MUSEO ROSENBACH

  イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「MUSEO ROSENBACH」。 72 年結成。 73 年解散。 解散後、ドラマーは MATER BAZAR に参加。 2000 年再編及び新譜発表。

 Zarathustra
 
Giancarlo Golzi drums, timpani, vocals
Alberto Moreno bass, piano
Enzo Merogno guitar, vocals
Pit Corradi mellotron, organ, vibraphone, electric piano
Stefano "LUPO" Galfi lead vocals
Angelo Vaggi mini Moog

  73 年発表の唯一作「Zarathustra」。 ニーチェの超人思想哲学を体現したツァラトゥストラの名をそのままタイトルとする本作は、その主題の重厚さを、そのまま音楽で表現した、熱気とインテリジェンスあふれる傑作である。 オルガン、メロトロンを駆使した重みのある演奏は、荒々しくもきわめて正統的なイメージのシンフォニック・ロックである。 狂おしき獣性、輝かしき知性、厳かな叙情性、宗教的様式美をすべて備えたサウンドは、IL BALLETTO DI BRONZOBANCO に勝るとも劣らない完成度を誇る。 ヘヴィな音にメロディアスな表情があり、ことさらアヴァンギャルドな演奏が強調されるイタリアン・ロックにおいては、バランス感覚という点で突出している。 叙情性と荒々しさが様式として矛盾なく存在するところは、そのまま現代における HR/HM に通じ、おそらくは、ロックの本来的な性質の一つなのだろう。 ともあれ、本作は、クラシカルでヘヴィなサウンドとエモーショナルなメロディを的確なサウンド・メイキングで結びつけた、イタリアン・プログレッシヴ・ロック屈指の名作である。 リコルディ・レーベル。

  旧 A 面を占めるのは五部構成の「Zarathustra(ツァラトゥストラ組曲)」。
  組曲 1 曲目「L'ultimo uomo(最初の男)」(3:57)。 「最初の男」とはツァラトゥストラ自身を指すのだろうか。 消え入りそうなメロトロン・フルートの調べに雷鳴のようなティンパニがかぶさる、叙事詩的雄大さをもつオープニング。 ギターによる静かな伴奏で、エコーに埋まったメイン・ヴォーカルが始まる。 チェロのような音もメロトロンであろう。 オルガン、エレピが静かにヴォーカル・メロディを繰り返す間奏。 2 コーラス目では、ヴォーカルが前面に出て、伸びやかに歌う。 いわゆる「泣き」のメロディである。 激しいドラム・フィルをきっかけに、メロトロンとギター、オルガンのハーモニーが、重々しく高らかにテーマを奏でる。 「クリムゾン・キングの宮殿」を思わせる重厚かつ力強いオープニング・チューン。 もうコテコテのハード・シンフォニック・ロックである。 テーマとヴォーカルには、重々しい厳しさとともに、濃密な情感が宿る。 イントロの枯れ果てたフルートなど、随所でメロトロンが効果的に使われる。

  組曲 2 曲目「Il re di ieri(昨日の王)」(3:12) 前曲の力強い演奏から、一転して、オルガンの調べとともに点描風のエレピと静かにたゆとい、やがてメロトロンによる幻想的な演奏へと移ってゆく。 オルガンは、古式ゆかしい弦楽奏の如く整然と流れる。 厳かに和音を刻むピアノは、前期ロマン派調。 そして、メロトロン・フルートがストリングスをバックに静かに流れ続ける。 エフェクトににじむエレピのアルペジオ。 ムーグによる低音が湧き上がり、空気はやや重く沈みはじめる。 ベースのアルペジオが重なる。 メロトロン・フルートとともに歌い出すヴォーカルは、まるで祈りのようだ。 湧き上がる安らかなオルガン、ティンパニ。 オクターヴでささやくギター。 キーボードを駆使した幻想的な緩徐楽章。 端正な音を刻むピアノと重厚な調べを奏でるムーグ・シンセサイザー。 厳かな響きのなかに、幼児期への回想のような暖かい郷愁あり。

  組曲 3 曲目「Al di la del bene e del male(善悪の彼方に)」(4:09) 凶暴なギターに導かれて、アップ・テンポの演奏がスタート。 オルガンとギターのリードによる二声のアンサンブルである。 ヴォーカルも力強い。 曲調は完全にハードロックなのだが、メロディアスなヴォーカルとストレートに突き進むビートの均整がうまく取れているため、荒々しいイメージが少ない。 ポップスとして、完成されている。 間奏では、メロトロンのストリングスが鳴り響くが、前面はけたたましいギターである。 スピード感を生むシンバルの連打。 音量が落ちると、やや沈み込んだ空気へと変化し、静かなギターとオルガンが緩やかに流れてゆく。 ブレイク。
  しかし、一気にヘヴィなギターが高まり、牙をむくようなオルガンとのインタープレイへ。 粘りつくようなオルガンとうねるようなリズム。 重苦しくハードな演奏だ。 続いて、OSANNA 風の呪術的なハーモニー。 激しく打ち鳴らされるドラムス、かみつくようなオルガン、そして荒々しく猛るヴォーカル。 しかし、吼えても声質のおかげで崩れない。 オルガンのオブリガートが絡みつく。 どこまでもヘヴィで邪悪な演奏だ。 メロトロンの音が、激しい流れを呑み込むようにおだやかに響き始める。 それでも、あくまでヘヴィに牙をむくギターとオルガン。 ドラムスの乱れ打ち。 迫力満点のヘヴィ・ロック。 オルガンとギターによるパーカッシヴかつ攻撃的な演奏に、うねるようなメロトロンが、息を呑むほど鮮烈なアクセントをつける。 軽やかさの残るオープニングから、毒気のあるヘヴィな曲調へと移ってゆく芸の細かさ。 ドラムスの力量も感じさせる。 HM の元祖的な演奏でしょう。

  組曲 4 曲目「Superuomo(超人)」(1:22) 前曲のけたたましさから急転直下、夢想的な曲調へ。 オルガンの余韻がまだ耳に残る。 トーン・コントロールした点描風のオルガンとギターのアルペジオによる、白昼夢風の演奏。 ヴォーカルだけは、抑えていても力強い。 ヴォーカルの決めに合わせて、ドラムスが入ってくる。 しかし伴奏は、穏やかなまま。 こらえきれないように、ヴォーカルがシャウトし、激しいドラムスが戻ってくる。 巻き舌のヴォーカルとともに、ギターとオルガンも沸騰するが、なぜか瞬く間にフェード・アウト。 再び、静かな演奏で「転」を意図したと思われる小編。 しかしクライマックスは迫り、激しさを抑え切れない。 唐突なフェード・アウトは、この時期のイタリアン・ロックにしばしば見られる編集である。 ミスなのか故意なのかが、にわかには分からない。 こういった大胆極まる演出が「あり」だった時代なのだ。

  組曲 5 曲目「Il tempio delle clessidre(砂時計の宮殿)」(8:02) 再び、前曲の静かなギターのアルペジオと、オルガンのテーマが回顧されるようにフェード・イン。 そして、ヘヴィな決め。 オルガンとギターによるハーモニー。 リズムはマーチ風に変化し、オルガンとベースによるボレロのようなリフレインが繰り返される。 ギターに刺激されて、転調、整然とした歩調を強める行進。 そして、すべてを束ね従えるような傲然たる行進を打ち破るのも、ヘヴィなギターと猛る狂うオルガンである。 叩きつけるようなリフにドラムスが応戦。 続いて、オルガンとメロトロンが、重厚にしてロマンあふれるテーマを高らかに歌い上げる。 ムーグも加わり、分厚いメロディが響き渡る。 やかましいスネアのフィルが耳につく。 オルガンをきっかけに、せわしない 8 分の 5 拍子へと変化、ギターとオルガンが音量を変化させつつコール・レスポンスを繰り返す。 ギターのリードで激しくせめぎあう演奏は、インタープレイからユニゾンへとまとまってゆく。 せわしなく変化する曲調が攻撃的なムードを高める。 巨象が倒れ込むような重々しいリタルダンド。 ティンパニが轟く。
  ここで、ドラムスとベースによるブリッジ風の密やかな演奏。 再び、オルガンとギターが立ち上がり、ヘヴィなテーマが提示される。 直前のベースのテーマへとアンサンブルはまとまり、けたたましくも安定感のある演奏が続く。
  ふとリズムが止み、静寂が訪れる。 メロトロンが、夢を思い返すような哀しげな音色でゆったりと響き渡ってゆく。 枯れ果てたメロトロンとともに、遂に 1 曲目の厳かなテーマが回想される。 重厚なメロトロンの演奏にフリーなギター・ソロが絡みついてゆく。 ドラマをふりかえるように、荘厳にして哀愁あふれるテーマが、悠然と繰返される。 ドラム・フィルは、あくまでドラマチック。 長い坂を降りてゆくようなフェード・アウト。 ヘヴィな即興アンサンブルを次々と積み重ね、最後に主題へと回帰するドラマチックな終曲。 中盤までは、オルガンとギターによる絨毯爆撃的なインタープレイが楽しめる。 ドラムスも巻き込んだ激しいプレイの応酬は、クライマックスに相応しい。 そして、予定調和の極致ともいえる問答無用の主題の回想。 「Epitaph」のハードロック的解釈であり、強引さ、泣きのメロディ、クラシカルなアンサンブルなど、すべての点においてイタリアン・ヘヴィ・シンフォニック・ロックを代表する傑作である。 メロトロン・ハードロックの最右翼。

  2 曲目「Degli Uomini(女について)」(4:05) メロトロン・ストリングスによる強い哀感と不安を帯びた旋律。 ミステリアスかつ哀しい音であり KING CRIMSON の「Starless」を思わせる音だ。 しかし頭ごなしに否定するかの如く、唐突にワイルドなギターが飛び込んでくる。 激しくも安定したギャロップ風のドラミングとギター・リフから、メロトロンも高まりを見せ、一気に泣きのギターのリードする演奏へ。 突発的なテンポアップや、リズム変化がめまぐるしい。
  一転、リズムが軽快に変化し、華やかなベース・ランニングとともに、明朗なオルガンとギターによる演奏が始まる。 古典派クラシックを思わせるアンサンブルだ。 小気味よいオルガンとギターによる勇壮な演奏である。 ここで現れるヴォーカルは、かなりのシャウト。 演奏も激しさを増す。 一転、ヴォリュームが落ち、ギターのコード・ストロークとメロトロンのおだやかな伴奏に、ヴォーカルも落ちつきを取り戻して歌いだす。 しかし唐突なフェード・アウト。 エッという感じ。
  破天荒な展開を持つクラシカルなハードロック。 オープニングの「静」から過激な「動」への変化で、聴くものを翻弄する。 また、「動」のなかでも突発的にリズム・テンポが変化し、落ちつかせてはくれない。 中盤の勇壮でリズミカルな「駆け足」風の演奏は、ロッシーニの序曲あたりを意識しているのだろうか。 エンディングもイタリアものにしばしばある唐突なもの。 なかなか馴染むのがむずかしい。

  3 曲目「Della Natura(自然)」(8:29) オルガンのリードによる、リズミカルにして無調風の挑戦的なアンサンブルからスタート。 ギターも呼吸よく反応する、ファンキーな演奏だ。 ドラムスは、オルガンにぴったり寄り添うジャジーな手数勝負。 シンバル・ワークが丁寧だ。 バックでメロトロン・ストリングスが湧きあがる。 ワイルドに吼えるオルガンとギター。 鮮やかにユニゾンを決める。 ジャム・セッション風のカッコいい演奏だ。
   リズム・ブレイクから静かなオルガン、メロトロンをバックにメロディアスな詠唱が始まる。 朗々たるヴォーカルを追いかけて、繰り返しからドラムスが復活。 歌メロは、正調イタリアン・オペラ風の情熱的で端正なものである。 間奏は、ギターとオルガンがハモるせわしない演奏。 ハードロックとジャズ、現代音楽の中間くらいのニュアンスである。 ときおりメロトロンが高鳴る。 セカンド・ヴァースも伸びやかなヴォーカルがリード。 目まぐるしい演奏は、一気にメロトロンとオルガンのゆったりとした演奏へと吸い込まれるが、すぐに再び怪しげなアンサンブルが動き出す。 7 拍子の演奏は、やはりギターとオルガンがリフでリードする。 5 拍子へも変化してたたみかける。 ややジャジーな調子へ変わったかと思う間もなく、再びメイン・ヴォーカル。 続く 3 度目の間奏は、エレピがゆらぐミステリアスなもの。 ドラムスは変わらず元気だ。 ジャズというにはドラムスが武骨過ぎるのだが、ジャズロック調といっていいだろう。 男臭く強烈なスキャットが湧きあがる。 再び、謎めいたエレピ、ギター、エネルギッシュなドラムスによる演奏が続く。 ブレイク・ビーツ風といってもいいだろう。 またも R&B 調のスキャット。 メロトロンが伴奏するところがすごい。 オルガンとメロトロンが挑戦的なフレーズを繰り出し、再びオルガン、ギターによる目まぐるしい演奏になる。
  ところが、一転オルガンがゆったりと流れ出し、切々たるヴォーカル・パートへ。 力強くアーシーな歌にあくまでクラシカルなオルガンが重なる。 そしてヴォーカルを追いかけてギター・ソロ。 オルガンとメロトロンが滔々と流れてゆく。 3 連フィルを叩き込むドラムス。 フェード・アウト。
  ジャジーでテクニカルなオムニバス風のヘヴィ・ロック。 クラシカルな演奏に、ファンクなジャズロック調の音/演奏も交えた野心作だろう。 ヴォーカルもソウルフルであり、R&B テイストが強い。 泣きのメロディやシンフォニックなキーボード・アンサンブルもあるのだが、それ以上に、細かい技とジャジーなプレイが目立つ。 ヴォリュームやテンポ/曲調の過激な変化、そして即興的なプレイが、ふんだんに盛り込まれている。 IL BALLETTO DI BRONZO に迫る秀作であり、音楽的なバックグラウンドの広さと演奏力を見せつける内容だ。

  4 曲目「Dell'eterno Ritorno(永遠の回帰)」(6:20) 飛び跳ねるようなムーグの電子音によるリフレインに、いきなりヘヴィなギターとオルガンが轟くヘヴィなオープニング。 轟音はギターの余韻とともに一気に去り、ギターのアルペジオ伴奏でメロトロン・フルートによる哀愁のテーマが流れ出す。 再びギターとともに力強く立ち上がる演奏、そして、オルガン、ギターのユニゾンでしなやかなテーマ後半が奏でられる。 パワフルなヴォーカルと追いかけるようなオルガン、ギターのオブリガートがカッコいい。 ドラムスはほとんど乱れ打ち。 サビは、どこまでも伸びやかな歌、そしてギターが吼えるワイルドな間奏は、必殺のオルガンが締める。 繰り返しの後の間奏はクラシカルなオルガン、ギターによるスリリングなもの。
  再び、静けさとともにメロトロン・フルートがたゆたい、ヴォーカルとともに演奏は盛り上がってゆく。 そして必殺の間奏、ところが意外にもテンポは落ち、オルガンが勇ましくも寂しげに流れてゆく。 ドラムスが加わって行進曲となるも、歩みはどこか憂鬱である。 竪琴のようなギター、吼えるヴォーカル、切々たるオルガン。 クラシカルなギターのフレーズは、いかにもヨーロッパのロックである。 ムーグによるなめらかなテーマをはさみ、演奏は次第に高まりソウルフルなヴォーカルを支える。 オルガン、ギターの必殺フレーズがここで再現、強引に幕を引くと、最後はメロトロン・ストリングスとムーグが轟々と高まる。
  オペラ風のクラシカルなテーマと、情熱的な演奏がマッチしたブリティッシュ・ハードロック風の名曲。 劇的なテーマを受けるスケルツォ風のギターのフレーズ、クールな表情をもつヴォーカルのテーマ、そして叩きつけるようなオルガンの決めのフレーズなど、とにかくカッコいいフレーズが満載。 ギターとオルガンのやりとりも、凶暴なようでいて、よく聴けば、やはりクラシカルな係り結びがある。 燃え盛る情熱のままに放った音は、邪悪な表情と切なく無垢な表情を矛盾なく備えている。 得意の目まぐるしい展開も、テーマとなるメロディがすばらしいだけに、ナチュラルに聴こえるからすごい。 自由奔放な演奏を支えるリズムもみごと。 イタリアン・ロック屈指の名曲でしょう。


  パワフルなキーボード・オーケストレーションを駆使した、エネルギッシュかつ交響曲的高揚を持つヘヴィ・ロックの傑作。 キーボードがアンサンブルをリードする、これでもかと音が詰め込まれた典型的な「プログレ」スタイルであり、ファンには演奏/曲ともに長く楽しめるものだ。 そして、テーマとなる旋律には、ロマンティックといっていい濃密な情感がある。 演奏は、ギターとオルガンのコンビネーションによるハードロック調のヘヴィなプレイに、メロトロンの雄大な響きと伸びやかなヴォーカルが絡んでゆくスタイル。 特に、管楽器から弦楽器まで多様な音色を持つメロトロンが、リリカルな場面からハードな場面にわたり、効果的に配されている。 シンフォニックな曲調は、主にこのメロトロンによるものだ。 ゲストによるムーグの音もアクセントとして活かされいる。 また、全体にラウドなサウンドを背負って立っているのは、表情豊かな演奏をするドラムだろう。 パワフルで手数の多いプレイが、演奏全体の重心とエネルギー源となっている。 この時期のイタリアン・ロックにしては音もうまく録られている。
  ブリティッシュ・ロックに通じる、洗練されたハードネスと濃厚なエモーションを持つハッタリ無しの名盤。
(SMRL 6113 / KICP 2710)


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