爆発力をもつシャープなリフとメロディアスなホーンのフレージングが噛み合ったところへエレピの幻想的な響きが加わることによって、完全に独自の世界ができあがった。 ライド・シンバルがカッコいいパワフルなドラムスによるうねり、粘るリズムも最高。 ファンキーさとともにクールな緊迫感を味わうべし。 プロデュースはピート・キング。

  「Song For The Bearded Lady」(7:22)ワイルドなリフでダイナミックに走るファンク・ジャズロックの傑作。 ソロはカーとスペディング。 トランペットのソロはかなりマイルス・デイヴィス。 スペディングはワウを用いた演奏。 マーシャルの重くてユルいドラミングを堪能すべし。

  「Sun Child」(5:16)ジェンキンズのオーボエ、ワウ・ギター、ベースがそっぽを向きつつも対話を繰り広げる。 エフェクトをもちいていると思われるオーボエの音はまさに SOFT MACHINE の「7」のもの。

  「Lullaby For A Lonely Child」(4:21)甘めのトーンのエレピ、ギター、トランペットによるムード・ミュージック。 ペットのテーマは、昭和 35 年頃数寄屋橋でタクシー拾ってるような気分になります。 後半ブズーギのトレモロや金属のパーカッションなどさまざまな音によるリリカルなアンサンブルもあり。

  「We'll Talk About It Later」(6:13)ギター、エレピの対話がトランペット、エレピ、ワウ・ギター、ワウ・サックスによる緊張感のある演奏へと発展する。 ギターはオーヴァーダビングされており重なり合って凶暴な表情を見せる。 不気味な迫力のミドル・テンポ・サイケ・ジャズロック。 冒頭のギターに KING CRIMSON の「Ladys Of The Road」を思い出す。 8 分の 6 拍子はみな CRIMSON に聴こえるのだ。

  「Oasis」(9:44)フリューゲル・ホーン、オーボエ、エレピによる幻想的なオープニング。 テンポが上がってからはホーンとサックスのユニゾンによるテーマが美しいクロスオーヴァー。 ソロはカーのフリューゲル・ホーン、ジェンキンズのオーボエ。 ベースが 1 曲目のリフを変奏する。 オーボエ・ソロへ移る直前の展開が奇妙。

  「Ballad of Joe Pimp」(3:45)いきなりファズ・ベースでびっくり。 おまけに曲調は民謡。 ヴォーカル・ナンバー。 サックス、ホーンのユニゾンは美しい。 スペディングのワウ・ギターのカッティングもすばらしい。 8 分の 4+6 の変拍子。

  「Easter 1916」(8:49) 1 曲目に似た変拍子ギター・リフ。 不気味なヴォイス、メロディアスなホーン、サックスが重なる。 たたみかけるようなせわしないリズムとゆったりしたメロディ・パートの不均衡。 ソロはブライアン・スミスのアルト・サックス。 ここまで我慢したせいか、かなりの勢いで迸ります。 ふと気づけばフリー・ジャズになっている。 サックス恐るべし。 サックス相手に一歩も引かぬドラムも傑物。

(VERTIGO 6360-027 / LMCD 9.00729 O)

 Solar Plexus

 
Ian Carr
Kenny Wheeler on 1,2,5,6 trumpet, flugelhorn
Harry Beckett on 3,4 trumpet, flugelhorn
Brian Smith tenor & soprano sax, flute
Tony Roberts tenor sax, bass clarinet
Karl Jenkins electric piano, baritone sax, oboe
Chris Spedding guitar
Jeff Clyne bass, double-bass
Ron Matthewson bass on 4
John Marshall drums, percussion
Chris Karan percussion
Keith Winter VCS3 synthesizer

  71 年発表の第三作「Solar Plexus」。 ミステリアスなシンセサイザーで幕を開けびっくり。 しかし内容は、管楽器のサポートを得てアンサンブルもソロも充実し、さらにきめの細かいグルーヴィなサウンドとなっている。 電化モードから一歩進んだ、ファンク・クロスオーヴァー一歩手前の、英国ならではのビッグ・バンド・ジャズロックである。 3 曲目のオーボエとダブル・ベースのデュオのような音は、絶対他では聴けないでしょう。 5 曲目のブライアン・スミスのソロやクリス・スペディングのコード・カッティングなど、ダンサブルな躍動感と一直線に突っ走るカッコよさの均衡は、たしかにジャズだけではできないような気がする。 アヴァンギャルドな感性を躍動させつつも、クラシカルなクールネスもあり。 イアン・カーは作曲とアレンジに携わり、演奏は行っていない模様。 ちなみに 1 曲目のシンセサイザーで二つのテーマを提示しており、他の作品はこのテーマのいずれかを発展させたものだそうだ。 プロデュースはピート・キング。 個人的には聴きやすさがうれしい傑作。

  「Elements I & II」謎めいたシンセサイザー・ソロ。

  「Changing Times」管楽器をフィーチュアしたファンキーで楽しげなジャズロック。 敏捷な切れ味よりは、太く重く武骨で男臭いところがいい。 それでいてロマンティックでリリカル。 イージーなラウンジ・テイストもほのかにあり。 ソロはテナー・サックス、フリューゲル・ホルン。 ウッド・ベース、ギターのコード・カッティングもカッコいい。 第一曲前半の主題を応用。

  「Bedrock Deadlock」オーボエ、ダブル・ベースのボウイングをフィーチュアしたオープニング。 室内楽的なムードにあふれる。 ギターとライド・シンバルが加わり、呪術的な色合いを増す。 メロディアスな管楽器のユニゾン・ラインが加わると、電化マイルスを彷彿させる演奏へと展開する。 反復されるテーマ・リフが、緩やかな演奏にも関わらず緊張感を持続させる。 第一曲後半の主題を応用。

  「Spirit Level」イントロは、エレピによる現代音楽的な無調旋律。 管楽器とベースのトリオによるアンサンブルを経てフリー・フォームの即興へ。 ソロはバス・クラリネット、ベース、フリューゲル・ホルン。 抽象的なフリー演奏が、管楽器のインタープレイによって、次第に有機的なアンサンブルとしてまとまってゆく。 ホルンの旋律へトランペットが重なってゆく後半の展開は、かなり感動的。 終盤ホルンのソロでは、ほとんど 60 年代マイルス風のモダン・ジャズと化す。 エンディングの稚気たっぷりのハリー・ベケットのプレイがみごと。 第一曲前半の現代的な主題を応用。 音響空間の間隙を強く意識させる独特の世界である。

  「Torso」ソロはソプラノ・サックス、ドラム。 センチメンタルなテーマとともに軽やかに走るファンキーなソウル・ジャズロック。 山下版ルパン三世です。 これはクラブ向けでしょう。 切なくも熱いソプラノ・サックス。 あまりに小気味いいギターのカッティング。 ドラム・ソロのままエンディングという荒業。 第一曲後半の主題を応用。 大傑作。

  「Snakehip's Dream」テナー・サックス、フリューゲル・ホルン。 全員バッキング。 うねるベース・リフとカントリー風のギターの和音とエレピの何気ない交歓の果てに、力強いサックスと柳腰のフリューゲル・ホルンのソロが訪れる。 反復を軸とした、SOFT MACHINE にも通じる硬派でアブストラクトな演奏が、次第に緩やかな歌になってゆく。 もう少しスリリングだとさらにカッコよかったような気がするが、この穏やかさもたしかに魅力である。 難しいところだ。 15 分にわたる大作。 第一曲の二つのテーマをともに応用。


(VERTIGO 6360-039)

 Belladonna

 
Ian Carr trumpet, flugelhorn
Brian Smith tenor & soprano sax, alto & bamboo flute
Dave Macrae Fender electric piano
Alan Holdsworthguitar
Roy Babbington bass
Clive Thacker drums
Gordon Beck Homer electric piano on 1,4,5,6
Trevor Tomkins percussion on 1,3,4

  72 年発表の作品「Belladonna」。 イアン・カーのソロ名義の作品。 ソロ名義となったのは、グループが解体状態にあったためと思われる。 (進歩的なミュージシャンにありがちではあるが、音楽的成功に金銭的成功が必ずしも伴わず、さらに健康上の理由もあってかなりの苦境にあったようだ) サキソフォニストのブライアン・スミス以外はほぼ新たな顔ぶれであり、結果的には、このメンバーで新生 NUCLEUS を結成することになる。 サウンド面でも、さらなるクロスオーヴァー化とヘヴィなサウンドの追求に拍車がかかっている。 新しい方向を定めて着実に進んでいるイメージである。 かようにさまざまの変化はあるのだが、カーを中心とした実験的ジャズロック・ユニットという点で、本アルバムは NUCLEUS の四作目といって差し支えないだろう。
  タイトル作は、管楽器とエレピをフィーチュアした充実のジャズロック大作。 サウンド・メイキングという点でマイルス・ディヴィスの「In A Silent Way」の流れにあるのかもしれないが、ユニゾン/ハーモニーを前面にしてシンプルなビートで明快な秩序を作り上げてゆくスタイルは、独特の運動性をもっている。 ドラマーのタッチがジョン・マーシャルによく似ているように思う。 ここでは、ホールズワースは、スペディングの代役をしっかり務めている。 2 曲目は、メローなエレピと管の調べがノスタルジックな感傷を湧きあがらせる佳品。 3 曲目は、ナイト・ミュージック風のアルト・フルートが美しい、これまた感傷的な序盤から、一気にホールズワースの超絶ギターとマクレエのエレピが爆発するエレクトリック・ジャズへと変貌する。 6 曲目は、豪快なソロが続くエキサイティングなナンバー。カッコいいです。 プロデュースはジョン・ハイズマン。

(VERTIGO 6360 -076 / BGOCD 566)

 Labyrinth

 
Ian Carr, Kenny Wheeler trumpet, flugelhorn
Norma Winstone vocals
Tony Coe bass clarinet, clarinet, tenor sax
Brian Smith tenor & soprano sax, flute
Dave MacRae fender electric piano
Gordon Beck hohner electric piano
Roy Babbington bass
Clive Thacker, Tony Levin drums
Trevor Tomkins percussion
Paddy Kingsland VCS3 synthesizer

  73 年発表の第五作「Labyrinth」。 メンバーの安定やその他の状況の改善から再びグループとして始動、そして本作にて、サウンドは、電化マイルスを受け継ぐクロスオーヴァーへと明解な変貌を遂げる。 前作からの管楽器の補充に加えて、初期メンバーの影響力、つまり、カール・ジェンキンス、クリス・スペディング、ジョン・マーシャルら、ジャズを異化する方向ではたらいたパワーの消失により、ダイナミックな 8 ビート、ファンキーなリフ及びコード・ワークなど荒削りでゴツゴツとしていた音の特性が、なめらかで陰影のあるエレクトリック・ジャズ・サウンドの中に、きれいにとけこんでいる。 スタイル的にも、スキャットによるヴォーカルやエレピの使い方などに、アメリカの「いとこ」たちの影響がはっきりとうかがえるのだ。 特に、ノーマ・ウィンストンのヴォカリーズは、ブラスのなめらかな感触とともに、サウンドにさらなる光沢と湿り気を加えている。 このテイストなら初期 RETURN TO FOREVER の英国版といっても差し支えないだろう。 イアン・カーの目論見であった、ジャズにダイナミックなビートを持ち込み新たなサウンドを引き出すという試みは、ここで一つの到達点へとたどりついたようだ。 空間を意識させる音のテクスチュアの美しさとパーカッシヴなビートのコンビネーションは、すでにさまざまの音を経てしまった現代から見ると、画一的で陳腐に思えるかもしれないが、理屈を越えたグルーヴ感があるのも確かである。 そしてよく聴けば、最終曲のような、いかにもクロスオーヴァー的な透明感のある音を使いながらも、ユニゾンのメロディ・ラインにミステリアスなパワーをもつという、このグループ独特のおもしろ味もある。 アヴァンギャルドなセンスをスタイリッシュにまとめた佳作といえるでしょう。 プロデュースはイアン・カーとロジャー・ウェイク。

  「Origins」(2:57)アヴァンギャルドかつ衝撃的なイントロダクション。 クラリネットをきっかけに、独特のウネウネ感のあるファンキーにしてメランコリックなテーマが提示される。 ハープのようなエレピのさざめき。 さえずるような即興の断片が散らばり、ドラムの乱れ打ちが波乱を予感させる。

  「Bull-Dance」(8:17) 追いかけあうベース・ラインと凝ったテーマ。 ノーマ・ウィンストンのスキャットもあり。 メロディアスにして挑戦的な演奏だ。 エレクトリック・ピアノはエフェクトされたホーナーとストレートなローズのコンビネーション。 4+3 拍子のリフの上で管楽器のインタープレイが続いてゆく。 いったん全体演奏は収まるも、カーのトランペット独奏に呼び覚まされるように、次第にリフが重なってゆく。 エレピとトランペットの応酬は、まさしくエレクトリック・マイルス。 テーマへと回帰し、スリリングな演奏が続く。 モダン・ジャズのもつスリルをたっぷりと応用したジャズロックだ。

  「Ariadne」(7:48)オープニングはゴードン・ベックによる夢見るようなエレピ・ソロ。 リズムを呼び出すコード弾きに痺れる。 ウィンストンによるヴォーカルにフローラ・ピュリムを思い出さざるをえない。 そよ風のようなフルートもあり。 吸い込むようなハイハットもいい感じだ。 セカンド・コーラスのオブリガートはクラリネット。 秘めやかな官能よりも、抑制された陰翳に味のある佳品。

  「Arena」(6:52)LP では両面にまたがっていたと思われる。 即興風のオープニングからフェード・アウト/フェード・インの後「Origins」の変拍子のテーマが再現し B 面のスタートを暗示する。 抑えたテーマの下で次々と遊爆するような演奏が続く。 マーシャル独特の豪快なドラミング。 終盤は再び即興の海へと沈む。

  「Exultation」(6:03)ファンキーなホーン(4 管か)のテーマが冴えるモダン・ジャズ調のナンバー。 二作目の 1 曲目をほうふつさせる。 デジョネットのようなドラムの上で走るデイヴ・マックレエのローズ・ソロがカッコいい。 終盤はドラム・ソロ。

  「Naxos」(12:23)ベースの示すスローなテーマを軸にエレピ、サックス、クラリネット、ヴォイスが寄り添ってゆくミステリアスなオープニング。 口ずさめないテーマがいかにも「らしい」。 4 分過ぎ辺りからホーンのリードするメロディアスな演奏となる。 再びリフそしてトランペット(フリューゲル・ホーンか?)とソプラノ・サックスのインタープレイが続く。 8 分過ぎから再びリフが前面に出て、ヴォイス、ホーンのロングトーンらが絡み合うミステリアスな演奏となる。

(VERTIGO 6360-091 / KTCM-1159)

 Roots

 
Ian Carr trumpet
Brian Smith tenor & soprano sax, flute, bamboo flute
Dave MacRae electric piano, acoustic piano
Jocelyn Pitchen guitars
Roger Sutton bass
Clive Thacker drums
Aureo De Souza percussion, drums on 2
Joy Yates vocals

  73 年発表の第六作「Roots」。 SOFT MACHINE でも活動するロイ・バビングトンに代わって、元 RIFF RAFF のリズム・セクション、ロジャー・サットンとオレオ・ド・サウザが加入する。 内容は、前作をなめらかに聴きやすくするとともに、大胆にヘヴィな音も使った骨太なジャズロックである。 神秘性よりもグルーヴだが決してノリ一辺倒ではなく緩やかな叙情性があり、またスペクトルの逆側には、驚くばかりにゴツゴツとした手触りの音や幻想的(プログレ的といってもいい)な音も用意されている。 中途半端なのかもしれないが、品格を失わずに心地よさとスリルを実現する音には、他ではなかなかお目にかかれない。 クレジットによれば、タイトル曲の「Roots」は 40 分あまりの大作の短縮版であり、また、「Caliban」は四楽章から成る「Ban, Ban, Caliban」の第三楽章とのこと。 なお、ヴォーカリストのジョイ・イェーツはデイヴ・マックレエと同じくニュージーランド出身のミュージシャン。

  「Roots」(9:22) 翳りあるブルージーなリフの上でトランペットをフィーチュアしたミドル・テンポのビッグバンド風ジャズロック。 モダン・ジャズ的なスリルと洗練されたエレクトリック・サウンドがマッチした、完成度のあるキラー・チューンだ。 ほどよい抑制、もしくはやや偏屈。 オブリガートするエレクトリック・ピアノ、ギターもいいスパイスとなっている。 緩やかな斜面を登りつめた果ての最高潮では、Zappa のビッグバンドに近い味わいも。 カー作。

  「Images」(4:53) イェーツの魅惑のアルト・ヴォイスによるジャズ・ヴォーカルもの。ヘレン・メリルやジュリー・クリスティを思い出します。 メジャー 7th コードのなんとも暖かい響きが印象的。 ヴォーカルをなぞり追いかけるクールなフルートもいい。 カー作。

  「Caliban」(4:32) いかにも NUCLEUS らしい、捻くりながらも腰が据わっていて、なおかつスタイリッシュなリフで突き進む作品。 クライヴ・タッカーのドラミングがシュアーかつトリッキーでカッコいいのだが、この曲だとジョン・マーシャルの打撃も似合いそう。 ギターが分厚いホーンの裏で爆発し続ける。 コンガだろうか、パーカッションもカッコいい。 リフ一発な曲は当り外れが大きいですが、これは当り。 カー作。

  「Whapatiti」(3:23) キャッチーでスピード感のある「ジャズらしい」ジャズロック。ラテン調の火の出るようなリズムに煽られて、ソロ・パートが熱い。 ソロは、スミスのテナー、マックレエのエレピ。 RETURN TO FOREVER ほどにはキレがない辺りが個性です。 サウザのパーカッションから SUN TREADER のモーリス・パートへの連想も。 スミス作。

  「Capricorn」(4:00)スミス作。

  「Odokamona」(3:25)スミス作。

  「Southern Roots And Celebration」(7:43)マックレエ作。

(VERTIGO 6360-100 / BGOCD 567)

 Under The Sun

 
Ian Carr trumpet, flugelhorn
Bob Bertles alto & baritone sax, bass clarinet, flute
Gordon Beck electric piano, percussion
Geoff Castle electric piano, synthesizer
Jocelyn Pitchen guitars
Ken Shaw guitar
Roger Sutton bass
Bryan Spring drums, percussion, timpani
Kerian White voice on 2

  74 年発表の第七作「Under The Sun」。 ファンキーなフュージョンに至る寸前の薄暗いリリシズムとロマンチシズムがすばらしい傑作アルバム。 本作の特徴は、名手ロジャー・サットン、ブライアン・スプリングによる、下品なまでに演奏を煽るリズム・セクション。 2 曲目「The Addison Trip」は笑っちゃうくらいすごい、違った意味での元祖ドラムンベース。 そして、カー、ブライアン・スミスに代わったボブ・バートルズの二管のバトルとゴードン・ベックのエレクトリック・ピアノ。 華やかな組曲主題 I「Sarsaparilla」では、ベックがチック・コリアもぶっ飛ぶプレイを放ち、それに引っ張られて演奏もハイ・テンションで突き進む。 全体に英国らしい R&B タッチを持ち、エレクトリックな処理も堂に入ったジャズロックであり、3 曲目「Pastoral Graffiti」を聴いていると KING CRIMSON が一作目のメンバーのまま突き進んだらこうなったかもしれないと妄想する瞬間すらある。 WEATHER REPORT に何かが足りないと感じたら、本作でしょう。

(VERTIGO 6360-110 / BGOCD 568)

 Out Of The Long Dark

 
    
Ian Carr trumpet, amplified trumpet, flugelhorn, electric piano
Brian Smith tenor & soprano sax, flute, alto flute, pecussion
Geoff Castle fender rhodes electric piano, yamaha electric piano, synthesizer
Billy Kristian bass
Roger Sellers drums, percussion
guest:
Neil Ardley ARP Oddyssey, polyphonic synth
Richard Burgess percussion
Chris Fletcher percussion on 3

  79 年発表の第十一作「Out Of The Long Dark」。 内容は、マイルス・デイヴィス調のトランペットを軸に、管楽器やキーボードをフィーチュアしたクロスオーヴァー・サウンド。 テーマがメローに過ぎず、あくまで、ファンキーな力強さと角張ったリフ、さらにはブルージーな翳りと神秘的な広がりを持つ点が、いわゆるフュージョンや昨今のスムース・ジャズとは異なる。 ニール・アードレイのジャズロック作品をややモダン・ジャズ寄りにしたような音といってもいいかもしれない。 当時の STEELY DAN のようにゴージャスなポップ・タッチやアメリカのブラス・ロック、さらには、ソウル/ディスコ的な面もある。 しかし、きっちりしたリフが演奏をタイトに引き締め、雨ににじむネオンのようなシンセサイザーの呪文が独自の瞑想性を与えている。 サックスが甘目のプレイを見せる一方で、フルートはすでにニューエイジ風の域に入っていたりする。 後半 5 曲目から 8 曲目までは、とある彫刻家の作品からインスパイアされたものであり、サブタイトルに彫刻の作品名が入っている。 多彩な作風を個性的なスタイルで貫いた、英国フュージョンの堂々たる代表作品である。 プロデュースはグループとジョン・ディクソン。 後年明らかになったが、本作のタイトルは、カーの神経症からの全快の意味を含ませたのだそうだ。
  
  1 曲目「Gone With The Weed」のテーマは「Labyrinth」の 1、4 曲目のテーマをテンポ・アップしたもの。
  
  2 曲目「Lady Bountiful」は、執拗な変拍子リフの上でメロディアスな管楽器ソロがフィーチュアされる力作。優美なソプラノ・サックスと典雅なピアノが印象的だ。やはり「Labyrinth」の作風に近いイメージである。ブルージーな揺らぎも見せる。終盤はカーのアンプリファイされたトランペット・ソロ。
  
  3 曲目「Solar Wind」は、RTF 直系のフュージョン・サウンド。陰影をもちながらも、軽やかに走ってカタルシス。パーカッションのセンスが冴える。スペイシーなシンセサイザー、トランペットもカッコよし。
  
  4 曲目「Selina」は、STEELY DAN 調のジャジーなアーバン・ポップス。モーダルなトランペット・ソロはマイルスなりきり。
  
  5 曲目「Out Of The Long Dark」はトランペット、フルート、ベース、キーボードがほの暗い空間で柔らかな対話を繰り広げる、きわめてニール・アードレイ的な名作。
  
  6 曲目「Sassy
  
  7 曲目「Simply This
  
  8 曲目「Black Ballad
  
  9 曲目「For Liam
   BGO からの CD はカーのソロ作品「Old Heartland」とのカップリング。こちら弦楽奏をステージに管楽器をフィーチュアしたモダン・ジャズというべき内容。美しいサウンド・トラック風である。

(CAPITOL 11916 / BGOCD 420)


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