NOVALIS

  ドイツのシンフォニック・ロック・グループ「NOVALIS」。 ハイノ・シュンゼルとユルゲン・ヴェンツェルを中心に、71 年ハンブルグにて結成。 73 年アルバム・デビュー。 メンバー交代を経つつ 70 年代を通して作品を発表し、85 年解散。 サウンドは、キーボード主体の「ヘヴィにしてメルヘンチックな」シンフォニック・ロック。 物憂い雰囲気と、洗練され切らないぎこちなさ、初々しさが特徴。 BRAIN レーベル。グループ名は、独自の理想主義的世界観を唱えた夭折の 18 世紀ドイツ・ロマン主義詩人。 2012 年 CAMEL ファンにもお薦めの佳作「Augenblicke」の CD が再発。

 Banished Bridge
 
Heino Schünzel bass
Jürgen Wenzel vocals, acoustic guitar
Lutz Rahn organ, piano, mellotron, synthesizer
Hartwig Biereichel drums, percussion

  73 年の第一作「Banished Bridge」。 キーボードを中心としたハードな演奏とフォーク的なアコースティック感覚が初々しいデビュー作。 ギターは、ヴォーカリストのヴェンツェルによるアコースティック・ギターのみであり、シンフォニックなサウンドの要は、キーボードが一手に引き受けている。 往時のサウンドにしては、ヘヴィに盛り上がる場面でも、演奏に直接的なブルーズやジャズの影響は感じられない。 ごく自然にクラシカルかつロマンティックな味わいを醸し出すところは、さすが、大陸独自の伝統なのだろう。 また、逞しき太鼓系のドラム・パーカッションや素朴なアコースティック・ギターに加えて、やや訛りのある英語のヴォーカルが、ジャーマン・ロックらしいエキゾチズムを感じさせる。 SE などもろに PINK FLOYD なところもあるのだが、クラシカルな味わいと素朴なフォーク・タッチ、サイケデリック感などをブレンドした果ての物憂く謎めいた雰囲気はきわめて独特である。 本作の持ち味は、この朴訥にして神秘的な雰囲気だろう。 まさに、ドイツならではのシンフォニック・ロック、という作風である。

  「Banished Bridge」(17:08)牧歌調ののどかさとともに、スペイシーな浮遊感と雄大な包容力をもつシンフォニック大作。 テンポよく突き進むシーンの勇壮な迫力と、オルガン、シンバル、SE、コーラスが生み出す幻想性のブレンドが魅力。 クライマックス直前/直後が延々と続き、やや冗長な気がしなくもないが、聴き込むと独特の酩酊感が味わえる。 オルガンとシンセサイザーは、積み重なるように鳴りっ放し。 ほのかなサイケデリック・テイストは、彼岸の音楽への接近を思わせる。 酩酊は安らかな死への憧れなのかもしれない。

  「High Evolution」(4:28)熱いインストと伸びやかなヴォーカル・コーラスによるバラード調シンフォニック・ロック。 FRUUPP あたりにも通じる遠慮なしの深いエコーのかかったヴォーカルや、オルガンの音などの垢抜けない田舎臭さがなんともいい。 アグレッシヴなオルガンとともにインストを引っぱるのは活発なベースの動き。 初期の DEEP PURPLE を思わせるところもあり、後半はかなり快調に突き進む。

  「Laughing」(9:10)二本のアコースティック・ギターのストロークが美しいフォーク・ソング風のオープニング。 控え目なパーカッションの音も気持ちいい。 スペイシーなドラム・ソロを経て、シャープなリズムでオルガン、シンセサイザーが突き進む。 そして、ブルージーなオルガン・ソロ。 クラシックへも揺れつつ走るオルガンとベースとの絡みがカッコいい。 リズムの消失とともにオルガンが響き渡り、アコースティック・ギターのストロークとうねるようなリズムが戻る。 再び、ブルージーなオルガンがヴォーカルを彩る。 最後もオルガンがたたみかけ、見得を切って終わる。 ドラマのある大作。 リリカルなフォークから始まり、ハードなインストを経て、最後はエネルギッシュなヴォーカル・アンサンブルを成す。 オープニングのアコースティック・ギターと、多彩なフレーズを繰り出すオルガンがすばらしい。 ブリティッシュ・ロックに通じるメランコリーがある。

  「Inside Of Me(Inside Of You)」(6:39)クラシカルな高揚感のある PROCOL HARUM 風シンフォニック・ロック。 やはり、オルガンとドラマチックなドラムスがおり成す、力強いアンサンブルが魅力。 バロック・トランペット系のムーグに守り立てられるヴォーカルも熱い。 最初から最後まで、クライマックスの連続である。 エンディングは、さらにもう一盛り上がりあるかと思った。

(BRAIN 1029 / PMS 7050-WP)

 Novalis
 
Hartwig Biereichel drums
Detlef Job guitar, vocals
Carlo Karges guitar, keyboards
Lutz Rahn synthesizer, keyboards
Heino Schünzel bass, vocals

  75 年の第二作「Novalis」。 ヴォーカリスト、ユルゲン・ヴェンツェルが脱退、またギタリストのデトレフ・ヨブとカルロス・カルゲを迎えてインストゥルメンタル・パートを充実させた。 ハードロック調のややブルージーなギターは、おそらくこの新メンバーによるものだろう。 クラシカルなオルガン・ロックを基調としながらもさまざまな工夫がある。 それは、詩人ノヴァリスによる詩を歌詞として採用する、ブルックナーのシンフォニーの主題を展開する、ジャズ風の演奏を試みるなどである。 さまざまなアイデアによって音楽の幅を広げ、新しい段階へ進もうとする気概が感じられる作品だ。 かなり垢抜けない演奏やあまりに素っ頓狂な展開は、こういった試みが若干の勇み足となったせいか、または消化され切らないことが原因なのだろう。 それでも、暖かみあるクラシカル・サウンドと、ナイーヴといっていいほどストレートな展開は十分魅力的である。 シンプルなモチーフをうまく組み合わせて大作を盛り上げていく技もなかなかだ。 英国ものとの違いは、原始性といっていいほどの極端な素朴さ、呪術めいた土着のイメージである。 ロマンティックなロックやクラシカルなロックのファンにお薦め。 ヴォーカルはドイツ語。

  「Sonnengeflecht」(4:08) シンセサイザーとギターによるエレクトリック・サウンドを強調したシンフォニック・インストゥルメンタル。 冒頭、いかにも野暮ったいシンセサイザーのリフにがっくりするのだが、ギターの出現辺りから、なんとか慣れてくる。 メタリックなオスティナートは、ややよれたトニー・バンクス風。 シンセサイザーとワウ・ギターは、かなりヘヴィな音である。 ピアノによる細かい和音のストロークの後のギター・ソロやピアノ・ソロには、ジャジーな雰囲気もある。 それでも、この曲の主役は、ノイジーなシンセサイザーだろう。 クラヴィネットのリズミカルなリフをバックに、ギターが快調にソロに突入するものの、すぐにテンポがくずれてしまう。 そして、再びオープニングと同じシンセサイザー主導のリズミカルなアンサンブルへ進む。 改めて聴くと、フレーズは、それなりにクラシカルであることが分かる。 テーマがなんとも垢抜けないのだが、エレクトリック・ピアノやシンセサイザーを用いた新たなサウンドを模索中なのだろう。 エレクトリックにして武骨、そして、巧まずしてこっけいなシンフォニック小品。 ジャケットのファンタジックなイメージとは、あまりにかけ離れている。

  「Wer Schmetterlinge lachen hört」(9:16) 教会風のオルガンと CAMEL 風のエモーショナルなギターがフィーチュアされた、クラシカル・ロック大作。 歌メロとオルガンは PROCOL HARUM を思わせる正調クラシック路線。 歌曲風ですらある。 フォーク・タッチのギター伴奏も美しい。 ヴォーカルを支えるリズムも多彩。 また、間奏部では、オルガンとギターによるドラマチックな演奏から、シンセサイザーとヴァイオリン奏法ギターそしてファルセットのヴォカリーズによるファンタジックな演奏へと進む。 ここの雰囲気はかなりいい。 アナログ・シンセサイザーの変調音がたたみかけ、緊迫感は増すばかりだ。 後半は、ギターのリードで勇ましい歩みを見せ、ロカビリーなノリまで披露。 オルガンが 3 連でたたみかける場面は、DEEP PURPLE に似る。 終盤は、チャーチ・オルガンの荘厳な演奏にマーチング・スネアがオーヴァーラップし、劇的に幕を引く。 全体に正攻法であり、ていねいに進む格調高いシンフォニック・ロックである。 泣きのメロディと重厚なサウンドがよくマッチしている。 ミドル・テンポのため、リズムの甘さが見えてしまうのが難点。

  「Dronsz」(4:53) オルガンのロングトーンが、位相を変えつつ揺らぎながら流れてゆく、ミステリアスなイントロダクション。 テープの速度を落としたようなヴォイスによるモノローグ。 ゆっくりとベースがビートを刻み始めると、オルガンとともに電子音も切れ切れに漂う。 可聴域を大きく上下し、ポルタメントするシンセサイザー。 オルガンは変わらず揺らぎながら流れている。 単調なリズム。 つぶやくようなギター。 ノイズ。 ドラムスをきっかけに、ノイジーなシンセサイザーがテーマを提示する。 シンセサイザーとベースのユニゾンが、淡々とテーマを繰り返す。 さらに歪んだ音のエレピが重なる。 オルガンは、いつの間にか 6 連のクラシカルなリフレイン。 あまりに唐突な終わり。
  POPOL VUH の後期や CAN を思わせる、シンプルな反復ビートによるインストゥルメンタル。 エレクトリックなノイズがささくれ立つも、全体に甘めである。 酩酊するにはリズムが丸っこすぎる。

  「Impressionen」(8:57)ダークなオルガンの旋律が湧き上がり、ハイハットと重厚なベースがボレロ風のリフレインを叩きつける。 原始的、土着的なイメージが強いが重く悲劇的なオープニングだ。 一転、スリリングなギターのリードで、アンサンブルは鮮やかに走りだす。 CAMEL を思わせるみごとな展開だ。 一瞬のクライマックスを経て、落ちついたテンポでシンフォニックな演奏が始まる。 オルガンのリフレインとともに、ストリング・アンサンブルによる重厚なテーマ(ブルックナーらしい)が、静々と盛り上る。 そして、ブルージーなギターが受ける。 再びブルックナーのテーマからややテンポを上げ、シンセサイザーはノイジーな音で左右のチャネルを駆け巡る。 オルガンのオスティナート。 小刻みにシンバルを用いる手数の多いドラムスは僕の好みです。 ドラムスがボレロ風に戻ると、三度オルガン、ストリングス・アンサンブルによるシンフォニックなテーマへ。 うねるように歌上げるギターは、うっすらとワウも用いて広がりをつける。 またもブルックナーのテーマ。 続いて、ギターがテーマをなめらかな音色で変奏する。 クラシカルなオルガンが受け継ぐ。 再びブルージーなギター・ソロ、そしてリズムはストップ。 哀しげなチャーチ・オルガンのソロを経て、リズムが復活し、オルガンとシンセサイザーによる演奏へ。 そのままチャーチ・オルガンのソロとヘヴィな演奏を繰り返しつつ、最後には重厚なボレロへとまとまって、勇壮なエンディングを迎える。 クラシック然とした和音のピッチがぐっと上がって、吸い込まれるように消えてゆく辺りは、もはや様式美の世界。 淡々としながらも圧力をもって迫る演奏が心地よい、シンフォニック・ロック・インストゥルメンタル。 緩急の変化やテーマの繰り返しなど、シンプルながらも効果的である。 特に、すっと走り出す瞬間の演奏がいい。 キーボード中心のクラシカルな曲調に、ブルージーにしてメロディアスなギターのアクセントがいい感じだ。

  「Es färbte sich die Wiese grün」(8:18) オルガンによる愛らしいリフレインとアコースティック・ギターのアルペジオ、そしてメロトロンに支えられ、ヴォーカルが静かに詩を歌い上げる。 そして、前曲と同じようなシンセサイザーの重低音をバックにした、ブルージーなギター。 続いて、生音に近いギターが、少しユーモラスなリズムとともにソロを繰り広げる。 クラヴィネットのソロ、ギターのオブリガート、ジャジーなエレピのソロ。 再び、練習曲風のユーモラスなピアノのリフレイン。 ハードロック風のエモーショナルなギターも加わる。 ギターとリズムが消えると、オープニングのオルガンのリフレインがフェード・イン、アコースティック・ギターとともに、ヴォーカルはトラッド風のメロディを歌いだす。 リズムが戻り、ノイジーなシンセサイザーのテーマ。 枯れ果てたメロトロンの響き。 続いてハードロック風ギター・ソロが泣く。 エンディングは、一転長調の和音を轟かせるシンフォニー風のもの。 ギターのピッキング・ポルタメント。 クラシカルなキーボードとハードロック・ギターを中心に、フォーキーなヴォーカル・パートから長い間奏を旅して戻ってくる作品。 間奏前半には、珍しくジャズ風の演奏まである。 さまざまなスタイルに変化しつつも、しっかり曲想があるようで流れは自然。 リズミカルにしてひょうきんなキーボードのリフは、1 曲目にも通じる。 歌詞は、詩人ノヴァリスの詩に基づくらしい。

(BRAIN 1070 / PMS 7063-WP)

 Sommerabend
 
Detlef Job guitar, vocals
Lutz Rahn keyboards
Heino Schünzel bass, vocals
Hartwig Biereichel drums

  76 年の第三作「Sommerabend」。 ギター/キーボード担当のカルゲが脱退し、四人構成に戻る。 内容は、三つの大作から構成される、濃厚なロマンチシズムあふれる素朴なシンフォニック・ロック。 不器用ながらも、眠りを誘うようにおだやかでメランコリックな幻想作であり、サウンドとメロディが絶妙の均衡を見せる。 クラシカルなオルガンとヘヴィなギターのコンビネーションが、力強い流れを(やや強引ながらも)作り、ストリングス・シンセサイザー、メロトロンの神秘の響きと丹念なビートが、すべてを薄暮の宇宙へと浮かび上がらせる。 技術的には、実直としか誉めようがないが、クラシカルなフレーズを丹念にまとめており、素直なリリシズムが宗教的な高揚にまで高まってゆく。 さらに、リズム・パターンの変化による展開の係り結びが実に明快であり、納得がゆく。 いい曲であることとテクニカルであること必ずしも一致せず、の典型だ。 そして、2 曲目の冒頭に現れるアコースティックなヴォーカル・アンサンブルこそが、このグループのサウンドの本質ではないだろうか。 また、この時代のグループ、特にドイツのシンフォニック系のグループとして、当然ながら、ハードロック的なニュアンスも強い。 全編、降り注ぐようなストリングス・シンセサイザー、メロトロンが印象的です。 反復の多い演奏なのだが、きめこまかく音を散りばめつつもためらいなく突き進む姿勢が、好結果を生んでいると思う。
   ヴォーカルはドイツ語。 プロデュースは、プロデュースは、アヒム・ライヒェル。

  「Aufbruch」(9:37) オルガンとギターによるハードかつメロディアスな演奏に、シンセサイザー、電子音による浮遊感を大胆に加味したシンフォニックなインストゥルメンタル。 冒頭、ポリリズム気味の演奏はややぎこちないが、1:50 付近のギターによるテーマ辺りから、なめらかに動き出す。 5 分付近では思い切ったハモンド・オルガン・ソロも。 重たい CAMEL

  「Wunderschätze」(10:41) アコースティック・ギターの minor アルペジオがさざめく「泣き」のヴォーカル・パートにメロトロンが湧き上がる、感動のロック・シンフォニー。 間奏におけるクラシカルでアタックの強いオルガンと、メロディアスなギターによるエモーショナルなアンサンブルがいい。 ノってくると、ドラムスのせわしなさからお里が知れるというか、DEEP PURPLE が透けて見える瞬間も多い。 終盤の演奏には鋭さがあり、盛り上がる。 歌詞は詩人ノヴァリスの作品に基づく。 ギターのアルペジオとメロトロン、哀愁のヴォーカルの三位一体には、KING CRIMSON の「Epitaph」のイメージもある。 繰り返しが多いが、シーケンスごとに微妙な変化があるために、飽きるということはない。

  「Sommerabend」(18:19) シンセサイザーとメロトロンのハーモニーが朗々と響き渡る、優美なシンフォニー。 第一章は、湧き上がるストリングスをバックに、ムーグ・シンセサイザー(トーン調節したオルガンかもしれない)のテーマが切々と流れる、哀しげな物語の幕開けである。 第二章「Am Strand」にて、アコースティック・ギターがアルペジオを奏で、ヴォーカルが入ってくるところは、またも、おセンチな「Epitaph」といった趣である。 その後のアンサンブルでも、重厚/荘厳なムードは初期 KING CRIMSON と共通する。 第五章「Ein neuer Tag」は、一転してシンセサイザーが迸り、ギターとオルガンが走るロックンロール。 そして、最終章「Ins Licht」は、再び厳かなヴォーカル・パート。 オルガンが高らかに鳴り響き、ドラムスはドラマチックな打撃で盛り上げる。 シンセサイザーの奏でるテーマはアコースティック・ギターに吸い込まれ、再びオープニングと同じメロトロンとシンセサイザーによるスペイシーなアンサンブルへと旅立つ。 朝日に映える山々を眺望するかのような、感動的な終章である。


  初期英国プログレの荘厳な神秘性や叙情性を、ドイツらしい素朴さで包んだシンフォニック・ロックの大傑作。 曲の成り立ちがシンプルで展開が明快であり、そのために感情移入しやすく、なおかつ、長く楽しむことができる。 器楽のバランスとしては、キーボードが中心であり、メロトロン、ムーグ・シンセサイザー、オルガンらによる「雰囲気」作りが、作品のイメージを決めているといえるだろう。 そして、シンフォニックで悠然とした調子が主であるにもかかわらず、メロディは、意外なまでに純朴である。 思い切ってフォーク風といってもいいだろう。 思いの丈を誠実に切々と訴えてゆくところに本作最大の魅力があり、これを臭過ぎといってしまっては何も始まらない。 もっとも、巷の名盤としての評価は、主としてメロトロンの多用に帰せられるようにも思うが。
(BRAIN 1087 / PMS 7079-WP)

 Brandung
 
Detlef Job guitar, vocals
Heino Schünzel bass, vocals
Lutz Rahn hammond organ, PPG-synthesizer, clavinet, mellotron, flugel, electric piano, string ensemble
Fred Mühlböck vocals, acoustic guitar, flute
Hartwig Biereichel drums, percussion

  77 年の第五作「Brandung」。 ヴォーカル専任のフレッド・ミルボックをメンバーに迎える。 そして、ラジオ放送向けを目指した、よりメロディアスでキャッチーな面を強調した作風へと変化した。 哀愁ある甘美で彼岸的なロマンを基調とするところに変わりはないが、音そのものは、時代の移り変わりとともに、ヘヴィで武骨なオルガン・ロックから洗練されたものになっている。 ポピュラー音楽の宿命であり、自然に時代にフィットできるのも優れたミュージシャンの一資質のようだ。 変化は、快調きわまる 1 曲目のオープニングに明らかである。 しかしながら、これだけキャッチーになっても、おっとり優しげでほのかにメランコリックなメロディやヴォーカルの格調ある陰翳は失われていない。 むしろ、そこがすごいというべきだろう。 旧 B 面を占めるのは、AOR 調も交えたロマンティックな大作組曲。 キャッチーな表現もあるのだが、それ以上に、オルガン、フルート、ピアノ、歌メロにあふれかえる詩的なムードが、いかにもドイツのグループらしい。 おそらく何度か耳にするうちに、素朴で暖かいサウンドが以前と同じ具合で染みてくることに気がつくはずだ。 自然な流れと明快な展開が特徴の好作品である。 かなり売れたそうです。
   ヴォーカルはドイツ語。プロデュースは、アヒム・ライヒェル。 タイトルは「砕ける波」という意味らしい。美しいジャケットは英国の装飾画家ウォルター・クレインの「Horses Of Neptune」。

  「Irgendwo, Irgendwann」(4:38)毎度一曲目で驚かされる。前々作とはほぼ別人状態。 シンセサイザーとギターのリードで宇宙を快速で突っ切ってゆくロックンロール。 メイン・パートの「泣き」で「ああ、やはり NOVALIS か」とようやく一呼吸できる。

  「Wenn Nicht Mehr Zahlen Und Figuren」(3:05) アコースティック・ギターのアルペジオとエレピのさざめきが支える哀愁のバラード。 ヴォーカル・ハーモニーがどこまでも切ない。

  「Astralis」(8:54) しなやかなギターのオブリガートがカッコいい CAMEL 風の作品。 ソウルっぽいオープニングを経て、スペイシーなキーボードと朗々たるヴォーカルをフィーチュアしたシンフォニックな曲調をひとたび広げて、キャッチーなメイン・パートへと展開する。 リードするのは思い切りのいいヴォーカリストの歌唱、そしてギターが支えとなる。 クラヴィネットとベースの粘っこいアンサンブルをブリッジにクランチなギター(調子に乗ったときのジョン・リーズ風の名演)がひた走り、オルガンが迸る。 高揚し切った独走から、一転厳かなピアノ・ソロ、沈んだバラードへと落とす呼吸もみごと。 エンディングもソウル風。

  「Sonnenwende」「夏至」
    「Brandung」(3:41)エレポップ風のリズムながら、メロトロンとフルートがひらひらと舞い踊るクラシカルなインストゥルメンタル小品。ギターはなぜか THE BEACH BOYS 風。クラヴィネット再び。ピアノ、ストリングスも参戦し、シンフォニックに結末へ向かう。「砕ける波」

    「Feuer Bricht In Die Zeit」(3:49)シティ・ポップス風のエレクトリック・ピアノのライトなコード・ストローク、ヴォーカルも若干 AOR 風か。「時の中で燃える炎」

    「Sonnenfinsternis」(3:01)オルガン、シンセサイザーをフィーチュアした、深いエコーにたゆとうクラシカルなバラード。「日蝕」

    「Dammerung」(5:42)PROCOL HARUM 風の重厚でシンフォニックなバラード。 微妙な転調とともに表情を変えつつ、坦々と歌いこむ。無常な、幻想的な余韻を残す。「黄昏」

(BRAIN 0060.094 / PMS 7069-WP)

 Vielleicht Bist Du Ein Clown ?
 
Detlef Job electric & acoustic guitars, vocals
Fred Mühlböck vocals, electric & acoustic & 12 string guitars, flute
Lutz Rahn Hammond H-100, electric & acoustic piano, stringensemble, Mellotron, PPG synthesizer, D 6 clavinet
Hartwig Biereichel drums, percussion
Heino Schünzel bass, vocals

  78 年の第六作「Vielleicht Bist Du Ein Clown ?」。 70 年代終盤風のシティ・ポップス風味とこのグループらしいハードでロマンティックなスタイルが非常にうまくマッチした傑作アルバムである。 楽曲、器楽、ヴォーカルは充実し、YES のようなポジティヴで変化に富む歌ものシンフォニック・チューンに加えて、2 曲のインストゥルメンタルも含んでいる。 ロマンチシズムがそのまま甘めのサウンドとつながってしまうと、その場の味わいは格別でも後で胸焼けがするのだが(前作はややそういう感あり)、本作では、武骨な叙情性が同時代的な垢抜けたサウンドでうまく薄められている。 意図したものかどうかは分からないが、耳への馴染みやすさ、聴きやすさという点で、とても効果的だと思う。 演奏の安定感やエレクトリックなサウンド・メイキングも一流のポップロック・グループのようだ。 また、タイトル曲含め、同時代の CAMEL の作風を取り入れることで流行との折り合いをうまく付けているように感じられるが、こちらの根っこには、ブルージーな泣きのハードロック・スタイルに加えて、より思いつめた生真面目さや真剣さがある。 洒脱でおどけた感じなど、合い通じるものはあっても、ロマンチシズムの根底にあるものの質は英国ロックとは異なるようだ。 ヴォーカルは英語とドイツ語。 遅れてきたプログレッシヴ・ロックの佳作というイメージです。

  「Der Geigenspieler」(8:14)ダイナミックかつポジティヴでノリもいい YES 風シンフォニック・ロックの佳曲。「ヴァイオリン」
  「Zingaresca」(5:12)サラサーテ? インストゥルメンタル。ポコポコしたパーカッションはドイツ・ロックならでは。
  「Manchmal Fällt Der Regen」(3:50)キーボードのなめらかな 3 連符と西海岸風のギターが支える歌もの。「たまに雨降り」
  「Vielleicht Bin Ich Ein Clown ?」(6:22)「Rain Dances」の CAMEL を彷彿させるエレクトリック・ピアノのコード・ストロークが現れるも、やはりロマンティックな歌ものロック。 まったりした展開部のメロディはこのグループならでは。意外やトーキング・フルートが参戦。 「たぶん僕は道化師」
  「City-Nord」(6:07)シンセサイザーのエレクトリック・サウンドによるインダストリアルな演出でクールに迫るインストゥルメンタル。ギターも要所でブルージーに歌って引き締める。 「北の街」
  「Die Welt Wird Alt Und Wieder Jung」(4:30)ピアノ伴奏による厳かなバラード。後半の弦楽の音はチェロとメロトロンを併用か。 「世界は年老いてまた若返る」

(BRAIN 0060.164 / SPV 49842 CD)

 Flossenengel
 
Lutz Rahn keyboards
Heino Schünzel bass, vocals
Fred Mühlböck guitars, vocals
Detlef Job guitars, vocals
Hartwig Biereichel drums, percussion

  79 年の第七作「Flossenengel」。 BRAIN レーベルから離れ、TELDEC 系の AHORN レーベルから発表された作品。 内容は、シャチの天使アトラントの旅を描いた、ファンタジックなコンセプト・アルバムである。 メルヘンチックなタイトル、コンセプトにもかかわらず、サウンドは安きに流れず、飛躍的に安定した演奏と巧みなアレンジによる完成度の高いものになっている。 CAMEL 的なリリシズムとポップ・センスに PINK FLOYD 的な音の奥行きをあわせもっており、語り口が非常にいい。 そして、ブルージーなハードロック的なマインドがいまだ旺盛なところが、おもしろい。 70 年代終盤のシンフォニック・ロック作品としては、屈指の出来映えだろう。 まろやかなシンセサイザーの歌声が耳に残る。 邦題は「凍てついた天使」。

  「Atlanto」(4:38)
  「Im Brunnen Der Erde」(4:29)
  「Brennende Freiheit」(2:22)
  「Im Netz」(8:08)
  「Flossenengel」(3:27)
  「Walzer Fur Einen Verlorenen Traum」(3:28)
  「Sklavenzoo」(5:06)
  「Alle Wollen Leben」(5:07)
  「Ruckkehr」(5:22)
  「Ob Tier, Ob Mensch, Ob Baum」(3:01)

(6.23980, AHORN 1.007 / K22P-157)

 Augenblicke
 
Detlef Job guitars, vocals
Fred Mühlböck guitars, vocals, flute, vibraphone
Heino Schünzel bass
Lutz Rahn keyboards, computer
Hartwig Biereichel drums, percussion

  80 年の第八作「Augenblicke」。 CAMEL 風のしなやかでほのかに哀しいポップス調を極めた佳作。 ギターのキレはよく、キーボードもカラフル。 素朴な優美さを失わないまま、サウンド・メイキングや製作が成熟してきている。 バラード調の作品もアップテンポの作品も本家 CAMEL 真っ青の充実度合いだ。 特に、リズミカルな作品でも上すべりせず品がよく、熱いエモーションをしっかりと伝えてくるところがいい。 何はともあれ、洋の東西を問わず 70 年代末にポップスやロックを聴いていた方にはかなり懐かしい音のはず。 最終曲からは、第一作から一貫する美意識が感じられる。

  「Danmark」(3:32)キーボード主導のインストゥルメンタル。

  「Ich Hab' Noch Nicht Gelernt Zu Lieben」(3:31)かなりポップなタッチの作品だが、厚みのある音作りでバンドらしいグルーヴを生んでいる。

  「Cassandra」(3:27)ギターが活躍するインストゥルメンタル。元気なフルートも現れる。3 連の調子のよさが活きている。

  「Herbstwind」(4:48)哀愁のバラード。 70 年代初期と変わらぬ作風である。哀愁を湛えながらもオプティミスティックな響きがあり、詩人ノヴァリスの描く世界「Blaue Blumen」に近いイメージ。

  「Mit Den Zugvögeln」(3:16)水晶のきらめきのようにきらびやかな幻想世界の BGM。インストゥルメンタル。 スペイシーな演出を効かせているが、ピアノ、アコースティック・ギターなどアコースティックな音を主役にしている。

  「Sphinx」(3:26)アンディ・ラティマーばりのエレクトリック・ギターがしなやかに歌う。 幻想的なイメージなのだが底辺にはブルーズ・フィーリングがある。そこがいい。シンセサイザーは、控えめながらもギターと渡り合っている。 インストゥルメンタル。

  「Als Kleiner Junge」(5:17)ロマンティックなバラード。いいしれぬ無常感と諦念、それらとは裏腹な切迫感。 少年時代を振り返っているせいか、ややアダルトな味わいも。伴奏はピアノ、フルートの間奏も哀しい。中盤にはお約束の泣きのギターが。名作。

  「Magie Einer Nacht」(3:56)80 年代の到来を告げるアップ・テンポのポップ・チューン。 ギターとオルガンの音に 70 年代を経てきたプライドを感じる。「I Can See Your House From Here」に入っていても違和感なし。

  「Begegnungen」(4:47)やさしくノスタルジックなバラード。夕暮れの一時のように、ふと涙がこぼれそうになる作品である。 ギターの緩やかなアルペジオと透き通るストリングスの響き、そして、ヴォーカルをなぞる手回しオルガン風のキーボードがすてきだ。

(6.24529, 1.015 / MIG 00662 CD)


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