MONA LISA

  フランスのプログレッシヴ・ロック・グループ「MONA LISA」。 67 年オルレアンにて結成。 73 年ドミニク・ル・ギュネが加入、翌年 ARCANE(CRYPTO)レーベルからアルバム・デビュー。 五枚の作品を残す。 79 年解散。 ANGE に続くフレンチ・ロック・テアトルの代表。 エキセントリックなヴォーカルが強引にリードするドラマチックな展開と、テクニックを超越する思い込みの激しさが特徴。



 L'Escapade

 
Jean-Luc MARTIN bass
Christian GALLAS electric guitar, violin
Francis POULET drums, percussions, vocals
Jean-Paul PIERSON keyboards, guitar, vocals
Gilles SOLVES electric & acoustinc guitar
Dominique LE GUENNEC lead vocals, flutes, sax, percussion

  74 年発表の第一作「L'Escapade」。 素朴なクラシカル・テイストと原色サイケの酩酊感を兼ね備えた、フレンチ・ロック・テアトルの佳作である。 演劇風のヴォーカリストは、フルートも奏で、力みかえった歌唱で紅涙を最後の一滴まで絞り取らんと力みかえる。 ギター、ベース、キーボード、すべてに 74 年とは思えぬ強烈な音処理がされているところも、おもしろい。 エコーやファズは、おそらく 60 年代のものである。 音割れもあるようなので、単に製作が行き届かなかったのかもしれない。 もっとも、アンプの生音に近い音でかき鳴らされるギターやオルガンには、昨今のデジタル・サウンドにはない骨太さがあるように思う。 ベースがギター並にリフで演奏をリードして目立つところも GENESISANGE 系だ。 また、二人のギタリストが、それぞれ、クラシカルでアコースティックな演奏とエレクトリックな演奏を分担しているのも特徴だろう。 全体に、作曲も含めて、非現実感、夢想といった雰囲気作りのための堅実なシナリオが、きちんと整備されている気がする。 通常、R&B、ブルーズといったスタイルの消化で終わらずに、こういう音を生み出すには、演奏力とアイデアのタイミングのいい結びつきが必要である。 この作品では、それがいい線まで行っているように思う。(アルバム・デビュー以前のキャリアもかなりのものらしく、したがって、演奏そのものの水準は高い) それにしても、業突張りの実業家であるイアン・アンダーソンが「Aqualung」のジャケットみたいな格好で歌ってもリアリティがないが、こっちは、なんとなく本当に生活に困っているようなイメージが漂うから大したものである。 こういうのをアングラ臭というのだろうか。 サイケ・オルガン系、ANGEJETHRO TULL が好きな方は、試す価値あり。 なんとか、いい状態の音源から再ミックス、マスタリングしてほしいものです。 プロデュースは ANGE のギタリスト、ジャン・ミシェル・ブレゾヴァル。

  「Prelude A L'escapade(脱出の序曲)」(2:10)アコースティック・ギターを主役にフルート、オルガンが支えるバロック調のアンサンブル。素朴な響きがいい。

  「Le Fantome De Galashiels(ガラシエルスの幽霊)」(6:38) ギター、オルガン、ベースらによるねっとりとした演奏に、童謡風のフレンチ・ヴォイスが重なる、ANGE 風の作品。 サイケ調のかなり古めかしい音のギターとキーボードが、意外な味わいを生む。 ギターのアルペジオとフルートによるリリカルなシーンから、爆発的な絶叫までドラマチックに進む。

  「Voyage Vers L'infini(無限への航海)」(3:42)短いながら雰囲気、テンポがめまぐるしく変転する力作。 力強い疾走が印象的。 哀願調のヴォーカルが、不思議といやみに感じられないのは、嘘のない生活感が漂うからだろうか。

  「Les Vielles Pierres(手回し琴のピエール)」(8:13)短い断章が積み重ねられたオムニバス大作。 イントロのオルゴール(「エリーゼのために」)が印象的。

  「Le Colporteur(行商人)」(8:12) タイトル通り、行商人の笛の音が流れる序章から一気にハードロックへと突っ込み、力強い疾走を見せる力作。 もちろん、決して全編同じ調子では進まず、緩急の変化を巧みにつけている。 ブレゾヴァルには及ばないながらも、泣きのギターが活躍。 メイン・ヴォーカル・パートは、オルガンが 3 連パターンで駆り立てる。 オルガンとアコースティック・ギター、フルートのアンサンブルによるクラシカルなブリッジがいい感じだ。 「The Knife」的な名曲です。

  「Petit Homme De La Terre(地球の小さな人間)」(12:04) 2 曲目同様、強烈に ANGE なヴォーカルをフィーチュアし、ミステリアスな全体演奏を次々と繰り出す大作。 幻想的なオルガン、フルートとドラムスのやりとり、サックスなどが積み重なった勢いのある全体演奏と、ぐっと抑えた情感あふれるプレイを交差させて物語を綴っている。 やはり、しっかりとした曲想があって、それを音で描いてゆくという手法を誠実に実行しているというイメージだ。 ロックのカッコよさの幅を広げたという点で、自信を持ってプログレというべきアプローチだと思う。

以下は、アルバム・デビュー以前の 73 年に録音され、未発表となっていたもの。アルバム収録作と遜色ない力作である。
  「Diableries(神秘劇)」(8:49)ボーナス・トラック
  「Les Vielles Pierres」(5:35)ボーナス・トラック

(MUSEA FGBG 4032.AR)

 Grimaces

 
Dominique LE GUENNEC lead vocals, flutes, sax, percussion
Jean-Paul PIERSON keyboards, vocals
Christian GALLAS guitar, vocals
Jean-Luc MARTIN bass, vocals
Francis POULET drums, percussions, vocals

  75 年発表の第二作「Grimaces」。 ギタリストが脱退し 5 人編成となる。 内容は、大袈裟に芝居がかった表情のヴォーカルと、シンプルながらも堅実な演奏のバランスがとれた好作品。 ド派手なヴォーカルと対比すると「おとなしい小楽団」といった趣きのアンサンブルに感じられるが、場面作りのうまさはなかなかのものだ。 ヴォーカルは前作に比べ、歌唱/表情ともに格段と進歩、ほとんどの曲で強力に前面に出てきている。 レトロな音を交えて、ノスタルジックな芝居小屋風の雰囲気を出すのにも成功している。

  1曲目「La mauvaise reputation(悪評)」(3:29)は、早くもヴォーカルが全開のナンバー。 ハケット風のギターが微笑ましい。 チャイルディッシュな演奏もおもしろい。
  2曲目「Brume(霧)」(4:59)もメランコリックだが、力強いヴォーカルを軸にタイトなリズムとともにシンセサイザーとフルートがしなやかに流れ、ギターがビシっと決めてゆく作風。 インストゥルメンタルが充実している。 重厚なコーラスも珍しい。 最後のシンセサイザーのオスティナートは 「Salmacis」風か。
  3曲目「Conplainte pour un narcisse(ナルシスへの哀歌)」(4:22)は、アクセントの強いビートでヴォーカルが、チャップリンのように歌いまくるヴォードヴィル調のナンバー。 ピアノのリードで走る場末の酒場のジャズ・バンドのような演奏が、一転シンフォニックに切り換わる。 これはなかなか見事。 後半、変質者か酔漢のようなモノローグを見せるヴォーカルの芸風は、きわめて落語や志村けんに近い。
  4曲目「Le jardin des illusions(幻の庭園)」(6:33)は、一転してスピードとドライヴ感のあるシンフォニックな作品。 しなやかなギター、ベースの強調された重厚なアンサンブルが、マーチング・ドラムとともに凱旋軍のように歩み始める。 勇ましさと滑稽さは紙一重である。 後半もヴォーカルと演奏が煽動し合い、烈しい演奏が繰り広げられる。 ギターはかなりカッコいい。 GENESIS を研究したのかもしれない。 オルガン(メロトロン?)はノスタルジックないい音だ。 A 面のクライマックスである。

  5曲目「Accroche-toi et suis-moi」(6:09)は、オープニングのエレピのアルペジオとヴァイオリン奏法のギターが演奏力の向上を物語る。 この巧まざるレトロな音が、本作の特徴の一つだ。 ヴォーカルが入り、シンセサイザーとギターがリードするアンサンブルが動きだす。 ここはややもたつくものの、なかなか垢抜けている。 明暗をゆき交うヴォーカルの一人芝居も決まっている。 シンセサイザー、ベース、ギターのシンフォニックなハーモニーも美しい。 繊細さとヘヴィさがくるくると変化する名曲。

  6曲目「Au pays des grimaces(見せかけの国)」(6:09)では、ゲイブリエルばりの老人役に挑戦するドミニク。 軽快な演奏に切りかわるとヴォーカルも活気を取り戻し、伴奏が抑えられるとまるで百面相のような変化を見せる。 ヴォーカルとともに伴奏もリズム/テンポを過激に変化させる。 アヴァンギャルドだ。 ギターのフレーズにも狂気を感じる。 シンセサイザーとピアノの落ちついた伴奏で、再び新たな人格が現れるとエンディングである。 ヴォーカル七変化。 テンポよくたたみかける演奏はやはり GENESIS 風。

  7曲目「Maneges et chevaux de bois(森の牧場と馬)」(7:00)は、サーカスようなジングルと歓声、そして道化師のような笑い声で始まる。 にじんでしまったようなエレピの音が可愛らしい。 走ったり止まったり、SE をはさみながらヴォーカルが高らかに歌い続け、オルガンが鮮やかに伴奏する。 リズムレスのオルガン伴奏から次第にリズムが加わり、シンセサイザーによる可愛らしいメロディで行進曲が始まる。 パラノイアックに元気なヴォーカルとおもちゃの楽隊のようなアンサンブル。 最後は、本物の行進曲をバックに、ヴォーカルがにこやかに歌う。 なんとも無邪気なのだが、同時に不気味さもある怪作だ。

  8曲目「Maneges et chevaux de bois」(7:53)ライヴ録音。 ボーナス・トラック。 いかにも舞台映えしそうな、凄まじい迫力の演奏である。

  デビュー作のサイケ的な古臭さはなくなり、ヴォーカルも腕を上げている。 アンサンブルには、まとまりとともに、厚みと迫力が出てきた。 ベース、ギター、キーボード、それぞれにいい音を出しておりコンビネーションもいい。 やや不安定な部分もあるが、勢いがいい方向でカバーしている。 録音が今一つなのが残念。 個人的にイラスト風のジャケットが気に入っている。

(MUSEA FGBG 4119.AR)

 Le Petit Violin De Mr.Gregoire

 
Jean-Luc MARTIN bass, vocals
Pascal JORDAN electric & acoustic guitar
Francis POULET drums, percussions, vocals
Jean-Paul PIERSON piano, organ, synthesizer
Dominique LE GUENNEC lead vocals, flutes, synthesizer

  77 年発表の第三作「Le Petit Violin De Mr.Gregoire」。 ギターがパスカル・ジョルダンに交代。 絶頂期を迎えたグループによる本作は、次作とともに傑作の呼び声が高い。 アコースティック・ギターも操るギタリストを中心とした明解なプレイと、前作までのチャイルディッシュな戯画調を抑えたヴォーカルが見せる本格的なパフォーマンスのおかげで、聴きやすさが飛躍的にアップしている。 特徴的なのは、キュートなメロディ・ライン、怒鳴りたてるヴォーカルとともにズンズン突き進む演奏、意外にセンスのいいシンセサイザーのプレイなど。 ギターは、ハードロック調のプレイを見せるかと思えば、頼りなげにメロディを歌わせる(ハケット流を意識しているにちがいない)のも巧みな個性派。 ヴォーカルは、多彩な声色を用いるが、前作までがヘタウマを活かしていたとすると、今回は完全にオーセンティックな技巧を用いたプロフェッショナルなプレイといえる。 演奏は、決めにやや甘さはあるものの、緩急や静動の変化が自然になり、第一曲のようなクラシカルでなじみやすいテーマもいい味わいをもっている。 リズム・セクションのレベル・アップや、音色を活かしたていねいな演奏スタイルのおかげで、アンサンブルが一体になったときの澱みのない演奏はかなりのものだ。 これだけ演奏がよくなると、時おり見せるノスタルジックな音も効果的である。 ややチープなシンセサイザー、オルガンもさほど不自然には聴こえない。 シアトリカル・ロックであると同時にシンフォニック・ロックの王道をゆく佳作。 比べるとするとやはり ANGE なのだが、このグループはやや線が細く若々しい。
  タイトル・ナンバーは 3 部から成る組曲。 ベートーベン風からジャズまで多彩なピアノがリリカルに歌い、シンセサイザーによる透明感ある旋律が夢の中のような追いかけっこを繰り広げる。 シアトリカルなモノローグや哀愁のフルートの見せ場もある。 そして最終曲はメロトロンが奏でる古式ゆかしいエピローグ。 さらに各曲も鑑賞予定。

  「Le Chant des glaces」(4:30)愛らしいテーマをもつシンフォニック・ロック・インストゥルメンタル序曲。 初期の YES のような演奏だ。

  「Allons Z'enfants」(6:15)濃いヴォーカルが押し捲るハード・チューン。 荒々しいリズム、噛み付くようなヴォーカル、ハードロック調のギターを前面に出して突き進む。

  「Le publiphobe」(2:27)チャーチ・オルガンを伴奏にしたモノローグ。 サイレンのようなノイズ、愛らしいトライアングルがちりばめられる。説法のイメージ。

  「Solaris」(2:50)キュートなギターのテーマ、アコーディオンのようなキーボードが印象的なインスト小品。

  「Le petit violin de Mr Gregoire
    「La folie」(5:36)
    「De toute ma haine」(5:56)
    「Plus loin vers le ciel」(9:00)
  「La machine a theatre

(MUSEA FGBG 4009.AR)

 Avant Qu'il Ne Soit Trop Tard

 
Jean-Luc MARTIN bass
Pascal JORDAN electric & acoustic guitar, synthesizer
Francis POULET drums, percussions
Jean-Paul PIERSON piano, organ, synthesizer, polyphonic orchestra, Mellotron
Dominique LE GUENNEC lead vocals, flutes, percussion

  78 年発表の第四作「Avant Qu'il Ne Soit Trop Tard」。 耽美なサウンドと異常なまでの緊迫感が特徴の傑作となる。 ヴォーカリストは、あたかもプロの役者のような研ぎ澄まされた演技を見せ、器楽も、シンセサイザー(PULSAR にも似た耽美にして狂気をはらむサウンド作りに、シンセサイザーが果たしている役割は大きい)、ギターを中心に迫力が加わった。 この骨太な演奏が、悪夢の世界でもがき続けるヴォーカル・パフォーマンスを取り巻いて、怪しげな世界をダイナミックに表現している。 自由なリズムによる演劇パフォーマンス・パートと、きっちりアンサンブルを聴かせるパートのコントラストもくっきりしており、その効果は劇的である。 さらに、プロダクションも明快になっている。 場面ごとに、出るべき音がちゃんと前に出ている印象である。 間違いなく最高傑作でしょう。
  
  1 曲目「Avan Qu'il Ne Soit Trop Tard(限界世界)」(3:58) 凄まじい緊迫感をもつヴォーカル・パフォーマンスに圧倒される。 前半のインパクトが強烈なだけに、中盤からのリリカルな表情も活きてくる。
  
  2 曲目「La Peste(ペスト)」(6:54) シリアスなシンセサイザーが、不気味なムードを盛り上げる。
  
  ドラマチックな傑作である 3 曲目「Souvenirs De Naufrageurs(難船掠奪者の記憶)」(7:28)では、あまりに危うさに満ちた一人芝居とデリケートなアンサンブルの対比が怪奇なドラマを生む。 力とドラマに満ちた正統的なシンフォニック・ロックであり、重苦しさを振り払うように疾走する演奏のカッコよさは、GENESIS を凌ぐかもしれない。 テーマやギター・ソロはかなり ANGE に近い。 傑作。
  
  4 曲目「Tripot(庭球場)」(4:15)は、エネルギッシュにひた走る 7 拍子のアンサンブルによるハードな作品。
  
  印象的なイントロをもつ 5 曲目「Lena(レナ)」(5:23)は、デリケートな歌唱とアコースティックな伴奏が美しい前半から、シンセサイザーとフルートがリードする圧倒的なインストゥルメンタル・パートへと進んでゆく。 ラベルの「ボレロ」を思わせるクラシカルな舞曲調の演奏とせわしないリズムが渾然となり、煮えたぎってゆく。 エンディングのシンセサイザー・ソロがすばらしい。 傑作。
  
  6 曲目の組曲「Creature Sur La Steppe(大草原の上の生物)」(9:44)では、スペイシーなイントロからエンディングまでスケールの大きな演奏を見せる。 クラシカルなキーボード、荒々しく吼えるギター、正統的な歌唱、怪しすぎる電子音、すべてが冴えわたり、繊細にして大胆不敵な音楽を提示する。
  「(a)Comme Dans Un Reve(夢の中で)」
  「(b)L'Oppression(圧制)」
  「(c)Avec Le Vent(風とともに)」
  
  
  前作で完成されたスタイルに、さらに緊迫感と異常な感情の振幅を加味したシンフォニック・ロック・テアトルの名作。 お薦め。KING レコードの CD には、3、6、5 曲目のライヴ録音のボーナス付き。

(KICP 2809)


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